魔法少女花騎士☆マギカ   作:繭浮

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いろは カトレアの 神浜ウワサファイル 閑話 神浜での邂逅と、穏やかな訣別

「んふふ……キョーコー……守護るの……」

「ははっ、頼もしい寝言だね」

 

 背中におぶったゆまから、耳元に囁かれるようにそう寝言で告げられる。

 

(にしても、だ。あたしも変わったもんだねぇ)

 

 今回のウワサの化け物へ向かう道中。あたしはゆまが怪我をしないように徹底して庇って進んだ。

 

 確かにゆまは、放っとけないヤツだ。1人で生き残るすべを身に付けるため、あたしの盗みの片棒を担がせちまった事もあって、その罪悪感で一緒にいてやると思った事もある。

 

 けど、それでも。大怪我を負うでもない小石全てを身を挺して庇うなんて、自分でも予想外の行動だった。

 

(……。妹と……モモと、重ねて見ちゃってるのかしら。そうなると、変わったっていうより……精神が昔に戻った、が正確なのか?)

 

 何にしても。ゆまが魔法少女にならず、普通の少女のままだったら……いや、弱い魔法少女だった場合でも。ゆまは確実にあたしの「弱点」になってただろうね。

 

 けれど、ゆまは見た目の幼さに反して、決して弱くはない。

 

(まぁ、精神的には結構強いけど。魔法少女としては、まだまだヒヨッコもいいとこだけどね)

 

 ゆまの精神性なら、あたし程とは言わずとも、将来的には結構強い方の魔法少女になれそうなんだよな。今日も完璧に、あたしのフォローをこなせていた訳だし。まぁ、あたしだからバフがかかってたってのもあっただろうけど。

 

(……燈湖とデンドロビウム、何より為次郎さんには、感謝してもしきれねぇな)

 

 今のこの、比較的恵まれた環境に至れたのもあの時雷電親子に会えたお陰だし、2人が「世間一般でいう普通とはズレているタイプの人間」だったからこその現状だ。2人が少しでも「普通」寄りだったなら、あたしは頼ろうとなんかしなかったはず。

 

(為次郎さんが、「親代わり」じゃなくて「大人」として面倒見てくれてるのも、マジでありがたいよね)

 

 そこも、雷電親子を頼った理由の一つだ。この親子が綺麗事で動かないのがあたしの性分に合ったからこそ、住まわせて貰うのにあんまり抵抗がなかった。全く無かった訳じゃないけどね……しばらくは、あたしだけでゆまを世話しようと考えていたし。

 

(……そういや、まだマミと顔合わせてないな。いろはを魔女と勘違いして攻撃したらしいけど……あの人も、頼れる大人がいたから良いマンションに住まわせて貰ってる……んだったよな? ちょいと記憶が曖昧だけど)

 

 両親の入ってた保険と残してた遺産のお陰もあるけど、親と親しかった親戚からの援助金のお陰であの一等地に住めてるとか言ってた気がする。随分前にサラッと話されたから、多分、だけど。

 

(そう思うと、ほんと雷電親子との出会いは幸運以外の何ものでもないね……今回のウワサで「不幸」になってたら、て思うとゾッとするわね)

 

 ……ま、そんな「もしも」を考えちゃうのも、生活に余裕があるからなんだろうね。

 

「……うん? あらら、こんなところに」

 

 そんな感じにぼんやりと考え事をしながら雷電家への帰路の途中。住宅街の一角に、魔女の結界を見つけた。

 

 神浜の魔女は比較的強めで、グリーフシードを孕んでいる確率が高めだ。普段なら嬉々として飛び込んだだろうけど……

 

「んー……この近所の住人は気の毒だけど。今はスルーかな」

 

 ゆまを近くの公園のベンチに寝かせて倒しに行くって手もあるけど、もう日も落ちた。魔法少女だって、眠ってる間は無防備だ。その間に他の魔女か使い魔に襲われないとも限らないし、変質者に寝込みを襲われないとも限らない。

 

 魔女結界の前でほんの少し考え込み、ゆまの安全を優先する事にして背を向け――

 

「……ふぅ。神浜の魔女、やっぱりちょっと強いわね」

 

――ようとした所で、魔女結界が消失して誰かが出てきた。どうやら先客が入っていたらし――うん? この魔力の感じ……ははっ! 噂をすればってヤツに、あたしも遭遇するとはね。

 

「……あら? あなた、佐倉さん!?」

「よう。なんか久しぶりだね、マミさん」

 

 あえて昔のように、さんを付けて挨拶する。理由は特にない、なんとなくそんな気分だっただけ……じゃないな。多分、あたしの精神に余裕が出来たからだろう。

 

「さ、佐倉、さん……?」

「ぷふっ。なんて顔してんのよ、マミさん」

 

 あたしの返しに呆然とした顔になってて、あたしはつい少し吹き出してしまった。

 

「佐倉さん……雰囲気が、優しくなったわね」

「ま、色々あったからねぇ」

「……その、背負ってる娘の影響かしら?」

「そうだな。理由の一つではあるよ」

「そっか……ふふっ。嬉しいわ、昔の佐倉さんに戻ってくれたみたいで」

「完全に元通り、とは言えないけどね。傭兵業はまだ続けてるし」

「そう、なのね……」

 

 そこで一旦会話が途切れる。マミさんは妙に深刻そうな顔をしていた。

 

「佐倉さんならもう気付いているでしょうけれど、この街は危険よ。元々いる魔女の強さも全体的に強めだし……それに何故か最近、他の都市から神浜に魔女が集って来ているみたいなの。魔女が激減したお陰で他の街の治安は少し良くなったけど、魔法少女的には地元でグリーフシードを得るのにかなり苦労するようになったわ」

「なるほどね……だから最近、風見野や見滝原周辺でしか見かけなかった魔女を神浜で見かけるようになったのか」

「稀には見かけるから、全ての魔女が集結している訳ではなさそうだけど……神浜が魔女の溢れる魔境状態になっているのは確かね」

 

 ……もしかしたら、これにもマギウスの翼が関わってんじゃないだろうね……まぁ、あたしが1人で考えても答えは出ないだろうけど。我らが知将・雷電燈湖案件だな。

 

「それだけじゃないの。つい先日遭遇したのだけど……神浜には、魔法少女に擬態した魔女なんていう極めて危険な魔女が存在しているわ。佐倉さん的には最高の狩場かもしれないけれど、早急に離れた方が良いわ」

「……ああ、その話か」

 

 あたしらはさっきマギウスの翼との衝突で、マミさんの言う「魔法少女擬態魔女」の正体は知ってるけど。今のマミさんがいろはのヤツを見かけたらまた襲われかねないし……得た情報を伝えるべきだね。

 

(とはいえ。強い魔法少女ではあるけど、マミさんメンタル面では若干脆いしなー。けど魔法少女の真実を話す訳にはいかないから、ちょいと説明が面倒だね……とはいえ話さない訳にもいかないし……)

「? どうしたの、佐倉さん」

「あー、えっとだな……マミさん、神浜の異常事態を調査するつもりだろ?」

「ええ、そうよ。ついでにグリーフシードをある程度集めて、地元の後輩に渡したりもするつもりだけど」

「後輩のため、ねぇ。まったく、過保護なのは変わってないみたいだね。それより、あたしの持ってる神浜の情報をマミさんに伝えとくよ」

 

 しばらく考え込んでから、なんとか「魔女化」の部分を省いてウワサの事やドッペルの事、マギウスの翼の事とかの情報を話す。

 

「……本当に、魔女じゃなかったのね……あの娘、環いろはさん、だったかしら。今度会ったら謝らないと」

「……相変わらず、簡単にあたしの言う事信じるね。狩場を優先するための嘘情報だとは思わないのかよ」

「だって、佐倉さんからの情報だもの。話の筋も通っているし、信じないわけないわ」

「……そーかい」

 

 なんとなく気恥ずかしくなってつい頬を掻きたくなったけど、ゆまを背負ってて両手が塞がってるから出来なかった。

 

「それなら尚更、佐倉さんは神浜に来るべきじゃないわ。その娘、千歳ゆまちゃんを戦いに巻き込みたくないのなら」

 

 んー。まぁ正論ではあるけど。

 

「実は今、あたしとゆまは、神浜のとある人の家に居候させて貰ってる身なんだよね。つまり、すでにあたしらは神浜の住人なわけ。たまに風見野の様子を覗きに行ったりもするけど、今のあたしらの狩場は既にここなんだよ」

「ええっ!? い、いつの間に……まあ、住所不定じゃなくなったのは、良い傾向だとは思うけど……」

 

 まさかあたしの状況がここまで大きく変わっていたのは予想外だったみたいで、盛大に驚いてくれる。ふふ、マミの貴重な変顔を見れたね。不幸になるどころか、幸運が来た気分だよ。

 

「そんな訳でさ。色々と守護りたいもんが出来ちまったからね、しばらく神浜を離れる気はないよ」

「……そう。事情があるなら強くは言えないわね」

 

 そう呟くマミさんは、嬉しそうながらもどこか寂しげにも見えた。

 

 ……相変わらず、口には出さないけど寂しがりな人だな。まぁその寂しさの穴は、見滝原で待ってるっていう後輩魔法少女に埋めてくれるよう願ってやるか。

 

「あたしからも忠告しとくよ。マギウスの翼はまだまだ得体が知れない。マミさんの事だから接触を図るつもりだろうけど、あり得ないくらい慎重に慎重を重ねるのをオススメするよ」

「……そうね。ありがとう、心に留めて置くわね。それじゃあまた」

「ああ、またどっかでな」

 

 そう言い残して、あたしとマミさんは背を向けて、それぞれ違う方向に歩き始めた。

 

 マミさんが今からどこに向かおうとしてるかは分からないけど。あたしの行く先――今の帰るべき場所は、雷電家だ。

 

 

 それは、ある意味訣別だったんだろう。「巴マミ」という過去との訣別。

 

 けれど、嫌な気分じゃない。あたしは既に、本来背負う必要のない重荷を背負う事を決意していたから。

 

(ま、「重荷」って言うほど重くはないかな。軽すぎるくらいだな)

 

 背中に感じる軽い重さに微笑みつつ、あたしは帰路を歩く速度をほんの少し上げた。

 

 

 ……ここでマミさんと別れてしまった事を、後に少しだけ後悔するハメになったのだけど。なんだかんだで解決したから、本当に少しだけだ。




 次回投稿予定は、12月27日(火)です。
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