魔法少女花騎士☆マギカ   作:繭浮

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はじまりのいろはカトレア 1-4

 そんな訳で、環家の晩御飯にお邪魔させてもらったのだけど……

 

《うーん。不味くはなかった、というか、どちらかと言えば美味しかった、んだけれど……》

《ああ、女王様が言いたい事わかるわ。私は、お母さんが入院中に食べてたのをちょっと味見させてもらった事あるんだけど、それを思い出したわ》

 

 環家の料理はどれも、良く言えば素材の味を生かした優しい味、ちょっと悪い言い方をすれば病人向けの薄味、て感じだった。

 まぁアレよね。妹のういちゃんが長期間入退院を繰り返す生活を送っていたらしいから、自然とこういう味付けが環家の味として定着しちゃったんでしょうね。

 

 でもまあ、若干の物足りなさはあったけど、美味しくいただけたから文句はない。ましてや好意で作って頂いたのだものね。

 

 それはそれとして。今私達は、いろはちゃんの部屋に案内されていた。

 

「ここが私の――私とうい、二人で使っていた部屋です」

 

 扉を開けて入室を促されたので入っ、たところで、早速の違和感。

 

「……部屋の右側が、不自然に空いてるわね。確か調整屋でも言ってた気がするけど」

「はい。昨日までは、大して気にならなかったんですけど……ういの記憶が戻ってからは、ハッキリ言えます。この空きスペースには、ういの私物やベッドがありました」

《「タマキウイ」という存在そのものが世界から消失しているから、明らかにおかしいのに違和感に気付けなかった。そんなとこでしょうね》

 

 入口に立って部屋の印象について軽く感想を交わしていたところで、

 

「おまたせ、カトレアさん。布団持ってきたよ」

「あ、わざわざありがとうございます」

 

いろはちゃんのお父さんが、布団を抱えてやってきた。今夜は環家にお泊まりさせて貰う事になったのよね。

 

 少し遅めの晩御飯だった事と、環家のみなさんと雑談しつつの食事だったから、現在時刻はすでに夜の9時。環家としてはこんな時間に女子高生を1人で隣町まで行かせられないし、愛娘の恩人でもある。そんな少女と自分の娘が友達になったのだ、お泊まりでさらに仲を深めさせたいという意図もあるのだろう。

 

 まあ確かに、私達みたいな超絶美少女の夜の1人歩きなんて、普通に考えたらかなり危ないけれど。私達はかなり強い方の魔法少女な上に燈湖仕込みの護身術があるから、為次郎さんレベルの筋肉お化けでもなければ男の人でも軽くあしらえるし、縄張り意識の強い魔法少女だろうと魔女だろうと、1人でもなんの問題もなく撃退して帰宅出来るんだけどね。

 そもそも空を飛んで直接家まで行けるから、危険はほぼないと言っていい。我が家の前で敵意を持ったベテラン魔法少女がダース単位で待ち構えてでもなければね。

 

 まあ、一般人でしかないいろはちゃんの両親に説明するのはめんど……難しいし、なにより私としても、いろはちゃんともっと仲良くなりたかったから、二つ返事で了承した。

 

 

 

 

「お風呂、上がりました。先にいただかせて貰って、ありがとうございます」

「ただでさえ、私の帰りが遅くなっちゃったのに……ごめんね、お父さん」

 

 いろはちゃんのお母さんは先にお風呂入っていたらしいけど、男の後に入るのは家族とはいえ嫌だろうと、お父さんは入ってなかったらしい。ので、私達といろはちゃん、2人で一緒に先にいただかせて貰った。

 

「あ、ああ、別にかまわないよ……」

「あなた……なんだか鼻の下伸びてないかしら?」

「えぇ……そ、そんな事は」

「あはは……カトレアさん、凄いスタイル良いもんね。仕方ないよ、お母さん」

「ふふ、まあ、確かにそうねぇ?」

「あ、あはは……参ったな」

 

 私から視線をそらして困った様に頭をかくいろはちゃんお父さん。

 

《……娘がいる親とはいえ、男の人だものね。世界に愛された私達のパーフェクトボディにタジタジになるのはしょうがないわ、ふふふ》

《あっいろはちゃん、女王様はこう言ってるけど、お父さんを誘惑するつもりなんてないからねっ》

《ふふっわかってます。でも……カトレアさん、本当に綺麗な身体で、同じ女の子の私でも見惚れるくらいで……って何言ってるの私!?》

《あはは……あ、ありがと》

 

 何故だか急に気恥ずかしくなって、お互い頬を赤らめつついろはちゃんの部屋に戻った。

 

 部屋に戻ってからは、お互い寝巻きに着替えてから(私のはいろはちゃんお母さんのじゃないとサイズが合わなかったからお母さんから借りた)、いろはちゃんと色々とおしゃべりした。

 いろはちゃんやういちゃんの趣味の話から始まって、一緒の病棟にいた2人、文学少女な柊ねむちゃん、星や宇宙の事が大好きな天才肌の里見灯花ちゃんの事。次いで私と女王様の趣味や、親友の燈湖とこのみさんの事、私のお母さんの病気はこのみさんの祈りで治った事。女王様のスプリングガーデンでの事や、デンドロビウムの事まで、本当に色々。

 

 夢中でお話していて、今日インストールさせた花騎士の遊び方を今度教えてあげる話になったところで、

 

 コンコン

 

「2人とも、仲が良いのはいいけれど、もう1時過ぎたわよ……明日は土曜だから大目に見てたけれど、さすがにそろそろ寝なさいね」

「えっ、もうそんな時間?」

「あっすいません、つい夢中で話しちゃってて……おやすみなさいです」

「ふふ、はい、おやすみなさい」

 

そう言って、いろはちゃんお母さんの気配が遠ざかっていく。

 

《ふふっ。楽しいと、時間が過ぎるのは早いものよね……睡眠不足はお肌の天敵だし、言われた通りもう寝ましょ》

《ですね》

《はーい》

 

 本音としては、もっとおしゃべりしていたかったんだけど……女王様にも諭されちゃったので、私達は揃って布団に潜った。

 

「……カトレアさん、女王様」

 

 数分後。布団に潜ったものの、いろはちゃんに声をかけられるだろうと思って女王様と念話雑談していたら、案の定声をかけられた。

 

「……何かしら」

 

 まあ、なんとなく言おうとしてる事は予想出来る。調整屋ではスマホ操作講座と花騎士の説明をした後に、私達がいろはちゃんういちゃんの事を何故覚えていられたかの説明をしたのだ。それで大半の時間を使ってしまって、言い出すタイミングがなかったものね。

 

「私、また行きます。神浜市へ」

「……ま、そうなるわよね」

「はい。もうキュゥべえに触っても、何も思い出せませんでしたけど……あのキュゥべえとういに何か深い関係があるからこそ、ういの事を思い出せて……キュゥべえが、思い出させてくれたんだと思いますから」

「そうかもね」

「私が思い出せてない事が、まだ何かあるかもしれませんし。それに、小さいキュゥべえが神浜にしか存在しないなら、行方がわからないういの手がかりも、神浜にあるとしか思えないんです」

「……手伝わせてね、友達の大切な妹の事なんだし。それに……確信をもってういちゃんが存在していたって言えるのは、いろはちゃん以外では多分、直接姿を見ていた私と女王様だけだろうしね」

「はい、頼らせていただきます。よろしくお願いします、カトレアさん、女王様」

「ええ、もちろんよ」

《ん、了解》

 

 その言葉と共に、今度こそ眠りに――

 

《と、私も忘れないうちに……いろは》

 

――と、女王様はまだ何か話があったらしい。

 

《……? なんですか、女王様》

《いろはは小さいキュゥべえに触れても、もう何も思い出せないみたいだけど。話した通り、世界に愛されてる私は魔法のエキスパートよ。だから、あのキュゥべえに触れて魔法で調べれば、いろはでは気付かなかった事にも気づけるかもしれない》

《本当ですか!?》

《まあ、あくまで「かもしれない」だけどね。なんにしても、あのキュゥべえはあなたに懐いてるわ。だから、私が触る前に許可を得た方がいいかも、て思ってね。もちろん、傷付けないように細心の注意を払って調べるわ》

《願ってもないです。是非お願いします!》

《ん、任せなさい。必ず何かしら掴んで見せるわ。それで得られた情報とトウコの推察力を合わせれば、何かしらの結論に辿り着けるだろうから。期待してなさい》

《はいっ!》

 

 念話でだけど、本当に嬉しそうに返事を返してくるいろはちゃん。女王様にしか出来ない芸当だって思うと、若干の嫉妬を覚えたけど……ま、いろはちゃんが嬉しそうだし、いっか。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「朝御飯までいただいてしまって……ありがとうございました」

「それはこっちのセリフだよ。昨日はいろはが色々とお世話になったようだし、今日この後も付き合ってくれるんだろう?」

「はい。生まれも育ちも神浜なので、いろはさんの探し物の手助けは任せて下さい」

 

 現在時刻は、午前10時30。随分とのんびり過ごさせて貰ったけれど、何もいろはちゃんと親睦を深めていただけではない。

 

 昨晩寝る前にいろはちゃんは「また行きます」と言ってたけど、それはつまり「明日にでもすぐ行く」ってニュアンスじゃなかった。要するに、土曜だけど予定があるから、今日行くつもりはなかったらしい。

 

 理由は単純。昨日出された宿題がちょっと多かったから。なので、今日中に片付けて何の憂いもなくなった翌日、日曜に行こうと思っていたらしい。

 

 そうは言っても、いろはちゃん的には本当は宿題なんて放って、大切な妹の捜索を出来るだけ早く始めたいはず。なので、高1の私が協力して、午前中のうちに宿題を終わらせてあげたのだ。その結果10時過ぎまで居座る事になったけど。

 

 なんにしても、これで宿題の事を心配することなく、さらには半日長くういちゃん探しが出来る事になったわけね。

 

 

 

 

 

 と言っても、環家を出た時点で10時30、駅に向かって電車に乗って神浜へ行けば、もう11時過ぎだ。お昼時間近で捜索を始めても空腹で集中出来ないだろう。

 

「てことで、先にお腹を満たしてから動きましょ。燈湖から穴場の食事処を教えて貰ってたんだけど、まだ行ったことないのよねー。なかなかこっち方面に来る機会もないしね」

「あ、だから北養区の駅に降りたんですね」

「そ。老舗な上に住宅街の一角にあるらしいのよね」

 

 そんな訳で。燈湖から教えて貰っていた、神浜の穴場洋食屋さん、「ウォールナッツ」へ向かっていた。

 

 えーと。地図アプリ通りなら、この辺りなんだけど……

 

「あ、なんか良い匂いが……」

「そうねー……んー、でもこれどっちかっていうと、パンの香りなような……」

 

 うーん。食に貪欲なとこがある燈湖なら、ウォールナッツの近くにパン屋があるならその情報もくれそうなものだけど……つい最近開店したばかりなのかも。

 

「あ、「焼きたてパン」の旗が……小さいですけど、やっぱりパン屋さん、ありましたね」

「そうね。で、すぐ隣にあったわね、ウォールナッツ」

「ですね……うーん、大きくはないですけどオシャレな感じで、なんだかお高そうですね……」

 

 老舗の高級店の雰囲気のある外観をみて、財布の心配をし出すいろはちゃん。

 

「そこは大丈夫。燈湖情報によれば、お値段はリーズナブルらしいわよ。燈湖的には、味は最高だけど量が物足りないから、満足いくまで食べたら高く付く、とかなんとか」

《トウコは通常の3倍はペロリと平らげるから、多分私達なら一人前でちょうど良い量のはずよ》

「燈湖さん、そんなに食べる人なんですね……引き締まった身体つきで、なんか格闘家って感じですよね。格闘技してる人って、やっぱり健啖家な人が多いんでしょうか」

「んー、どうかしら? 燈湖以外の知り合いで空手家の娘がいるけど、燈湖程は食べないわね」

 

 そう雑談しながら、ウォールナッツへ歩みを進めていると、

 

《あら、この反応。しかも両方から……?》

「女王様?」

「どうかしましたか?」

 

 女王様が、若干警戒心のこもった念話を送って来た。

 

《ウォールナッツと、横のパン屋。両方から、魔法少女の魔力を感じるわ》

「「えっ?」」

 

 思わずいろはちゃんと声がかぶる。

 

「店員さんかお客さんが、魔法少女に変身してるって事ですか?」

「ああ、違うわよいろはちゃん。女王様の魔力探知高性能過ぎて、この距離でも変身してなくても魔法少女かどうか判断出来ちゃうのよ」

「そうなんですか! それは凄いです!」

《ふふん、私は世界に愛されてるんだもの、これくらい出来て当然よ》

 

 ふむ……となると、今の私には無理だけど、研鑽を積み重ねていけば、いずれは女王様のレベルの芸当も不可能じゃなくなる、てことよね……なんかテンション上がって来たっ。

 

「12時まで少し時間もあるし、先にパン屋さんの方覗いていかない?」

「そうですね。とっても美味しそうな香りですし、なんならお土産として買っちゃいましょうか」

「いいわね」

《うーん……私的に異論はないわ。ただ……》

「うん?」

 

 話しながらパン屋の扉前まで来たところで、またしても女王様が不穏な感じの念話を送る。

 

《ここまで近付いて気付いたんだけど。食事屋の方は1人だと思うけど、こっちは2人いるみたいよ。いろは、一応ソウルジェムの指輪はポケットにでも仕舞って、魔力も極力抑えるよう意識してなさい》

《そうね、それがいいわ》

《それは構わないですけど……同じ魔法少女なのに、なんでそこまで警戒しないとなんですか?》

《……やっぱりいろははお人好しね。昨日やちよに絡まれたばかりじゃない。神浜最強レベルと一緒にいる市外から来た魔法少女なんて、縄張りを奪いに来たって取られてもおかしくないわ》

《私達は傭兵魔法少女として大活躍してて、顔が割れてるからね。有名税にいろはちゃんを巻き込みたくないのよ》

《な、なるほど……?》

 

 まあ、私達が関わってる時点で、今は隠せてもその内いろはちゃんが魔法少女だっていうのはバレるだろうけど。それを抜きにしても、今後はういちゃん探しで神浜には頻繁に来るのだし。

 

 ま、今はともかくパン屋さんだ。店名はアルファベットで、横にカタカナで『クリザンテーモ』とフリガナが書いてある。

 

(んー……営業時間になったばかりだからか、入店してきそうな人はいないけど……繁盛してるのかしら? っと、いつまでも入口付近に陣取ってちゃ営業妨害よね)

 

 考えを打ち切って、パン屋クリザンテーモの扉を開くと、

 

 リーン……

 

涼やかな風鈴の音がする。中を伺う様な姿勢で入店すると、

 

「んん〜〜、マーヴェラース……!! エルダーガールのヘヴンパン、サイッコーなんですケド!」

「じゃからその誤解される名称は……おっと、騒がしくてすまぬなお客様。いらっしゃい――ほう、これはこれは……! 奇妙な巡り合わせもあるものじゃのぅ!」

 

小さなイートインスペースでヘヴン状態でパンを頬張る緑髪ロングの少女……なんかの雑誌で見た覚えがあるわね。天才若手芸術家って呼ばれてる娘に似てる気がする。

 

 その、天上の食物でも食べていそうな反応は凄く気になるけれど。私的――私達的には、カウンターに立つ少女に唖然としていた。まさか、彼女と出会う事になるとは思っても見なかった。

 

「貴方は花騎士シロタエギク、よね? 」

「そう言うおぬしは花騎士カトレア、じゃな?」




 おタエさんのパン屋・クリザンテーモの名前の由来は、イタリア語の菊の日本語読みから。それと、シロタエギクの原産国が地中海なので、イタリア語にしました。

 次回投稿予定は、3月17日(木)です。
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