とある日の日曜朝7時。私は緊急で伝えたい未来を視たので、カトレアさんのご自宅にお邪魔していました。
視えたのが昨晩寝る前だった事もあり、カトレアさんの今日の予定的にもこの時間帯しか直接伝えるタイミングがなかったので、朝早くご迷惑かもしれませんがお訪ねした次第なのです。
「人と待ち合わせしているから、あんまり時間は取れないのだけれど。緊急の要件よね? 私の部屋に行きましょ」
「はい。一応、お部屋に防音の結界を張っていただけると助かります」
「? まあいいけど」
カトレアさんのお母様くらいしかいないのに防音をお願いしたのは――これから話す予知の内容がカトレアさんの逆鱗に触れて怒鳴られる恐れがあるからです。
せっかくお友達になれたので、出来れば穏便に伝えられればと願っていますが……私が第一にしているのは、あくまで「ワルプルギスの夜を討ち、見滝原の壊滅を防ぐ」事。
正確に言えば――「私の世界を守るため」。その目的達成のためなら、せっかく出来たお友達から縁を切られる覚悟も出来ている……とはいえやはり想像すると辛いので、軽く頭を振って雑念を振り払う。
「防音結界、ヨシ。じゃ、聞かせてもらいましょうか……どんな未来が視えたのかしら?」
部屋に入るなり、すぐに結界を張り尋ねて来た。久しぶり、いえ、初めてかもしれない「お友達の私室」をじっくり観察したい気持ちもありましたが……すでに他所行きの格好をしていたので出かけるギリギリのタイミングだったのでしょう、早速要件を伝えます。
「今夜です。神浜市内の神社のような場所で、白いフード、腕にボウガンを装着したピンク髪の魔法少女が、魔女のようなモノを身に纏っているのがハッキリ視えました」
《……どう考えても、いろはの事ね》
「よね……よりにもよっていろはちゃんかぁ……」
未来視で視えた魔法少女とカトレアさんとがすでにお知り合いなのは、今日までのカトレアさんとの談笑で気付いてはいましたが……悩ましげな様子からして、大切なお友達のようですね……お友達に関する不吉な予知を告げたのに怒鳴られなかったのは私と、私の「未来予知」を信頼しているから、でしょうか。そうだと、嬉しいのですが……
「以前に視えたのと今回視えたのは、同じ人物かしら?」
「ええ、以前私が視た未来と同じ光景でしょう、視覚えがありましたから。前回は場所や魔法少女の容姿は朧げにしか見えませんでしたが……今回はハッキリと確認出来ました。つまり、この未来の回避は困難です」
「そう…………」
《ふむ…………》
最後まで聞いてから、しばらく黙考するお二人のカトレアさん。ここまで真に迫る表情で黙考されるとは、最近知り合いになられたとはいえ、カトレアさん達にとってはすでに親友と言える程に仲を深めている少女なのでしょう。
チクリ
(……ん)
……ぽっと出で親友になった少女を慮る横顔に、どうやら私は若干の嫉妬心を感じたようです。私にもこんな感情があったとは、と内心かなり驚きましたが……顔には出さないように心がけます。出ていない、はずです。
「……魔女みたいなのが出る前にソウルジェムを浄化したらどうなるかは、視えた?」
……やはり、そう訊かれますか。
私の固有魔法の精度は女王様の調整と魔力操作特訓で飛躍的に上昇しているので、ハッキリ視えた今回の未来はほぼ避けようのない未来です。カトレアさんはそれを理解しつつも、別の解決策を見出そうとしてきました。
そう。精度が上がって回避が非常に困難とはいえ、あくまで私の魔法は「未来予知」。ハッキリ視えた場合の的中率は90%以上でしょうが、それでも100%ではない……未来はまだ、ギリギリですが不確定なのです。
ならば彼女は、彼女達は、簡単には諦めない。とても強い、炎のような「意思」の持ち主なのだから。
……だからこそ。私は彼女を「ワルプルギスの夜討伐計画」に――「私の世界の守護者」の1人として巻き込んだのです。
「はい、視ました。その場合、彼女は……ウワサの化け物、でしたか。それに轢き潰され、ソウルジェムが砕かれて死に至ります」
「っ……そ、そんな……」
《これから私達は、その当人と会う約束をしているのだけど……こんな時間に知らせに来たって事は、それは高確率で今夜神浜の神社で起きる事なのよね? 私達が神社に行かないように誘導した場合は?》
「恐らくですが、彼女が神社へ行くのは避けられないかと。何パターンか視る事が出来ましたが……魔女に似たナニカを顕現させた時の少女の――いろはさんの側には、必ず七海やちよさんがいたのが視えました」
《……そう、そういうことね……カトレア、腹を括るしかなさそうよ》
「えっ……いろはちゃんから魔女みたいなのが出るのを、女王様はただ見守れっていうの……!?」
カトレアさんから怒気が溢れます。まあ確かに、未来視のまま事を進めさせるという事は、親友のいろはさんを見捨てる――のとは違いますが、環いろはさんという魔法少女から魔女的なモノが本当に顕現するのかどうか観察をするという事。実質、お友達を実験台にするようなものです。怒りを抱かないという方が無理でしょう。
とはいえ、今回ばかりは……
《気持ちはわかるけれど、冷静になって考えなさいな。やちよは今、神浜市内の不穏な噂を1番調べている、最も噂に詳しい人物だわ。いろはとやちよが一緒にいるって事は、やちよから「神浜の噂」の内、ういの手がかりが手に入るかもしれない噂を聞いて、一緒に調査をするって事だろうから……神社にいたのなら、会いたい人に会えるっていう「口寄せ神社の噂」の調査でしょうね》
「あー、そっか……いろはちゃんがその噂知ったら、何がなんでも調査しようとするわよね。いろはちゃん、意外と頑固なとこあるしね……」
《それと。オリコは「やちよは必ずいた」とは言ったけど、「私達が必ずいた」とは言っていないのよ。つまりは、私達が側にいてもいなくても、いろはは魔女的なナニカを顕現させちゃうし、止めようとすればさらに悪い方向に向かいかねないって事よ》
「……正確にご理解いただけているようで、何よりです」
「でも……それでも!」
《ええ。的中率が100%に限りなく近くても、100%でないなら、まずは全力で抗うわ》
……ふふ。それでこそです。それでこそあなたは、「世界の守護者」に相応しい。
(そんな少女達と私とが、友人関係にある奇跡。大事にしませんとね)
私は内心歓喜しながら、一言。
「お二人共。どうか悔いなき選択が出来るよう祈っています」
「ん、ありがと」
《ま、やれるだけやってみるわよ。吉報を期待してなさいよね》
去り際にさらに追加情報として、魔女的なモノを出した後のいろはさんのソウルジェムは穢れが綺麗になくなっているように見えた事を伝えてから、お暇させていただきました。
視えた訳ではありませんが、魔女的な存在を出した影響でなんらかの後遺症の恐れがあるかもと、示唆しましたが……「私の調整魔法ならなんとでもなるはずよ」と女王様が自信満々に仰っていたので、多分心配ないでしょう。
(さて……この後の予定は、と)
スマホを取り出し、メモ機能を起動してこの後に会う人物のリストをまとめたページを開き、確認します。
今日私が神浜を訪れた理由は、とある4人の魔法少女に接触するため。その内の1人であるカトレアさん……いろはさんに関する未来予知に関しては、緊急に伝えたい事案だったとはいえ、わざわざ直接口頭で伝えなくともスマホを使えば済む話しでしたので、そういう意味では3人……うーん。カトレアさん達の――私のお友達の顔を直に見たかったですから、やっぱり4人でしょうか。
ちなみに、キリカは今日は一緒していません。見滝原にてお留守番……ではなく。とある魔法少女……達の動向を監視をしてもらっています。まあ見滝原在住の魔法少女の監視なので、彼女達が見滝原から出かけるのでない限り、今日一日キリカも見滝原からは出ないでしょうけれど。
何故彼女達の監視をしてもらっているのかは……その内の1人が魔女になってしまうと、ワルプルギスの夜に匹敵する魔女になるという未来が視えてしまったからなのですが……どうも彼女達のグループの1人が魔法少女真実を知っていて、彼女達が魔女にならないよう上手く指導しているようなので、今はそこまで重要視していません。監視は一応の保険のようなものです。神浜でワルプルギスの夜を討ってしまえればその可能性も大きく下がりますからね。
まあ、それはともかく。残りの用事を済ませに行きましょうか。
「ごきげんよう。はじめまして、ええっと……アメノウズメノミコトさん?」
「誰が芸能の女神ですの!? ……ってあら? もしかして私、褒められてますの?」
「こんにちは。お噂は燈湖さんからかねがね」
「えっ燈湖さんの知り合い!? おー、こんないかにもお嬢様な知り合いもいるなんて、さすが燈湖さんは顔が広いなー!」
「こんにちは。今日も花が綺麗ですね」
「あっ織莉子さんこんにちはー! ……はい、私が鍵になるかも、なんですよねっ。カトレアちゃんの役に立てるなら、私頑張っちゃいますよ! ちなみに今日のオススメはネリネですっ織莉子さんの髪色に似合うと思いますっ!」
次回投稿予定は、8月27日(土)です。