「えあ、お……敵なの? みふゆが? ウ、ウソだぁ……ウゾダドンドコドー!!」
「……私だって、嘘だと思いたいわよ。けど、そうじゃないんでしょうね。このタイミングで現れたのだもの……」
「このタイミング、ですか……」
みふゆはそう呟き、デンドロビウム達が進んで行った先を見る。
「も、申し訳ありません。何名か、通してしまい……」
「みふゆさん、行かせて! 何とか時間切れまでは邪魔してみせるから……!」
「……いえ。今回は大人しく退きましょう」
「そんな! それではマギウスの意向に……」
「神浜最強格の1人が向かった時点で、潰されるのは半ば確定したようなものでしょう。それより、ここに来るまでに伸された黒羽根が多数いました、お2人はそちらの介抱に向かって下さい」
ふーん、流石はまとめ役、冷静な状況判断が出来るみたいね。
「くっ……花騎士魔法少女ぉ……!」
「この屈辱……いつか必ず晴らさせて頂きます……!」
「ねぇー……!」
みふゆの指示に、捨て台詞を残して去っていく笛姉妹。
「まるで物語の情けない悪役みたいね」
《女王様、さすがに涙目で去っていく娘にその台詞は無慈悲じゃない?》
《いい子ちゃんぶらないの。カトレアだって、ちょっと思ったでしょ?》
《……ノーコメで》
私達が念話でそうやり取りしていると、みふゆが静かに前に出る。
「さて。少しお話しでもしましょうか」
「ふーん、足止めのつもりかしら?」
「花騎士カトレアさん。さっき言った通り、神浜最強格のもう1人である花騎士デンドロビウムさんが向かった時点で、倒されるのは確実でしょう。ワタシは本当に、話をしたいだけですよ」
柔らかく微笑んで、今は敵意はないとアピールするみふゆ。
「まぁ、それで上手いこと何名かでもこちらに引き込めれば御の字、とは思っていますが」
「……なかなかに強かですね」
いつの間にか気絶から起きていて、未だ気絶しているこのみを膝枕しているカレンがそう呟いた。
「長話をするつもりはありませんよ。ミザリーウォーターのウワサが倒されて、デンドロビウムさん達が戻ってくるまでの間。解放に感してピンと来ていない娘もいるようですし、話せる範囲でお話ししましょう?」
☆
「うおっなんだコレ!」
「なんか時々、動画に流れるコメントみたいなのが飛んでるー!」
「お昼に米を食べたらコメが飛んで来た!」
「皆さん落ち着いてください。これが強力なウワサの化け物のテリトリーに入った証拠、ウワサ結界の様相です」
「……ふぅん、コレが。聞いてはいたけど、確かにこいつは魔女のとは似て非なる、て感じだねってうわっ!」
と、唐突にキョウコさんが段差も何もない場所で転びました。
「ははっ何やってんだよ赤いねーちゃわ!?」
今度はフェリシアさんが平坦な場所で転びました。咄嗟に床に滑りやすい仕掛けがあるのかとしゃがんで観察しましたが……特に何の変哲もない平らなコンクリート床にしか見えませんし、魔力的な何かも感じませんね。
「ふふーん、私は普段から滑らないダジャレを言ってるからね、絶対に滑らないよ!ってうおわあっ!」
……言った直後に滑って転ぶポーチュラカさん。
《普段から滑ってるからか? 他の2人以上に盛大にいったな……》
「ひどっ! 滑ってないもんっ今は滑ったけど! ……アレ、どっちだろ?」
ポーチュラカさんの滑り具合はともかく。これは……
「このウワサ結界内では、給水屋の水を飲んだ者に不幸が降りかかる……という事でしょうか。キョウコさんがこんなところで滑って転ぶとは思えません」
「うん、ゆまもそー思っあいたい!?」
……ゆまさんは転びはしませんでしたが、突然降って来た小石が頭に当たっていました。
「ゆまっ大丈夫か!」
「だ、だいじょーぶ。帽子をかぶってるから軽くコツンって感じだよ」
「……これで、水を飲んだ全員に小さな不幸が来ましたね」
《まあ、この程度なら進行に大した問題はないだろ……時間もないな、ペースを上げるぞ》
キョウコさんとゆまさんの頭上から、小石ではなく紙が降って来ました。残り時間は――後20分。
その後もみなさん、転びそうになってたたらを踏んだり、落ちて来たり飛んで来たりする小石を避けたり防御したりしながら、なんとか歩みを止めずに進んで来れましたが……
「やはり私には来ませんね……っと」
フェリシアさんが避けたのが来ましたね。ですが、たまたま私が射線上にいただけで、私を狙った訳ではなさそうです。来るのは見えていたので粉砕――
《避けろデンドロビウム》
――しようと拳を突き出す寸前で、トウコさんの警告。ギリギリですがなんとか避けれましたが……
《杞憂かもしれないが。抵抗したら、今度はアタシらにも直接石が飛んで来たりするかも、と思ってな》
《なるほど、粉砕は敵対行動と見なされるかもしれない、と》
確かにそれはありえそうです。流石は慎重過ぎるとカトレアさんに言われるトウコさんですね。
トウコさんの予想が当たっていたかは分かりませんが、他のみなさんが小さな不幸に見舞われる中、誰かが避けた小石が飛んできた以外では何もなく、私だけ完全無傷の状態で最深部――ミザリーウォーターのウワサ本体と思われる化け物……というか物体というかがある、開けた空間に辿り着きました。
「あれは……巨大な長靴の形をした……角杯、でしょうか。溢れた水が滴っていますが、アレが給水屋の水の正体でしょうか」
「……多分そうだろうね。はぁ……ここまで来るのに、なんか妙に長く感じたわ……」
満身創痍、とまでは行きませんが、何度も自身に来た小石を受けたりゆまさんを小石から庇ったりで、他3人に比べて傷の多いキョウコさんが私の感想に同意します。
《時間はないが、近付く前に少しは観察し――》
「よぅし! 後はアレをぶっ壊せば終いだよな!」
トウコさんの注意の言葉を遮って突貫するフェリシアさん……後で説教です。
ゴッ
「おわあっあっぶな!!」
《……だから観察しろと》
「ここに来て殺しに来ましたね。最深部だけあって、不幸の規模が一気に上がりましたか」
小石どころではない直撃したら死にかねない大きさの岩が、フェリシアさん目がけて降って来ました。まぁウワサはある程度の意思があるようですし、当然破壊などされたくないのでしょう。
「けど、どうしよっか。あんな岩が何度も降ってくるようじゃ、近付くだけで一苦労なんだよ!」
「「んーー……」」
……数分の黙考。頭上からは残り10分の紙。
「あーもうめんどくせえ! オレ考えんの苦手なんだよ!」
それを見て痺れを切らしたのか、ハンマーを構えて魔力を集め始めるフェリシアさん。
「落ちて来る岩を足場に使ってドーンッて飛んでけば、ズガーンッてやれんだろ!!」
「岩を次々蹴って懐に飛びこむのかい? なかなか悪くない案だとは思うけど、タイミング結構シビアじゃない?」
「いや、イケる! フェリシアちゃんのパワフルなパワーのフルパワーなら絶対イケる!」
「そういうことだぜ! それにな!」
自信満々に上手くいくと見栄を切るフェリシアさんが、この広間に入って腕を組んで後方師匠面していた私達にチラと一瞬視線を送り、
「師匠に出来て弟子のオレにできねーことは、あんまりない!!」
自信満々な様子で、微妙に自信があるんだかないんだかな事を言い出しました。
にしても、岩から岩に飛び移っての強襲ですか。
《委員長の魔女相手にトウコさんが取った手段を真似ようという訳ですね》
《ああ、なるほどアレか》
それにしても、ふふっ。フェリシアさんらしい無鉄砲さですが……魔女じゃないというのもあるかもしれませんが、考えるのは苦手と言いつつ理性と冷静さを感じます。少しづつながらフェリシアさんも成長しているのを知って、嬉しくなってしまいます。
ふむ。ここは師として、ひとつ激励の言葉を送りましょうか。
「ならばやって見せなさい、フェリシアさん」
「おうっ! りょーかい師匠!」
「さらに私のクワッと目を見張るサポートが加われば! なんとでもなるはずだぁ〜〜!!」
2人はそう叫び、同時に巨大角杯に突貫して行きます。そしてそれを邪魔するように、再び大小入り混じった岩が雨のように落ちて来ました。
「必殺のお! 痛快ツー回転斬りだあっ!」
降ってくる小岩をポーチュラカさんが大円月輪で弾き砕き、
「ふんっぬりゃああああっっ!!」
安全を確保されたフェリシアさんは跳び上がり蹴りで大岩を蹴り砕く勢いで片足の先をめり込ませ、間を置かずもう片足で岩を蹴り上げ埋まった片足を引っこ抜きつつ落下途中の次の大岩の上に飛び乗る、を繰り返し、電撃的な速度で角杯に接近する。
「どっせええいっっ!!」
かなり近場の岩の上で少し静止し両足をグンッと力ませ、一気に解放! 足場の岩は衝撃で半ば砕け、フェリシアさんは弾丸のように巨大角杯へ!
「うおおおっっ! ドッッガーーン!!」
スピード+パワー、さらにはしっかり魔力の乗ったハンマーが強かに角杯を打ち据える!
ガイィン!!
「んな!? 硬ってええ……!」
……しかし、大きく凹みはしたものの、未だ静かにその場に佇む角杯。
《マジか。アタシから見ても会心の一打に見えたんだが》
《ふむ……どうやらこちらの予想以上に硬いようですね》
フェリシアさんが現状出せる最高の一撃で破壊出来ないのは流石に予想外、ですが。
「一撃で倒せない相手だからと言って、匙を投げては食事は終了です。凹んだのなら壊せます、1打で駄目ならば10打、100打! 倒すまで殴り続けるのです!」
「へへっ言われなくてもぉっ!」
楽しそうな笑みと共にそう叫び、ガンガンガンガン!!と猛連打し続けるフェリシアさん。そう、それでいい。
「お昼にカレーを食べたから、華麗に動けるんだよ!」
その間ポーチュラカさんは、フェリシアさんに向かって落ちて来る岩を円月輪で時に砕き逸らし、無理そうなサイズは遠くにある内に円月輪を投げ飛ばして真っ二つにし、ブーメランの様に戻って来たのを曲芸のように身体を輪の内にスポッと入れて取手を掴み、地を回転しながら滑り勢いを殺して受け止める。
「ちっ鬱陶しいったらありゃしないね」
「キョーコは、ゆまが守護るんだ!」
流石にポーチュラカさんだけでは手が足りないので、それを補うようにキョウコさんが槍の連結鎖を網目状にして岩を防ぎ、それでもすり抜けて来たり別方向から来るものはゆまさんの猫型?メイスで打ち砕いています。こちらも良い連携です。
《こいつは、アタシらの出番はなさそうだな》
《最後まで気は抜けませんが、恐らくはないでしょう》
「こいつでぇ、トドメだああっ! ドッゴオーーンッッ!!」
メキッ! バキバキバキ!!
と、燈湖さんと念話で会話している内に、フェリシアさんが見事に角杯を砕ききったようです。
「よしゃあ! やってやったぜ!」
「お見事です、フェリシアさん……おや?」
と、魔女の様に空間に溶け込んでいっていた角杯の残骸が消えると同時、空中にぽんっとコミカルな音と共に、みなさん一人一人の頭上にくす玉が現れました。
ぱかっ
勝手に開いた中から出てきた垂れ幕には、【おめでとう(T ^ T)】と書かれていました。
確かに、倒せたのはこちらとしてはおめでたいですが……なんとも複雑な気分ですね……
《涙まで書いてて、真面目なのかふざけてやがるのかイマイチわからねえな、ウワサを造ったヤツ》
《ですね……》
……もしかしたらこのウワサは、性質上倒される確率が高いと造る時点ですでに見なされていたのかもしれませんね。
さて。私の前にいる4人の頭上に現れましたし、給水屋の水を飲んだ被害者全員の頭上にもこれは出ているでしょう。つまりは、もうここに留まる理由もありません。
「オレ達の〜、勝ちだあ!」
「ハンカチを持ってたから、私達の班勝ち! これでフェリシアちゃんの傭兵としての価値も上がったね! 勝ち上がったから!」
「やったねキョーコ!」
「ああ、よく頑張ったな、ゆま」
フェリシアさんとポーチュラカさんがハイタッチを、キョウコさんがゆまさんの頭を優しく撫でて勝利を噛み締めています。まぁ、これで不幸とやらも回避出来たのでしょうし、気持ちは分からなくはないですが。
「おめでとうございます、皆さんよく頑張りました。ですが、気を抜くのはおうちに帰ってからです。心配はないかと思いますが、女王様達の元へ急いで戻りましょう」
「っと、そうだな。なんか強そうな魔法少女の増援もあったみたいだしな」
「ん、そーなのか?」
流石に、ベテラン勢のキョウコさん以外は気付いていなかったようですね……次の鍛錬メニューにそのあたりを加えるか、後でトウコさんと相談しましょう。
☆
「みふゆ……あなたが人を傷付けてまで、救われようとするだなんて……」
「……親友のあなたなら、ワタシの性格はよく分かっているでしょう? あの事件以来、ワタシもやっちゃんも変わってしまった……そしてワタシは、何が何でも救われたいと思ってしまった。そんな弱い人間性を、素質を持っていたって……」
「それはっ」
否定しようとして言葉を詰まらせるやちよ。お互いを親友と言い合うだけあって、思い当たるフシがあるようね。
「今まで私も鶴乃も、ももこだってきっと! 行方をくらませたあなたを必死で探してたのに! こんな形で再開したくなんてなかった……!」
「……そうですね、それはワタシも同感です。心配かけて申し訳なくも思います。ですが、ワタシにはマギウスの翼で役割がある。今更抜けることはない、と思って頂きたいです」
……そうハッキリ言い切り、背を向けて去ろうとするみふゆ。マギウスの掲げる解放とやらに縋り切っていて、現時点ではテコでも動きそうにないわね。まぁ……解放が「魔女化の運命」からの、なら、気持ちは分からなくもない。
まあそれよりも。私としては、というより、いろは的にはどうしても聞かないといけない事があるはず。
「ほら、いろは」
「モキュ」
私と、多分モチョも、同じ事を促す。
「え? あっそ、そうだみふゆさん!」
みふゆと対峙する旧友であるやちよとツルノの間に漂う剣呑な雰囲気に気後れしていたのか、ついド忘れするいろは。可愛い。
「……なんですか?」
「環ういって名前の娘、知りませんか……? 私の妹なんですけど、神社で出て来た偽物が、マギウスと同じような事を口にしていたんです!」
「……残念ながら、ワタシは知りません。ですが、魔法少女の解放について語っていたと言うなら……もしかしたらワタシも知らないところで、マギウスの翼に入っているのかも知れません。黒羽根の娘は人数も多いですし、最近入った全員の名前は、流石に把握出来ていないので……」
「そう、ですか……」
「ふふっ。気になるようでしたら、入ってみますか? マギウスの翼に」
「えっそれは――」
「いろは「環さん《いろはちゃん!》!」!」
私とカトレア、やちよの静止の声に驚き、思わずビクッと身体を震わせるいろは。
「だ、大丈夫です。イマイチ信用し切れないので、入りません」
「それは残念……と、決着が付きましたか」
ぽんっ
みふゆの台詞と共に、このみの頭上から紙ではなくくす玉が出て来た。膝枕をしていたカレンがキャッチすると、ひとりでにぱかっと開いて【おめでとう(T ^ T)】と書かれた垂れ幕が出て来た。くす玉は何秒か後に、空間に溶けて消える。
「お話しはここまでですね。では、失礼します……」
ウワサを倒して早々に接近してくるデンドロビウム達の魔力に感付いたのか、話を切り上げて立ち去るみふゆ。
「……」
「……みふゆぅ、なんでぇ……」
「お待たせしました……何があったんですか?」
戻ったら沈痛な面持ちのやちよとツルノを見つけて、戸惑ったようにこちらに尋ねて来るデンドロビウム。
「こんな辛気臭い場所と雰囲気からは早く抜け出たいから端的に言うけど。アズサみふゆが敵として現れたわ」
「アズサみふゆさん、ですか……」
《……なるほど、そりゃ辛気臭くもなるな。んじゃ詳しくは、落ち着けるところに行ってからだな》
というわけで。学校関係者に見つからないよう再び認識阻害を全員にかけてから抜け出して、突入前に集まった公園にて事の詳細を語った。
……説明面倒だったからカトレアに任せた。
次回投稿は、11月27日(日)の予定です。