大量に買い込んだ食料や日用品を3人でやちよの家――みかづき荘へと運ぶ羽目になった私達。やちよは良い買い物が出来たからか、いつもの仏頂面ながらどこかほくほく顔に見え、あーいや、よく見ると僅かに頬が緩んでて微笑んでる感じに見えるわ。予想外に良い事あった時のデンドロビウムがあんな顔してたのを思い出すわね……ふふっ。
「個人宅にしては、結構大きめな邸宅ね。私のお屋敷と同程度かしら」
《築年数結構経ってそうね。重い荷物持ってたのもあるだろうけど、一部床が不安になる感じの軋み音立ててたし》
「門に「みかづき荘」って看板がありましたし、いわゆるシェアハウスとして経営している……していた?みたいですね」
いろはと共にみかづき荘に入り荷物を置いてから、感想を言い合う。ただ、いろはの感想通り、大きさや部屋数の多さに対して人が住んでいる気配が希薄だから、今はやちよ1人で住んでいるんでしょうね。
まぁ、今はそれはともかく買い込んだ物の整理……もだけど。やちよの指示通りに仕舞いつつ、話を切り出す。
「いろはにやちよ、これが終わったらすぐ水名神社に行くわよ」
「え? でも水名神社は違うかもってやちよさんと……」
「そうね。神社の関係者の方々の話を総合しても、候補からは外して……いえ。バタバタしてしまったせいで聞き忘れていたけれど、カトレアさんの調査報告をまだ聞いてなかったわね」
当然2人から疑問の声が上がる、けどさすがはやちよ、頭の回転が早い。
「まずは調査結果だけど。ああいう神殿――由緒ある神社っていうのは、だいたい霊脈の上に建てられているものなのよ。だから私が調べたのは正解に言えば魔力の流れっていうより、霊脈の流れなんだけど」
《……ごめん、まず霊脈がわからないんだけど。ゲームとかで聞いた事ある単語ではあるけど》
カトレアの念話に同意するかのように、いろはとやちよも頭に疑問符を浮かべているような顔をしている。
「そうね、分かりやすく言うなら……魔法少女が魔法を使う時の体内エネルギーが魔力で、土地に流れている見えない力の奔流が、霊脈やら龍脈と呼ばれているモノよ」
「へえ。私も名前だけは聞いた事あるけれど、そう言うモノが実際にあるのね」
「今風に言えば、パワースポットかしら。ただ、霊脈っていうのは何の色にも染まっていない純粋なエネルギーそのものだから、祀る神社によって性質は変わるでしょうね」
「なるほど……だから健康祈願とか縁結びとか、神社によってご利益が違うんですね。勉強になります!」
「ま、そんなとこでしょうね。まあご利益云々はともかく……霊脈はエネルギーだから、それを感じ取れる霊感の強い魔法少女なら、上手く取り込めるかもしれないし、取り込めたら一時的にパワーアップ出来るわ。逆に霊脈は単なるエネルギーだから、魔女に感知されたら奴らのエサにもなり得るわ。神浜の魔女が他より強めだったり被害者数の割に使い魔の魔女化が早かったりするのは、その辺りが原因のひとつでしょうね」
「ふむ……外から来た娘が「神浜は魔女が多いし強い」って言うのは、そういう理由もあったのね……」
「歴史ある神社や仏閣の敷地内は、霊脈を使用しているお陰で清浄な空間になってるせいで魔女が入りたがらない一種の結界と化してるから、基本問題ないんだけどね。けど、霊脈は川みたいなものだから、神社とかの結界から出てすぐの霊脈上は要注意よ。強い魔女が居座ってる恐れがあるから」
「そうなんですね……気を付けますっ」
さて、霊脈講座はこのくらいにして。
「そろそろ本題に入るわね。例によって水名神社は歴史ある神社だからか、それなりに大きめの霊脈の上に建てられていたわ。ただ、その霊脈の流れっていうかがね……」
「……今から水名神社に行こうって提案したって事は、つまり異常があったのかしら」
「うーん、異常とまでは言えないんだけど。霊脈は川のようなモノって言ったでしょ。霊脈の太さにしては、流れが若干緩やかに感じたのよ。多分、神社内で霊脈のエネルギーが本来の用途外の使われ方をされてるんでしょうね。神社に気付かれないよう、ご利益にギリギリ影響出ない程度にね」
《それってつまり……水名神社こそが「口寄せ神社のウワサ」って事?》
「それを確かめるために、今から行く必要があるのよ。ま、このウワサは例の「伝説」を元にして造られてるだろうから、高確率で水名神社でしょうね」
「それってどういう……はっそうか伝説! だから今からなのね」
「理解が早くて助かるわ」
まあ、やちよは神浜在住だから水名神社の伝説を昔から知ってただろうし、すぐに気付きやすいわよね。
「うーん? ……どういう事ですか?」
逆に、いろははこの伝説をさっき聞いたばかりだからか、イマイチピンと来ていない様子。軽く説明してあげましょ。
「伝説の内容の一部を思い返してみなさいな。「姫は毎晩神社へ通い、どうかあの人に会わせて下さいと祈った」」
「姫は毎晩神社へ……毎晩!」
「いろはも気付いたみたいね。口寄せ神社の噂が噂通りに実現するのは夜間のみのはずよ。つまりは神社の戸が施錠されて以降の時間帯ね」
「……それって、不法侵入しなきゃいけないって事ですよね。さすがにちょっとだけ罪悪感が……でも、噂になってるって事は、被害者がいる可能性が高い訳ですし……」
「そ。これは人命救助に当たるのだから……なんだっけ、超なんとか……」
《超法規的措置って言いたいの?》
「そうそれ。囚われた人を解放するための仕方のない行動なのよ」
「物は言いようね……まあ、その考えは嫌いじゃないわ。それに、本当にバケモノが出るタイプのウワサのなら、魔法少女でないと解決は不可能なのだし。超法規的措置って言うのもあながち間違いでもないかもね」
「あはは……まあ、人命第一。重要ですよね!」
という訳で話もまとまったところで、早速口寄せ神社――水名神社に舞い戻る事になった……あ、そうだ。
(あの娘、確か霊感強い方で、魔法少女になる前から幽霊とか見えてたって言ってたわよね……魔法少女になって元からあった能力も上がってるだろうから霊脈の力を扱えるかもだし、もしかしたら役に立つかも……)
急遽の思い付きで、私はとある魔法少女を1人、水名神社前に呼び出す事にした。
元より未知の相手に3人だけで挑むのはトウコに止められてたし、保険としては丁度良いわよね。という事で、移動中にメッセアプリで呼び出しよ。
「う、うーん……夜の神社は不気味ですねー……まぁお墓が隣接してるお寺よりは全然マシですけど……」
水名神社に着いたら、新西より近かったからか先に着いていた雪女みたいな白装束の娘が、神社の閉ざされた門を見上げながら独り言を呟いていた……コチラにはまだ気付いてない様子ね……ふふ、ちょっとイタズラ心。
「えい」
ボッ
「うひょおうぇえっ!? ひっ人魂ぁ!?」
白装束の魔法少女――ハツユキの顔の真横辺りに青白く炎色を変えた小さな火球を出すと、面白いくらい大袈裟な反応をしてくれた。面白可愛い。
《うーん、これはまさしくハツユキソウ的反応。可愛い》
カトレアもハツユキの反応にご満悦みたいね、ふふっ。
「……何してるのよ。隠密行動するんじゃなかったの?」
「ちょっと間を置けば大丈夫よ」
「えっだっ誰ですか!? ていうかよく見たらカトレアさん来てますし、この炎からもカトレアさんの魔力感じますし……あー驚いて損した、じゃなくて結局そのお二人は誰ですか!? 聞いてないんですがっ!」
「えっと……はじめまして、だよね。驚かせちゃってごめんね?」
「……この娘がさっき言っていた応援の魔法少女よね。西じゃ見ない顔だし、新人の娘?」
「えーと、魔法少女歴は……2ヶ月くらいかしら? 割と新人だけど、こう見えて結構強いし霊感も強いから、今回のウワサでは役に立つと思ったのよ。ほら、自己紹介なさいな」
そう言いながらハツユキの背後に回り、背を押して2人の前に出す。
「ちょちょっ、押さないで下さいよ〜。んもうっ女王様は相変わらず強引ですねっ。ええっと……カトレアさんのご紹介にあった通り、割と新人魔法少女の奈雪初雪と申しますっ! 以後お見知り置きを!」
文句を言いつつ、相手が明らかに年上&魔法少女として先輩だからか、丁寧に自己紹介をして綺麗な姿勢のお辞儀をする。さすが、腐ってもお嬢様学校とやらに通っているだけあるわね。
「はじめまして、初雪ちゃん! 私は環いろは、中学三年生だよ。住んでるのも通ってるのも、今は神浜の学校じゃないんだけど」
「あっやっぱり私より上級生でしたかー。なんとなーく年上な気はしてましたけど」
「七海やちよよ。神浜の魔法少女でカトレアさんと知り合いなら、名前くらいは聞いた事あるんじゃないかしら。というか、あなたも例の花騎士魔法少女なのかしら?」
「あっあなたがあの有名なやちよししょーさんですか! お噂は色んな人からかねがねっ」
「……なるほど、鶴乃とも知り合いみたいね。あの娘も今回呼べば良かったかしら」
「あっちなみに私は花騎士「系」です。要するに、花騎士ソウルは召喚出来てませんっ!」
さすがハツユキ、相手が初対面でも大物でも「長い物に自ら巻かれに行く」の座右の銘通りのコミュ力で問題なく対応するわね。
少しの時間雑談をしてお互いの人柄を確認させてから、本題に入る。
「さて、あまり悠長にしていると帰るのが遅くなっちゃうわ。役割分担を改めて確認しましょ」
「ええ、そうね」
という事で、侵入前にそれぞれどう動くのかを再確認した。
まず、この噂は「心から会いたいと想う人物の名前を絵馬に書いてから作法通りにお参りすれば、想い人に会える」と言うものだ。
……まあ、当然それで現れるのが本人そのものな訳がない。相手が偽物であると指摘すると逆ギレして襲い掛かってきたり、噂のルールを破ったとしてバケモノが現れて無理矢理どこかへ連れ去ってしまったりするらしい。その辺は絶交階段のウワサのバケモノに共通するものを感じるわね。
で。絵馬に会いたい人の名前を書くのは、いろはとやちよと私の3人だ。要するに、ハツユキを呼ばなければ全員が噂に則った行動を取っていた訳ね。
流石にそれじゃあ不足の事態に対処出来ないかもしれない、ということで、知り合いの魔法少女で霊感が強くて霊脈の流れに敏感そうなハツユキに白羽の矢を立てたのだ。
ちなみに予想通り、霊感がさらに強まったハツユキは霊脈を感知出来た。これで保険はバッチリね。基本コミカル担当な所があるハツユキだけど、なんだかんだいざと言う時はキッチリ役割をこなしてくれるから、個人的にはお気に入りの友人だったりする。
「さて。それじゃ、行動開始よ」
やちよの号令と共に、夜の水名神社に4人で侵入して噂の手順を踏む私達。
「……書きましたっ。後はこれを絵馬掛けに結んでお参り、でしたよね」
ちなみに。いろはは妹のういの名前を書いた。うい探しが目的で神浜まで通っているのだから当然ね。
やちよはアズサみふゆ、と書いていた。んー、トウコから聞いた事ある名前ね……確か、現在所在不明だけど、元々はやちよと2人で西のまとめ役をやっていた魔法少女、とかなんとか。
で、最後に私だけど。
「オンシジューム……ラン科の花の名前ね。あなたの向こうでの花騎士仲間、もしくは親友かしら?」
「ま、そんなとこよ」
《女王様……》
軽く返し、私も絵馬掛けに絵馬を吊るす……なんかカトレアが悲しげな声色の念話を送って来たけど気にしない。どうせ現れるのは偽物だしね。
「それでは皆さん、ご武運をっ。私は絵馬掛け前で周囲の警戒と、霊脈の流れを注視してますねっ」
「ええ、頼んだわ」
さて……手順通りにお参りした訳だけど。本当にあの娘――異世界にいるオンシジュームを再現出来るのかしら。あの天然の騒がし娘の再現は、かなり骨が折れそうだけど。
「っ!」
しばらく待っていると、私はいつの間にやら魔女の結界に似た雰囲気の夕焼けの神社に1人佇んでいた。そして――
「……あははっ! カトレアちゃん、やっと会えた〜! んふふ〜、なんか久しぶりだねっ!」
私の記憶と寸分違わぬ言動の、オンシジュームが現れた。
次回投稿は、7月7日(木)の予定です。