「ええ、久しぶりね、オンシジューム。何ヶ月ぶりくらいかしら?」
「さぁ〜? カトレアちゃんずっと眠りっぱなしで飽きちゃったから、何日経ったか数えるのやめちゃったー!」
黄昏時の神社の境内を、クルクルと体全体で再び会えた喜びを表現するかのように笑顔で踊るオンシジューム――を模したナニカ。
キレそう。
《どうどう女王様、怒りの感情ビンビン伝わって来てるわよ、一旦落ち着いてー?》
《……はぁー……それもそうね。ありがとカトレア》
最初から偽物が現れるのは分かっていたのに、何故唐突にキレそうになったのか。
理由は単純。あのオンシジュームが、
ま、それはともかく。カトレアの一言で冷静になれたから、オンシジュームのセリフから読み取れた事と、トウコ達と事前にしていた予測とを擦り合わせてカトレアと答え合わせをする。
《シロタエギク情報と照らし合わせると、こちらに呼び出される可能性がある私達花騎士はみんな、「フラスベルグ戦中に死にかけた」事が条件。フラスベルグ決戦がゲーム通りに1日程度の短期決戦だったのなら、死にかけたのもみんな同じ日。つまり、花騎士によって呼び出された日がかなり違うのに、みんな同じ日に死にかけている》
《そうね、確かにそう結論付けたわね》
現在私達花騎士達の間では、地球とスプリングガーデンとでは時間の流れにかなりの差がある、という説が最有力だ。
最有力な理由は……色んな意見・予測が出たから全部話すと長くなるけど。ひとつ挙げるとするなら、シロタエギクが特殊な魔力で「不老」を得ていたお陰か、彼女が時間の流れに敏感だったからだ。彼女曰く、こちらの世界の時間が流れは急流レベルに速い……ような気がするらしい。
要するに、なんらかの手段を見つけて私達の魂がスプリングガーデンに戻れたとしても、時間の流れのお陰でせいぜい数日か、長くても数週間しか経っていないだろう、と予測されている。
《そのオンシジュームモドキ、私が数ヶ月昏睡状態だった、的な事を言っていたじゃない? つまりあの偽物は、オンシジューム本人を元にして顕現させたモノじゃなくて、「私の記憶、私の想い出を元にして顕現されたモノ」という事になるわ》
《……そうね。残念だけど、私もそう思う》
《ま、最初から期待薄だとは思ってたけど、ね》
そして予測の答え合わせはこうだ。もしこの偽オンシジュームが向こうのオンシジュームを元にして造られたモノならフラスベルグ決戦の決着が実際にはどうなったかを聞けるかも知れない、と思ってたけどやっぱり無理っぽい、という事だ。
まぁ、さっきカトレアとの念話で言った通り、最初からあまり期待はしていなかったのだけれど。理由は、「ウワサ程度に世界を越えてまでオリジナルを元にしたコピーを造れるとは思えなかった」のと、「霊脈を見てみて、この神社の霊脈の一部を借りパクして造られた程度のウワサにそこまでの事は出来ないだろう」と思ったからだ。
《それにしても。ゲーム知識だけの私としては、本物のオンシちゃんにしか見えないんだけど……キレそうになったって事は、やっぱり女王様的にどうしても許せないレベルの出来な訳ね》
《そうよ》
……キレはしなかったけどいい加減怒りは我慢の限界だから、実際に声に出して指摘する。
「偽物にしても出来が悪いのよ。シンビジューム――カレンと比べてもレプリカとすら言えないわ。フラワーナイトガールをやり込んでから出直して来なさい!」
「ええー、ひどいよーカトレアちゃん!」
今目の前にいる偽物は、さっき私が絵馬に名前を書いている最中に思い浮かべていた「私の記憶の中のオンシジュームがしそうな言動」しかしていない。つまりは、私の記憶から読み取ったコピーという事。
ま、それ自体は一応予想通りなのだけれど……出会い頭のリアクション含め、出来の悪い模造品を実際に見せられたら怒りで頭が沸騰しそうになった、て感じ。
という訳で。
「不愉快極まりないのよ。消えなさい!」
《ちょ》
――ボボボボボボボボッッ!!
私の魔力とカトレアの魔力も引っ張り出し、一瞬で無数の火球を周囲に生み出す。
「か、カトレアちゃん容赦無さ過――」
キュドドドドドドドッッ――!!
偽オンシジュームがなんか言っていたけど気にせずに一斉に放つと、偽オンシジュームの姿はあっという間に炎で見えなくなる。偽物とはいえちょこまかすばしっこいあの娘を模しているから、回避されないように質より量が効果的なのよね。
まぁこの弾数だと、結局
《流石にやり過ぎじゃない? 撃ち込んでる途中で魔力霧散してた感じだったわよ》
「まぁ所詮劣化コピー、こんなものでしょ。
カトレアの言った通り、炎と煙が晴れた後には偽物も、偽物を造り出していた魔力の残滓もとっくに霧散していた。
「さ、それより他の2人が気になるわ。戻りましょ」
《そうね。いろはちゃんはともかく、やちよさんが相手するだろうみふゆさんの実力が未知数だし。何より偽オンシちゃん倒しちゃったからウワサの本体が出て来るかもだしね、急ぎましょ》
魔女結界モドキ……んー。魔女と性質が違う感じだし、ウワサ結界としておきましょうか。ウワサ結界から抜け出ると、私達は絵馬掛けの前に出た。そこにいたのはハツユキのみ。
「あ、お帰りなさいです女王様。結構早いですねっ」
「当然よ。それより2人は? それと、霊脈関連で気付いた事が有れば教えて頂戴」
「いろはさんは一度戻って来ましたけど、やちよさんがまだだったので、魔女結界的なヤツに再突入しました」
「今後はウワサ結界って呼びましょ。魔女結界と違って、穢れはそれ程漂ってないし」
「なるほど、そうですねっ。あ、霊脈に関してですけど。カトレアさんが出てきた方で大きな衝撃があったせいか、若干乱れてます。それに呼応するように、ウワサ結界の奥の方で大きな――」
――ズァッ
「「っ!」」
ハツユキの報告の途中。ウワサ結界が拡張し、絵馬掛けの場を含む神社の敷地内全域に広がった感覚。
――アラもう聞いた? 誰から聞いた?
「えっ?」
と同時、妙な声?が聞こえてきた。
マチビト馬のそのウワサ――
――神社を支えるその神は、ファンシーでナイスなジェントル馬ン――!
――皆の願いを叶えるために、会いたい人に合わせてくれる粋なヤツ――!
――だけど残念、それは幻覚。気付いて否定しちゃったら、ジェントル馬ンがギャングスターに変わっちゃうって、水名区の人の間ではもっぱらのウワサ――!
――カッテスギー――!
突然現れた人形のような使い魔モドキは、ノイズが混じったレコードのような、出来の悪い機械音声のような無機質な声色でそう言い残し、空間に溶けるように消えた。
「な、なんなんでしょ、今の? 霊脈の変動とは直接関係なさげでしたけど」
「ま、たいした魔力も感じなかったし、噂を広めるためだけに造った戦闘力のないウワサの使い魔的なモノ、でしょうね。それより、言い残した内容的に――」
と言っている内に、大きめな魔力と霊脈の力を内包した何かが、
「はあっはあっ……あっカトレアさんに初雪ちゃんっ!」
「流石カトレアさん、早いわね」
「おかえり2人とも、って悠長におしゃべりしてる余裕はないわね」
いろはとやちよの後ろからは、頭部が黄ばんだ感じの黄色で胴体が内臓みたいな気色の悪いピンク色をした趣味の悪い謎生物に、鞍と手綱とオモチャの車輪を付けたヨクワカラナイモノが猛スピードで迫っていた。
さっきのウワサプレーヤー(仮)が言い残した内容からして、アレが「マチビト馬のウワサ」の本体なんでしょうけど……とても馬とは言えない奇抜なデザインにツッコミを入れたい気分ね。明らかにいろはとやちよ、と、多分私に襲いかかって来ている。要するに、ウワサのルールを破った私達にだ。
「カトレア!」
《了解っ! デュアルコネクト!》
阿吽の呼吸でして欲しい事をしてくれるカトレア。心で感謝を言いつつ、瞬時に魔力を操りハイパーノヴァを練り上げる。
「す、すごい魔力……うくっ」
……走り抜けるいろはが苦しそうな表情でたたらを踏みそうになったのが一瞬気になったけど。予想通りの計画通りだから、全力で見なかった事にする。
「蒸発なさい!!」
ブゴオオオォ――!!
青い火球がマチビト馬のウワサに直撃し、激しい火柱に包まれる。
「うわあ……! 流石です、カトレアさん!」
「聞いていた以上の火力ね……それとも奥の手的なヤツかしら?」
「……ノーコメントよ」
……平静を装いつつ、私は内心悔しがっていた。
確かにハイパーノヴァは直撃させられたけど、必殺技と言っていい自慢の一撃でもウワサ結界が健在だし倒せた手応えがなかったし。それに……
《でもまあ、予想……じゃなくて、予知通りになりそうね、カトレア》
……予定通りに事が進みそうだったから。
《……うん。友達を実験台にしたみたいで、最悪の気分だけど……》
《……私だって同じ気持ちよ。いろはに説明した魔力酔い対策も嘘じゃあないけど……予知を聞いていたからこそ、今日は丸一日私が身体を使う事にしたんでしょう? カトレアじゃあ、気持ちを制御出来ずに余計な事してしまう恐れがあるからって》
《……わかってる。わかってるけど……》
《まあ、ソウルジェムに引きこもらずに直視する事を選んだのだし。出会った当初とは比べものにならないくらい、カトレアは精神的に成長していると思うわよ》
《ん……ありがと、女王様》
カトレアと念話で会話しつつ、油断せず炎に包まれ姿が見えなくなっているマチビト馬がいた方向を凝視し続け、ついでにカトレアの魔力を結構使っちゃって穢れが溜まっちゃったから、グリーフシードを使っておく。
「おかしいです……結界が消えません!」
「……つまりは、あの大火力でも倒し切れていない、という事ね。火への耐性が強かったのかしら」
「むむ……今の感じ……神社、霊脈……お祈り?」
あら……ハツユキは気付きかけてるようね、このウワサの性質に。ふふ、私の人選に間違いはなかったようね。
それはそれとして、私達の自慢の必殺技で倒し切れなかったのはやっぱり不服ね……まあ今回ばかりは仕方ないわね。
「来ます! ……これっもしかして!」
ハツユキの叫びと共に、炎からマチビト馬が飛び出して来た。若干焼け爛れてるし動きは鈍い感じだけど、当然まだまだ健在よね。
「なら、これはどう!?」
「わっ私も確認ついでにっ! ええーい!!」
ビュオンッッ――!! ギィンギィンギィン――!!
やちよが水を操り槍に纏わせ投擲し、ハツユキが氷塊の雨を降らせる。
|枸杞画薊屠酢漿草乎忍冬徒菖蒲桀!!|
極高温から極低温へと急激に冷やすえげつない攻撃。痛みの雄叫びらしきものを上げているから多少ダメージは与えられているみたいだけど、
「くっ……あまり手応えを感じないわ」
「あーん、やっぱりですよねー!」
効果はイマイチ、というか回復の方が速いみたいで、さっきの私達が与えた火傷もほぼ治っている。
「やっぱりって……奈雪さん、何に気付いたの?」
「あー。え、えっとですね……」
「う、くっ……やああああっ!」
バシュバシュバシュバシュ――!!
ハツユキがどう説明しようか悩んでいる間に、いろはが足止めとして矢を放つ。休みなく撃ち続けているからか足止めは成功しているけど、ダメージはほとんど与えられていない。
「っ! 環さん、やめなさい! あなたソウルジェムかなり濁ってたじゃない!」
「ぅええ!? それってマズいですよぅ!!」
「で、でもウワサを倒さない、と……あ、あれ……急に力が抜け……」
「いろは!」
矢を放ち続けていたいろはが、唐突にへたり込み倒れそうになるのを、私が抱き止める。
「あ……ありがとう、ござい……ふっ、うぅ……」
「……2人とも、足止めの続きをお願い。最低限でいいから」
「了解よっ。それよりカトレアさん、環さんにグリーフシードを――」
「……手持ちは、さっき限界まで使っちゃったわ」
「そんな……環さん! 意識をしっかり保ちなさい!」
「あわわわわ……い、いろはさん……!」
やちよがマチビト馬に大量に生成した槍を放ちつついろはに必死に呼びかけ、ハツユキも氷塊を放ちつつ不安そうな顔でいろはをチラチラ見ている。
《もうすぐ、よね》
《そうね……気分は最悪だけど、彼女は「ハッキリ視えた」と言ったわ。なら、友達の固有魔法を信じましょ》
《……ん》
……数秒後。
「う、あっ、ぁぁああああ……!!」
「っ」
耳を塞ぎたくなるような、苦しげな悲鳴。いろはのソウルジェムは、限界まで穢れ切っていた。
「……ァァアアアア!!!!」
ここまで穢れたら、もう完全に手遅れ。ソウルジェムはグリーフシードに変質し、新たな魔女が生まれてしまう。
――本来なら。
「……、え?」
「……へ? ……ふわぁっ!?」
グリーフシードになる代わりのように、溜まった穢れが全て噴出しカタチを成し、いろはは「魔女のような何か」を身に纏っていた。
「今夜です。神浜市内の神社のような場所で、白いフード、腕にボウガンを装着したピンク髪の魔法少女が、魔女のようなモノを身に纏っているのがハッキリ視えました……ええ、以前私が視た未来と同じ光景でしょう、視覚えがありましたから」
次回投稿は、7月27日(水)の予定です。今年の727の日はどんな感じになるでしょうか?