汚い廃墟ビルで調整をするのもなんなので、場所を雷電家に移す事になった。時間的にもうすぐ夕食時だし、調整はリラックスした状態の方がスムーズに出来るから調整はお夕飯の後に、ということだ。
つまりは、また雷電家の美味しい料理が食べられるということね。ふふふ。
「織莉子、と黒い方はキリカだっけ? 雷電家の料理は絶品よ。良い時間帯に訪ねて来たわね」
「そうなのですか。ふふ、期待させていただきましょう」
「うん」
……キリカの反応は、私達が手を組むと決まってからも薄い。織莉子の言動にだけ反応している感じね。
なんというか……織莉子に対してのみの、盲目的な忠誠心を感じる。
ちなみに女王様、織莉子に調整魔法の注意事項を伝えた後に「キリカのも調整してあげましょうか?」と提案していたけど、織莉子に止められていた。
《私が受けなさい、と言えば何の躊躇いもなく受けるでしょう……ですが調整すると、相手の感情や記憶などの一部が見えてしまうのでしょう? 彼女は……精神崩壊に近い状態です。彼女の内面は、見ない事をおすすめします》
《精神崩壊、ですか……彼女に何があったのですか?》
《私から詳しく話すのは憚られます……不幸が重なった結果仕方なく、としか。今は私に侍ることで、精神の均衡を保っている状態なのです》
……とまあこんな念話でのやり取りがあり、調整を受けるのは織莉子だけということになった。
「おう、来たか。今日は良い牛が手に入ったからな、ビーフシチューを大量に作ったぜ。食って行きねぇ」
すでに雷電家の室内は、ビーフシチューの思わず涎が出て来てしまう美味しそうな匂いで充満していた。もう美味しい。
「……ごくり」
「ふふふ」
さすがのキリカも、この良い匂いには無意識に溢れ出た唾を飲み込む。それを見て微笑ましく感じたのか、織莉子から優しい笑みが溢れた。
……織莉子は「キリカは精神崩壊していて、紆余曲折あって現在は自分の手駒の様な状態」と言っていたけど。今の様子からして、キリカを大切に思っているのが見て取れた。何でもする覚悟は決まっているけど、やっぱり基本的には優しい娘なのね。
さて、ビーフシチューは出来上がってるみたいだし、今すぐにでも食事といきたいけど。まだお母さんに連絡してない。
という訳で、燈湖が配膳の手伝いをしている中失礼かもだけど、スマホを取り出しタップタップタップ。
「あ、お母さん? うん、今日は燈湖の家でご馳走になることになったから……うん、またいきなりでごめんね。新しい友達も出来たし、その歓迎も兼ねてるから、許して頂戴……ふふっそうね。何故だが最近妙に友人が増えるのよ」
「……友人? 私がカトレアさんと友人……」
織莉子が私の会話内容に気付いて、小さくそう呟く……噛み締める様に言う様が、ちょっと気になった。
織莉子の言動や立ち居振る舞い、雰囲気からして、多分良いとこのお嬢様だろうし。友人が皆無とは思えないけど……魔法少女の友人は、キリカ意外いなかったのかも知れないわね。さらに言えば、キリカは精神崩壊してて、大切に思ってはいてもマトモな友人とは言い難いし。
《共に1つの敵に立ち向かう者同士の事を、戦友と言いますよね。なら私達は、友人です》
デンドロビウムがフォローというか、私の発言の補足をしてくれる。
「そう、ですね。ふふ、友人……私に魔法少女の友人……」
胸に手を当て、しみじみと呟く織莉子を見て……特に深く考えての友人発言じゃなかったのだけど。私は何か、心が温かくなるのを感じた。
(……ワルプルギスの夜討伐後も、織莉子とは友達として付き合っていきたいわね)
さて、それよりも今は、為次郎さんこだわりの絶品ビーフシチューだ。
ちなみに、いつもは数口食べて女王様と魂交代して、を繰り返して食事しているけど。今は「織莉子の魔力が気になって食事を楽しめないだろうから」と言って、ソウルジェムに引きこもって外界情報を遮断してしまった。私が強めに呼びかけるまで、自ら出ては来ないでしょうね。
……確かに織莉子の魔力はちょっと気にはなるけど、そこまでするほどかしら? まあ女王様の場合「魔力制御が下手だった昔の自分を思い出す」とか言ってたから、仕方がないかしらね。
ついでに女王様は、「オリコの調整が終わったら食べるから、残しときなさいよね。それとカトレアは腹6分目くらいまでにして、歯も磨くこと!」とツンデレ風味で言い残してから引きこもった。可愛い。
まあ、身体は共有してるし、仕方ないわね。
というわけで、ビーフシチューを存分に堪能……私以外は存分に堪能し、今は食後のティータイムだ。
「ふぅ……良い紅茶ですね。為次郎様は良いご趣味をしていらっしゃいます。これは神浜でご購入を?」
「おう。知り合いが神浜で輸入雑貨を扱ってる会社を経営しててな。気に入ったなら場所を教えるぜ。今日はもう営業時間外だが」
「そうですか。では後日キリカにお遣いを頼もうかしら」
「うん、任せてよ織莉子!」
そんな感じで、食休みにも存分にリラックスして貰えた。
為次郎さんも、燈湖と同じくらい頼りになるわよね。シェルター道場という名の魔法少女会議場まで提供してくれてるし、為次郎さんにはほんと感謝しかない。
▲ ▽
食休みの時間も十分に取ってもらって、時刻は20時半。
場所を魔法少女関連の事をする時恒例のシェルター道場に移して、オリコには人をダメにするソファに横たわって貰い、準備万端。すでにオリコのソウルジェムは私の手中にある。
実質オリコの命を握っているわけだから、盲目的にオリコに侍っているキリカがただ大人しく見ている訳もない。殺気混じりの「絶対失敗するな」視線を送ってくる……と思っていたのだけど。そこはオリコが気を利かせてくれた。
「キリカは甘い物に目がないんです。ですから私の調整中甘味を与え続けていれば、カトレアさんも調整に集中出来るかと」
「なるほど、任せな。調整は最低でも10分以上はかかるんだったな。となると、すぐに食べ終わる物じゃない方が……」
「親父、アレ作ろうぜアレ」
とトウコとタメジロウさんに助言した結果、
「手慰みにパフェに挑戦してみたんだが、食うかい? 変に豪華にし過ぎちまった感はあるが、まぁこちとらプロじゃあねぇからな」
「ふわあ……♡」
それは見事な、プロ顔負けのフルーツたっぷり特製特大パフェがキリカの前に置かれる事になった。キリカの瞳にハートが乱舞しているのを幻視した。
「これは……凄いですね。お腹は満たされていますが、私も食べたくなってしまいます」
流石に本格的な巨大パフェが出てくるとは思わなかったらしく、オリコが澄まし顔を崩して普通に羨ましそうにしていた。
《やり過ぎというか、凝り過ぎというか。相変わらず、為次郎さんの辞書には「手を抜く」って文字が抜け落ちてるわね》
《ま、まあお陰様で、調整中にキリカの視線が邪魔になるってことはなさそうでなによりよ》
「ですね。では……お願い致します」
とまあそんなこんながあり、オリコの調整は滞りなく終わった。
さて。オリコの調整は私の我儘で、本題はここからだ。要するに、「オリコが見た悲劇的な未来について」だ。
私は、残して貰っていたビーフシチューをゆっくり堪能しつつ、オリコの話を聞く。
「まず、避けようのないであろう未来として、数ヶ月以内にワルプルギスの夜は確実に日本に上陸します。私が最初に……暴発的に見た未来では、ワルプルギスによって破壊し尽くされた見滝原だと思われる街、だったのですが」
そこで一旦言葉を切り、私とトウコを交互に見るオリコ。
「数日前に見えたものですが。あなた達お2人が魔女のようなナニカを纏いつつワルプルギスと対峙する未来が見えました。ただ……同じく街はかなりの被害を受けているようでしたが破壊し尽くされているという程ではなく、街並み的にも見滝原ではありませんでした」
「んー。つまりワルプルギスは、なんらかの理由で進路を変えて神浜に来る?」
「恐らくは」
「ちょいと話が変わるかもだが。アタシらに花騎士の魂が降りるのを見たのは、ワルプルギスを未来視した前か?」
「そうですね。暴発的に見えてしまったものですが、神浜に異世界からの魂が訪れるのを見ました。私達に実害はなさそうでしたので、特に関わるつもりはなかったのでしたが……」
「ワルプルギスと戦っている未来が見えたから来た、か」
「でもそれだけじゃあ、オリコ達が私達の元に来る理由にはならないわ。正直言って、ワルプルギス相手じゃあ神浜の魔法少女全員が一致団結しても倒せるかわからないレベルだし、見滝原が無事ならわざわざこちらに出張ってくる理由にはならないわ」
「その通りです……恐らく私が神浜に介入しなければ、神浜は私が最初に見た見滝原と同じく破壊し尽くされることでしょう。そこで私は、介入しなかった場合のさらに先の未来を見ようとしました。ですが……結果見えたのは、神浜に上陸したワルプルギスがそのまま北上し、見滝原も壊滅的被害を受けるという未来でした。つまり、神浜でワルプルギスを何とか出来なければ、見滝原の壊滅は結局避けられないのです」
悲痛さを滲ませながらも、その瞳の意志の強さは変わらず。恐らく神浜でなら少なからず勝算があると判断したんでしょうね。
私の予想通り、オリコが神浜に来た詳しく理由を語り始めた。
「私が直接神浜に来た理由はいくつかありますが。その1つとして、神浜は新興都市なせいか魔女が多く強く、総じて魔法少女の平均的な実力も人数も、他の地域よりも高水準だからです。さらには花騎士魔法少女という強力な魔法少女数名がいるようですから……ワルプルギスを打ち倒せる可能性は、ここ以外にないと判断しました。そして未来視を持つ私が介入すれば、その確率は確実に上げられる」
「複数ある理由も気になるけど。私としては、「私達が魔女のようなナニカを纏って戦っていた」ってとこが気になるのだけど」
《そうね……それって、私と燈湖が魔女化してるとも取れるわ。女王様とデンドロビウムは、私達と魂がリンクしてるから操れる可能性もあるから、纏って戦っていた理由は一応あり得るわ。けど……》
「アタシもカトレアも、魔女化を回避するために色々と模索してきた。だから織莉子が見たのは1番最悪の――完全に後がない状態で自爆覚悟で挑んだ未来だろうな」
「いえ、必ずしもそうとは言い切れないのです」
軽く首を横に振り、私達の予想を否定するオリコ。
「明日の夜、神浜で何かが起きると見えました。具体的に何が起きるのか、何故かハッキリとは見えませんでしたが……ですがその何かは神浜どころか、魔法少女全体の因果に関わる事象であると直感しました。そして……その未来の少し先で私は、とある魔法少女が魔女のようなモノを――ワルプルギスとの戦いの際にお二人が纏っていたようなモノを顕現させたのを見ました。その魔女のようなモノは数十秒後に消え、その後その魔法少女は疲弊こそしていたものの、ソウルジェムの穢れが綺麗さっぱりなくなっていたのです。もしかしたら――明日起きる何かにより、魔法少女は魔女の力を操るすべを得られるのかも知れません」
「魔女の力を操れる、ですって……?」
流石に突拍子がなさすぎて、現実味を感じない予想に思えた。
「ですが、そうとしか思えない光景でした。まあ、それが見えたのは一度切りでしたので、確証まではいかないのですが……」
「お前の「未来視」は、確定した未来じゃないんだろ? なら、僅かな可能性しかない未来が見えるってこともあるだろ。アタシも突拍子もないとは思ったが、あり得る話として一応頭の片隅に置いといた方が良いと思うぜ」
《ですね。魔女化を回避出来るようになる未来があるなら、覚えておいて損はないでしょう》
「皆さん……朧げな未来視なのに信じて下さり、ありがとうございます」
そう言って、深々とお辞儀するオリコ。それにワンテンポ遅れて、オリコの後ろに控えていたキリカもお辞儀する。
「待て、それよりもまず確認しときたい事がある」
オリコが話を締めくくろうとしていると察したのか、まだ話は終わっていないと割り込むトウコ。
「アタシは人を見る目はあるつもりだ。お前は基本的には善人だとは思うし、固有魔法や見た未来についても、多分嘘は言っていないとは思える。だが――「未来視」っていう固有魔法、本当に信頼出来る精度のものなのか?」
「お前…… 織莉子の魔法を信じられないの?」
トウコの物言いに、オリコを否定したと判断したのかキリカが殺気立つ。
「出会って1日も経ってねえんだ、その辺は勘弁してくれ。未来が本当に見えるなんて強力過ぎるから確証が欲しいってのもある」
「キリカ抑えて。なるほど、ごもっともな話です」
「カトレアが友達だと思う相手の話を疑いたくはねぇんだがな……ま、そんなわけでだ。ひとつ、アタシを信じさせるような未来視をしてくれねえか?」
「わかりました。…………」
そう言って、祈るように手を組み瞳を閉じ集中し始めるオリコ…………十数秒後、オリコの魔力が動くのを感じる。多分未来視が発動したんでしょうね。
「……明日の夜、神浜で何かが起きるといいましたが。それより少し前の時刻に、魔法少女2人組が雷電家を訪ねて来ます。1人はあなたもご存じの佐倉杏子さん、もう1人は緑髪の幼げな少女です」
「杏子はともかく、もう1人来る、か……」
「そして……この、シェルター道場でしたか。先の未来と思われますが、その2人がここで仲良く談笑している様子が見えました」
そう言い終えてから、オリコが手のひらにソウルジェムを乗せて見せてくれる。魔法を――未来視を使った証拠に、ソウルジェムは若干濁っている。
やっぱり「未来視」は強力なだけあって、魔力消費も結構激しいらしい。少しとはいえ、濁る程の魔力を持ってかれるとはね。
「もし、私が言った通りの展開になったのなら。私の固有魔法が嘘偽りなく未来を見ることの出来る物である事、信じていただけますか?」
「……そうだな。杏子ともう1人が「お前に誘導されて来た」とか言わなければ、アタシはお前を信頼出来る友人だと認めるぜ」
「そう思っていただけるよう、今後も努めさせていただきます」
「おう」
「改めて、よろしくね」
《ごめんね織莉子、キリカ。慎重過ぎるとこがあるだけで、悪気は全然ないはずだから》
「いえ、気にしてはいません。そのくらいの慎重さは寧ろ頼もしいです」
「……織莉子が気にしないなら、私も気にしない」
《ふふっ。共に手を取り、ワルプルギスに立ち向かいましょう!》
こうして私達は、改めて「ワルプルギスの夜討伐作戦」に協力する事を誓い合ったのだった。
次回の投稿予定は、2022年1月3日(月)を予定しております。