私達は燈湖の指示通り、黒羽根が知ってる限りの事を話させた。
《マギウス、黒羽根、白羽根、魔女化の運命から逃れる、そのために必要なパーツの一つがウワサ……ね》
《新情報は有難いけど。これだけじゃあ、マギウスとやらのやろうとしてる事の全容は見えて来ないわね。燈湖に持ち帰り案件だわ》
さて。知りたかった情報は表面的とはいえ得られたし、今はこれで満足するしかないし……とりあえず予定通り、黒羽根さんは解放で良いわよね。
「わ、わかっていただけただろうか? 私達にチームフラワーナイトと敵対する意志はないんだ」
……んだけど。
《……気に入らないわね》
解放前に、女王様の呟きを代弁するように一言物申す。
「志は評価出来なくもないけれど。人に危害を与えるようなウワサを守る事に、正当性なんて感じないわね」
「それはっ……強い魔法少女のあなたには、分からない……!」
自身を「黒羽根」と呼んだ、恐らくマギウスの翼内でも弱い方の集団。確かに、世界に愛されている強者である私達には、分からない事もあるでしょうね。
けど。
「勝手に決めつけてるんじゃないわよ。話してみないと、伝わるものも伝わらないわよ?」
「……強いから、そう考えられるんだ」
自棄を含んだ声色で、吐き捨てるようにそう零す黒羽根の少女……言い返したい事はあるけど、これ以上話しを続けてもループしそうだから止める。
「まあ、私は正義の味方でもないし、博愛主義のお人好しでもないわ。今回は身内が被害に遭ったらしいから、探ってたけど……魔女化からの解放。それが現実味のある話なら、私の友達の魔法少女にとっても悪い話しじゃないし。大事の前の小事だと思って、今だけは見逃して上げるわ」
「……感謝する」
これ以上はほんとに話す事もないので、これで「今は」見逃――
「ちょっと待てよ。オレ抜きで話進めんじゃねえよ」
「フェリシアちゃん」
――そうとしたところで、フェリシアちゃんが帰ってきて黒羽根を引き留めた。
「っと、その前に。さんきゅ、カトレア!」
黒羽根から視線を私に移して、赤いラベルのペットボトルを投げ渡して来た。紅茶のアイスティーだった。
「さってと。そこの黒服。オレは傭兵やってるフェリシアだ」
「……知っているが」
「難しい話はナシだ。オレはけっこー強い!」
「……それも知っている。少し前は強いが評判は悪かったが、最近はそこまででもない」
「おっ知ってんならなおさらだな! それなりの報酬が用意出来んなら、そっちに寝返っても構わないぜ?」
「なんだと?」
「ちょっ、何言ってんのよ!」
「カトレアだって傭兵やってんだから、オレの気持ちはちょっとはわかるだろ?」
「だからって……!」
《カトレア、落ち着きなさい》
女王様の静止の念話で言葉を切った事で、ほんの少し冷静になった。心を開いてくれて来てたと思っていたフェリシアちゃんの唐突で安易な寝返りに、思わず動揺してしまっていたらしい。
《フェリシアは燈湖とデンドロビウムの弟子よ。傭兵とはいえ、あの2人と敵対する側に本気で付くとはとても思えないわ》
《それは……まぁ、そうね》
《それに。フェリシアみたいなおバカ……短絡的な娘なら籠絡しやすいって判断されて、取り込むでしょうね。一回だけしか使えない手だけれど、時間が惜しい今は使うべき手だわ》
《女王様、言い切ってから言い直しても意味ないわよ? でも確かに……あー》
……そこまで言われて、そういえば解散直前に燈湖とフェリシアちゃんが何やら短く念話でやり取りしてたのを思い出す。となると……
「……はあ。まぁいいわ、引き留めるのもめんどくさいし」
「悪いなカトレア」
そう言って、イタズラをしようとしている子供のような笑顔でそう返すフェリシアちゃん。
《恥をかかないようにね》
《おう、師匠を怒らせるとこえぇからな!》
《ふふ、確かにね》
……つまり。この裏切り(仮)は、燈湖の入れ知恵だ。
「……まあ、良いだろう。深月フェリシアの普段の報酬は知っている、3倍は即決で出せるだろう」
「マジか。最低3倍かー……ふへへ……」
だ、大丈夫、よね?
黒羽根の少女と共に去っていくフェリシアちゃんを見送った後、燈湖に諸々の件を電話確認を取ったところ、
『計画通り』
と返ってきた。燈湖の悪い顔が目に浮かぶようだわ。
でまあ。給水屋に化けてたウワサの使いの魔力も黒羽根の魔力も憶えたしで、やる事がなくなった私達は早々に雷電家へと向かった。
ちなみに私は、母家とシェルター道場の合鍵は為次郎さんから貰ってるので、出入り自由だったりする。
午後3時少し前くらいに、調査をしていたみんなが雷電家に集まって来た。
「あたしらは、特に目新しい情報は得られなかったな」
「黒い人たちは見かけたけど、慌ててどっか行っちゃった」
杏子チームは複数の黒羽根と遭遇したらしいけど、通りすがったのを見かけただけらしい。
「ふむ、杏子が情報を聞き出せずに逃すのも珍しいな」
「なんか、黒羽根? の1人が使った、多分固有魔法だろうな。瞬間移動したみたいに一瞬で消えちまったからさ、追いようがなかったのさ」
《へえ、瞬間移動ね……》
女王様が興味深そうに呟く。花騎士でテレポート系使ってたのって強力な害虫くらいしか記憶にないし、興味津々なのが伝わって来る。
「……、そうか。なら仕方ないな」
……ほんの少しだけど、燈湖が返答するのに間があったわね。
《燈湖、その魔法に心当たりがあるの?》
《ん、まぁな。アイツは澄ました顔して心が乱れまくってるような奴だからなぁ……マギウスの翼の掲げる信条的に、入っててもおかしくはない》
複雑そうな話っぽいから念話で尋ねたら、名前は明かさずにそれだけ言った。声色は冷静だから、見かけたら挨拶する程度の知り合いかしらね。
「ごめん、私達はなんの成果も得られなかったよ……」
「苦労して
「怖がられてるわねぇ、燈湖。まぁ私達も似たようなものだったけど」
《有名税、という奴でしょうか。今回ばかりは仕方ありません》
「だな。情報を引き出せた分、カトレア達の方が優秀だったが」
苦笑い気味にデンドロビウムと燈湖がボヤく。
「ところで、私達が持ち帰った情報と、フェリシアちゃんの事だけど」
「まぁマギウスの翼に関しては、ミザリーウォーターのウワサを片付けてからだな。フェリシアとは、参京区の公園で落ち合う事にしてるぜ」
さすがは燈湖、こちらが聞きたい事を端的に正確に答えてくれた。
▲ ▽
ライデン家に集まってから、約1時間。4時ちょっと過ぎに全員集まった。3時判くらいに「2」の紙が落ちて来たから、残り時間は多分1時間30分くらい、かしら。
ちなみに、さすがにタカラザキの学校に通っているいろはは間に合わないから、カトレアから私に代わって超スピードで往復して帰ってきた。
「お疲れ様です、カトレアさん」
「ん、このくらいどうって事ないわ。カレン達こそ、学校終わって直で来たんでしょう? お疲れ様」
「こっちこそ、どうって事ないよー! 仲間のピンチなんだもん、当然だよっ! ふんふんっ!」
カレンとツルノに労いの言葉をかける。にしても、いつ会ってもツルノはオンシジューム並に元気いっぱいね。疲れないのかしら。
「それを言ったら環さんもね。わざわざ市外からお疲れ様……というか、休日平日問わず神浜来てるけど、大丈夫なの? つい先日も、日付が変わる間際に連絡したって聞いたのだけれど」
「あっはい。お父さんとお母さんは、カトレアさんと一緒なら安心だって言ってくれてるので、大丈夫です。それにですね……近々神浜に引っ越す事になってるんです」
「あら、そうなの」
「ただ、ひとつ問題が出来ちゃって……」
……ふむ。最近固焼きのお煎餅みたいにお堅かったやちよも、いろはの人の良さに絆されたのか言動が柔らかになってきたわね。
まあそれ自体は良い事だけど。
「ご歓談したい所申し訳ありませんが、制限時間は2時間を切っています。世間話はミザリーウォーターのウワサの件に方が付いてからでお願いします」
「あっと、そうですね」
「余裕を持った行動は基本ね。行きましょう」
デンドロビウムの言う通り時間がない。挨拶は端的にして、早速フェリシアとの待ち合わせ場所に向かいましょ。
待ち合わせ場所の公園のすぐ近くに、魔女の結界があった。いつも通り手をかざして戦闘力測定をすると、そこそこ強めの魔力を感じた。弱い魔法少女じゃキツい感じわね。
それよりも。
「待ち合わせ場所にいなくて、中で戦闘中の魔女結界。十中八九フェリシアがいるわね」
「彼女が魔女に並々ならない怨みを持ってるのは知っているから、気持ちは分かるけれど……」
「うん! 魔女退治、マジ大事!」
「ダジャレ言ってる場合じゃないわよ、ええと、ポーチュラカさん」
ポーチュラカの息を吸うかのようなダジャレに苦言を呈するやちよ。相変わらずお堅いけれど、緊急時だから注意したい気持ちは分からなくもない。
「彼女にとってダジャレは人生なので、大目に見てあげて下さい。とはいえ、時間がないこの状況で友人の不幸より魔女への怨みを優先したフェリシアさんは、後で説教ですね」
あ、ちょっと身体が勝手にブルッときた。デンドロビウム、結構イラついてるわね……
「それならそうね。んー……私といろは、それにツルノ、一緒に突入してさっさと倒しちゃいましょ」
「はい、了解です!」
「よぉーし、神浜最強魔法少女の腕前、とくとご覧あれー! ふんふん!」
という訳で、時間がないから瞬殺しに行きましょ。
《ちなみに、この人員のチョイスはなんだ?》
《多分、このメンバーで1番疲れていなくて、かつフェリシアちゃんと性格的に相性が良さげな娘、じゃないかしら》
《ふむ……なるほどな、納得だ》
突入間際、カトレアとトウコが短く念話していたけど。まあ、理由は大体合ってる。
★
結界内は、見慣れた羊の魔女のだけど。道中使い魔にはあまり遭遇せず、あっさり最深部に到達……と、ちょうどフェリシアが最深部に飛び込むのを見つけた。
時間が惜しいので2人には視線で合図して、私達も3人揃ってそこに侵入する。
★
「おりゃああ! ドカドコドッカーーン!!」
「おぉー、フェリシアやるねー。さっすが、トーコししょーの弟子だね!」
「うわー……凄いパワフル……! でも、なんか……」
入ったら、フェリシアが羊の魔女をハンマーで猛連打していた。加勢しなくても良さげだけど、んー……少しでも時短したいわね。
「1分1秒が惜しいわ。いろは、フェリシアに当てないように精密射撃、いける?」
「はい! 任せて下さい!」
私とツルノの魔法だと、フェリシアを巻き込みかねない。ここはいろはの援護射撃が最適なはず。
「ええーい!」
「ドッッカーーン!!」
★
いろはの援護もあって、体感だけど予想より早く終わった。
「おう、誰だか知らねーけど、ナイス援護!」
「ううん、ダメージのほとんどはフェリシアちゃんの攻撃で、私のはオマケ程度だよ。あ、私は環いろはって名前だよ」
「いろはか。何にしてもけっこー楽出来たぜ、サンキューな!」
和やかな雰囲気で公園に戻って来たけど……背後からお怒りオーラが滲み出てる。それを野生の勘で察したのか、フェリシアは素早くいろはの後ろに隠れた……捕捉されてるのに意味ないでしょうそれ。
「燈……いえ、今はデンドロビウムさんでしたっけ。ちょっとだけ、フェリシアちゃんと話をさせてくれませんか?」
「……いろはさん?」
と、予想外にいろはがフェリシアを庇った事で、一旦矛を収めるデンドロビウム。何か、フェリシアの戦いぶりを見て思う所があったっぽいしね。
「フェリシアちゃんは、なんであんな破滅的な戦い方をしてるの? 暴走してるにしても苛烈過ぎるよ」
「あん? カツレツ?」
「怪我してるのに、魔女を倒すのに夢中になり過ぎてるって事だよ」
「あー、こんなんかすり傷だぜ、ほら……いてっ」
なんて事ないと言いたかったのか傷を負った腕を軽く叩いて、予想より痛くて思わず零すフェリシア。
「ほらっ酷くはないけど無視できないレベルだよ! ちょっと待っててね」
そう言っていろはは、半ば強引に魔法でフェリシアの傷を治し始めた……あら?
「おお? ……おーすげぇ、あっという間に治ってく!」
「そういえば、いろはの固有魔法は治癒系だって言ってたわね……なるほど、普通の魔法少女のに比べてここまで違うのね……」
その回復速度に、思わず舌を巻く……けれど、何かしら? 何か違和感があるっていうか、固有魔法とはいえ普通の治癒じゃない気が……
と、たいした傷じゃなかったからあっという間に治ったせいで、イマイチ違和感の正体に気付けなかった。
(うーーん……まぁ、また観察する機会もあるでしょうし、いいか)
何より制限時間が迫ってるし、いろはの魔法に関しては後日にしましょ。
「時間がないのは承知なんだけど。フェリシアちゃんがどうしてあんなにも魔女を憎んでるのか、教えて貰えないかな?」
「あー、なんていうか……」
気まずそうな感じに、フェリシアが自身の身の上――両親を魔女に殺された事、仇の魔女がどいつか分からないから手当たり次第に倒している事とかを簡単に話した。
「そんな……そんな戦い、終わりがないよ……」
「そんな事言っても、わからねーんだからそれしかねぇじゃんか!」
「……まったく、なんでフェリシアよりいろはの方が悲しそうな顔してるのよ」
「だ、だって……」
「ふぅ……お人好しねぇ」
ま、そういうとこが気に入ったんだけど。私も、カトレアもね。
「あっ紙……1:00!?」
魔女退治やらフェリシアの戦う理由やらを聞いていたら、新たな紙が落ちて来た……ご丁寧に、1時間毎だったのを分刻みにしてくるとはね。律儀と言うべきか、悪趣味というか。
「いよいよ1時間を切りましたか。フェリシアさん、急ぎ案内をお願いします」
「おう、りょーかいデンドロ師匠!」
駆け足で先を進むフェリシアを追ってたどり着いたのは、参京院教育学園だった。
「この校庭を越えた先に地下水路への入り口があってさ、そこがヤツらの拠点になってるみたいだぜ」
「とはいえ学校内が拠点とは、なかなかに思い切りが良いですね。木を隠すなら森の中理論でしょうか」
「でも、今日は平日ですよ? 流石に堂々と入る訳には……」
いろはの懸念は最もだけど、やっぱりちょっと抜けてるわよね。
「私がいろはを空輸したのに誰にも騒がれてない理由、忘れたの?」
「え? あっ認識阻害の魔法! え、ここにいる全員にかけられるんですか!?」
「当然。私達は世界に愛されてるもの」
という訳で、全員に軽い認識阻害をかけてから堂々と侵入した。
キーッキーッバサバサッ
「わひゃ! コ、コウモリ!?」
「ふふっそのようですね」
「ちょ、いろはっコウモリぐらいでんな騒ぐなよな!」
《たかがコウモリに驚くなんて、いろはは可愛いな》
《よね! まぁ私もコウモリ苦手だけど、飛ぶ汚物みたいなもんだし》
「へーそうなんだってわーーーー顔にぶつかった! ばっちぃ!」
「鶴乃、気持ちは分かるけど落ち着きなさい。あなたの店も似たようなもんじゃない」
「ひどっ!? ももこも言ってたけど、やっぱ最近のやちよ性格悪くなってない!?」
「あはは! 潜入捜査なのに先入観のない賑やかさだねっ!」
「いや敵の拠点で騒いでんじゃねぇよ、バレるだろ」
「問題ないわよ。認識阻害に防音結界機能も組み込んだから、この程度じゃバレないわ」
「さすが女王様、魔法のスペシャリストだね!」
「だねー!」
地下通路に入るなりわちゃわちゃ呑気してる私達だけど、残り時間は1時間を切っているからあまり悠長にはしてられない。まあ、重い空気で挑むよりは余程良いけど。
……とはいえ。これってあくまで「阻害」「防音」であって、完全に気配を消したりなんかは出来ないんだけどね。
ようするに。
「!? 誰かいるのか!?」
あまりに騒ぎ過ぎて認識阻害を僅かに突き抜けたみたいで、近くにいた黒羽根に気付かれた。
「カトレアちゃん!? 普通に見つかったよー!?」
「一般人ならまず見つからないでしょうけど、魔法少女相手だと絶対じゃあないもの。魔力感知で探られたら、低確率だけどバレるわ」
「先に言ってよー!!」
「時間がなかったんだから仕方ないじゃない。普通にみんな騒ぎ過ぎなのよ」
まあ、直前までは気付かれないから騒がれる前に鎮圧・拘束は容易だ。弱いらしい黒羽根程度なら、これで問題ない。
「あなたは……! 見逃してくれるって!」
あら、昼間遭遇した黒羽根もいたみたいね。け・ど。
「嘘吐き呼ばわりしないでよね。言ったでしょう? 「今は」って」
「おやすみなさい!」
ゴッ
カレンの素早い腹パンでノックアウトされる、昼間会った黒羽根。ご愁傷様。
そこからはみんな静かに慎重に進む事、約10分程。1:00の後は10分刻みで紙が落ちて来て、今「40」の紙が落ちて来た。
それはともかく。少し広い空間に出たところで、
「隠れてても無駄だよ!」
「ここから先は、通行止めでございます」
白ローブ2人組が待ち構えていた。ここの番人――黒羽根の上司的な、幹部格が現れたって事ね。彼女達が話に聞いた、白羽根ってヤツなんでしょうね。
次回投稿は、11月7日(月)の予定です。