魔法少女花騎士☆マギカ   作:繭浮

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 ※今回、既存のキャラクターの感情に関しての独自解釈が含まれます。あらかじめご了承下さい。


花騎士の新たな戦場、神浜市 2-2

「話はこれで終わりかい?」

 

 私達の感情や葛藤などどこ吹く風といった様子がムカつく……ダメね、この害獣の行動すべてが不快に感じてイライラが収まらない。一度心を鎮めないと。

 

「そうだな……あとひとつ、気になっている点がある」

 

 気持ちを鎮めていると、トウコがメイン魂に代わっていて質問を続けた。

 

「アタシらは身体とソウルジェム、二つの魂が存在している状態だが。ソウルジェムが砕ける、もしくは魔女になった場合、どっちの魂が持ってかれる? 一方だけか、両方か」

 

 ……それは、確かに少し気になるわね。

 

 最終手段として、魔女化を防ぐために自らの手でソウルジェムを砕くのは、選択肢としてありだろう。まあ、私もカトレアも死にたくなんかないから、本当に最悪最後の手だけど。

 

 でもそれで、もしもどちらか一方のみが消えるのだとしたら――残された者に、深い心の傷を負わせることになる。

 

「前にも言ったけど、身体の主導権を持っている魂は花騎士の二人だ。カトレアと燈湖の本体はソウルジェムだから、ソウルジェムの破壊で死ぬのはソウルジェムである君たちだけだよ。お互いの魂は多少リンクしているからなんらかの影響はあるかもしれないけど、さすがにそこまでは実際に起きてみないとどうなるかわからない」

「……そうか」

《私からもひとつ。私がソウルジェムにいるこの状態で破壊された場合、死ぬのは私ですか?》

 

 ……うん、デンドロビウムはその質問をすると思った。彼女なら迷いなく、トウコを救うためにその手段を取れる。

 

「その問いの答えも同じさ。君の身体はもう雷電燈湖のものではなく、デンドロビウムのものだからね。今の君は、燈湖に身体を貸しているだけなんだよ。ただ……」

《ただ?》

「これは予測だけど。今の状態で魂の交代が可能な距離圏外にソウルジェムを移動して砕いた場合、運が悪ければデンドロビウムの魂は身体を見つけられず、さまようことになるかもしれないね」

《そう、ですか……》

 

 デンドロビウムが意気消沈した声を出す。助けられるどころか無駄死にするかもしれないなら、完全に悪手だ。

 

「さて、今度こそ話は終わりだね。それじゃあボクはこれで失礼するよ。君たちの観察は十分出来たし、これ以上潰されたくないしね」

 

 こちらの返事を待たずに駆け出すキュゥべえ。無性に火球ぶつけたいけど、室内だし魔力の無駄遣いだから自制する。

 

「……さて。タヌキ野郎も逃げやがったし、今回の情報の整理をするか。それと女王様」

「なに?」

「カトレアの精神もだいぶ落ち着いただろうから、いったん代わってやってくれないか? 体が動かせる方が、より気持ちも落ち着くだろ」

「そうね……カトレア、大丈夫?」

《ん、大丈夫。今は冷静よ……多分》

 

 語尾に不安にさせるような事を言ったからちょっと迷ったけど……ソウルジェムは綺麗なままだし負の感情や澱んだ魔力は届いてこないし、大丈夫よね。

 

 

 △ ▼

 

 

 ……情報整理も終わったので、今回も話が終わるまで待ってくれていた為次郎さんへ説明する。

 

 まあ今回は口頭でも会話していたので、頭の回転の早い為次郎さんなら、大体どんな内容の話をしたか理解しているだろうけど。それでも念話やキュゥべえの声は聞こえてないから、キチンと魔法少女の真実について説明した。

 

 なんにしても、魔法少女の話をしても真面目に聞いて信じてくれる保護者がいるのは、やっぱり心強い。

 

「……まあ、美味い料理と話には裏があるってこったな」

 

 ただし、真実を聞いた為次郎さんの感想は淡白なものだった。

 

「あの……燈湖が、その、魔女の卵にされちゃって。キュゥべえに対して、怒ってないんですか?」

「まったく何も思っちゃいないとは言わんが、選んだのがてめぇ自身なら、それはそいつの――燈湖の自業自得だからな」

 

 放任とも取れる台詞だけど、多分そうじゃない。為次郎さんは自身の教育に自信を持って燈湖を育てていたのを、私は知っているから。

 

 だから、突き放すような内容に聞こえるけど、この場合「自分で自分の行動に責任を持てるまでに成長している」という、信頼の言葉だ。

 

「言っとくが、アタシも白ダヌキに怒ってるわけじゃ……あるが。親父が言った通り自業自得だからな、その点に関しては大して怒っちゃいねぇ。魔女(強いヤツ)とも戦えるしな」

 

 その証拠に、燈湖は為次郎さんの意見になんら落ち込んだ様子を見せてはいない。戦闘狂に育て上げたのはどうかと思うけど、それ以外は私から見ても理想的な親子関係だと思う。

 

《あら、さっきハラワタ煮え繰り返ってるって言ってなかった?》

「タヌキ野郎だが嘘は言わねぇし、ヤツの事情もまったく理解出来ないでもないからな。だからアタシが怒ってんのは――カトレアを魔法少女にしちまった、自分自身の軽率さにだ」

「……へ?」

 

 予想外の理由に、思わず呆然としてしまった。

 

「いやいや……燈湖が軽率なら、世界のほとんどの人が軽率よ。いやマジで」

 

 キュゥべえと契約する直前にした慎重過ぎる行動を思い出して、自然と苦笑いになってそう言う。

 

「そう言ってくれるのはありがたいけどな、それでもアタシが選択肢を間違えたのは事実だ。本当に――」

「謝ったら怒るわよ。確かに、魔女になるって言われてちょっと絶望しちゃったけど。それでも……燈湖が凄い慎重に契約内容を考えてくれて、一緒に魔法少女にもなってくれて。さらには大好きなカトレアと出逢わせてくれたんだもの。だから、謝ったら許さないわ」

「アタシが魔法少女になったのはいいんだ、元々自分はマトモな精神してないって自覚があるからな。だが、アタシは――カトレアには、「普通」でいて欲しかったんだよ」

 

 普通、か……そう言えば、燈湖と友達になった時にもそんな事言われたっけ。私が「普通」だから友達になりたい、とかなんとか。

 

「魂をソウルジェムに変えられたってだけなら、ソウルジェムを仕舞い込んで戦いを辞めちまえば、一応「普通の人間」だ。だが、ソウルジェムが魔女になるなら、それが避けられないなら、最終的には砕くしかねえ。だからどうしても、後悔がないとは言えねえんだよ。アタシはカトレアには、出来るだけ普通に生きて、普通に幸せになって欲しかったんだ」

 

 燈湖が、聞いたことがない程低いトーンで独白する。燈湖のソウルジェムが、少し濁る。

 

「燈湖……いつも私を気遣ってくれて、ありがとう」

 

 何かもっと気の利いた言葉をかけてあげたかったけど、燈湖の手を握って感謝するくらいしか思いつかなかった。

 

 なんにしても。燈湖は、私にはもったいないくらいの親友だ。絶望しかけたけれど燈湖が側にいたから助けられたし、側にいてくれるだけで、こんなにも安心出来る。

 

《……トウコさんの気持ち、わかります》

《デンドロビウム?》

 

 しばらく口を挟むことなく燈湖の独白を見守ってくれていたデンドロビウムが、会話に加わってきた。

 

《私は、女王様の事を女王様と呼んでいますが、別にウィンターローズの女王になって欲しいわけではありません。まあ、相応しいと思ってはいますし、その気があれば後押しするのもやぶさかではありませんが》

《イヤよ、面倒臭い》

「……ぷっ」

 

 真面目な話の途中だけど、女王様の一言につい吹き出してしまった。

 

 まあ確かに、一国の支配者なんて面倒臭いことだらけだろうし、カトレアがやりたがるとは思えない。

 

 それに――

 

「《すでに世界に愛されているのだから、なる必要なんてないわ》」

 

 言うと思ったから、タイミングを合わせてみた。台詞からなにからバッチリだった。嬉しい、大好き。

 

《…………》

 

 ……なんか、拗ねたような気配と無言の圧が届いた。可愛い。

 

《……こほんっ》

 

 ちょっと空気が和んでしまったので、デンドロビウムが咳払い(念話だけど)をして、場を引き締めてから話の続きを語る。

 

《私が女王様と呼ぶのは、親にとって子供は、何よりも愛すべきもの――王や女王みたいなものだからです。私は、あなたは望まれて、世界()に愛されて生まれたのだと。普通に生きて、普通に幸せになる権利があるのだと願ったんです》

《デンドロビウム……》

《だから、あなたは私の主君、私の女王様です》

《ん、その……あ、ありがと……》

 

 ……カトレアの赤ん坊の頃に起きたエピソードを知っている身としては、今のやり取りから、デンドロビウムがどれだけカトレアを愛しているかが伝わって来る。

 

 ヤバい、感動で泣きそう。

 

《あくまで私の所感ですが……トウコさん、あなたにとってのカトレアさんは、私にとっての女王様なのではないですか? だからこそ、あなたはそれ程までに悔いている》

「……そうかもな。同い年だから親友ポジションだが、女王様とデンドロビウムくらい年齢が離れていたらって考えりゃ、納得がいく説明だ」

 

 燈湖に、愛されている……まあ、確かに燈湖の過保護っぷりからして、そうなんだろうけど……

 

《な、なんか、気恥ずかしいわね……》

「そ、そうね……」

 

 女王様と二人して、照れでついもじついてしまう。

 

「でだ。なんで今それを言ったんだ?」

《なんて事はありません。親だって人間なんですから、間違える事もある、と言いたかっただけです》

「……っはは。そりゃそうだ」

《それに、あなたも私も、カトレアさんも女王様も、人間です》

「ああ、わかってる。人間は人間のままであるべきだぜ」

 

 ……そうしてデンドロビウムとの会話が終わった後の燈湖は、いつもの燈湖だった。さすがデンドロビウム、ゲームのファンから師匠と呼び慕われているだけあるわね。

 

 それにしても、なんていうか。

 

「こうしてお互いへ抱いてる感情とかを考えてみると。私と女王様、それに燈湖とデンドロビウムって、結構似てるとこあるかもね」

《そうかしら? 私的には、カトレアにはもっと私みたいに、精神的に強く気高くあって欲しいのだけど》

「まあ確かに、こうなっちまった以上、魔女にならないように少しは心を鍛えてやらねぇとな」

「そ、そうね」

 

 燈湖の鍛錬と聞いて、ちょっと尻込みしてしまう。

 

《安心してください、カトレアさん。女王様も幼い頃は、どちらかというと引っ込み思案気味で大人しい性格でした。私が所用で出かける時の寂しそうな――》

《ちょっデンドロビウム! その頃の話はやめてよ!》

《ふふっ。とにかく、焦ることはありません。心の鍛錬は肉体以上に、一朝一夕にはいかないものですから。私もお付き合いしますから、頑張りましょう。日々精進ですよ》

「お、お手柔らかに……」

 

 さらに師匠の参戦が決定して、どんなビシバシ指導が来るのかと内心戦々恐々とした。

 

《ご愁傷様。まあ応援くらいはしてあげるわ。がんばれがんばれ》

《むうー……他人事だと思って……》

《……そう言われると、お互いひとつの体を使ってる訳だし、他人事じゃないわね……う、なんか寒気が》

 

 燈湖とデンドロビウム指導の精神鍛錬を思い描き、私達は二人して仲良く戦々恐々とするのだった。

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