それはそれとして。今話でミザリーウォーター討伐編は終了で、閑話を挟んでから「ひとりぼっちの最果て」編に入ります。どうぞ、期待してお待ち下さい。(自らハードル上げ)
公園でしばらく休憩したり治癒魔法で怪我を治したりした後。日もほとんど落ちたので、今回の「ミザリーウォーターのウワサ討伐作戦」に集まったメンバーは各々解散となった。
具体的には、華恋とポーチュラカは門限があるので早々に帰宅。何も知らない大人や親御さんに迷惑はかけられないから仕方ないとはいえ、このあたりはちょっと不便に感じるわね。
杏子とゆまちゃんは、ゆまちゃんがおねむなのもあって、杏子が背負って雷電家のシェルター道場へ帰宅。ウワサとかいう魔女以上に訳の分からない存在との戦いで張っていた気が緩んじゃったのね。寝顔可愛かった。
で、残りのメンバー。私達と燈湖達とこのみさん、それにいろはちゃんと鶴乃ちゃん、ついでにフェリシアちゃんは、やちよさん家にお邪魔していた。今回得られた情報の整理やら今後の方針やらを早く話し合いたいものね。
ほんとは、1番ダメージを負ったこのみさんは帰したかったのだけれど、
「今回もほとんどお役に立てなかったから、せめて対策会議にだけは出席させて!」
と強く出られて断り切れなかった。
《役に立ててないって、そんな事ないのにね》
《まぁ、確かにこのみの固有魔法はかけた本人には実感し辛いものね。でも、このみのサポートがなければ、笛姉妹のドッペルで間違いなく大打撃を受けていたわ》
《よねー》
「お待たせしましたー」
「おっサンキューいろは! あっちち」
このみさんの魔法がいかに素敵かを女王様と語り合っていると、お茶を入れていたいろはちゃんとやちよさんが戻って来た。半ばひったくるように受け取ったフェリシアちゃんが、湯呑みの熱さに驚いて慌ててテーブルに置く。
「さて。まず、私から提案があるのだけど」
各人にお茶を配り終えてから最後にソファに着き、最初に話の口火を切ったやちよさん。
「今回のウワサと、マギウスの翼。調査するにしてもウワサを潰すにしても、私1人じゃ限界を感じて来たわ。幸いというか、環さんと、それに協力する形でカトレアさん達も、ウワサとマギウスの翼は調査していたようだし……ここはひとつ、協力しない?」
「協力……と言うと、チームを組むって事ですか?」
「……。そうね、そう取って貰って構わないわ」
「分かりました。私もやちよさんのチームに入らせていただきます!」
……なんかやちよさん、答えるのに若干間があったわね。「チーム」に何か、思うところあるのかしら。
《やちよは今でこそソロだが。アタシらが魔法少女になる少し前までは、このみかづき壮に住んでいたメンバーを中心にした魔法少女でチームを組んでいたらしいぜ》
《ちなみにその内の1人が、先程マギウスの翼の幹部として現れた、アズサみふゆさんですね》
《かつての仲間、それも親友からの敵対宣言。流石のやちよも、自分を知り尽くしている相手に1人じゃ無理だと判断したってことね。まったく……人の感情っていうのは、別の世界だろうと変わらず面倒なものね。弱さも強さも、無駄に厄介事を生むわ……ほんと、面倒臭いったらない》
《女王様……》
女王様は魔力が強すぎたせいで、物心つく前の赤ん坊の頃に国の上層部の一部に存在を危険視され、秘密裏に闇に葬られそうになった――それは、国の心の弱さ。
けれど、国の強き心――国防の要であるベテラン花騎士数名が、そのあまりにも理不尽な判断にその子を可哀想に思い、国の短慮な判断ではなく自分の正義に従って動き、自分達の命を投げ打ってまで害虫の巣から救出された、という過去がある。
《まあ、人間の「優しさ」に、私は救われたから。いろはがいろはのままなら、私は優しすぎるくらいな性格のいろはの味方をするつもりよ》
《ん、同じく》
私だって、女王様の過酷過ぎる処遇に比べられないけれど、燈湖の優しさ…………だったのかしら? 優しさかどうかはともかく、燈湖の友情に救われた事があるし、優しさの塊みたいないろはちゃんは大好きな友達だ。その行動が本当は間違っていようと正しくないとしても、いろはちゃんの手助けをするだけだ。
つまり――これは、私達のエゴだ。正義とは言えないし、知ったこっちゃないわ。
「私も女王様も、引き続きいろはちゃんのお手伝い――ういちゃん探しに協力するつもりよ」
「カトレアさん……!」
「ただし――ウワサ調査のためのチームを新設するみたいだけど、それには参加しないわ」
「えっ」
私達の一見矛盾するような意見に、困惑するいろはちゃん。
「アタシらは正義の味方なんてガラじゃねえ。状況次第では敵になる場合もある……かもしれない、て程度だがな」
「まあ最悪の場合、だけどね。でも、その可能性がある私達チームフラワーナイトは、あなた達の新設チームのメンバーに入るべきじゃないと思うのよ」
「……そうね。あなた達はすでに、傭兵魔法少女としてチームを組んでいるものね。無理に二足の草鞋を履かせられないわね」
「ふふ、カトレアちゃんはすでに二足草鞋だもんね」
「あっそっか……実家のお手伝いに加えて、傭兵活動もしてるんですもんね」
「そういうこと。ま、私のシフトはこのみ程じゃないし、実家の手伝いであって正規のバイトじゃないから、引き続き協力するけどね」
「わぁ……ありがとうございます、カトレアさん!」
「ん」
純粋な笑顔が眩しくて、直視出来ない……可愛い。
「当然私もチームメンバーで良いよねっやちよ! ふんふん!」
「……まぁ、鶴乃の「幸運」はいざって時に役に立ちそうだし。好きにするといいわ」
「な、なんか塩対応だー!? でもメンバーとして認められたーヤッター!」
「……ふふっ、相変わらず騒がしい娘」
やちよさんは苦笑いでそう言いつつも、声色はいつになく優しげだった。そういえば、解散状態だったけど、前は鶴乃ちゃんもやちよさんのチームメンバーだったらしいわね。
……かつてのチームメンバーで親友のみふゆさんが敵だと判明したにしては落ち着いてるわね、やちよさん。敵味方云々より、親友が無事に生きてくれていたのを知れた事の喜びの方が優っているから、かしら。完全に仲が決裂した訳じゃない――また元の関係に戻れる芽があるから、かも。
「……で。そこで黙々と茶菓子を頬張り続けてる立ち位置不明な娘だけど」
「んむ?」
真面目な話をしている最中、我関せずとドーナツを頬をパンパンにしながらさらに詰め込もうとしているフェリシアちゃ――
「ってほとんど食べちゃってるじゃない!! あなたには遠慮ってものがないの!?」
――んに唐突に激昂するやちよさん。
「……だって、食える時には食っとけって師匠が」
「……確かに言いましたが、それは「遠慮を忘れろ」という意味ではないですよ?」
何故かデンドロビウムモードでいい訳する燈湖。まあ確かに、燈湖の辞書に「遠慮」の文字はあるだろうけど……多分、一応。
「ドーナツ……私のドーナツ……」
「や、やちよさん、そんなに楽しみにしてたんですか?」
「やちよはこう見えて食い意地張ってるからねー。トーコししょーには一歩譲るけど、あの細身で結構なフードファイターだしね!」
「……それは凄いわね」
あの燈湖に一歩にまで迫るとは……流石はベテラン魔法少女。
《……多分魔法少女歴は関係ないと思うわよ》
《心の声を読み取らないでよ、女王様》
《……なーんか最近、念話に乗せてなくてもカトレアの思考が読めるのよねぇ》
《まあ、私達は平行世界の同一人物だものね。もうこっちに来てだいぶ経つし、シンクロ率が上がってるのかもね》
さて、それはそれとして。
「……こほんっ。深月フェリシア。あなた今、根無し草らしいじゃない」
「ねなし……何だそれ?」
「ホームレスってヤツだね!」
「鶴乃ちゃん、その言い方は直接的過ぎない?」
「ああ、確かに宿無しだけど……トーコ師匠がたまに泊めてくれるけどな。シェルター道場がいつでも空いてりゃなー」
フェリシアちゃんの言う通り、たまに泊めてはいるけど、基本的に長期滞在はさせていないらしい。
理由としては、「今のフェリシアさんに一番必要なのは、親代わりの人物より気の置けない友人ですから」とデンドロビウムが言っていた。よく意味はわからないけど、「親」や「師匠」ではダメらしい。
「そこで提案よ。私のチームと専属契約しない?」
「ん? どーいう意味だ?」
「このみかづき荘に住み込みで専属傭兵をしないかって提案しているのよ。当然契約料も支払うわ」
「マジか!?」
「マジよ。今回のウワサ、援護があったとはいえあなたが1人でダメージを与え続けたそうじゃない。そんな強い傭兵を野放しにしていたら、マギウスの翼に良過ぎる条件を提示されたら取り込まれそうだもの」
「そ、そんな事ねーよ。マギウスの翼ぜってーゆるせねぇ!」
「……そう言えば、あの黒羽根に報酬即決3倍って言われて、揺らいでたわねー」
「ちょ、バラすんじゃねーよカトレア!」
私の告げ口を聞いた燈湖の表情は、無言の笑顔。これは、後で説教コースかしらね……ふふ。
《ちょっと愉悦感》
《ほどほどになさいね》
女王様に注意された……けど多分、女王様も同じ事思ったわね。伝わってくる精神的に。
「やっぱりね。そんな危険因子は、見える範囲に置いておくのが安全と判断しての事よ。それに……」
これは合理的判断によるものだ、と主張しつつも、やちよさんの表情も声色も優しげだ。
「……私も、この広い家にずっと1人で、ちょっと人恋しく感じて来てたのよ。だからその……フェリシアさえ良ければ、ここの住民になってくれないかしら?」
ほんのり羞恥に頬を染めつつ、そう提案してきた。
「あー、えっと……」
やちよさんの羞恥心を感じ取ったのか、フェリシアちゃんも気恥ずかしげな顔で頬を掻きつつ、燈湖の顔色を窺う。
「……いつまでも住所不定なのは、魔法少女とはいえ年頃の女の子としてどうかと思っていました。良い機会だと、私は思いますよ」
「ん、そっか。んじゃあ世話になってやるかな!」
後ろ頭に手を組んで、ニカッと笑ってやちよの提案を受け入れるフェリシアちゃん。
「……一応言って置くけれど。傭兵での収入から食費と家賃は引かせて貰うわよ?」
「なあ!? タダじゃねぇのかよ!」
「それだとあなた、ダメ人間になるわよ。働かざる者食うべからず、よ」
「ぐぬぬ……傭兵稼業は収入が不定期なんだぞー……」
「それならうちで働けば良いよー! 最近私1人じゃ手が回らない時があるし、もう1人くらい人手が欲しかったところなんだー!」
「鶴乃んちって言うと、味はともかく腹いっぱい食えるあの中華屋か。でもなー、オレ接客なんて――」
「モチロン、まかないは出すよー。働いたらタダで一食食べられるから、食いっぱぐれなくなるよー!」
「タダ!? やる!」
即決だった。鶴乃ちゃん、騒がし娘でよく知らない人からはおバカに見られがちだけど、結構頭良いのよね。学校の成績も、上から数えた方が早いくらいらしい(燈湖情報による)。
「良かったね、フェリシアちゃん!」
「入居記念と就職記念に、今度お花を送るね!」
「お、おう。えへへ……」
いろはちゃんとこのみさんからの祝福サンドに、テレテレに顔を赤くして後ろ頭をかくフェリシアちゃん。可愛い。ついでに、ダブル癒し系による癒しオーラで私達の精神も回復した。ふへへ。
「フェリシアの話はここまでにして。今度は環さんよ」
「……へ?」
まさか自分に話しが来るとは思っていなかったのか、不意を打たれた顔をやちよさんに向けるいろはちゃん。
「あなたも他人事じゃないでしょうに。今週中に神浜市内に入居場所を見つけないとなんでしょう?」
「あー……そ、そうなんでした。ど、どうしよう……!」
「このみかづき荘は、フェリシアが入っても十分部屋が空いてるわ」
「え? それって……い、いいんですか?」
すぐに話を飲み込み、そう返すいろはちゃん。
「家は誰かが住んでいないと勝手に劣化してしまうものよ。しばらく私1人で頑張って管理していたけど、正直少し大変に思っていたのよ。フェリシアだけじゃあ逆に痛めちゃいそうだし……」
「やちよ、何気に辛辣だー。やっぱり性格悪くなってるよね」
「そうだぞー、ギリ未成年ー」
「事実を言ったまでよ。あとデンドロビウムさん、お説教はより厳しめでお願い」
《ふふ、承知しました》
「げっ」
「なんて事だ、もう助からないぞ♪」
「つ、鶴乃てめー他人事だと思ってー!」
とまあそんなコントはともかく。
「確かに、フェリシアちゃんお子様だから、後片付けとか苦手そうね。逆に妹のいるいろはちゃんは、そう言うの得意そう。というか料理とか掃除とか家事全般好きそうよね」
「あっはい、好きです!」
……その台詞にちょっとキュンとした。と、ともかく。
「頼もしいわね。それじゃあ後は、環さんのご両親の了承を得るだけね」
「はいっ! 何から何までありがとうございます!」
「あんまり気にしないの。みんな「うわさ」を追う仲間でしょう?」
「それはそうですけど、親しき仲にも礼儀あり、ですから!」
あー、ほんといろはちゃん良い子よねー……大好き。
そんなこんなで、今回の一連の騒動で……えーと、ミザリーウォーターのウワサ討伐、いろはちゃんの転居先問題、ついでにフェリシアちゃんの宿無し問題、一気に3つが解決したのだった。
ちなみに、今日の帰りもいろはちゃんを空輸で送り届けたのだけど。今回はついでに、やちよさんも付いてきた。
「私から相談を持ちかけたのだし、私が直接出向くのが筋でしょう?」
らしい。流石に神浜西の顔役と言われるだけあって責任感強いわね、となんとなく思った。
さらにちなみに。
「あなたはもしかして、モデルの七海やちよさん?」
「ええ、そうですね。大学に通いながら、モデル業もしています」
「おー、本人かあ! カトレアさんの知り合いでもあっただなんて……しかも下宿宿まで経営してるだなんてなぁ。何かこう、いろはが神浜に行くのは運命付けられていたみたいに思えてくるな!」
……とまあ、こんな感じで終始良い雰囲気で会話は進み、アッサリいろはのみかづき荘入りが決定した。私が同席していたのもあるだろうけれど、やちよさんの知名度としっかり者のオーラのお陰もあるでしょうね。
環家からの帰り道……帰り空にて。
《カトレアさん達。今日は本当に助かったわ》
《何よ、改まって》
やちよさんの台詞に、私より先に女王様が返す。
《私1人だったら今回のウワサは倒せなかっただろうし、みふゆが敵として現れた時、私も鶴乃も、もっと取り乱していたはずよ》
《……それは、きっと私だってそうですよ。もし燈湖が敵として立ちはだかったら、マトモじゃいられないと思います》
《そうかしら? 多分あなたは自分が思っているよりずっと、強い人間だわ。私も……みふゆに指摘されなければ、自分の精神性に気付かずにいたでしょうね》
《そうでしょうか。私はそれ程――》
《当然よ。だって私達は、世界に愛されているもの》
私の自問に、女王様がいつも通り自信満々にそう答えを出してくれる。
《それで。結局何が言いたいのかしら?》
《……。いえ……そんな強いあなた達が味方で心強い、と思っただけよ。と言う訳で、今後のウワサ討伐にも期待させて貰うわよ》
《なぁんだ、そんな事。ふふっ任せなさい》
《ん、頑張ります》
最後にクスリと笑い声が届いて以降は、私たちはみかづき荘に着くまで無言で空を翔けたのだった。
さて、今回も厄介なウワサだったけれど……お次はどんなのが来るかしらね。それに、マギウスの翼もどう動くのやら。
「はあ……考えるのも面倒ね」
《ええ、まったくね》
次回投稿予定は、12月7日(木)の予定です。