それと、書いていたら文字数1万超えそうだったので、前話「花騎士魔法老女シロタエギク誕生秘話 1-2」の後半に加筆してます。お手数かもですが、先に前話を読み返して頂けるなら幸いです。
という訳で。おタエさんの魔法少女ストーリー的な何かの3話目、最終話です。
あの高音が聞こえた直後。実時間ではほんの刹那だったようじゃが……今、わっちはわっちと――
「さあ、仕上げだよ。キミの願いは花騎士魔法少女の中でも特殊だからね。ソウルジェムを手にして力を解き放つことで、契約は完全に履行される。それでキミは、全てにおいて花騎士シロタエギクに成れるんだ」
「……。了解、じゃ……」
……まあ、今の体験を話すのは別の機会にして……今は言われた通り、怠い身体を押してソウルジェムに手を伸ばし掴み取る。
と、今度は自身の視界が虹色に染まり――
「あっが――ああああああああああ!!」
今度は明確に肉体、全身に激痛が走り、悲鳴を抑える余裕もなく叫ぶ。
(ズキズキどころでは――! 疼痛を何十倍にもしたような――!)
必死に何か考える事で痛みを逸らそうと試みるが、大して効果はなさそうじゃ……痛い痛い痛い痛い……!!
「――この痛がりよう、燈湖さんから聞いていた情報と違い過ぎます! キュゥべえ、どう言う事ですか!?」
「……妙の願いの影響さ。花騎士シロタエギクの見た目の肉体年齢は、恐らく10代前半のものだ。つまり、彼女が花騎士シロタエギクになると言う事は、肉体が若返る必要がある。肉体年齢60代の人間の身体が10代のものに急激に造り変えられるんだ、成長痛なんて比じゃない痛みが発生したとしても不思議じゃない」
「それは……ですがこの聞いているだけで痛々しい悲鳴は、あまりにも――」
相変わらず視界は虹色じゃし、相変わらず痛いが……ほんの少しだけ慣れて来たからか、まなか嬢のわっちの身を案ずる台詞が聞こえて来た。ほんに、優しい娘じゃ……
――カシャカシャ!カシャカシャカシャカシャカシャ!カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ!
「あはぁ……♡ アメイジ〜ング……♡」
……そして一方で、悦の入った吐息とスマホの撮影音の雨が聞こえるんじゃが。なんじゃ、その……妙に冷静になって来たというか、痛がる姿を晒しておるのが悔しくなって来たというか……なんじゃこの感情、初体験。
「そもそも、老女との魔法少女契約は本来あり得ない事だから、これが初めてなんだ。当然、予想外の事は起こり得る。それでも予想出来る事の1つとして、妙にはこうなるかも知れないと事前に言っていたし、これでも極力痛まないように全力で調整しているんだ。申し訳ないけど、我慢して貰うしかない」
「そう、なんですか……」
それ以降、まなか嬢は黙り込み、しばらくわっちの痛みに呻く声とアリナの興奮した吐息と撮影音が…………。
「いつまで撮っとるんじゃ、アリナ!」
「ン〜? エルダーがレインボーじゃなくなるマデ?」
「はあぁぁ〜〜……ふ……くふ、ほんに、感心する程、おぬしはブレぬのぅ……」
アリナの発する音が気になって、というか気が散って、お陰でほんの少し痛みが分散されておるの……まったく、ほんに面白いおなごじゃの、アリナは……おー、痛い痛い……くすくすっ。
30分以上に渡り激痛に耐えたつもりじゃったが、わっちの身体が虹色になってから、実時間は3分程度しか経っとらんかったらしい。魂がソウルジェム化した時間を合わせても、5分程度か。思ったより早く済んだの。
「あ゛〜……ここまで痛い思いをしたのは初めてなのじゃ……あいや、あっちでは経験あるか……」
そして、痛みから解放されてから発した声は若々しい、しかし聞き慣れた声じゃった。
「お疲れ様です、おタエさん……でいいんですよね?」
「うむ……何故に疑問符なのじゃ?」
「あーいえ。一応花騎士シロタエギクの立ち絵は記憶していましたが……やはりゲームの立ち絵が現実寄りになった事で、予想と若干の差異があったというか、なんとなく違和感があるといいますか……」
「ふむ、言いたい事はなんとなく解るがの」
まなか嬢的に、わっちの老人の時の姿を見慣れ過ぎているからすぐに飲み込めない、といった所かの。
「ン。今のエルダー……エルダーガール、どこに出してもノープロブレムな、ペドフィリアもサティスファクションするプリティガールだケド?」
「おぬし、もう少し表現をじゃな……ふむふむ」
少々問題のある発言を咎めつつ、アリナが差し出したスマホの画面を覗き込むと、そこにはまごう事なきわっちの写真――花騎士シロタエギクの姿が写っていた。
(自画自賛になってしまうが……若いわっち、可愛い)
花騎士シロタエギクの記憶と寸分違わぬ自分の容姿と魔法少女衣装に、わっちは満足げに微笑む。
「それにしても、驚いたよ。ボクも頑張って、穢れ異常蓄積の負荷を最低限に抑えようとはしたけど……ほんの十数秒で治るとはね。完全にキミの予想通りだった訳だ。やはりキミは素晴らしい魂の持ち主だよ、白菊妙」
魔法少女真実を知らないまなか嬢の手前、直接的には言わなかったようじゃが。これは、わっちが「魔女にはならない」と言った事に大しての感想じゃな。
「けれど、それにしたって治るのが早過ぎる。何か心当たりはないかい?」
「ふむ、あると言えばあるが……詳しくは秘密じゃなぁ」
そう告げた直後に、キュゥの字に念話を送る。
《……おぬしに情報開示して、なんらかの方法で他のおぬしの個体に知られると、わっちに――花騎士に不利益があるやもしれん。そういうレベルの情報じゃ》
《なるほど……どうやってその情報を得られたのか気にはなるけど、それなら仕方ないね》
穢れ異常蓄積が僅かな時間で治った理由と、インキュベーターに知られるとマズイ情報。
穢れ異常蓄積に関しては、わっちの魂強度と、6機の擬似世界花の加護を用意したから。それらも理由の一因じゃろうが……最大の理由はやはりアレじゃろうな。あの時の事を、少し振り返る。
☆
わっちの魂とシロタエギクの魂がほぼ融合し、ソウルジェムになる直前。甲高い音を聞いた瞬間、わっちはもう1人のわっちと――花騎士シロタエギクと、不思議空間で対面しておった。
実時間が一瞬だった事から、恐らく精神世界的なヤツかと思うが。そこは花騎士的に……花騎士プレイヤー的に分かりやすく言うならば、根源の世界花空間に似た場所……いや。あれは、そのものだったのやもしれぬ。
「挨拶は必要なかろう。わっちとそっちのわっちは、すでにほとんどひとつになっておるでの。ゆえにあまり時間はない、手短にせざるを得ないのは了承して欲しいのじゃ」
「うむ、あいわかった」
シロタエギクが語り始めたが、時間は僅からしいので、わっちは基本聞きに徹する事にした。
「まずは感謝を。おぬしが願わねば、わっちは確実に死んでいた。天雷の防御には一応成功したが、即死レベルの致命傷を負ってしもうたからの……」
天雷か……やはり他の花騎士魔法少女の予想通り、フラスベルグ決戦で死にかけの重症を負った者の魂のみが、召喚条件のようじゃな。シロタエギクはその中でも生死の瀬戸際、即死一歩手前だったようじゃの……
しかし、「わっちが願わねば死んでいた」、か……やはりそうなったか。わっちの選択は、融合系にしたのは正解じゃったか。
「一応確認じゃ。わっちとおぬしの魂が融合し、溢れた残りの魂は向こうの身体に入り、結果一命を取り留めた。そうじゃな?」
「その通りじゃ。そのせい、というと悪く聞こえてしまうかも知れぬが。あっちのわっちにも、白菊妙の記憶が入ってしまったようじゃが……」
「わっちがそう望んだのじゃ。不快でなければ、許して欲しい」
「これでようやく逝けるのかとは少し思ったが、今逝ったら弟子――団長が悲しむからの。感謝こそすれ、不快などと思う訳もない!」
「くすくすっ……そう言って貰えると、この願いにした甲斐があるというものじゃ」
ふむ。しかしそうなると……他の融合系の花騎士魔法少女の溢れた魂も、向こうの身体に入ったのかもしれぬの。インキュベーターの悪辣な実験のせいとはいえ、これはある意味朗報じゃな。
逆に、最初の花騎士魔法少女である、二つ魂系の向こうの身体がどうなっておるのかが気がかりじゃが……
「さて、本当に時間は僅かじゃからの、そろそろ本題に入るぞ」
「……して、何を聞かせてくれるのかの?」
「まず、このように会話出来た事によって、花騎士魔法少女となった白菊妙は、わっち――花騎士シロタエギクがこちらに来る直前の記憶に加え、魂が抜け出たからこそ得られた、世界花の真実。その記憶を引き継げるはずじゃ。その理由すべてを話している時間はないが……端的に言うなら、キュゥの字が手厚く守ってくれた事と、根源の世界花たるリリィウッドで長年戦い続けた事が主な原因かの」
ふむ……どうやらシロタエギク自身、確証はないが何故かなんとなく理由が分かる、程度の認識かの。
「あー、ほんに時間ない! さらに手短にいくぞ!」
少々焦った声で愚痴を言いつつ話を続けるシロタエギク。
「アレは根源の世界花じゃ。ゲーム画面では見たじゃろうが、まるで巨大な球根のようじゃろう? まぁ世界花も一応は植物じゃからの」
時間がないらしいので、コクリと頷きで返す。
「じゃが、魔法少女として見ると――別の物に見えてこんか?」
「魔法少女、じゃと?」
そう言われると……まさか……そういう事なのか?
「この情報はこっちに来た花騎士にとっ――有益なものとなるかも――が、取り扱い次第では、向こうの花騎士――不利益を、被りかねん――」
シロタエギクの声にノイズのようなものが混じり始めた。いよいよ時間ギリギリらしい。
「よいか。他の者、花騎士に伝える際でも――タイミングや、相手をよく見極めるのじ――」
再び頷きで答え――
「最後に! この根源の世界花、いや、世界――は、スプリングガーデンのものではなく――」
☆
(――と、その辺りで現実に引き戻されたんじゃったな)
そんなこんながあり。わっちはこっちに――地球に来る直前の記憶やとびっきりの極秘情報を保持出来ておった訳じゃが……要するに、花騎士シロタエギクと対話した影響で、溢れ出た魂が迅速に向こうの身体に行ったから、じゃろうな。
それはそれとして。その日のイベントは、まだ完全に終わってはいなかった。
「結界、もういらないヨネ?」
「おぉ、そうじゃな。ありがとう、アリナ」
「ン」
頷き一つ後、アリナが結界を解いたのと同時――
ゾワ……!
――唐突に鳥肌が立った。まるで、凶悪な害虫と対面したような……!
「なんじゃ、このゲッソリする様な不快感は……」
「これは……おタエさん、公園のすぐ近くに魔女がいます!」
「そうか……禍々しいこれが、魔女の魔力。まさに呪いを振り撒く絶望の存在、じゃな」
アリナの結界のお陰と言うべきか、せいと言うべきか。契約の邪魔をされなかったのは良いが、結界の影響で魔女の存在を感知出来ない状態じゃったらしい。
「よし。では、初めての魔女討伐といくかの」
「はい! ですがおタエさんは、魔法少女になったばかりです。今回はサポートに徹していだだければ――」
「わっちとしても、誰かのサポートに回るのが性に合ってはいるが。こちらの世界での初陣じゃ、どれだけ向こうと同じ感覚で動けるかを早めに確認しておきたい」
「……そういえば、花騎士とは日々魔女のようなモノと戦う存在でしたね」
「それにまなか嬢は、自身の魔法はサポート系と言っておったじゃろう? わっちはサポートが性分と言うても援護射撃をするタイプ。ゆえに、今回はメインの攻撃役でいかせて欲しいのじゃ」
「むむ……分かりました! ではまなかは、全力でおタエさんのサポートをさせて頂きます!」
「うむ、よろしく頼む」
よし、役割分担の話し合いはここまでじゃな。
「アリナはどうするかの? やはり見学か?」
「オフコース! エルダーガールのバトルシーン、じっくり観ないなんて、インポッシブルだヨネ」
「……そうか。まぁ邪魔をしないのならば良い」
各自の行動の最終確認をし終え……振り返り、告げる。
「ではの、キュゥの字……行ってくる」
「ああ。キミは強いけど、くれぐれも油断しないようにね」
「……ありがとう」
……短く一言だけ残して魔女がいる方向に向き直り、駆け出す。
(……なんとなくじゃが。キュゥの字とは、これが最後の会話な気がする……)
長年生きたわっちの勘は、わりと当る……じゃが今は、魔女討伐を優先じゃ。
★
まなか嬢に先導されて辿り着いた魔女結界に、わっち、魔法少女衣装に変身したまなか嬢、アリナの順で飛び込むと、そこは地獄と日本の墓場をごちゃまぜにしたような、おぞましき空間が広がっていた。
「……不気味な風景じゃの」
「ですねぇ」
「ジャパニーズヘルってカンジだヨネ。嫌いじゃないケド、アリナ的には「生」が足りない。ノットクライト」
感想を言い合っていると、青白い人間の下半身に×字の木板を背負い、木板から幾つもの首吊り紐をぶら下げた、生に対する冒涜の塊の様な化け物が集団で迫って来た。日本のホラー映画に出て来そうじゃな……
「これは魔女の使い魔ですね。感じる魔力からして、本体の魔女は結構強力に成長していると思います。使い魔とはいえ、油断は禁物です」
「……不愉快極まりないデザインじゃ。一掃するぞ」
「えっ?」
そう呟き一度瞳を閉じ、意識を集中。薄く目を開き、使い魔の集団上空に視線を移して念じると、視線の先に黄金に輝く魔法陣が出現する。そこに言霊を乗せ、一気に解き放つ。
「「輝星ノ光剣」!」
魔法陣から光り輝く魔力剣が雨の如く降り注ぎ、視界に映る使い魔全てを貫く。貫かれた使い魔はカタチを崩し、空間に溶けるように消滅する。
「す、すごい……」
「ビューティフォー……!」
感嘆の声を上げる2人。じゃがまだ、視認出来た範囲の使い魔を一掃しただけ。
「この魔女結界も使い魔も、わっち大嫌いじゃ。一刻も早く魔女を討つぞ」
そう言ってわっちは自身の四方に光剣を生み出し、その力で浮遊してから最も不愉快な魔力を感じる方向へ一直線で飛んで行った。
「あっちょ!? おタエさんっ待って下さーい!」
道中見かけた使い魔は通るのに邪魔になるのだけ移動しつつ斬り捨て、数分で最深部と思われる巨大な朱鳥居前に着く、と同時、鳥居の奥の闇から高魔力反応!
キュビ――!!
熱光線が放たれたのと、わっちが眼前に巨光剣を出現させたのはほぼ同時。熱光線の放出が終わるのと盾として出した巨光剣が砕けるのもほぼ同時。
ふむ、なかなかに強力な不意打ちじゃったが。
「二射目が遅い! 「古ノ光剣」よ!」
複数の魔法陣を出現させ、大量の光剣を出現させ一斉に放つ!
――……怨怨怨怨怨怨……!?!?
四方八方から迫り来る無数の光剣が、鳥居ごと魔女を斬り裂き刺し貫いていく。
鳥居が破壊された後に現れたのは、ズタボロになった真っ白で巨大な逆さの生首。これが魔女か。
「これで終いじゃ。成仏せいよ」
魔女の眼前に魔法陣を展開、巨光剣を出し、縦一文字に振り抜き真っ二つにする。
――……オオ……ォ……
最期に小さく呻き、崩れる逆さ巨頭の魔女。
「お、追い付きまし……ってアレ!? もう終わってます!?」
「……シット」
2人が追い付いたと同時、景色が歪み元の公園前に戻る。
「ふむ。出し惜しみをしなかったとはいえ、思ったより早く倒せたかの」
「……さすがに花騎士魔法少女、かなり強い魔力反応でしたが、こうもアッサリ倒しますか」
「ま、単純計算で80年以上は戦い続けておったからの。この程度……うん?」
魔女を倒し一息つこうかと思ったところで、火の匂いを感じ取った。どこか近くで火事の様じゃな……
「魔女をアッサリデリートしたケド……ホープレスはまだジ・エンドじゃないんだヨネ」
アリナが何やら呟いた。よくは聞こえんかったが……猛烈に嫌な予感がした。どうやら、アリナが何やらしでかしてくれたようじゃな……そして火事……となると。
「……まなか、消防車を呼ぶのじゃ。住所は――わっちの店じゃ」
早足で戻ると、案の定わっちの家が――わっちのパン屋クリザンテーモが炎上していた。それはもう轟々と、物理的に。
そして店の前には、初老の男が気を失った状態で倒れておった。
「この男は……宝崎市内にある大きなパン工場併設のパン屋、その現オーナーじゃな」
「……先程の魔女の魔力の残滓があります。恐らく……先程倒した魔女に操られて、おタエさんのお店に火を放ったんだと思います……自身も炎に飛び込むつもりだったのでしょうが、その前に魔女を倒したから、こうして気を失っていたのかと」
「……そうなのじゃろうな」
魔女に「魔女の口づけ」とやらを受けると耐性のない一般人は操られ、負の感情が増幅され自らを破滅へと導く行動に出るという。
「……こやつと町ですれ違うたび、嫉妬の篭った視線を向けられておったからの。それは先代オーナーからもじゃが……」
そこまで考え――今代だけ店の前にいた事に、状況を理解した。
(わっちが契約した時間、魔女討伐を含めても10数分程度。いくらなんでも大炎上するのが早すぎる。となると、これは複数犯……先代殿も加わっていたじゃろう。そして先代殿の方が、わっちへ向ける妬みは強く感じた。ならば……)
……建物が焼ける匂いに、僅かに肉の焼けた様な匂いが混じっている気がした……わっちは咄嗟に、炎上を続けるクリザンテーモに手を合わせ、冥福を祈っていた。
「おタエさん……?」
「……さて。オーナー殿が犯人じゃろうが、それは魔女に操られての事。確か魔女の口づけ中の行動は記憶に残らんのじゃろう? ならばここにいたら、こやつが犯人扱いされるやもしれん。公園に連れて行くぞ」
「……。分かりました。おタエさんが、それで良しとするなら」
うむ、やはりまなか嬢は物分かりが良いの。
さて。死人を利用するのは若干気が引けるが……無用に嫉妬を募らせた報いとして、この状況を利用させて貰うとするかの。
スマホを取り出し雷電殿へとかけつつ、魔女討伐後から姿の見えぬアリナをざっと視線を走らせて探すが……目視出来る範囲にはいないか。じゃが、どこかで観察しとるんじゃろうな。
(……次に会ったら大説教じゃな)
どうやってかは分からぬが、先代様と現オーナーに魔女をけしかけ凶行に走らせたのは、恐らくアリナじゃろう。わっちの絶望する様子でも見たかったのじゃろうが……まったく、困った娘じゃ……
――――――――――
「……わっちが魔法少女になった日にあったのは、こんなとこじゃな。不幸中の幸いか、パン屋の備品や通帳などの貴重品は、すでに神浜の新居に移した後じゃったからの、被害は旧クリザンテーモの建物だけじゃった」
「なるほどな。それで、親父の裏の繋がりを知っていてそれを利用した、か」
「そういう事じゃな」
あの後、案の定クリザンテーモの焼け跡からは、炭化するまで焼け焦げた性別不明の遺体が発見されたが……その遺体は行方不明の「家主である白菊妙のもの」と、ニュースでは報道された。旧知で裏社会にも顔が効く雷電為次郎殿には、その情報操作に協力して貰った、という訳じゃ。
元々雷電殿には、老人の白菊妙の存在の抹消と、花騎士魔法少女になって若返り、戸籍のない新生白菊妙の戸籍捏造を依頼しておったが……急に仕事を増やしてしまい申し訳なく思ったが、致し方なし。
ちなみに新生白菊妙に関しては「年齢19歳、同姓同名の老人白菊妙のパン職人としての弟子にして、隠し子の孫」という設定で戸籍登録して貰った。まぁ無難な設定じゃな。
そして先代オーナーについては……登山に行ってくると言ったきり行方不明、という扱いになっておるらしい。これも恐らく、雷電殿の情報操作によるものじゃろうな……
(先代オーナー殿も、放火殺人犯として扱われるよりはマシ……と、あの世で思ってくれておると、嬉しいの……)
……仲の良い相手とは、とても言えなかったが。また、旧知に先に逝かれたの……あっちでもこっちでも、わっちはそういう星の下にいるようじゃ……なんとも歯痒いのぅ……まぁ、もう慣れたが。
《……シロタエギクさんの魔法少女エピソードは分かりました。それで……わざわざみんなを去らせて、私と燈湖さんのみで話がしたいと言うことは……》
「うむ、デンドロビウム殿なら信頼出来るからの。情報共有じゃ――世界花の真実に関しての、な」
次回投稿は、5月7日(土)の予定です。多分本編に戻ります。