「改めて考えると、お説教やお小言は何度かしたが、お主との手合わせはこれが初めてじゃの」
「アッハハハッザッツライ! バット、コレ手合わせじゃなくて殺し合いなんだヨネ。オミッションしたら許さないカラ!」
「まぁそう言うでない。わっちはお説教が目的で来たのじゃ、死んでしもうては会話は出来ぬ。手加減せぬと殺してしまいかねんからの、そこは許せ」
「……言うじゃない。だから気に入ったんだヨネ、エルダーガールゥ!!」
アリナの咆哮と共に、攻撃が更に激しくなった。まったく、若さゆえの前のめりは結構じゃが、相変わらず加減を理解出来ぬ娘じゃ。
……そんな色々と危う過ぎる娘だからこそ、放って置けぬのじゃがの。放った瞬間己の芸術へと
(死に急ぐなどわっちが許さぬぞ、アリナ)
「アッハハァ! アリナと楽しい楽しいダンスを踊ってヨネ!」
さて。ここまでカトレア殿達から引き離すように動きつつ防御に徹しておったが、そろそろ攻めに転じるとするかの!
☆
ギィン! ガギィン!
「はあっ! 何よ、風の噂で力が衰えて来てるって聞いたんだけどっ? 更に磨きがかかってるじゃないのっ!」
「衰えは感じていますよ。でも、ふうっ! 精神の支えと覚悟があればっ技量を磨く事で戦闘能力はまだ上げられますっ! やあ!」
「くっしま――」
「させませんよ」
「ぐっ! ……ああんもうっ! やり辛いったらないですね!」
みふゆさんのバレエのような優雅な体捌きによって繰り出された大型チャクラムに槍を打ち上げられ隙を晒すやちよさん――に次撃が入る前に、華砕拳・弱で彼女を軽く吹き飛ばす。さっきから似たような攻防が何度かあったせいか、基本穏やかな気質のみふゆさんも流石にイラついていますね。
彼女の得物はポーチュラカさんのものに似た巨大なチャクラムですが、2人のバトルスタイルはかなり違います。彼女がバレリーナのような動きなら、ポーチュラカさんはサーカスの曲芸師を思わせるものです。
《1人抜けた、ウワサ結界方面だ》
《了解です》
ボッ!
「ぐあっ!? な、何で、気付い、て……がくり」
一方私達は、ポーチュラカさんとさやかさんとで抑えている羽根達がすり抜けて来た瞬間、トウコさんの指示方向と気配とで目視せずに華砕拳・弱を放ち、羽根の1人を無力化します。実質、私がやちよさんの、トウコさんがポーさやコンビのサポートをしている形になっていますね。
「くっ、もう引くべきでしょうか……けれどアリナだけは、何とか連れ帰りたいところですが……」
引き際を見計らいだしたようで、みふゆさんはこちらを警戒しつつ何やらぶつぶつと呟いています。
ふむ、覚悟完了であまり隙がありませんでしたが。膠着状態から抜け出せない事に気を散らし始めた今なら、やちよさんへのフォローは不要でしょう。
それよりも。
《高めの魔力反応接近。どうやら下にいた笛姉妹が救援に来たようだぜ》
《そのようで。あの2人の参戦は厄介なので、私が対応します》
伸されて近くに倒れていた黒羽根の衣装を手早く剥ぎ取り羽織ったと同時、
「みふゆさん! アドレスは無事消せた――」
「……どうやら、既に手遅れでございましたか」
双子姉妹が魔法少女に変身状態で姿を表しました。黒羽根の格好で気付かれていませんが、魔力反応ですぐに気付かれるでしょう。
「っ! 彼女の姿がない! 2人とも警戒し――」
ギイィン!!
「づっ……やっちゃん……!」
「世話焼きな所は相変わらずで嬉しいけれど、隙だらけよ」
双子姉妹に気を取られた瞬間にチャクラムを弾き飛ばし、槍を突き付けるやちよさん。流石です。
「七海やちよぉ! みふゆさんから離れて――」
「っ!? 月咲ちゃんっすぐ近くに花の騎士様の魔力反応が――」
そう警戒を促しますが、気付くのがほんの少し遅かったですね。既に至近距離、気も溜め済み、からの震脚!
ドゴッ!
「「きゃああっ!?」」
「さあ、潰えなさい」
からの!
「華砕拳・零式!」
パアン!!
「「うああっっ!!」」
「あ、天音さん!」
気の拳によるアッパーにて、2人まとめて天高くかち上げる。既に意識を刈り取られていた2人は、
グシャッ!
なすすべなく地に叩きつけられ、人体が嫌な音を立てました。骨の一本くらいは折れてしまいましたかね。
「私に0.1秒でも隙を見せた時点で、決まりきった結果ですね」
《えげつねえなぁ……黒いボディに真っ赤な目のヒーローかよ》
よくわからない例えですが、一応尊敬の念らしき感情をトウコさんから伝わるので、喜んで下さっているようですね。
「一応手加減はしましたし、ソウルジェムは無事です。死ななければ安いものです、みふゆさんは彼女達の手当てをしてあげて下さい」
「……はぁ……あなた……デンドロビウムさんは、読めない方ですね。敵なのか味方なのか……」
「無抵抗の敗者を痛ぶる趣味などないだけです。まだ噛みついてくるなら、その限りではありませんが」
さて。みふゆさんとの決着は着きましたし、ポーさやさん達も羽根達を粗方無力化出来たようですし。
《ここは3人に任せて、シロタエギクさんの様子を見に行きましょうか》
《だな》
次の行動について手早くトウコさんと取り決め、すぐに歩き出し
――ズアッ!!
『!!』
た所で、唐突に強力な魔女の気配が現れたと思った瞬間、私達と未だ近くにいたやちよさん、みふゆさんが魔女結界に取り込まれました。
「……最悪。この魔女結界、「子守の魔女」のものだわ」
「私達は初遭遇の魔女ですね。魔力からしてかなり成長しているのは感じますが、最悪とは?」
「見た目やら声やらがね……とにかく胸糞悪くなるのよ。あまり説明したくない程にね。私も遭遇率は低いけど、一応神浜の魔女よ」
「胸糞悪くなるアリナさんが育てていた魔女、ですか 」
《アリナの感性からして、生命に対して侮辱的なモノを象徴するような魔女だろうな》
「……そうですね。確かこの魔女は、最近アリナが育てていたお気に入りの魔女だったはずです。けれどデンドロビウムさん、何故アリナが魔女を育てていると知っているんですか?」
「それはまあ、シロタエギクさんが知っていたので」
「今アリナと戦っている彼女ですか」
「そんなことより、どうする? 育てていると言ったって、アリナ・グレイは魔女を操れるような固有魔法持ちじゃないんでしょう?」
「……。流石に、この強力な魔女を解き放ったのは看過出来ません。今は敵同士な上に、身内の暴走の始末を手伝って貰うのは、正直身勝手だとは承知してますけど……」
「相手は魔女です。敵の敵は味方、などと言える存在ではないのですから、共闘する事も時にはあり得るでしょう」
「それに、これだけ成長した魔女じゃあ、アリナ・グレイもシロタエギクさんも危険だわ。それこそ、あの時の砂場の魔女の惨劇が起きても不思議じゃ……こほんっ。ともかく。放置するのは魔法少女として、神浜の顔役としてあり得ない選択だわ」
「……やっちゃんは、やっぱり強いわね。ワタシにもその強さがあれば……いえ。今はとにかく魔女を――」
今は手を組むということで結論が出た所で、
――ゾアッ!
またしても、禍々しく強力な魔力反応。しかしこれは、この魔力反応は……
「また魔女!? 2体も解き放ったっていうの!? アリナ・グレイ、頭おかしいんじゃないの!?」
「それに関しては、否定し辛いですけど……この魔力反応は、多分魔女ではないわ」
《……多分シロタエギク、アリナの所業と子守の魔女のせいで、色んな意味でキレたな》
「そうですね……この魔力は多分、シロタエギクさんが発現したドッペルのモノです」
「え!?」
「やはり、そうですか……」
★
アリナが解放した魔女とその使い魔、更にはアリナからの攻撃を捌きつつ会話する。
「この
「……なんという……アリナ、お主が結界内で魔女を育てるのは、条件付きで百歩譲って容認した。じゃがこの成長の程……お主、また罪なき人を餌にしおったな!?」
わっちが花騎士魔法少女になった直後に倒した、通称「獄門の魔女」じゃが。アリナの行動が怪しかったから神浜の店に来店した折に問い詰めたら、一般人を餌にして成長させた魔女だと白状した。
絶対にやめるようにお説教したのじゃが、アリナは固有魔法で生成した自身の結界内で魔女を育てる趣味をやめる気は全くないと宣ったので、餌を他の弱い魔女にする事で一応は許可したのじゃが……魔女にとっての一番の栄養は、人間の負の感情じゃ。ここまで強力に成長しておると言うことはつまり――
「ン〜? 約束通り、もう一般人はフードにしてないヨ? 魔法少女はしたケドネ?」
「馬鹿を言うでない、魔法少女とて人間じゃ!」
「もっとクリエイティブに考えてよ、エルダーガール。魔法少女はいずれ魔女になるんだから、遅いか早いかってだけだヨネ?」
「魔法少女はまだ人間じゃ! つべこべつべこべと屁理屈を並べおってからに! なにゆえごめんなさいと言えぬのじゃ!」
「アッハハ! 本気で怒ったエルダーガールの顔もステキ……! 今すぐ写真かスケッチしたぁい……!」
「アリナァ……!」
さっきからイライラが収まらん。アリナの所業もそうじゃが、同じくらいにイラつかせるのは、この魔女じゃ! 獄門の魔女への嫌悪感に勝るとも劣らぬ、不快極まりない赤子のような声を発する魔女。この特徴からして、元となった魔法少女を想うと、どうしても負の感情が溢れ出てしまう。
(いかんのぅ、完全にアリナにペースを握られてしもうた……とでも思っておるのじゃろうが。甘いぞ、アリナ!)
この世界で人間として、スプリングガーデンで花騎士として。長生きしたが故に、様々な悲劇・惨劇をこの目で目撃してきた。
この世界では、戦争ゆえに父と、夫と引き離され、ついには帰って来なかった家族の絶望。
それは向こうでも同じ。害虫により、子を奪われた母親の嘆き。男故に花騎士になれず、子と妻を喪失した父の悲しみ。己の弱さ、未熟さ故に友を、戦友を目の前で害虫に蹂躙された花騎士の怒りと後悔。
(それに比べればこの程度。心乱されてなどやらぬぞ、アリナ)
むしろ――それは悪手と言うものじゃ!
ガッ
「お主のその驕り高ぶり、正面から斬り裂いてやろうぞ!」
髪飾りから引きちぎる様に手に取り、少し濁り始めたソウルジェムを掲げ、アリナに見せつける。
「何をしようっていうのカナ〜」
「こうしようと言うのじゃ!」
これまで長年白菊妙として、シロタエギクとして見てきた絶望――見る事しか出来なかった時の無力。それらを一気に思い出そうとすれば。
――ズズ……!
ソウルジェムはあっという間にドス黒く濁り、いつでも魔女に――ドッペルを発現出来る状態になった。
「な! エルダーガール、フラワーナイトガールのアプリは!?」
「スマホの電源は、今は落としてある。勝手に浄化して、なかなかドッペルを発動出来んからの。さて、初めてじゃからの、上手く発現してくれると良いが」
「……クレイジー! 命の価値を誰よりも重く見ているエルダーガールが、そんな手段取るなんて……!」
珍しく、アリナが狼狽しておる。わっちが進んでドッペルを発現させようなどとは予想しておらんかったようじゃな。
「何を言うておる。わっちをマギウスに勧誘したのも、ドッペルについて教えてくれたのも、アリナが最初じゃろう?」
そうじゃ。わっちは花騎士魔法少女の会合で聞かされる前より、彼女達よりドッペルに詳しいアリナから、既にその存在どころか詳しい発現条件を聞いていたのじゃ。
「アリナとしては、わっちにドッペルを使って欲しくなくて教えたのじゃろう? 芸術狂いのように振る舞おうと――お主が親しき者を大切に思える優しさを根底に秘めている事を、わっちは知っておるよ」
勧誘したのもドッペルについて教えたのも――それを使わせない為。まだ不確定要素の残るドッペルを発現しようとして失敗し、魔女になって欲しくなかったから。共にドッペルについて研究し、ドッペルの安全性を高めたかったからじゃろうの。ほんに、優しい娘じゃ。
故に。
「わっちはアリナの事を信用しておるし、信頼もしておる。じゃから――躊躇なく切り札を切れる。友であるわっちが、お主の暴走を抑える!」
更に強く絶望を思い出し――臨界点を超えたわっちのソウルジェムから、禍々しい魔力と穢れが溢れ出し、カタチを成す。
溢れた穢れはわっちの髪と同化し、輝く白銀の植物(一部葉が黒ずんで枯れたかのように変色しておるが)のようになり巨大化する。更にはどこか不気味さを感じる黄金に輝く菊花をいくつも咲かせ、わっちがその伸びた花芽の茎にしがみいた所で、形成は完了する。
それはまさしく、異常に巨大化した植物のシロタエギクの如く。異界に咲くシロタエギク、という形状じゃった。
「さあ、お説教の時間じゃ!」
ウゾウゾと蠢いた巨大シロタエギクのようなドッペルの花が一気に茶色く変色し、大量の花弁が舞い落ち、中空で静止して剣のように変形する。
照準をアリナと魔女、ついでに近くにいた魔女の使い魔に定め、いつも生み出している浮遊剣とは違い暗く輝くそれらを一斉に解き放った。
次回投稿予定は、8月27日です。
※連日暑過ぎて心身共にボドボドで、全然描けておりません。ので、自壊投稿は9月7日になります。一応間に合うように頑張って半分くらいは描けたので、次回投稿日は確定です。何にしても延期して本当に申し訳ない。
なんもかんも暑いのと面白いネット小説が多すぎるのが悪い。時間がない!