魔法少女花騎士☆マギカ   作:繭浮

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 お待たせしました。


いろは カトレアの 神浜ウワサファイル 1-2

 時刻は午後6時半くらい。中学生組が帰り支度を始めたので、おタエさんがお土産の紙袋を各自に渡し始めた。中身は言っていた通り、ライ麦パンでしょうね。

 

「おぉ、そうじゃった。伝え忘れとった事があるのじゃ。特にわっちと同じ、魂融合型の花騎士魔法少女達にの」

 

 その一言に、魂融合型のデュランタ・ステラ・カラスウリが振り返る。

 

「……何?」

「インキュベーターの実験のせいでひとつの器に収まり切らず溢れた、1人分の魂。どこに行ったと思う?」

「っ! それは……」

 

 ……それは何度か会議の議論に上がった事のある議題だった。口ぶりからして、おタエさんは知っている……?

 

《ヒユカの魂同様、捜索は続けてるけれど……現状、何も分かっていない状態なのよね》

 

 私がどう言おうか迷っていると、女王様が伝えてくれた。

 

「ふむ、やはりそうか」

「シロタエギクさん、もしや貴女は行方を知っているのですか?」

 

 燈湖、雑談中は男勝り(普段通り)な口調だったけど、真面目な話に入ったからかデンドロビウムモードで尋ねた。

 

「わっちがキュゥの字に無理を言って花騎士魔法少女にして貰ったのは言ったな。わっちがキュゥの字と呼んでいるインキュベーターは、イレギュラーな個体での。出会った当初は、まあ割と普通のキュゥべえ、と言った感じじゃったが……ある時を境に、感情を会得したらしいのじゃ」

「キュゥべえが、感情を……?」

 

 思わず、同じくイレギュラーなモチョを見る。エノテラからスモークチーズを食べさせて貰っていた。美味しそうに食べてて可愛い。

 

「あー、多分ソヤツとは、感情会得の経緯がまるで違うからの、今はそこは気にせんでも良い」

 

 ふむ、この話題にモチョの事は念頭に入れなくていい、と。

 

「話を戻すぞ。キュゥの字はわっちに対して特別な感情を持ってくれたらしくての。だからこそ、凍結したという花騎士魔法少女に関する計画を特別に実行してくれたし、魂融合時の負荷や穢れ異常蓄積の軽減に全力を尽くしてくれたのじゃ」

「あのキュゥべえがそこまで……確かに、かなりのイレギュラーな存在ですね」

「そうじゃな。わっちに惚れ込んだとか言うておったから、わっち限定で献身的だったのやもしれぬが……」

 

 そう言うおタエさんの表情は、どこか哀愁が滲み出ていた。言い方からして、もしかして……

 

《……感情を会得した時点でイレギュラー、さらには凍結したプロジェクトを勝手に行い、魔女化しないように尽力までした。それを考えると、そのキュゥの字さんはすでに……》

「うむ、デンドロビウム殿の予想通りじゃ……わっちを花騎士魔法少女にしてくれた数日後、キュゥの字と思われる遺体がわっちの店の裏口にあったよ……まったく、みんなしてわっちより先に逝きよる……」

 

 ……おタエさんの台詞に、しんみりした空気が流れる。

 

「また少し話がズレたの……こほんっ。キュゥの字が献身を持って融合型の花騎士魔法少女にしてくれたお陰か、わっちは花騎士シロタエギクの魂がこちらに来る直前の記憶と直後の記憶を、ほんの少しだけ覚えておる」

「へぇ……ここにきて、直前の記憶保持者が現れるとは……直後?」

 

 最後の方の一言が気になった。

 

「うむ、前置きが少々長くなってしもうたが、それが本題じゃ。おぬしらの予想通り、花騎士の魂が召喚される条件は「フラスベルグ決戦中に瀕死の重傷を負った意識不明状態の花騎士」じゃ。そしてわっちは、天雷の一撃で助からないだろう致命傷を受けたのを、その時の痛み苦しみを記憶しておる」

 

 そう言ってから、胸を――心臓辺りを撫でるおタエさん。

 

「ここで、冒頭で述べた「溢れてこの世界から弾かれたもう1人分の魂」じゃ。わっちが覚えている向こうでの最後の記憶は、白菊妙と混ざり合った魂が重体のシロタエギクの身体に入り込んだ所までじゃ」

 

 そして、ここではない何処か、虚空を見つめるように上を向き、続ける。

 

「キュゥの字によると、もう1人分の魂は、こちらの魂がソウルジェムへと結晶化されたと同時にこの世界に同じ魂が二つある事の矛盾を否定するかのように――弾かれるように、この世界の外へと放逐されたらしい。デュランタ、ステラ、カラスウリ。おぬしら三人の魂の事じゃの」

「あの時はそれどころじゃなかったから、仕方ないけど……そんな事になってたんだね……」

「いや、カラスウリ(ボク)の時も誰も認識出来てなかったみたいだし、シロタエギクさんの時が特別だっただけでしょ」

「ですよねぇ」

「での。キュゥの字情報によると、わっちの時も同じように世界外に放逐されたらしいのじゃが……キュゥの字がわっちの魂をかなり丁寧に扱ってくれたお陰か、シロタエギクの身体に辿り着いたのをギリギリ感知出来たようなのじゃ。結果あっちのわっちは、奇跡的に一命を取り留めた……かまでは確認出来なんだが、少なくとも延命は出来たじゃろうな」

 

 虚空へ向けていた目を閉じ、祈るような姿勢を取る。あちらのシロタエギク、それとフラスベルグ決戦時に怪我を負った花騎士達の安寧を祈ってくれているのかしら……

 

「……帰り際に長々と説明して申し訳なかったの。簡潔に言うなら、おぬしら三人の魂の余剰分は、わっちと同じく向こうの身体に行った可能性が高い、という事じゃ。いや、恐らくは……」

「ふえ?」

 

 そう言って、ポーチュラカに視線を移すおタエさん。

 

 ああ、なるほど――その推察通りなら。

 

「陽友花ちゃんの魂は、スプリングガーデンのポーチュラカの身体に行った可能性がある、て事ね」

「うむ。じゃからの……こちらでその娘の本来の魂を探しても、無駄骨を折るだけやもしれぬ。じゃから今はそれらの事は一旦脇に置き、目の前の問題に注力するべきじゃとわっちは思う」

 

 目前の問題……ウワサに謎の魔法少女集団、それに……ワルプルギスの夜。それらがすべて片付いて余裕が出来てから「行方不明の魂」その他花騎士関連の懸念について考えれば良い。おタエさんはそう言いたいのだろう。

 

「……有益な情報、感謝致します。確かにやりたい事が多すぎて、正直困っていたところでした。これで優先順位が決められます」

 

 燈湖がおタエさんに深々とお辞儀をして感謝の意を述べる。

 

「くすくすっ気にするでない。必要な情報を渡したまでの事、報連相は大事じゃからな!」

 

 朗らかに笑うおタエさん、可愛い。

 

 それはそれとして。

 

「さ、もう良い娘は帰る時間じゃ。魔法少女だって女の子じゃ、悪い男や大人に引っ掛けられないとは言い切れぬからの!」

 

 やっぱり年長者がいると、安心感というか安定化が違う。今まではデンドロビウム……と一応、花騎士じゃないけど為次郎さんだけだったから、さらに1人増えたのは強いわね。

 

 

 

 

 という訳で、私達はそれぞれ帰途に着いた。おタエさんはデンドロビウムや為次郎さんと大人な話し合いや思い出話をしたいからと残ったけど。

 

 それと。

 

「うわぁ……! この世界の夜景はヤケーに綺麗だねぇ!」

 

 ダジャレを混ぜつつの感想を耳元で上げるポーチュラカ。

 

「あまり耳元で大声出さないで頂戴」

「あっと、ごめんねカトレアさん」

 

 私は杖にポーチュラカを乗せて、莧さん宅へと送る事になっていた。ただでさえ神浜の記憶がない……知らないポーチュラカじゃあ、夜の神浜を1人で帰らせたら迷いかねないからだ。

 

《飛んでる時は風の音で聞こえ辛いから、念話でお願い》

《あー、そういやそんな便利魔法が使えるようになったんだった!》

 

 ポーチュラカはほぼ花騎士だけど、元魔法少女?として、念話魔法だけは何故か残っていた。まあそれも正確には違くて、「世界花の加護持ち」にのみに念話が出来る、というものなのだけどね。

 

 だから、正確には花騎士魔法少女じゃない初雪とエノテラには、私が中継役として側にいないと届けられなかったりする……地味に不便かもしれない。ポーチュラカ、未だスマホの扱いもいろはちゃん並みにおぼつかないくらいだし。色々と面倒見てあげないとね。

 

《ところで、フェリシアちゃんとはどう? 仲良くなれそう?》

《うん! まだなんかよそよそしい感じはあるんだけど、ダジャレを言うとすっごく喜んでくれるし笑ってくれるから! フェリシアちゃんとは、親友になれると思うんだよっ!》

《そっか……それは何より》

《まぁ、元々ヒユカとフェリシアはダジャレがキッカケで仲良くなったらしいものね。ポーチュラカはポーチュラカのままで接してれば問題ないでしょ》

《ふふっそうかもね》

《うーんでも、自分の名前をミエヒユカですって紹介するのは、やっぱり違和感あるんだよ。ダジャレを混ぜ込めて紹介出来るのはラッキーだったけどね!》

 

 とまあ、そんな感じで雑談しつつゆっくりと飛行しつつ送り届けたのだった。

 

 うん、ポーチュラカのこの調子なら、もうひと月も神浜で過ごせば馴染むでしょうね。やっぱりポジティブキャラは無敵ね。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 そして翌日日曜日、時刻は午前9時。

 

「おはようございます、カトレアさん! お待たせしました!」

「ん、おはよ。そしていらっしゃい、いろは」

「あ、呼び捨てって事は、女王様ですか?」

「まあね、日曜の駅前は人が多いから。カトレアじゃあ、まだ魔力酔いさせちゃう人もいるかもだし」

《魔力操作には結構自信付いたんだけどねー。それでもこの人混みはまだダメだって言われちゃったわ。女王様厳しい》

「うーん、そうなんですね……魔力が強すぎるのも、良い事ばかりじゃないんですね」

《ま、私達は――花騎士カトレアは、花騎士の中でも世界に愛されてるくらい特別な存在だからね。仕方ないのよ》

 

 そんな訳で今日のメイン魂は私、花騎士の方のカトレアだ。昨日はほぼ丸一日こっちの方のカトレアメインだったから、今日は食事の時間以外は代わってあげない。つまり、今日は私がいろはを独り占めだ……ふふっ。

 

「モキュウ〜!」

「ふふっモチョもおはよう!」

 

 私といろはの挨拶が終わったのを見計らって、私の肩に乗っていたモチョが嬉しそうにいろはに駆け寄り身体を登り、左肩に乗り頬をスリスリして親愛の情を表す。素直に可愛い。

 

「さて、それはそれとして。確か今日は、サトミメディカルに行くんだったかしら?」

「はい。ういと同じ病室に入院していた友達の灯花ちゃんとねむちゃんなら、何かしら知っているかもしれないので。それに……私も、2人とは友達だったから」

 

 ういの記憶と共に、その2人の妹分的友達の事も忘れていたらしいから、ういの事を覚えていてもいなくてもおしゃべりだけでもしたいってとこかしらね。

 

(……友達、か)

 

 1人は偽物だけど瓜二つな姿に変身してるし、毎日のように顔を合わせてるしで、あんまり離ればなれ感ないけど……もう1人の、いつでもワチャワチャ騒がしいあの姿と声、思えば数ヶ月は見てないのよね……ゲームの花騎士でたまに聴いてるけど、やっぱり(リアル)じゃないから物足りない。

 

「……カトレアさん?」

「……ん、なんでもないわ。行きましょ」

 

 ……あの娘が来るとしたら、それはつまり向こうのあの娘が……死にかける姿が思い浮かばないわね。だから、当面は会えないでしょうね。

 

 

 

 

「あれ……? 病室、ここだったはずなんだけど……番号は……うん、間違いない」

 

 3人の病室だった部屋は、整えられたベッドがあるだけで、もぬけの殻だった。

 

「ういは退院直前だったんでしょう? なら、2人部屋に移ったのかもしれないし、そもそも退院したのかもしれないわ」

「うーん……一時退院ならありえますけど。2人とも身体が弱いから、退院したとは思えないです」

「ふむ。とりあえず、私達が前回見かけたのは院内学級で使われている部屋でだったから、そっち覗いて見ましょ」

「そうですね……日曜日は授業はないはずですけど、戸は空いているはずなので、誰かいるかもです」

 

 

 

 

 でまあ。院内学級の部屋を覗いたり2人部屋を覗いたり(中は覗かず名札の確認だけだけど)、しばらくうろついて探してみたけど手がかりはなかった。仕方ないので、最終手段にして置いたナースステーションで聞いてみたところ。

 

「ああ、あの娘達なら、三週間前くらいに退院しましたよ。なんでも急に体調改善して健康体になったとか……1人は院長さんの娘さんなので、時折お父さんに会いに来たりはしますけど、今日は来てないですね」

「そう、ですか……ありがとうございました」

 

らしい。

 

 ちなみに、何故最終手段なのかと言うと、ういの記憶が世界から消失しているなら、つまりはういが入院していた事実も消えている訳で……いろはとトウカとねむは無関係の他人になってしまっているだろうからだ。知らない人間が院長の娘の事を探っていたら、下手したら通報案件だものね。

 

 ま、いろはは中学生だから、ちょっと不審がられるだけだろうけど。それでもちょっとでも不審がられればここでの情報収集が今後しにくくなるのは間違いない。

 まぁ今回は、カトレアの母親(おかあさん)が入院していた事のある私達が付き添っていたからそこまで不審がられなかったけどね。いろは1人だったら、追い出されていた可能性もある。

 

 さて、それはそれとして、トウカとねむだ。いろはの話では、身体が弱いから完全な退院はない、と予想していたけど……それは大外れだった。ただ、そこから得られた情報から推察は出来る。

 

 

 

 

 院内売店でお茶を買ってから病院を出て、調整屋へ向かいながら病院で得た僅かな情報からいろは達と推論していた。みたまがもっと有益な情報得てると良いのだけど。

 

《まず、灯花ちゃんとねむちゃんの退院があり得ないなら、要するに「常識的にはあり得ない事が起こった」って事になるわよね》

「あり得ない事……あっ、魔法少女の願い!」

「そういう事ね。そこからさらにいくつか推察が出来るけど……その2人はういと違って不治の病とかじゃなくて、単純に身体が弱い……免疫不全的な体質だったのよね?」

「はい、確か特定の怪我とか病気じゃなかったはずです」

《んー、となると……ういちゃんの祈りは「2人の体調改善」じゃないって事なるわね》

「えっそうですか? ういならそう願ってもおかしくはないですよ?」

「だって魔法少女になれば、不治の病や身体の欠損でもない限り、副次的に体調改善されるでしょう? 最低限魔女と戦える身体に強化されるのだから」

「なるほど、言われてみれば……」

《それに――親友1人が魔法少女になる決意をしたら、他の2人もなる決意をしたでしょうね。いろはちゃんの話通りなら、かたや天才的頭脳の持ち主で大病院の娘で病弱、かたや天才作家と呼ばれるネット小説家で病弱。魔法少女になれる程の因果――素質を持っていてもおかしくないわ》

「つまりは――3人仲良く、一緒にキュゥべえと契約した確率が高いと言えるわ」

「やっぱりういだけじゃなくて、灯花ちゃんとねむちゃんも魔法少女になっちゃった、んですよね……」

「ま、その方向で考えた方が良いでしょうね」

「……」

 

 私達の推察を聞いて、いろはが複雑な表情になる。

 

 そりゃまあね……3人ともまだ小学生らしいし、今まで入院生活を送っていた戦いとは無縁の娘達で、親友で妹分。そんな娘達に命のやり取りの世界になんか踏み込んで欲しくはなかったでしょうしね、当然の反応ね。

 

(親友……)

 

 確信を持って探しに来たのに会えなかった、妹分的親友を想い複雑な表情を浮かべ続けるいろはを見て、私は再び今は会えるすべのない親友の事を思い出していた……うーん、こういうのもホームシックって言うのかしらね?

 

 と、そう言えば。ウワサの一つに気になるのがあったわね。確か、手順を踏むと会いたい人に会えるっていう……

 

「……口寄せ神社の噂」

「「えっ?」」

 

 私の呟きに右と左、両方から声が上がった。私から見て右側はいろはだから当然彼女の声だけど。左斜め後ろからの声、魔力反応的に。

 

「今……「口寄せ神社」って言ったわよね? あなた達もウワサを調べているのかしら?」

 

 予想通り、ナナミやちよだった……なんかここ最近よく会うわねぇ。




 次回投稿は、6月7日(火)の予定です。

 また、そろそろ自作小説の執筆を再開しようと思っていますので、投稿は727の日である7日と27日、月2回になる予定です。予めご了承ください。
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