魔法少女花騎士☆マギカ   作:繭浮

71 / 98
いろは カトレアの 神浜ウワサファイル 1-6

 やちよの唖然とした声にハツユキのポカンとした間抜けな顔、そしていろはの戸惑う様子を見ながら私達は、

 

《……勝ったわね》

《でしょうね》

 

カトレアといろはの勝利を確信し合う。

 

 魔法少女の魔法は基本的に、願った祈りに関連したモノを得る。

 

 固有魔法は十人十色。まあ、似たような願いなら似たような魔法を得る確率は高いでしょうけど……それとは関係なしに、ほとんど全ての魔法少女は、共通するとある属性を待っている。

 

 それは、「善属性」だ。大半の魔法少女は自分の事か他者の事かに関係なく、前向きな、明るい未来を祈って願いを叶えている。だから必然的に、魔法少女の魔法、魔力には「善属性」がこもってしまう。

 

 それが今回のウワサ、口寄せ神社に祀られている神(モドキ)のマチビト馬のウワサがやたらタフな理由だ。何故ならこのウワサは、神社に使用されている神聖属性になった霊脈をパクった力で構成されているからだ。つまりは、「極端な善属性」って事ね。

 

 要するに。マチビト馬のウワサは全ての魔法少女の魔法攻撃に対して極端に高い耐性を持っている、という事だ。私達の必殺スキルがたいして効かなかったのは、それが理由ね……ムカつく。

 

 それを倒すにはどうすればいいか。真逆の「悪属性」――端的に言えば、穢れをぶつければ良い。

 

「あっ身体が上手く動かな、わあっ!?」

 

 ビュオンッギュムッ! ガッガッガッガッッ!!

 

 自立した意思を持っているのか、そのいろはの穢れと急激に伸びた髪の毛とで形成された鳥型の魔女のようなナニカは、背中の船のマストのような部分に垂れ下がっていた白布をゴムの様に伸ばしてマチビト馬を拘束し、急接近して嘴で連打する。先程までの防御力や回復力は幻覚だったのかと思える程にダメージを受け、あっという間にボロ雑巾状態になった。

 

《いろはちゃんの髪の毛と繋がっているから、振り回される形になっちゃってるわね……アレにはいろはちゃんとは別個の意思があるのかしら? どう見ても、いろはちゃんの意思を無視してるように見えるけど》

《さてね……でも、確かに意思は無視してるけど、意図は汲んでるんじゃない? 倒そうとしていたヤツに攻撃しているのだし》

 

 キツツキのように連打していたいろはの魔女(?)は、トドメを指すつもりなのか白布の拘束力を更に強め、大口を開けて啄み始めた。

 

「うわあ、なんだか凄い事になっちゃってますねー……」

「環さん! 意識あるみたいだけど大丈夫!?」

「はっはいっ! けど制御は全然出来てませぇん!」

 

 |浅沙泊釣船草能牌煎挟希待片……!|

 

 そうこうしている内に、断末魔の声のような何かを発しながらマチビト馬の姿は崩れていき、魔女のように空間に溶けるかのように消え、ウワサ結界も消失して元の神社の境内に戻ってきた。

 

《…………》

 

 いろはの纏った穢れの具現化体は、ウワサが完全消滅したのと同時に落ち着き、今はいろはを見つめるように対面している。

 

「えっと……あなたが、私の代わりに倒してくれたの?」

《…………》

 

 いろはの声が聞こえているのかいないのか、無言のまま数秒見つめ合った後、魔女が消滅する時の様に空間に溶けるように、けれどゆっくりと消え始めた。

 

「あっあの! ……ありがとう」

 

 言葉を理解出来るのかも分からない相手なのに、感謝の言葉を送るいろは……見た目どう見ても魔女なのに、ほんと、お人好しな娘よねぇ。

 

「わっ、とと」

 

 髪の毛と一体化していて宙吊り状態だったせいで、少し高い位置から落とされ地面に叩きつけられそうになるのをなんとか耐えて着地するいろは。けど、激しい戦闘と穢れの具現化なんて事を(自分の意思とは無関係にとはいえ)したせいで疲労困憊だったのだろう、上手く立ち上がれずよろける

 

「ほら、無理するんじゃないの」

 

のを、後ろから抱き止めるようにして支えてあげる。

 

「あ、女王様……あ、ありがとうございます」

「ふふっ、さっきも聞いたわよ」

「くすっそうでしたっけ? でもさっきは、意識が朦朧としてましたから……改めまして、です」

「そう? じゃあ……どういましまして」

「はいっ」

《んもぅっ女王様ったら突然イチャイチャして……私もいろはちゃんを直接ギュ〜ッてしたいのにー》

「え、ええ!? カトレアさん!?」

 

 ……まあ、気を緩ませるのはこのくらいにして。

 

「そんなことより環さん、早く調整屋に、いえ、雷電さんを呼んだ方が早いかしら。とにかく、一刻も早く穢れの浄化を――」

「――必要あると思う?」

「――、え?」

 

 いろはの魔法少女衣装のフード付きマントの留め具の位置にあるソウルジェムに触れて注目させる。穢れは綺麗サッパリなくなり、本来の魂の輝きを取り戻していた。

 

「どういう事なの……こんな事、今まで……そういえば奈雪さん、ウワサ本体との戦闘中に何かに気付いたみたいだったけど」

「あー、アレですか。なんと言いますか……いろはさんの出したアレが、説明前に実証しちゃいましたけどー……」

「いろはのアレを含めて、気付いた事を話して頂戴」

「アッハイ! 任されましたっ!」

 

 ……私の予測とだいたい同じだろうから、ハツユキに説明を任せる。

 

《自分から説明するのメンドイから、初雪に丸投げする女王様なのでした》

《カトレアうるさい、ハツユキも説明する気満々なんだからいいじゃない。あと人の内心を勝手に覗くんじゃないわよ》

《覗いてないし、そもそも読心みたいな魔法なんて使えないし? ただ単に伝わって来た感情から、なんとなくそんな事考えてるんだろうなーって思っただけよ》

《殆ど覗いてるようなものじゃない、減らず口言って》

《だって、私今日一日ほぼ見てるだけだっんだもの! 私も早くいろはちゃんとイチャイチャしたいんだもん!》

《はぁ、まるで子供ね……ぷ、ふふっ》

 

 カトレアと雑談して軽く緊張を解してから――静かに放たれている殺気と魔力へと意識を向ける。

 

《ふふふっ……うん? 知らない魔法少女の魔力反応……? それになんか、ピリピリする感じが……》

 

 カトレアも、なんとなくだけど殺気にも気付いたらしい。ふふ、成長したものね。

 

 とはいえ、まだまだ未熟ね。ま、害虫との戦いの日々を経験してきた訳でもなし、仕方ないか。

 

《これは殺気というものよ。魔女が放つ無差別なものじゃないし、制御された静かなモノを感覚でなんとなく感じ取った程度だろうから、殺気とまで思い至らなかったのね》

《暗に未熟者って貶されたような……ま、まあともかく。今私達は、知らない魔法少女に殺気を向けられてるって事よね?》

《そうね。正確には――》

 

 そこで念話を区切って、

 

 ドンッ

 

「――へ?」

「ちょおっ!? 女王様いきなり何――」

 

 マチビト馬の性質の説明をしているハツユキの方へいろはを突き放すように押し出し、

 

 ヂュンッ!

 

「なっ!?」

「こっ今度はなんですか〜!?」

 

コンマ数秒程遅れて、いろはの頭があった位置を高速で何かが通り過ぎ、少し離れた先の地面が弾ける。

 

《いろはのみに向けられた殺気、だけどね》

「……銃撃、のようね」

 

 突然の破砕音に驚いていたやちよだけど、即座に状況を理解したようね。流石ベテラン。

 

「いろはの頭部が正確に狙われていたわ。かなりの腕前の狙撃手ね」

「え……私が狙われたんですか……!?」

「そ、いろはだけが正確にね。大方、他の人に当たらないように配慮したのでしょうけど……逆にその正確さのお陰で、とっさにいろはを射線をからズラせたわ」

 

 もし、無差別に全員を狙われていたら……まあ私なら防げるだろうけど。何にしても、いろはだけを狙ったって事はウワサ製造の関係者とかじゃなくて、完全な第三者。

 

「いろはが穢れの具現化体を発現させたのを偶然見かけて、いろはを魔女と勘違いした魔法少女、てとこかしらね」

 

 射線から予測して相手がいるだろう方向に向けて杖を構えると、金髪ロールをツインにした白と麦藁色を基調とした清楚感のある魔法少女が、油断なくマスケット銃を構えたまま影から姿を現した。隠れている理由はないと判断したのかしらね。

 

「……魔女を庇うだなんて、どういうつもり?」

 

 銃口はいろはに、視線は私に向けて、だいたい予想通りの疑問を投げかける見知らぬ魔法少女……正義感が強そうな顔しちゃって。かなりの面倒事に発展しそうで、内心ゲンナリする。

 

 ……それにしても。

 

《そのバストは豊満であった》

《でも、私達程ではないわね。同い年くらいかしら?》

 

 強者の気配は感じるけど負ける気はしないから、カトレアとおふざけの混じった相手の感想を交わし合う……まあ本音は、おふざけ会話でいろはの命を狙った事への怒りを鎮めようと努めていたのだけど。

 

「なかなかの実力者のようだけど……これは神浜の問題よ。外から来た魔法少女に口出しされる謂れはないわ、お引き取り願えるかしら」

「それがそうもいかないのよ。ただでさえ神浜の外は原因不明の魔女不足なのに、ましてや人に化ける魔女なんて見てしまったからにはね」

 

 視線だけを話しかけてきたやちよに向けつつ、神浜に来た理由を述べる市外のベテラン魔法少女。たまたま私達を見つけたというより、明確な目的を持って神浜に来たようね。

 

 ……とりあえず。真っ先に確認して置きたい事がある。

 

「いろはのソウルジェムを見てみなさい。一切穢れの溜まっていない、1番美しい時の輝きを放っているわ。これを見ても、まだ彼女が魔女だと言える?」

「……擬態しているなら、ソウルジェムも何も関係ないでしょう? どうあっても彼女は魔女じゃないって言い張るつもり? 私、この目でその娘が魔女なのを見ちゃったから、そんな言い訳は無意味よ」

 

 ……やっぱりね。ソウルジェム、穢れ、魔女と単語を連ねたけれど、マスケット銃の銃口はいはろはの頭に向けられていて、襟元のソウルジェムには向けられていない。

 

 つまり。雰囲気的にも実力的にもベテランの域だけど、魔法少女の真実は一切知らない、という事……一番面倒な手合いじゃない、はぁ〜……ほんとめんどくさい!

 

《頭硬くてちょっとキレそう》

《私はキレた》

 

「ビッグバン」

 

 ボウッ!

 

「なっ!?」

 

 人1人飲み込める程度の大きさの火球を生み出し、金髪の魔法少女へと放つ。会話が通じないなら、実力行使が一番だ。トウコもデンドロビウムもそう言っている。

 

 一応は手加減したスキルだから、余裕ぶったエセベテランでないならギリ死なない程度に防御出来る……はずだし。何より、

 

「っ……え?」

 

そもそも、何にも当てる気はない。火球は彼女の真横スレスレを通り過ぎ、何かにぶつかる前に消したから周囲に被害もない。

 

「警告よ。これ以上いろはを狙うなら、次はもっと高火力なのを当てるわ。骨も残さず昇華させてあげる」

「まさか、今ので手加減したっていうの!? ……はっ。そう、そうなのね。あなたがキュゥべえの言っていた、神浜の要注意魔法少女の1人……!」

「あら、キュゥべえはお喋りね。一方的に知られているっていうのも気持ち悪いわ、あなたはどこの誰なのかしら」

 

 あの白ダヌキは嘘だけは言わないから、私の実力は正確に届いているのだろう。冷や汗を流し後退しながら、

 

「わ、私は見滝原市から来た巴マミよ。市内に魔女が極端に現れなくなったから調査をしていたら、神浜に辿り着いたのよ。キュゥべえにも、魔女が減った理由がわからないから調査をして欲しいって頼まれていたし……」

 

マスケット銃をリボンへと変えてもう敵対する気はないとアピールしつつ、神浜に来た理由を述べる。

 

(また見滝原の魔法少女、か)

 

 オリコとキリカ、マミで3人目……なんとなく、まだまだ来る気がするわね。ポーチュラカ――になる前のヒユカも、見滝原の友人に会いに行ったらしいし。ヒユカが行方不明になったせいでその友人が魔法少女になったってパターンはありそうだしね。

 

「遠い所からご足労だけど、いろはは魔女に似た何かを偶発的に顕現させただけで、普通に魔法少女よ。あなたが信じるかどうかは別として、それが私達の認識なの」

「似た? あの魔力は間違いなく、魔女と同じ――」

「これ以上の問答は不毛でしかないわ。死に急ぐのが趣味でないなら、疾く去りなさいな」

「――っ、わかったわ……」

 

 まだ何か言いたげだったけど、今回は大人しく帰って行った。

 

「エ、エゲツナーイ……女王様、えげつなさ過ぎますっ。この人本気で怒るとここまで恐ろしいとは〜……」

「……同感ね。直接敵意を向けられていない私でも背筋が凍ったわ……下手な魔女よりよっぽど恐ろしかったわ」

「あ、あはは……私を想っての行動なので、なんか複雑ですね……」

 

 ……気がついたら、みんなして私の行動にドン引きしていた。どうやら私、思った以上にブチギレていたらしい。

 

《はぁ……私もまだまだね、デンドロビウムに叱られちゃうわ。これじゃあ、カトレアの事を未熟者とは言えないわね》

《うーん、今回はしょうがないわよ。いろはちゃんを――親友の命が狙われたんだもの。多分燈湖とデンドロビウムがいたとしても、止めなかったと思うわよ》

《でしょうけど、心の未熟さへのお説教は受けたでしょうね》

《あー、まあ、そうね……》

 

 ま、何にしても。

 

「とりあえず、口寄せ神社のウワサは解決出来たし、何より色々あり過ぎて疲れたわ。今日はこれで解散としましょ」

「そうね……環さんは一応、みたまにソウルジェムに異常がないか見てもらってから帰りなさいね」

「……はい、そうします」

「はっ! そういえば私、コッソリ家を抜け出たんでした! バレない内に帰らないと……バレてないとイイナ〜……という訳でみなさんっ私は先においとまさせていただきます〜!」

「ええ。今日は助かったわ。ありがとう、ハツユキ」

《女王様の無茶振り聞いて来てくれてありがとね、初雪ちゃん》

「いえいえ、お役にたてたなら何よりですよ〜! ではでは〜」

 

 ハツユキが急ぎ足で帰るのを皮切りに、私達もそれぞれ解散、帰宅する事になった。

 

 

 △ ▼

 

 

 ちなみに。思ったより長時間ウワサと対峙していたらしく、いろはちゃんはギリギリ終電を逃してしまっていた。

 

 ということで。

 

「ただいま〜……」

「お、お邪魔します……」

「モキュ〜……」

「……おかえり、カトレア。今日はもう遅いから、朝一で説教よ」

「はい……」

 

 家の玄関を開いたら、お母さんが笑顔で出迎えてくれた……明らかに怒りの笑顔だけど……連絡忘れてた私が悪いんだけどね。家の前に着いてから気付いたから、完全に手遅れだった……はぁ。

 

 ちなみに、女王様はこうなる事を予想していたから魂を私メインにしたのだと愉悦の入った感情が届いた事から気付いた。女王様嫌い。好きだけど。

 

 まあ、それはそれとして。

 

「環いろはちゃん、だったかしら。娘の我儘に付き合ってくれて、ありがとうね」

「いっいえ! むしろカトレアさんの方が私の我儘を聞いてくれたようなものなので……!」

 

 一応家の前とはいえ気付いたので、帰宅が遅くなった理由を(無理のない程度にでっち上げて)スマホで伝えて、今夜友達のいろはちゃんをお泊まりさせて欲しいと伝えてある。

 

「しっかりした良い娘さんね。相変わらず、カトレアは友達運だけは良いわね」

「ひどっ! だけって事はないでしょっ?」

「ふふっそうですよ。カトレアさんはとっても素敵なひとです!」

 

 ちなみに、いろはちゃんはお母さんに秒で気に入られていた。翌朝待っている説教はともかく、そこは素直に嬉しい。




 次回投稿は、8月7日(日)の予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。