「ところでかえで。結界内で最後に拾ったそれが、例のグリーフシード?」
「あ、うん。魔女を倒すと出てくるんだけど、必ず出るわけじゃないんだよ。今回はツイてたね!」
魔法少女が魔法を使用すると、ソウルジェムに「穢れ」というものが溜まるらしく、穢れが溜まりすぎると魔力が弱まったり、身体能力や精神にまで悪影響が出るらしい。
……まあ、それはそうよね。かえではまだ知らないだろうけど、ソウルジェムの真実を知っていたらね。
さらに言うと、魔法を使用しなくても、普通に暮らしているだけで少しずつ穢れは溜まっていくらしい。
「グリーフシードをソウルジェムに押し当てると、溜まった穢れを浄化出来るよ」
つまり、戦いが苦手でも、グリーフシード目当てにいつかは魔女を狩らないといけない、ということだ……まったく、酷い仕様ね。
「今はこれひとつしかないけど……初の魔女退治の記念に、女王様にあげるね!」
笑顔でそう言い、私に向かって差し出す……ふむ。
「かえで、あなたのソウルジェム、濁ってきてない?」
「え? ……あーうん、ちょっとだけね。このくらいなら大丈夫だよ」
実際、まだ大丈夫なのでしょうけど……ソウルジェムが魔法少女の本体なのだから、濁り出したら出来るだけ早く浄化した方が良い気がするのよね。
《女王様、私のはどう? この状態だとよくわからないのよね》
「私達のは、特に変わりないわね」
「ええ、どちらも綺麗です」
《かえで、今の手持ちはそれひとつなんだろ? なら、今の内にお前が使え》
「え、でも……」
《見た通り、アタシらは今は必要としてねえ。それに、毎回確実に手に入る訳じゃねぇんなら、そんな貴重なもんを気軽に渡すな》
《よね》
「う、うーん……それじゃあ、もらっちゃうね」
まだ納得はしていないようだけど、言われた通りソウルジェムを浄化してからグリーフシードをポケットにしまう。穢れの溜まり具合にもよるけど、普通は一個で複数回使えるらしい。
「それにしても、今回の戦闘ではっきりしたよ。やはりあの時感じた力は、魔法少女の魔力じゃなかったようだね」
《うわびっくりした! あなたいたの?》
少し離れた位置で見学していたキュゥべえがいつの間にか近くにいて、話の区切りを見計らって間に割り込んで来た。
驚いたのはカトレアだけだから、気づいてなかったのはこの娘だけか……まったく、腑抜けてるわねえ。これじゃあまだしばらくは、魔女退治には出せそうにないわね。
「それで、何の話よ?」
「カトレアとデンドロビウム、二人がさっきの戦闘で使った力の事さ。あれは、魔法少女とは別の力だろう?」
……まあ、さすがに魔法少女にした張本人なら気づくか。
そう、私達のソウルジェムにほとんど穢れが溜まっていないのは、今の戦闘でソウルジェムの魔力を一切使っていないからだ。
じゃあ、何の力を使ったのか。
私は自前の魔力、デンドロビウムは自前の気の力。それに――
「それが花騎士の力――「世界花の加護」というヤツかい?」
「まあ、そんなところね」
キュゥべえの言う通り。異世界にいるのに、私達には僅かながら世界花の加護の力が流れ込んで来ていた。それが、向こうと同じ感覚で戦闘出来た理由だ。
「え、え? なんの話?」
「ごめんなさいかえでさん。多分しばらくあなたに関係のない話をします。蚊帳の外にしてしまうのは心苦しいですが、少しだけ待っていて下さい」
「あっはい、わかりました……」
困惑するかえでを、デンドロビウムが優しく宥める。かえではフラワーナイトガールをよく知らないらしいし、話について行けなくても仕方ないわね。
「世界花の加護が流れ込んでくるのは、ここからよ」
そう言ってから、私達はスマホを取り出す。
「……微弱だけど、確かに君たちが使ったのと同じ力を感じるね」
《多分だが、スマホに入ってる花騎士のアプリが原因だろうな。それが擬似的に、世界花の役割を果たしているんだろうぜ。なにせ、スプリングガーデンはそこにあるんだからな》
《携帯出来る小さな世界花――つまり、スマホはナーエってとこね》
「……これも、今までになかった事例だ。となると……架空のキャラクターになりたいという祈りは、不確定要素が大きいか……もっと検証が必要かな……」
キュゥべえが何やら独り言を呟いた後。
「情報ありがとう。ところで、他にも普通の魔法少女にはなさそうな要素はあるかい?」
「今のところ、それ以外はないかしらね……カトレアは何か気づいたことある?」
スマホをいじりながら、もう1人の私にも聞いてみる。
《私も特には……あれ?》
「どうしたの?」
《スマホの電池残量が、一気に減ってるような……》
《……だな。アタシのは、今朝は100%だったはずだが》
「右上のこれですね。今は70%弱、といったところでしょうか」
《今日はブロッサムの手伝いしてたから、たいしていじってねえ。まだ買い替えて半月だから劣化もしてねえし、この短時間で30パー近く減る要素はない、はずなんだが》
「なるほど。スマートフォンの電池を、世界花の加護に変換しているようだね」
ちなみに、私が持っているカトレアのスマホのは……65%って所ね。減りの違いは、私の方が少し張り切ったからかしら。
《ちょいと燃費が悪いな……今後は、スマホの充電器を複数持ち歩いた方が良さそうだな》
「君たちは、世界花の加護と魔法少女の魔力を使い分けて戦える、言わばハイブリッドカーのような存在だ。さっき程度の力を振るいたいなら、わざわざ充電器を用意するよりソウルジェムの魔力を使った方が、余程効率的だと思うよ」
《それだとグリーフシードが必要になっちまうだろ? まあ普通に生活するだけでも穢れが溜まるってんなら、結局は必要なんだけどよ。何にしても、いざって時に備えて節約と保険は重要だ》
トウコ、必要以上に魔法を使う――穢れが溜まるのを警戒してるわよね。もしかして、キュゥべえお得意の「聞かれなかったから話していない」何かに気づきかけてる、とかかしら?
《まあ、それは追い追いやっていくとしてだ。今は勝利を喜ぼうぜ》
「それもそうね」
それに、かえでを放置しているし、仕事の中休み中だからあまりゆっくりしてられない。というか、普通に休憩もしたい。
「かえでさん、お待たせしました」
「ううん、大して待ってないから大丈夫ですっ」
「さて、目的は達したわけだけど……私達、休憩だって言って抜け出したじゃない? 早めに倒せたし、まだ時間あるわよね?」
「えっと、そうだね。ゆっくり出来るってほどじゃないけど」
「それじゃ、さっき言ってた初魔女退治の記念として、かえでにはなにか美味しいお菓子でも奢ってもらおうかしら?」
「そんなので良いの?」
「私はそれで構いませんよ。かえでさんにとって大きな負担にならなければ」
「それじゃあ……この近所なら、たい焼き屋さんかなぁ」
ということで私達は、祝勝として魚型の焼き菓子を奢って貰ってから帰途についた。一応お土産として、ブロッサム待機組の分も買って行ったけど。
私がかじりつく直前。
《いいなー。そのたい焼き、安くて美味しいのよねー》
《物欲しそうな声出したってあげないわよ。実際に戦ったのは私なんだし、私がかえでに奢って貰ったものなんだからね》
《お土産分は、私のお財布からも出したわよねー。しかも女王様が勝手に……》
《めんどくさいわねぇ……じゃあちょっとだけ代わってあげる》
《やった! 女王様大好き!》
チョロいわねこの娘……ふふ、で・も。
△ ▼
交わったので、早速目の前のたい焼きにかぶりつく。
「あーn――」
▲ ▽
《はい、「ちょっとだけ」終了》
《えーっ!?》
モーション中に代わったので、口はそのままの流れでたい焼きをかじる。
ぱりっもぐもぐ……こくんっ。
「んー、焼き立てで香ばしくて……悪くないわね」
「もぐもぐ……ふふっ、素朴な甘さで美味しいです」
「おいしいねぇ」
笑顔でもぐ付く私達。小さな幸せって感じねー。
《……ゔー》
……なんか泣きそうな声が聞こえてきた。
《そこまでヘコむほどのこと……? 美味しいって知ってるってことは、何度か食べたことあるんでしょ?》
《知ってるから悲しいのっ!》
ふむ、さすがに意地悪し過ぎたかしら。ふふっ、しょうがないわね。
△ ▼
《はい、一口だけ食べていいわよ》
《……ぽこぽこ代わらないでよ》
ていうか、私自身はかじってないのに、すでに口内にたい焼きの残り香があって頭が一瞬混乱する。
《あら、いらないなら――》
《いる》
《ふふっ。はい、めしあがれ》
なんか私、餌付けされてるような……まあいいか。
警戒しながら、今度こそかぶりつく。
「ほいひー」
《しゃべるなら飲み込んでから!》
《はーい》
その後、一口だけと言っていたけど結局半分くらい食べ終えるまで代わってくれていた。ツンデレ可愛いかよ。大好き。
▲ ▽
ブロッサムに戻って魔女退治完遂の旨を知らせてから、たい焼きを渡す。
「わあ、ありがと!」
「あ、じ、じゃあお返し……! 今はこんなものしかないけど……」
「あ、私もこれあげる! なんか元気になってたけど一旦下げた子だから、気にしないで!」
「ん、ありがと」
そう言って、このみが黄色いゼラニウムの鉢植えを、かこは小さなチョコ菓子を数個くれた……たい焼きを贈って鉢植えを貰うっていうのも奇妙な気分だけど。
とりあえず、早速チョコを一つ食べる。うん、おいしい。
《……ふふっ》
《女王様、どうしたの?》
《いえ、大したことじゃないわ。さっきのたい焼きもだけど、食に関してはこっちの世界でも満足出来そうって思っただけよ》
《そっか。こっちの食べ物がお口に合ったようでなにより……んー》
台詞の途中で、何やら考え込むように唸るカトレア。私何か変なこと言ったかしら。
《女王様が好きな食べ物ってなに?》
《なによ、唐突ね》
《ゲームではカトレアの食の好みの話題とか、あんまりなかったから。それに、まだ私からはカトレアに、歓迎の品的なの贈れてないし……》
《リクエストしたら作ってくれるってこと?》
《そんな感じ》
《ふむ……》
私の好きな食べ物、ね……あえて言うなら、昔よくデンドロビウムが作ってくれた山菜のスープだけど。この世界にまったく同じ食材があるかわからないし、あったとしても高級食材かもしれない。
となると……アレね。
《キノコのホイル蒸しをお願い。味付けは、カト家流で良いわ》
《オンシちゃんの好物ね、オッケー。やっぱりよく食べてたの?》
《来るたびシンビジュームにおねだりしてたからね。週一回は必ず食卓に並んでたわね》
《おぉ、ゲームで語られてない裏エピソード!》
……その楽しそうな声に、オンシジュームの笑顔を思い出す。
(あの娘達、今頃何してるかしら。私達が突然いなくなって、泣いてるかもしれないわね…………)
……というか、私達は魂だけがこっちに来ているような状態なのよね。向こうの私達の身体、どうなってるのかしら。
このみちゃんが魔法少女ストーリーで贈っていたゼラニウム。花言葉は「尊敬」「信頼」「真の友情」。
そして、黄色のゼラニウムの花言葉は「予期せぬ出会い」。地球で出会うはずのなかった花騎士達との出会いを祝福して、このみちゃんがチョイスしました。