翌日土曜日。織莉子達、昨晩は燈湖の家に泊まっていったらしい。なんでもワルプルギスの夜対策で、他にも色々と神浜市内でやっておきたい事があるらしい。
で。私は予定通りファミレスでフェリシアちゃんにお昼を奢った後、フェリシアちゃんを連れて中央区の住宅街を歩き、「莧」の表札を探していた。
と言っても、「莧」さん宅は住宅街の角の方にあったので、大して歩いてはいないのだけど。
さて、ポチッと。
ピンポーン
「げっ」
「どこに行こうというのかしら?」
おもむろに莧さん宅のインターホンを押すと、表札を見て私の意図に気付いたフェリシアちゃんが後退りしたから咄嗟に手を強めに握り逃げられないようにした。
「はいはーい、どちら様?」
ボタンを押してほとんど間を置く事なく、人の良さそうな雰囲気のおばさまがすぐに戸を開けて出て来た。多分偶然玄関近くにいたんでしょうね。
「あら可愛い! でも知らない娘ね……」
最初に私に視線を向け、少し不審そうに見られたけど、
「あら? あなたもしかして、陽友花の言ってたフェリシアちゃんじゃない!? 金髪にツインテールだし!」
フェリシアちゃんを見たら、喜色満面と言った雰囲気にガラリと変わった。そして明るい調子で色々と陽友花ちゃんの事を話し出した。
(あー。ポーチュラカ娘の陽友花ちゃん、絶対母親似だわ)
ダジャレこそ言わないけど、顔付きと元気な雰囲気とかからポーチュラカ感が滲み出てるし、間違いない。
ま、何にしても予定通りの予測通り。フェリシアちゃんを連れて大正解だったわね。
さぁて。話を遮るのは若干はばかられるけど、フェリシアちゃんが居心地悪そうにしてるし、早速本題に入ろう。
「それで娘さん――陽友花さんはご在宅ですか?」
「ああ、陽友花に会いに来たのよね。ごめんなさいねぇ、陽友花は多分今日は帰って来ないわ」
「えっ」
なんでも莧さんは、旦那さんの仕事の関係で神浜に引っ越すことになったらしいのだけど。娘の中学入学の時期が近かったから、会社に多少無理を言って、入学に合わせる感じで越してきたらしい。
「今日は陽友花、こっちに来る前に住んでた見滝原の友達の所へ行ってるのよ。泊まりがけって言ってたから、早くても帰ってくるのは明日の夕方でしょうね」
「そうでしたか……」
《あら、タイミングの悪いこと》
「ほっ」
まあ、いないのなら仕方ない。出来れば今日の内に直接説明したかったし、フェリシアちゃんとも仲直りさせたかったんだけど……って。
《こらフェリシアちゃん、ホッとしてるんじゃないわよ。仲直りしたいとは思ってたんでしょ?》
《なんだよー……いないんだから仕方ねぇじゃんか》
《後回しにすると変に拗れちゃうかもだし、仲直りは早ければ早い方が良いわよ……大好きな友達だからこそ、遠ざけてたんでしょう?》
《まぁそうなんだけどよー……》
バツが悪そうにしながらも、私の忠告を理解した様子で渋々頷くフェリシアちゃん。
まあ、仲直り云々はともかく。
「陽友花さんの連絡先、携帯番号とかメールアドレスとか、教えていただけませんか? フェリシアちゃん聞くの後回しにしてたらしくて知らないらしくて……出来るだけ早く伝えたい事があるんです」
「あらそう。いいわよ」
そう言って快く私達に教えてくれる莧おばさま。これもフェリシアちゃん効果ね、計画通り。
早速教えてもらった番号を打ち込んで通話ボタンを押す、と、
♪〜
どこからか、音楽が聞こえて来た。というか、莧家の中からね……つまりは、
「この音楽、娘のスマホの着信音だわね。あの娘、部屋に忘れていったわね……まったくそそっかしい娘。私に似たのねぇ、ふふっ」
うーん、どこまでもタイミングの悪いこと……
「仕方がないので、明日の夜にでもかけ直します」
「ごめんなさいね、そうして頂戴」
まあ、携帯番号とメアドがゲット出来ただけでも上々よね。これで燈湖の手を煩わせる必要がなくなったのだし。
《しかし、また見滝原かぁ》
《オリコの件といい、ここ数日縁のある都市ねぇ》
《見滝原っていえば、ミタキハラングドシャってご当地クッキーってヤツ? それをこないだトーコから貰ったな。トーコも知り合いから貰ったもんだって言ってたけど、結構美味かったぞ》
《ああ、多分それ杏子――私達の神浜外の友達の手土産ね。風見野は見滝原に近い都市だから……》
さて、これで今日私がやれる事はなくなった。この後は特に一緒にいる理由もなかったので、フェリシアちゃんとは軽く雑談してから解散して、私はブロッサムに寄ってこのみさんと華恋の顔を見てから普通に帰宅した。
そして時刻は、現在夜21時半頃。燈湖に陽友花ちゃんの件は今日は空振りに終わったと報告して……今は、織莉子の予知――杏子ともう1人が本当に訪ねて来たかの結果を聞いていた。
「それじゃあ杏子と、えっと……千歳ゆまちゃんだっけ? 本当に来たんだ」
『おう、織莉子の未来視通りにな』
直後燈湖から、杏子と手を繋ぎ不安そうな上目遣いでいる、緑髪の小学生低学年くらいの見た目の女の子の写メが送られて来た。確かに容姿も一致している……けど。
「幼げ、とは言っていたけど!」
《え、ええ、幼過ぎるわね。花騎士でもここまで幼い見た目の娘は……まぁ稀に居るけれど、滅多にいないわね》
ゆまちゃんが予想以上に幼くて、女王様と一緒に驚きの声を上げてしまった。と同時に、キュゥべえが魔法少女適性年齢以下の娘にまで手を出したことに激しい怒りを覚えた。
あの白い害獣、次に見かけたら一回燃やす。
『ちょいとカマかけて見たが、織莉子に何か吹き込まれて訪ねてきた訳でもなさそうだったし、未来視は本物なんだろうな。んで、2人から事情を聞いて、織莉子が言っていたさらに先の未来視の事も予測が付いた』
「杏子とゆまちゃんが、シェルター道場で談笑していた、だったかしら」
なんでもゆまちゃんは、魔女の結界に両親と共に取り込まれていたところを杏子に助けられたらしい。ただ、ゆまちゃんの両親は時既に遅く……つまりゆまちゃんは、天涯孤独になってしまったらしい。
ゆまちゃんは、助けられた状況からも分かる通り出会った当初は普通の幼女……少女で、数日間杏子が匿っていたらしいのだけど。杏子が油断して魔女に四肢切断されて死にかけたのを目の当たりにしたのをキッカケに、「杏子を死なせたくない」と願って魔法少女になったらしい。つまりゆまちゃんは新人も新人、成り立てだった。
『杏子は「魔法少女なんて碌なもんじゃないから絶対なるな」と止めてたらしいんだが。ゆまは嫌な予感がしたからってだけで、言いつけを破って魔女の結界にまで杏子を追ってくるくらいに、杏子に依存している状態らしい。結果杏子は命拾いしたんだから、皮肉なもんだが』
「……まあ、両親を目の前で殺した魔女を打ち倒して救ってくれたのだものね。ゆまちゃんが杏子を英雄視して依存してしまっても仕方がないわ」
『そうだな……まだアタシには気を許してねぇから詳しくは聞いてねえが。アタシの勘では、他にも深い理由がありそうな気がすんだよな』
ほんと……キュゥべえのせいで、不幸な少女が増えるのが止まらない。それでいて現状止める手立てがあんまりないのだからヤキモキする。
ちなみに、ゆまちゃんの固有魔法は「瀕死の重症を瞬時に癒せる程の強力な治癒」らしい。四肢断裂で死にかけの重症者を治したいと願えば、まあそうなるわよね。
『でだな。杏子もゆまも天涯孤独、杏子は魔法少女の力も使って今まで上手いこと生き延びてきたらしいが、ゆまを養える余裕はないし当ても近場にはない。で、アタシんちを頼って来たって訳だ』
「それじゃあ、しばらく雷電家でゆまちゃんを預かる……いえ、確か予知だと……」
『ああ。ゆまがどうしても杏子と離れたがらなくてな。2人共々、しばらくシェルター道場に住まわせる事になった。織莉子の見た未来はこの状況の先の一場面だろうな』
ゆまちゃん、「キョーコが出て行っちゃうなら、ゆまも行くの! キョーコと一緒にいるの!」と言って杏子の腕にしがみ付き続けたらしい。杏子はしばらく言いくるめようと奮闘したらしいのだけど、ゆまちゃんは一向に譲らず最後は杏子が根負けして折れて、結果一緒に暮らす事になったらしい。
まあ、杏子とゆまちゃんの今後も気にはなるけど。今はそれよりももう1つ、織莉子の予知がある。
2人が雷電家に来たのは20時頃。そして現在時刻は、もうすぐ22時になろうというところ。「神浜で大きな何かが起きる」という予知は、杏子とゆまちゃんが訪ねて来た少し後らしいから……つまりはそろそろ――
《!? カトレアスマホを、いやこっちの方が早》
▲ ▽
無理矢理魂交代した私は、手に持っていたスマホを宙に放り投げる、と、
ボンッ!
直後、ちょうど宙でスマホが爆発音と共に火を吹いた。
《えええっ!? って私のスマホがああ!?!?》
《カトレアうるさい! ってまあ当然の反応だけど!》
コンコンコンコンッ
「カトレアっなんか凄い音したけど大丈夫!?」
高速ドアノックをして、カトレアの母親のリナさんが安否を尋ねてきた。
「なんか、スマホが物理的に爆発炎上したわ」
「思ったより平静ね……ということは大丈夫、なのよね?」
心底心配そうな声で尋ねて来るので、ドアを開けてリナさんを招き入れて、現状を見せる。
「見ての通り、私は怪我も火傷もしてないわ。異変を感じた瞬間に放り投げたから。スマホの方は……一応形状は保ってるけど、多分使い物にならない状態でしょうね。あ、何かに燃え移ってもないから安心して」
「……みたいね。あー、ビックリしたわ……まあカトレア自身に何もなくて一安心よ。スマホは買い替えないとダメでしょうけど……原因は何なのかしらねぇ」
「機械の構造にまで詳しくはないから、私はサッパリね……普通にトウコと電話してただけだし……」
……とリナさんには説明したけれど。爆発した原因はわかっている。
まあ今はそれよりも。
「とりあえずトウコと通話中だったから、現状報告したいわ。お母さん、出来れば今晩スマホをかして頂戴」
「別にいいけど……家電じゃダメなの?」
「えっと……ちょっと秘密の話もしてたから、出来れば自室で電話したいのよ。詳細はその……聞かないでくれると嬉しいわ」
「あらあら……じゃあ仕方ないわね。あまり話し込んで夜更かししないようにね」
「はーい」
若干苦し紛れな言い訳だったけど、なんとか納得してくれてスマホを貸して貰えた。
さて。リナさんが部屋から十分離れた所でトウコに電話……の前に、カトレアに説明しないとね。
《女王様、妙に冷静よね……原因に心当たりがあるの?》
「心当たり、というかね……スマホを手放すよう言おうとした瞬間、世界花の加護の力が爆発的に高まったのを感じたわ。これはスマホが保たないな、と思えるくらいにね」
《世界花の加護が……ってもしかして!》
「ええ。世界花の加護が、私達を何かから守ったんでしょうね。多分――神浜で今夜起きた何かから」
《……それってついさっき、スマホが爆発した瞬間に、その何かが発動したってことよね。それも、スマホが爆発する程の大きな加護の力が働く程の――それこそ、因果に関わるような何かが》
「オリコは、魔法少女全体の因果に関わる何かじゃないかって言ってたわね。直感と言ってはいたけど……さすがは未来視持ち、大当たりだったみたいね」
《……一体、神浜で何が起こったっていうのよ……》
「さあ、そこまでは。取り敢えず、トウコと情報共有しましょ」
《そ、そうね》
というわけで、早速トウコにかけ直す。
『何があった?』
爆発音は向こうにも届いていたのだろう、かけ直して通じてからの第一声がこれだった。
「多分、オリコの予知通り何かが起きて、世界花の加護に守られたわ。そのせいでスマホが耐えきれなくなって爆発炎上したってわけ」
『……女王様か。なら、そうなんだろうな』
《なんか、女王様の言だから信用された感があって複雑なんだけど》
カトレアの不満は無視してトウコとの会話を続ける。
「世界花の加護が発動したってことは、花騎士魔法少女全員のスマホにも異常が生じた可能性があるわね。だからトウコの普段使いでない方のスマホにかけたのだけど……大丈夫?」
『そうだな。会話中だったスマホは、突然持ってるのが辛いくらい物凄い熱を持ったから咄嗟に手放したが、爆発まではしてねえな。データがぶっ飛んだ恐れはあるが……デンドロビウムも世界花の加護が高まったせいだろうって言ってたから、原因は同じだろうな』
「ふむ……」
私以外で、高まった加護の出力が違う? 何が原因かしら……
「……ちょっと考えてみたけどわからないから、他の娘にも聞いてみましょ」
『だな』
というわけで一旦トウコへの通話を切り、手分けして確認する事にした……まだみんな起きてるわよね? とりあえず、1番冷静だろうデュランタ……りつに確認。
『……スマホに異常? 特に感じなかったけど……あ、でも確かに、一瞬世界花の加護が高まったのは感じたよ。電池量が数秒だけ急激に減ったくらいで、熱くなったりはしてないかな』
「そう……夜遅くにありがとうね」
『ん、別に問題ない……クック◯ッド見てただけだから』
相変わらず料理のことばかり考えてるようね……まぁあのサイトはカトレアも割とよく見てるけど。
さて次は、ステラ……は繋がらない。あっトウコに頼んだったわね、じゃあトウコと会話中かしら。じゃあ次はカラスウリ……シュシュね。
『スマホは触ってなかったし、そもそもその瞬間持ってもなかったから、ボクはなんとも……あー、でも確かに、電池量がさっき見た時より多めに減ってる。うーん……それ以外に異常はなさそうかな』
シュシュのも、電池が大きめに目減りしていた以外はなさそうね。
さて、後はトウコからの報告待ちだ。と思ってたらすぐかかってきた。
「……私の方は以上よ」
『ふむ……となると、全員のスマホ世界花の加護が高まった、か……んー……』
「そういえば、一応カレンにもかけたのよね。どうだった?」
『ああ、他の花騎士魔法少女と同じく電池の急激な消費があったそうだが……他のヤツらと違い、スマホが熱くなったって点は違うが』
「んー。つまりカレンのもトウコのに似た感じ、かしらね」
『多分な』
《私のは爆発炎上、トウコとカレンのは熱くなって、他の娘は電池が減っただけ……ここまで差が出たのは何故かしら》
カトレアとトウコ、デンドロビウムと共に頭をフル回転で働かせて仮説を立ててみたけど……いまいち正解に辿り着けた感はない。
ただ共通してるのは。
「私とカトレアと、友人になったのが早い、程度かしら」
『ああ、それくらいしか現状で考えられる原因が見当たらねぇ』
「……まあ、ほとんど答えになってはいないわね」
これ以上考察しても答えには辿り着けそうにないので、この件は今日は保留となった。オリコも交えて改めて考察するのがいいでしょうね。
☆
その後二週間程。私のスマホが爆発した以外は特に何事もなく日々は過ぎ去っていった。織莉子の未来視でも、私達に有益な情報は得られていない。まあ、織莉子の固有魔法はハッキリ見ようとすればする程魔力消費が激しいらしいし、あまり負担はかけられないっていうのもある。
変わったこと、と言えるかわからないけど。ここ最近神浜ではある噂があった。「普通のキュゥべえを見かけなくなったかわりに、小さい子供みたいなキュゥべえを見かける」というものだ。
「もしかしたら、神浜で起きた何かは、キュゥべえに関する異常なのかも知れませんね。それが、世界花の加護が高まった事とどんな因果関係があるかまではわかりませんが……」
まあ、要するに。まだほとんど何が起きたのかはわかっていない。
☆
……事態に大きく進展があったのは、スマホ爆発からひと月程経った後だ。具体的に言うとみっつある。
1つは、神浜市内の魔女出現率が明らかに増えたこと。前から見かけたタイプの魔女も増えた感あるし、神浜であまり見かけないタイプのも増えた事から、何故か神浜に魔女が侵入してきているようね。
1つは、私達が接触しようとして以来、家にも帰らず行方不明だった莧陽友花ちゃんが、記憶喪失状態で警察に保護された事。
そしてもう1つは、
「……ねぇ女王様。あの魔法少女、環いろはちゃんじゃない?」
《そう見えるわね。神浜在住じゃなかったはずだけど……とりあえず苦戦してるみたいだし、手助けしましょうか》
「ええ、勿論!」
あの日病院で遭遇して二言三言会話を交わした少女との、魔女結界内での予期せぬ再開だった。
次回の投稿予定は、2022年1月7日(金)を予定しております。