神浜市にて、想定外の事が立て続けに起きた。
最初は、里見灯花と柊ねむ、そして……因果律への干渉があったようでボクでも思い出せないけれど、あともう1人との契約時の祈りによって、3人にその個体からボクの力――簡単に言えば、それぞれの少女に「回収」「変換」「具現」の力を欲しいと願われ、結果その個体はそれらの力を奪われ、ボクらのネットワークから外れた「キュゥべえだったモノ」になってしまった。実際に目の当たりには出来ていないので、状況分析による結論だけどね。
まあ、それだけなら大した問題はない。その個体が担っていた役割を、彼女達が代わりにやってくれるようなものだしね。
大きな問題はその数分後。その時神浜にいた個体全てがボクらのネットワークから外れた上に、神浜内にボクらが侵入出来なくなってしまった。
魔力からして、アリナ・グレイの魔法によるものだとは思うのだけど。とにかく、ボクらは神浜市内に侵入出来なくなり、内部情報の入手が神浜から出てきた魔法少女に聞く以外なくなってしまった。これはとても不便だ。
さらに言うと、神浜内にいた全個体からの反応が微塵も感じられなくなった事から、アリナの魔法の影響でネットワークから遮断されてしまったせいで、機能停止して自壊したと思われる。もったいないなぁ。
ちなみに、神浜から市外に出てきた魔法少女からの目撃情報によれば、力を奪われた個体と思われるキュゥべえはサイズが縮んでいるようで、「小さいキュゥべえ」「子供のキュゥべえ」と呼ばれているらしい。魔法少女にしか認識出来ないのは変わりないようだけど、あちこちをフラフラ移動しているらしく行動目的は一切不明、近寄ろうとしても逃げられてしまうらしい。
わけがわからない状況だけど、結局はたった一都市での異変だ。ボクらを慌てさせるような懸念はまだ起きなさそうだし、慎重に調査をしていけば問題はないはずだ。
それよりも、1つだけ懸念、と言う程でもないけど、気になる点がある。
あの日あの時刻、ほぼ同じタイミングに契約途中だった少女――莧陽友花がどうなったかだ。
一個体から機能が奪われた影響で、神浜市内のキュゥべえに一時的にエラーが発生していたのだけど。すぐ復旧すると思われたけれど、その前に神浜の全個体の反応が消失してしまったので、実験が具体的にどうなったのかが不明になってしまった。
色々と予想は立てられるけど。だいたい二つに予想は絞られる。
ひとつは、加戸希愛・雷電燈湖と同じく、肉体とソウルジェムとでひとつの肉体を共有している状態、彼女達が「花騎士魔法少女」と呼んでいる存在になった可能性。
けれど、この可能性はどちらかと言うと確率的には低い。何故なら、その時ボクが出来たのは、莧陽友花の魂を抜き出す所までだからだ。
要するに――彼女の魂が、ソウルジェムへと変換した様子を確認出来ていない。
通常は、魂を抜き出すのとソウルジェムへ変わるのはセットのプロセスとしてオートで行われる仕様なので、自動で変換した可能性はある。だから、魂が二つの花騎士魔法少女になった可能性は一応ある。
けれど、莧陽友花の時は即魔女化実験のため、通常の契約時と違い魂に干渉して魂の同時存在が起こらないよう、オートではなくマニュアル――つまりはボクが直接魂を弄れる設定で契約作業をしていた。
なので――恐らく、莧陽友花の魂のソウルジェム化は失敗したと思われる。魂を抜き出した直後にエラーが発生したため、魂に干渉出来なかったからだ。
だから、莧陽友花の魂がその後どうなったかは正確にはわからない。運が良ければオート機能に切り替わりソウルジェム化して、二つ魂タイプの花騎士魔法少女になっただろうけど、やはり確率としては低い。
確率として低いと予想した理由は、毎回花騎士の魂が召喚された際に同時に感じる力――「世界花の加護」を観測できなかったからだ。その時彼女はスマートフォンを、つまりは擬似世界花を所持していなかったようだ。
最初の花騎士魔法少女である加戸希愛と雷電燈湖の際、その世界花の加護が働いたせいで、問題なくすんなり魂の同時存在状態になってしまった。
けれど今回、世界花の加護のサポートはなかったはずだ。ただ、莧陽友花の魂を抜き出した直後、ほぼ同じ輝きの魂――恐らくは花騎士ポーチュラカの魂が、どこからか現れたのまでは確認した。
ソウルジェム化するために抜き出した魂が、抜き出された身体に自動で戻った例は過去にない。だから身体に入り込んだのは、花騎士ポーチュラカの魂だけだろう。
そして予想通りの場合、莧陽友花の魂は――どうなったのやら。
人間の身体は、基本魂が二つ分入る容量はない。魂が空になった莧陽友花の身体は花騎士ポーチュラカのものになったと思われるから、莧陽友花の魂は意識不明のままどこかをさまよっているかな。それがもうひとつの予想で、一番確率が高い予想だ。もったいない。
なんにしても、今回の実験は大失敗だ。まさかこんな結果になるとはね……神浜での異変もあるし、花騎士の魂での実験はしばらく凍結かな。
ソウルジェムにするのにもそれなりのエネルギーは必要だし、マニュアル作業をする場合多少余分にエネルギーを使用することになる。実験を行うにしても、今後はもっと慎重に行わないと。
☆
「あ……また誰か来ちゃったみたい」
前に見つけた時間軸同様今回の時間軸も見守っていると、何度かこの時間軸の地球から弾き出されてさまよう少女の魂がいるのに気付いた。
「私は魔法少女を救う存在だから、本当は干渉するべきじゃない、とは思うんだけど……放置するのもやっぱり可哀想だし……」
その魂を傷付けないよう慎重に近寄って、確認……うん。やっぱり今回の娘も、本来魔法少女になるはずだった魂だ。やっぱりキュゥべえが悪さした結果なんだろうなぁ。
「あ、でも……今回は混ざってないかな?」
前に見つけた3人は、花騎士さんの魂と混ざり合っちゃってたから、スプリングガーデンの魂が空状態になっちゃってた本人の身体に送ってあげたけど……今回は混じってないみたいだし、どうしようか。
「うーん……地球に来ちゃって、スプリングガーデンの方の本人の身体は魂が空だし……同一存在だから拒絶反応は起きないだろうけど……」
……うん。今回はちょっと迷ったけど、前の娘達と同じくスプリングガーデンの身体に送ってあげよう。魔女になりかけた訳じゃないしね。
「キュゥべえに感情があれば、こんな酷いことしなくなるのかな……あっでも、「極めて稀な精神疾患として感情が生まれる事もある」、んだったっけ? それを期待するしかないかな……」
この魂を優しく送り出してからそんな事を考えつつ、私は再びこの時間軸の観察を再開した。
次回投稿予定は、2月1日(火)の予定です。