「抜け出すのは百歩譲っていいとして。流石に無断では休めないよ、登校してるのを見てた人もいるだろうし……」
「そこはアレだ、定番の女の子の日が重すぎたから帰ったって事にしよう。んで、アタシらは本当に辛そうだったな付き添った、て事で」
「うーん。でもその言い訳、前回の昏倒事件の時にも似たようなの使ったよね」
「そこも大して問題ない。このみの実際の周期的に近いだろ? 体調や精神状態でも多少変動するんだ、少し早く来てもおかしくはないぜ」
「あー、そう言われると…………なんで燈湖ちゃんが私の周期知ってるの?」
「戦いは先手必勝、情報量に勝機あり、なんだぜ?」
「なんか納得いかないんだけど〜!?」
「「燈湖だから」でだいたい説明……出来ないけど……何にしても、燈湖は友達の不利益になる事は絶対しないのは知ってるでしょう?」
「し、知ってるけど〜……流石に女の子の日を把握されてるのは、その……」
《ま、男だったらギルティね》
《時にはスッパリ諦める事も必要ですよ》
あ〜、赤面して腕をわちゃわちゃさせるこのみさん可愛い。
そんな感じで雑談しつつ早歩き気味に歩を進め、何十分後かに杏子達との合流場所へとたどり着いた。場所は参京区の駅前広場。
「よう、まさか学校休んでまで来るとは思わなかったよ」
「トーコ達、不良さ〜ん」
「時間がないんだから仕方ないだろう」
「そーそー、時間切れで不幸な目に遭うって分かっんのに学校なんて行ってる場合じゃねぇだろ、赤いねーちゃん」
「……あたしと違ってお前はまだ一応在学中なんだから、偉そうに言ってんじゃないよ。ていうか、学校行ってんのかい?」
問いかけに対してフェリシアちゃんが無言で気まずそうに視線を逸らしたからか、同じクラスで親友でもあるポーチュラカに視線を送る杏子。
「私になってからの記憶では、一度も登校も投降もしてないよ!」
「義務教育中はなるだけ行っとけ、フェリシア」
「師匠までそう言うのかよ……めんどくせぇよ……」
「モノは考えようだよ、フェリシアちゃん。ポーチュラカちゃんと学校へ遊びに行くって思ってみれば、まだやる気起きないかな?」
「おぉ、なるほどー……花のねーちゃん、なかなか良い事言うな!」
さて、和やかな雰囲気になったところで……まずは現状集まったメンバーと、この後追加でウワサ討伐に参加予定のメンバーを上げておこう。
まず、今いるメンバー。
「私×2と燈湖達×2とこのみさん。ウワサさんを見つけた杏子とゆまちゃん。何故かいるフェリチュラカコンビ。計7人。で、そこに放課後、いろはちゃんに鶴乃ちゃん、華恋とやちよさんが燈湖の家の前に集合するから、私が迎えに行く感じ。これで計11人。合ってるわよね?」
「ああ、それで全員だ。とはいえ固まって動いたらそれなりに大所帯になっちまうからな、何組かに別れる事になるぜ」
「アタシからすると、半数でも結構な大所帯な印象だけど。ま、未知の敵な上に今日の夕方がタイムリミットなんだ、仕方ないね」
風見野でソロだった杏子からすると、いまだ誰かと共闘するのに慣れないのかしらね。まぁ、今はゆまちゃんがいるし、そのお陰か最近少し性格が丸くなって協調性が出て来たけれど。
「さて。当然アタシらは今から遊び歩く訳じゃない。放課後の増援が加わるまでに、給水屋の大元となるミザリーウォーターのウワサの化け物の居場所を突き止めなきゃならねぇ。時間ももったいないし7人いるから、分かれて捜索するぜ」
「おう、了解」
「ウワサ探検隊だー!」
という訳で。燈湖の提案で、杏子は引き続きゆまちゃんの2人、燈湖は何故かこのみさんとポーチュラカの3人、私はフェリシアちゃんで組み分けされた。
「別に異義はないけど。なんでフェリシアちゃん?」
《フェリシアさん、出会った当初に比べればあまり暴走しなくなってきましたが、未だ年齢的に見合わない未熟さ・精神的不安定さがあります。最近は私達にべったり気味ですし……もっと交友の幅を広げて欲しいんです》
《ふーん? ま、いいけど》
デンドロビウムが師匠心というか親心というかでしてきた提案に、女王様が勝手にそう返す。まあ私も異議はないけど。
「最後に、探索に関しての注意事項がいくつかある」
「えー、まだなんかあんのかよ。早く探そうぜー」
フェリシアちゃんの不満を無視して話を進める燈湖。まぁちゃんと伝えとかないと独断行動しそうな娘が何名かいるしね。
「まずアタシらは数日前、恐らく強力なタイプのウワサの化け物を倒してる。そこからして、このミザリーウォーターのウワサが同じく強力なウワサの化け物だとしても、「守護者」が付いたと見た方が良い」
「守護者? ウワサを守るウワサ、とか?」
「その線もあるが……神浜のいくつかのウワサが現実に影響を及ぼすようになるのと同時期に、黒いローブ姿の怪しい魔法少女集団が暗躍してるのを確認してる。アタシとしては、両方が無関係とは思えねぇ」
「あー、なんかそんな話もあったわね」
「アタシ達が倒したあの2体、あの特殊な防御性からして守護る必要はないと判断されて、黒ローブの配置が手薄だったのだとアタシは見ている」
《……私達で倒し切れなかった程だものね。それは油断もするわ》
やっぱり余程悔しかったのか、女王様が若干不機嫌そうにそう呟く。あの馬モドキは清浄な神社境内にいたから魔女は近寄りたがらないから、倒すなら孵化寸前のグリーフシードを持ち込んで魔女にしてぶつけるか……いろはちゃんが出した例の魔女モドキ、フィルスフラグを発現させるしかない。とんだクソゲーだわ。
「今回探すのがどれ程のもんかは分からないが。倒すのが困難だと思われていたウワサが同日に2体も倒されたからには、周辺の守りは強化されていると見た方が良いだろう」
「つっても、黒いのは群れてるような魔法少女なんだろ? そんな弱っちそうな奴なんか、オレの敵じゃねーもんねー」
「そう言うだろうから釘刺してるんだ。遭遇したら極力戦闘は避けて、会話で情報を引き出してから全力で見逃せ」
「えーめんどくせー……けどまぁ、魔女じゃないならなんとか……」
渋々ながら、フェリシアちゃんも了承してくれた。
《よし。それじゃあみんな、健闘を祈る。散開!》
《了解!》
燈湖の念話による軍隊のような号令と共に、私達は分かれて捜索を開始した。
でまあ。当然あり得ないくらい慎重な燈湖が、参京区だけとはいえ無計画に私達を送り出したりはしていない。最後の最後に念話で各自どの辺りを捜索してくれと指示を出していた。
そして私達とフェリシアちゃんは、フェリシアちゃんの案内の元、昨日給水屋がいた辺りに来ていた。当然、その給水屋を探すためだけど……
「んー、いねぇな」
「そうねー」
……しばらく探ってみたけど、影も形も見つからなかった。これまでにフェリシアちゃんの頭に紙が2度落ちて来ていた。
「あー、ちょっと喉乾いて来た。まためちゃくちゃうめぇあの水飲みてーなー」
「こらこら、怪しい水って分かってるのに何言ってるのよ……んー……」
そこで思い付く。給水屋が現れるのにも、ウワサらしく条件があるのかも知れない。例えば喉の渇きを覚えた時とか、一度飲んだ人が側にいると現れないとか……ふむ。
「確かに私も喉乾いたかも。そうだフェリシアちゃん、ちょっとさっき通りかかったコンビニで飲みもの買ってきてくれない? お釣りはあげるから」
そう言いながら財布を取り出して、500円玉を取り出しフェリシアちゃんに手渡す。
「おぉ、マジか。さんきゅーカトレア!」
満面の笑顔で硬貨を握りしめ、小走りでコンビニへ向かうフェリシアちゃん……さて、どうなるかしら?
フェリシアちゃんが視界から居なくなって数分後。予想的中、「フクロウ印の給水屋」と書かれた箱を自転車の荷台に乗せた男が現れた……のは良いけど。
「《うわあ》」
ソイツを見て私達は、思わず同時に唸ってしまった。ソイツは見た目だけなら何も怪しくないけど……私達には、紙が落ちて来た時に感じた僅かな魔力をその給水屋が纏っているのを感じ取れたからだ。
《……まあ、思わず声が出ちゃったけど。私達レベルの魔力感知が出来ないと、これは気付けないわね》
《あー、それもそうね。やちよさんでも気付けるかどうか》
まあ、それはともかく。給水屋が人外と分かったところで、
「はい、ファイヤー」
「あばー!?」
間髪入れず火球をぶつけると、ぽふんと煙を出してフクロウに似たウワサの使い魔の姿になった。
慌てたように飛び去ろうとするソイツを、杖を出して飛んで追いかけようとしたら、
「まっ待て、待ってくれ!」
「あら。出たわね黒いの」
「そのGが出たみたいな言い方は酷くないか!? とっともかくアレを追わないで欲しい! 頼む!」
「はあ……しょうがないわね」
必死の懇願に、流石に可哀想になって来たので飛び立つのをやめて地に降りる。燈湖からも「情報だけ引き出して全力で見逃せ」って言われてたし、まあいいか。さっきのフクロウの魔力パターンも憶えたしね。
「それで? この私の進路を妨害したって事は、私の敵って事でいいかしら」
「よくないよくない! 神浜最強格の魔法少女に、黒羽根程度の私じゃあ勝てるわけがない!」
「ふーん?」
……赤の
「ともかく……これ以上あなた達はウワサに手を出さないで欲しい、お願いだ……!」
私の気分を知ってか知らずか一方的にそう言って、土下座しそうな勢いで深々とお辞儀と懇願をして来た。
「お願いするなら、最低でも黒ローブ集団……黒羽根、て言ったかしら。あなた達が何者かを教えて貰わないとね」
「むぐ……」
そう威圧混じりに提案すると、少し詰まりながらも返して来た。
「……私達は、「マギウスの翼」。魔法少女の解放を目的としている」
少し短めでしたが、キリの良い所で止めないと長くなりそうでしたので今回はここまでです。
次回投稿は、10月27日(木)の予定です。