そしてタイトルの通り、マギレコ本編のようなお話、開始です。
環いろはちゃんとの予期せぬ再開に、私は嬉しさ半分申し訳なさ半分、と言った気分になった。
いろはちゃんが魔法少女になってるって事は、キュゥべえに願いを叶えてもらったということ。いろはちゃんはまず間違いなく妹さん、環ういちゃんの病気を癒す祈りをしただろう。
つまりは、避けようのないと思われたひとつの悲劇が奇跡によって回避された、ということ。同じく身内が魔法少女の祈りによる奇跡で快復したもの同士、シンパシーを感じざるを得ない。
と同時に、私の一言で過酷な魔法少女の世界に踏み入ってしまったのでは思うと――
《再開出来て嬉しい気持ちはわかるけど、早く助けなさい。あの娘今割とピンチよ》
「え? あっ!」
ちょっと意識をそらしていたら、いろはちゃんが使い魔の体当たりをモロに食らって倒れていた。使い魔とはいえ油断は禁物なのは当然だけど、まさかこの程度の、強くも弱くもない魔力反応の使い魔に倒されてしまうのは予想外だ。
「いろはちゃんに何してくれてんのよっ!」
ボボボボッ!
いろはちゃんに当たらない様に気を付けつつ火炎弾で使い魔を撃つと、やっぱり大して強くなかったらしく、あっさり倒せた。
「いろはちゃん、大丈夫!?」
「え……あ、ありが……」
すぐに駆け寄って安否を確認する……ギリギリ意識を失っていなかったみたいだけど、感謝の言葉の途中で気を失ってしまった。
あまり得意じゃないけど、治癒魔法での治癒を始めてから手早く怪我の具合を確認する……ふむ、怪我自体は大した事なさそうね。打ちどころが悪かっただけみたい。
それにしても……うーん。
《この程度の使い魔に苦戦してるなんてね。もしかしていろは、かなり弱い?》
「もうっあえて口にしなかったのに、女王様ったら……いろはちゃんは神浜在住じゃないんだから、調整を受けてないでしょうし仕方ないわよ」
《まあそうね。感じ取れる魔力自体は、んー……平均ちょっと上程度、かしら。確かに調整受けてれば、この程度の使い魔には遅れは取らないでしょうね。総評としては、調整を受けて実践経験を積み重ねれば化ける可能性もある、かしら》
「あら、辛口な女王様にしては高評価ね」
《さっきの戦い方を見た感じ、戦闘センス自体は悪くなさそうだったもの。それに私は辛口なんじゃなくて、事実をはっきり口に出してるだけよ》
と雑談している内に、応急処置程度の治癒は済んだ。
さて……今は傭兵の仕事中じゃなくて、ブロッサムのバイト帰りにたまたま魔女結界を見かけて、誰か入っている魔力反応がしたから暇潰しに様子見に入っただけだから、現在1人だ。
流石に人1人抱えて魔女退治を続行するのは……まあいける程度の魔女だけど。油断や慢心は事故のもとなので、いろはちゃんを背におぶって結界から出ることにした。
☆
さて、出たはいいけどこの後はどうしようかしら。
《とりあえず、近くの公園に行きましょ。誰かさんが話をしたそうに見てたし》
「それもそうね」
という訳で、近くの公園に行ってベンチに寝かせてあげて、私の荷物を枕代わりにして……話しかける。
「なんで助けに入らなかったんですか、やちよさん。私達より先に結界内にいましたよね?」
「……私も魔力感知には自信があるけど、やっぱりあなたは規格外ね」
私の問いかけに、冷静な声でそう返す西の顔役、七海やちよさん。
振り返ると、魔法少女衣装のまま私達を――いろはちゃんをどこか冷徹さの感じる視線で見つめていた。
「その娘の実力を見極めていたのよ。神浜の外から来たらしい魔法少女みたいだったからね。まさかあの程度の使い魔にやられそうになるとは思わなかったけど。はっきり言って弱すぎるわ」
「……まあ、一応同意見だけど」
……初めて会った当初から、少しお堅い印象があったけれど。随分と手厳しい評価を下されちゃったわね、いろはちゃん。
「あの程度の実力じゃあ、神浜の魔女と戦おうなんて無謀でしかないわ。だから使い魔から助け出したら、もう神浜には来ないよう忠告して置こうと思っていたのだけど……あなたが助け出したのだし、あなたからそう伝えてくれないかしら」
《手厳しいわね。気持ちはわかるけど、厳し過ぎないかしら》
「……神浜外の魔法少女が神浜で死なれると、変な悪評が立ちかねないのよ。私は一応西の顔役だから、これはそのお務めみたいなものよ」
んー……それにしたって、最近のやちよさんは他人に厳し過ぎる気がする。そのせいで最近は、ももことちょっと険悪な感じになっちゃってるし。
「そういうわけだから、その娘の対応はあなたに任せるわ。しっかり言い聞かせておいて頂戴」
「やちよさんは?」
「私は、さっきの魔女を探して倒しておくわ。それじゃ」
だから魔法少女に変身したままだったらしい。そう言い残し、颯爽と立ち去ってしまった。
さて、傷はだいたい癒せたし。変身を解いて起きるのを待――
「おや、カトレアっぽい魔力を感じたと思ったら、やっぱりカトレアだった」
――とうと考えていたら、後ろから声をかけられた。魔力反応と声からして、先程ちょっと頭に浮かべていた人物、十咎ももこだった。
「って、その娘どうしたの?」
「使い魔に殺されそうになってたから助け出した娘よ。一応前からの顔見知り」
「そっか。でも、うーん……見覚えの無い魔法少女だな」
私の横に並び、一緒にいろはちゃんの寝顔を覗き込むももこ。
「まあ、神浜の魔法少女じゃないからね。それに顔見知りって言っても、この娘が魔法少女になる前に一度会った事がある程度だし――」
「う、うぅん……あれ、私……」
と、ももこと会話していたら、いろはちゃんが目を覚ました。
「ようやくお目覚めね、いろはちゃん」
「気分はどうだい? って、使い魔にやられかけたんだから最悪か、あっはは!」
「……初対面だから緊張を和らげたかったんだろうけど、あまり笑えない冗談よ、ももこ」
「おっと、それは失敬……ってカトレア、なんか怒ってない?」
「気のせいでしょ」
……まあ、本当はほんのちょっとだけ怒ってるけど……気遣いの冗談だったのはわかってはいるけど、いろはちゃんを小馬鹿にされた気分になったから、ついね。
ま、そんなことよりいろはちゃんだ。
「あ、あの……あなた達は……?」
「アタシは十咎ももこ、よろしくね」
「私は環いろはです、よろしくお願いします。それで……」
ももこと挨拶を交わした後、私に視線を向ける。
「カトレアよ。加戸が名字で希愛が名前で、カトレア。フルネームの方が呼び易いらしくて、みんなからはフルで呼ばれてるわ」
「あっ、はい。カトレアさんも、よろしくお願いします!」
これは……ももこと同様、初対面の相手に対するような反応、よね。まぁ一度会った事があるだけだし、二言三言会話しただけだから覚えてないかもとは思ったけど。こっちだけが一方的に覚えてるって、なんか寂しいわね……
《なーんかウジウジ考えてる気配がするわね。もっとしゃんとなさい》
《女王様うるさい》
勝手にシンパシー感じて勝手に覚えられてない事に落ち込んでるのを見てイラついたのか、女王様にそう発破をかけられてしまった。
「その……私の見間違いじゃなければ、使い魔から助けてくれたの、カトレアさんですよね?」
「ん、まぁそうね」
「ありがとうございます! 油断もあったとは思うんですけど、まさか神浜の魔女の使い魔があんなに強いとは思わなくて……」
……どちらかと言えば弱い方だったんだけど。いろはちゃんが傷ついちゃうからその部分はスルーする。
「神浜の魔女は、他の地域のより強いらしいからねぇ。それでも使い魔にやられたってのは――」
「ももこ」
「……はいはい、余計な一言だったね。ていうかカトレア、やっぱちょっと怒ってない? なんでかなー?」
……話が進まないからももこの揶揄はスルーして。
「いろはちゃんは、何が目的で神浜にやって来たのかしら?」
「えっとですね……」
……いろはちゃんの回想がちょっと長かったから要約すると。
いろはちゃんは、少し前に神浜に用事があって来た時に小さいキュゥべえを見かけて、それ以来不思議な夢を見るようになったらしい。
病室に女の子がいて、それをいろはちゃんがただ眺めている風景。その女の子は時折こちらを見て笑顔で話しかけて来たりもするけど、無音動画のようになんの音も声も聞こえない。そんな夢を、何度も見るようになったとか。
「その夢を見るようになってから、なんていうか……物凄く、胸がざわめくようになったんです。小さいキュゥべえを見たその日から見るようになったので、小さいキュゥべえが不思議な夢やこの胸のざわめきの真相の鍵を握っている気がしたので……だから、探しに来たんです」
「ふむ、なるほどねぇ。小さいキュゥべえは神浜でしか見かけないらしいし、魔女が強くても来ざるを得ない、と」
「はい……」
……いろはちゃんとももこが会話している間、私と女王様はその夢の内容について確認していた。
《ねぇ女王様。いろはちゃんの夢に出てくる病室の女の子って》
《ええ。いろはの妹の……確か、うい、だったかしら。その娘でしょうね。けど》
《なぜかいろはちゃんは、妹さんの事を忘れてしまってる。まさか、「私に妹なんていない」って祈って魔法少女になったとか?》
《あれだけ仲良さそうだったもの、あり得ないわね。それに、カトレアと話して元気付けられて、前向きな顔をしてたわ。だから絶対に有り得ない》
《……そ、そうよね》
さりげなく女王様に褒められて、ちょっと顔が赤くなる。ま、まあそれは置いといて。
《……一応、いろはが妹を忘れてしまった事に心当たりがあるわ》
《えっ?》
《小さいキュゥべえを見かけるようになったのは、約一ヶ月前くらいから。そして約一ヶ月前に起きた事と言えば》
《私のスマホ爆発……もとい、織莉子が予知してた「神浜で魔法少女全体に関わる何かが」が起きて、世界花の加護が発動したアレね。それにういちゃんが関わっていて、それが原因でいろはちゃんの記憶から消えてしまった?》
《世界花の加護がスマホが爆発するまで頑張った事からして、因果への干渉レベルの可能性もあるわ。だから、いろはの記憶どころかういに関する世界の記憶すべて、それこそ「『うい』という存在がこの世界の因果律から外された」レベルかもね》
《けれど、私達は世界花の加護に守られて、その記憶を保持出来ている。そんなところかしら》
《ええ、それが私が思いついた推測よ。何から守られたのか今まで不明だったけど……もし推測通りなら、スマホが爆発したのも納得だわ。むしろよくその程度で済んだものね》
女王様は推測って言ってるけど、かなり有力そうよね……燈湖にも話して更なる推測を重ねないとね。
《まだあるわよ。小さいキュゥべえの事だけど、魔力の感じからして、多分もともとは普通のキュゥべえよ。子供のキュゥべえとも呼ばれてるけれど、あれは子供――成長途中っていうより、「力を奪われて縮んだ」って印象ね》
《へぇ……もしかして、ういちゃんがキュゥべえから力を奪った影響で、ういちゃんの存在が世界から消滅した?》
《かもね。ま、これもあくまで推測レベルだけど。直に手で触れられれば、もっと色々わかるかもだけど……あいつ逃げ足早いのよねぇ》
《そうなのよねぇ……あっ》
そういえば、件の小さいキュゥべえ。さっきいろはちゃんを助けた魔女結界内で見掛けたのよね。というか、わりといろはちゃんの近くにいた……ああ、小さいキュゥべえに気を取られて油断しちゃったのかしらね。
「あっ、そうです思い出しました! さっきの魔女の結界内で、その小さいキュゥべえを見かけたんです! 早く探さないと!」
と、私の予想通りだったらしく、いろはちゃんがガバッと起き上がり、慌てた様子でソウルジェムを宝石形態にして変身しようとする。
「ちょいと待った! ついさっきその魔女結界で使い魔に負けたばかりなんだろ? その魔女はもう移動してるだろうし、見つけたとしても1人で突っ込んだらさっきの二の舞だ!」
「そ、それはそうかもですけど! 私は戦うんじゃなくて、小さいキュゥべえに会いたいだけで……!」
「ももこが言った通り、さっきの二の舞になるだけよ。こっちに戦う気がなくても、魔女も使い魔も襲ってくるわ」
「で、でも……」
ふむ。いろはちゃん、意外と頑固者ね。一度決めた事を曲げずに突き進もうとするその精神は評価出来るけど……
(……頭では忘れてしまってるけど、心ではういちゃんの事を覚えてるんでしょうね。わけがわからないけれど、何故か焦る気持ちが溢れてくる、と言った心情かしら)
なんにしても、このまま直で魔女結界に突入させる訳にはいかないわ。
「何も止めようって訳じゃないよ。ようは倒せるようになればいいのさ」
「へ?」
「さっき見た感じでは、いろはちゃん戦闘センス自体は悪くないみたいだし。一度調整を受けるだけで、多分互角に渡り合えるようになれるはずよ」
「そうそう! だから、これから神浜で戦って行くためにも、調整屋に行くとしよう!」
「ちょうせい、や……?」
……まあ、神浜以外に調整屋はほぼいないらしいし、知らないのも当然よね。
ほんとはこのまま、知り合いのよしみで(忘れられてるのはともかく)、私が調整してあげたいのだけれど……
《……気持ちが伝わってくるし、その気持ちもわかるけれどね。でも、今のカトレアの魔力操作の精度じゃあまだダメよ。調整魔法は繊細なんだから》
……女王様に禁止されてしまった。
《わ、わかってるわよ。それに、みたまさんとは「花騎士魔法少女以外には調整魔法は使わない」って約束しちゃってるしね。女王様が》
《ん、わかってるならよろしい》
という訳で。調整魔法の説明をしつつ、私達はももこと連れ立って神浜ミレナ座、もとい調整屋へといろはちゃんを案内する事になった。
次回投稿予定は、2月17日(木)です。