あの2人では間に合うかどうか判断がつかなかったから、私達は杖に燈湖と2人乗りで先回りする事にした。朝早めとはいえ日は登っているから一応認識阻害かけたけど。
「む、意外と機敏ね。死ぬ事への迷いがないからかしら」
各種魔法をかけていたせいもあるだろうけど、口づけ被害者の動きが予想より早く、下から追いかけていたまどかちゃんさやかちゃんより少し早く展望台の屋根に出てきてしまっていた。
「仕方ねえな……ま、死ぬよりは遥かにマシか。はっ」
そう呟いて、燈湖はひらりと乗っていた杖から舞い降りて五点着地を決め、素早く立ち上がって出口から出てきたばかりで塊になっていた口づけ被害者さん達に向かって気を纏った正拳突きを2度放つ。
「セイッ」
ボ ボ
それによって発生させた風圧――拳圧?を受けて、全員がよろめいて転倒したり尻餅をついたりした。
《絶妙な力加減と判断ですね。合格です》
《っし》
デンドロビウムに褒められて片手で小さくガッツポーズをする燈湖。可愛い。
その間に、カンカンカンカンと駆け足で非常階段を登ってきていた2人分の足音が途切れる。どうやら着いたみたいね。
「とにかく足止めするよってうわっ!」
「段差で躓いた、んじゃないよね。全員が一斉に転ぶなんて……あっさやかちゃんあの人達!」
青髪ショートヘアのさやかちゃんはこの状況を見て驚き惑い、同じく驚きの顔をしつつも周りを見渡して冷静に分析して私達を見つける、いろはちゃんの髪色に似た桜髪ツインテールのまどかちゃん。それぞれの反応で、奇しくも2人の性格がある程度読めた感じね。
「あの格好、もしかして魔法少女?」
「格好もそうだけど。魔法少女以外に杖で空を飛ぶなんて出来る人いないだろうし、神浜の魔法少女だろうね」
ちなみにまどかちゃんの言った通り、私は杖に横乗りしたまま宙に浮いている状態だった。俯瞰風景から次の状況に備えていただけなんだけどね。
「……もしかして、あたしら急ぐ必要なかったり?」
「そんな事はありませんよ。何よりその人助けのために全力を出せる精神、敬意に値します」
燈湖が近寄りならがら、デンドロビウムモードで優しく語りかける。第一印象は大事。
「おぉぅ、大人な対応。カッコイイ……」
「あ、あのっ私達も魔法少女で、偶然魔女の口づけを受けている人を見かけて――」
「ええ、そうでしょうね。でもお話は後にしましょ」
「え? うわぁっ」
話を遮られて一瞬戸惑うまどかちゃんだけど、口づけ被害者の会は極力怪我をさせないように転倒させただけで、気絶した訳じゃない。全員が一斉にゾンビのようにゆらりとした緩慢な動きで立ち上がりはじめていた。
「操られているだけの一般人を、無闇に怪我させる訳にもいきませんからね。軽く足止めをしただけです」
デンドロ燈湖が簡単に状況説明をする。
「さて。最善なのは、口づけを受けている方全員を安全圏に退避させてから魔女討伐、ですが……口づけを受けて破滅衝動に操られている人数からして、すり抜けて落ちさせてしまうリスクがありますね」
「確かに。一斉に抵抗されでもしたら、何人かすり抜けられちゃうかも!」
「ふむ……」
考え込むように俯く燈湖。きっと脳は高速思考フル回転状態で、最もベターな選択肢を選出してるんでしょうね。
そうして考え込む仕草から、約2秒程後。
「……自己紹介は後回しです。青髪短髪のあなたは、体力に自信がお有りですね。あなたと私はここに残って、口づけを受けた方々の足止めを。ピンクツインテールのあなたは、赤髪長髪の彼女と一緒に魔女を倒してきて下さい」
即座に回答を導き出して全員に指示を出しつつ、操られている人達にさっと視線を走らせて早速有言実行する。
「おぉ……恐ろしく早い上に、なんという冷静で的確は判断力! さては歴戦のベテラン魔法少女!?」
「雑談も後です。各自作戦行動に移って下さい!」
「「はっはい!」」
少し強い声量で有無を言わさせない。見滝原の2人、契約したばかりの新人とまでは言わないけれど、雰囲気からしてまだまだ戦闘の素人感あるし。これくらい強く指示出しした方が早く動けると判断したのでしょうね。
「ん、了解。行くわよ、まどかちゃん」
「あっはい……えっ? なんで名前知って――」
まどかちゃんの問いには答えず、魔女結界前に杖から降り立って一度振り向いてから飛び込む。
時間は有限。燈湖とデンドロビウムに補助要員にさやかちゃんがいるから、万が一にも飛び降りはさせないだろうけど――そう告げたなら燈湖は「億が一には起こり得る」っていうでしょうしね。
ちなみに、いつもやっている「魔女結界前で手をかざしての魔力分析」は、女王様がソウルジェム状態のまますでにしてくれていたので、魔女の強さはだいたい把握済みだ。
というか、またいつの間にやら女王様の魔法の技量上がってるし……流石、花騎士界の魔法チートキャラよねー。
★ ▽
入ったらいきなり使い魔が襲いかかって来たから、瞬時にカトレアと代わって火炎球を連射してまどかの安全を確保して置く。
ま、いつもの結界前魔力探知で、待ち伏せされてるのは分かりきっていたけどね。今のカトレアじゃあ見逃しちゃうだろうけど。
《ありがと〜女王様〜》
「ん」
短く返答した直後、狙ったかのようにまどかが結界内に入って来た。
「ちょっと待、てうわぁっいきなり白!? けほっ」
……運悪く一番けぶってる場所に出ちゃったわね。ご愁傷様。
ま、とりあえず。入ってすぐの集団は倒したけど、少し離れた場所から使い魔の援軍が駆けつけてきているから、私は引き続き火炎球を放ち続ける。
で、まどかへの対応は――
《手が離せないから念話でごめんね、まどかちゃん。入ったらいきなり使い魔がわんさかいたのよ》
――期待通り、カトレアが念話でしてくれていた。
《……私も念話で失礼します、煙吸い込んじゃうので。それで、えっと……》
《さっきの緑髪ツインテールの彼女が言った通り、目の前の問題を解決して落ち着いた時点でお話しましょ? まぁ、それで気が散って魔女討伐に支障をきたしたら元も子もないから、一言だけ》
そこまで言ってから一呼吸置いて、まどかが煙から出てきてから、分かりやすい一言説明をする。
《ポ――今の陽友花ちゃんとは、友達よ》
《……! そういう事ですか……その……あっありがとうございます!》
《ん、どうも》
……何に対しての「ありがとう」なのかは分からないけど、とりあえず相槌を打つカトレア。ま、この娘が聡ければ、「今の」って言った時点で勘付いたでしょうけど。
今のミエヒユカ。つまりは記憶喪失のミエヒユカ――もとい、ポーチュラカから、自分たちの情報を得ていたってね。
△ ▼
見える範囲の使い魔全部を燃やし尽くしたら、また唐突に肉体主導権を返された。確かにさっきは助かったけど、相変わらず女王様は傍若無人よねー。慣れたけど。
「す、すごい……あんなに居たのに、神浜の魔女の使い魔を全部1人で倒しちゃうなんて……!」
「ふふん、このくらいは当然、朝飯前よ。私は世界に愛されてるからね。入ったらいきなり襲いかかられたし、流石に数が多かったから、少し疲れたけど」
「あー、さっきの煙の塊はそういう……待ち構えられてたって事ですか?」
「大量のご馳走を、食べようとした直前でお皿を引っ込められた状態だったでしょうしね。怒って襲いかかるのは当然よね」
ヴー ヴー
うん? 誰かからメールが……でもあれ? 電波が届かない魔女結界内で、メールの着信……?
《カトレア、優先順位》
《……そうね》
明らかに普通じゃないけど、まずは目の前の問題を片付けてからだ。
「私の名前はカトレアよ。話の続きはここの、集団身投げさせようとした悪趣味な魔女を倒してからね」
「はいっ頑張りましょう!」
最深部へは、割とあっさり着いた。というのも、入口に使い魔が大量に集まっていたのも理由のひとつでしょうけど、まどかちゃんがサーチアンドデストロイしていたからだ。
まどかちゃんの武器は魔力矢を精製して放つ弓なのだけど、結構な威力がある上にある程度のホーミング性もあって、ここの使い魔程度なら一撃で倒せるからだ。まぁ、それは私と女王様も出来るけど。
ただまぁ、やっぱり魔法少女歴は浅いっぽくて、何回か外しちゃってたけど。女王様の見立てでは、《潜在魔力はカトレア並みにありそうだけど、実践経験が足りないヒヨッコ》との事。
まぁそんな訳で。
「私がある程度削ってあげるから、トドメはまどかちゃんのマギアでやってちょうだい」
私でも良いけど、というか最初は私がささっと倒すつもりだったのだけど。
《マギアを見れば、より潜在魔力の程を見極められそうだしね。それに、同じ魔力矢を放ついろはとの相性も良さげだからね》
って女王様に言われたので、まどかちゃんにやってもらう事にした。ちょうどまどかちゃんの魔力もいい感じに溜まっているから、すぐにでも放てるはず。
「……マギアってなんですか?」
「えっ?」
……予想外の返答が返ってきた。
《もしかしてマギアって、魔女が平均して他所より強い神浜ならではのローカル技、なのかしら?》
《さあ? キョウコが普通に使ってたから、そうでもないと思うけど……》
《またはただ単に、まどかちゃんが魔法少女歴短いから教わってないって理由かしらね》
ま、今は時間もないし。端的に説明するとなると……
「魔力を溜めてから使う、一種の必殺技かしら。知り合いにそういうの使う娘、いたりしない?」
「必殺技……あっマミさんの「ティロ・フィナーレ」の事かな?」
また予想外の返答が……いや、確か巴マミは「見滝原の魔法少女」って自己紹介してた気がするし、知り合いの可能性はあったわね。燈湖はもう勘付いて、じゃないわね、調べてある程度知ってた可能性もあるか。まどかちゃん達に直接会って確かめるつもりで、私にはまだ伝えてなかったんでしょうね。
まぁそれもともかく。今は魔女討伐優先。
「多分それね。やった事ないなら、今回は私が――」
「いえ! 大技のやり方に関しては一応教わって練習してるので、多分行けます! やらせて下さい!」
ふむ、なかなか良い意気込みね。彼女にも独自の魔法少女としての矜持があるみたいね。
「なら頼んだわ。せっかくの縁だし、この魔女を倒した後に、いつくか神浜の魔法少女ならではの魔法技術を教えてあげるわ。じゃぁ行くわよ!」
「え、あっはい!」
一方的にそう告げて、私は最深部に突入した。
……ちなみに、使い魔の種類で気付いてはいたけど、今回の魔女は羊の魔女だった。何故だか遭遇率が一番高い魔女よねー、流石に偶然だろうけど。
☆
魔女は、予想通り強力だったまどかちゃんのマギアでアッサリ倒せた。ちょっと強めだったから私が先に削ったのだけど、あの威力ならそれも必要なかったかしらね。
「技量はまだまだ荒削りだけど、威力は十分ね。前衛のさやかちゃんが敵の動きを押さえ込んで、まどかちゃんがホーミング矢で削り倒す、て感じのスタイルかしら?」
「はいっそうなんです! ほむらちゃ――あ、さっき言ったマミさんともう1人、友達で先輩の魔法少女なんですけど」
消滅していく魔女結界の中、ドロップしたグリーフシードを拾いつつまどかちゃんと雑談する。うん、メールの文面からも読み取れてたけど、やっぱりこの娘、いろはちゃん並みに良い子だわ。髪色と性格って似るのかしら?
「終わりましたか。思ったより早かったですね」
「ええ、まどかちゃんが強かったお陰でね」
「そんなっ私なんてまだまだです!」
「こらこら、謙遜し過ぎるとイヤミに聞こえるぞ〜。ほむらとマミ先輩だって、「火力はメンバーでもピカイチ」って言われてるじゃない!」
さやかちゃんの方も、メールの印象通りの快活な性格……あ。メールといえば、さっきの魔女結界内で、鳴るはずのないメール通知が来てたのよね……
「ちょっと失礼するわよ」
みんなに一言断ってから、メールを確認する。
『どうか助けてくれませんか?』
……宛先・差出人・件名欄が文字化けしていて、この一文のみが書かれている怪しさ満載なメールだった。
こういうのは普段なら、十中八九迷惑メール系だから、放置安定&即削除、なんだけど……
「うーん」
「どうかしましたか? 面白い文面のスパムメールでも届きましたか?」
「文面は面白くもなんともない、ていうよりホラー系、かしら」
「どれどれ……うわ、都市伝説ホラーの導入っぽい」
言い得て妙ね……噂は言いかえれば都市伝説のようなモノだし。
そう。このメールから、「ミザリーウォーターのウワサ」の時に降ってきた紙に似た魔力を微かに、あっちよりもさらに微弱だけど感じるのだ。
「……これ多分、「電波少女のウワサ」関連よ」
私事他で色々と忙しいので、次回投稿予定は2月7日(火)の予定になります。