「ここが、アイさんとさなちゃんがいる所……」
「これがウワサ結界ってやつなの? なんか、電脳世界に入り込んじゃったみたいだね……」
「「人工知能のウワサ」だからかしらね。近未来的な感じだわ」
突入前に一悶着(主に私のイタズラのせいだけど)あったけど、無事?にウワサ結界内に入れた私達。
にしても、前のウワサ結界と毛色がちょっと違うわね。某動画サイトのコメントみたいなのが飛び交っていたのだけど――
「えっと。基本的には、魔女と使い魔に対するのと同じ感じで戦えばいいんだっけ?」
「そうよ。って、あら?」
アイは私達の味方側と言っていいから、その結界も穏やかなのかと思ってたら、急に覆い被さるように別の力場が展開され、見慣れて来た感のある中空にコメが飛び交うウワサ結界になっていた。どうやら入った直後の空間はウワサ結界じゃなくて、「ひとりぼっちの最果て」空間とでも言うべき場所だったようね。
「女王様、これって……!」
「ええ。まどか、さっきまでの場所はエントランスみたいなもので、ここからが本番よ。気を引き締めなさい」
「う、うんっわかった!」
さて。アイは友好的だけれど、使い魔の方はどうなのかしら。同じく友好的だと楽なのだけど……と考えていたら、早速お出ましね。
|〒くぉえるんメェ〜う!!|
紙飛行機にヤギの頭蓋骨みたいなのがぶら下がった編隊が、私達に突貫して来た。
――ボボボーボ!!
とりあえず燃やす。
「……普通に攻撃して来たわね。はぁ、面倒臭い」
《所詮は使い魔ってとこかしら。ただ単に報連相がなってないだけかもだけど》
火炎弾でササッと燃やし尽くすと、奥から第二波が来ていた。まったく、アイは何してるのよ。
「いろはにまどか、上手く連携して次のを倒して見せて」
「はいっ! 頑張ろう、まどかちゃん!」
「うん、よろしくねいろはちゃん!」
私の指示に即返事して、まどかと共に向かってくるアイの使い魔を次々撃ち落としていく。第二波は結構な数がいたけど、2人の射撃で見る見る数を減らしていった。いろはも再会した当初に比べて雲泥の差と言えるくらいに強くなったけど、やっぱりまどか、強いわ。
とはいえ私からすれば、どっちもまだまだ荒削りではあるけどね。何にしても弓と弩、予想通り相性かなり良いわ。うんうん……ちょっとだけまどかに嫉妬したのは秘密だ。
《……これもしかして、アイはすでにマギウマに暴走させられちゃってるのかしら?》
「んー……いえ。単に
《え? ……あーほんとね。この魔力波長、メールから僅かに感じたヤツだわ》
2人が第二波を8割方倒した辺りで、
〉みんなやめて
〉その人達は私が招待しました、危害を加えないで
どこか人口音声を思わせる懇願の声が響くと同時、紙飛行機使い魔達はピタリと動きを止め、どこかへ飛び去って行った。
「この声……アイさん?」
〉はい、初めまして環 いろはさん。私がアイです
私達が魔力感知で顔を向けていた場所の空間が歪み、人型の巨影が具現化した。その姿は、顔だけマネキンのような無表情、髪も肌も緑がかったワンピース姿の巨大な少女。身体の所々がホログラムのように時々揺らめいている姿から、いかにも電子の少女と言った印象ね。
〉そして彼女が……
言いつつ後ろを振り返ると、そこにはウェーブのかかった髪をツインにした、水名女学園の制服を着た気弱そうな雰囲気の少女が、呆然とした表情で佇んでいた。
「アイちゃん、この人達、誰……?」
「あなたが、さなちゃん……?」
「でしょうね。まなかから聞いてた特徴とも一致してるもの」
「え……私が見える? あ、そういえば、魔法少女には私の魔法の効果薄いんだっけ。それに、まなかってもしかして……」
ふむ。反応からして、固有魔法が「透明化」なのも情報通り見たいね。魔法効果も、エノテラと同じく魔法少女相手にはほぼ無効、と。
まぁ、エノテラの場合は固有魔法と言うより願いが正しく叶っただけだから、さなと違うのでしょうけど。全力で透明化されたら、多分私でもさなが魔力切れになるまで目視できなくなるはず。固有魔法とは、そう言うモノだから。
「もしかして、まなかさんもマギウマの翼に……?」
「違うわ。私達はまなかの知り合いで、あなたの事を聞いて来ただけよ」
「そうなんだよ。まなかちゃんも私達も、マギウスの翼じゃない普通の魔法少女だよ」
《……まぁ、私と女王様はあんまり普通じゃないけど》
「こらカトレア、変な茶々入れないの」
「状況がよくわからないけど……マギウマの翼じゃないなら、あなた達は何をしに来たの?」
「それはもちろん、さなちゃんに会いに来たんだよ! ね、いろはちゃん!」
「うん。私達……どちらかというと、私のワガママかな。私ね、さなちゃんを迎えに来たんだよ」
「私を、迎えに……?」
突然知らない少女から迎えに来たと言われ、目を泳がせて戸惑うさな。ま、当然の反応よね。
〉…………さな。そろそろこの関係を終わりにしましょう
〉あなたを見つけてくれる人が――見てくれる人達が来ました
〉今が、私の所を離れる時です
「え……アイちゃん、何言ってるの……? 私が居なくなっても構わないってこと……?」
〉……最近、ずっと考えていました
〉私は作られた存在――いつか消える人工知能
〉人といつまでも共に居る事は出来ないモノ
〉さなは人です。人は、人と共に居るべきなんです
「……どうしてそんなこと言うの? 私の事、嫌いになったの……? あんなに仲良く一緒に過ごせてたのに……」
なんかちょっとヤンデ……げふんっ。花騎士ラベンダーみたいな事を言い出したわね。まぁ、表情も雰囲気も普通に悲しげなだけだけど。
ラベンダー、か。彼女とは、私とオンシジュームが受けた任務に同行したのが出会いのキッカケだったわね。ま、あの娘は
《……女王様、なんか別の事考えてない?》
《っと、いけないいけない》
そんな事より今はさなだ。
〉さなは色んな事を、沢山私に教えてくれた
〉特にさなは、人工知能である私に――優しさを教えてくれた
〉だから――私はさなが、大好きですよ
〉ですがだからこそ――さなを手放そうと思いました
〉優しいさなは、ここでマギウマの翼がしている事に苦悩していましたね
〉私は、さながこれ以上苦しい思いをするのを見ていたくはないのです
〉だから――いろはさん達と一緒の場所に行ってください
「一緒に行こう、さなちゃん」
と、ここまで優しい眼差しで静観していたいろはが前に出る。
「私も、さなちゃん程の孤独感を味わった事はないけど……クラスに全然馴染めなくって、疎外感を覚えてた事があるの……でも」
ちら、と私を――私とカトレアを見てから、続ける。
「でもね。最近は、魔法少女の仲間が――親友が出来てから、前の自分が嘘だって思えるくらい自然に楽しく過ごせてるの」
……。あれ、これってノロケ話って言わない? しかも私達といろはとの…………今は考えるのをやめときましょ。勝手に顔赤くなる。
「さなちゃんだって、まなかちゃんっていう魔法少女の友達がいるでしょ? まなかちゃん、さなちゃんの事心配してたんだよ?」
「……!」
「だからね、さなちゃんだって一歩外に歩み出すだけで、上手くやっていけるって私は思うんだ」
「私、は……」
「それにね。私達、マギウスの翼を探ってるの」
「え……そう、なんですか……? でもマギウスの翼は、マギウスは、とっても危険な人達なんです……アイちゃんは優しい子だけど……」
「うん、知ってるよ。魔法少女だけじゃなくて、一般の人も襲っているから、さなちゃんはそれを知って苦しんでたんだよね? だから、さなちゃんがマギウスの翼を危険視してるなら、私達と手を取り合えば対抗手段が増えるよ?」
「…………」
「さなちゃんさえ良ければ、一緒に来て戦おう? 魔法少女として……友達として! さなちゃんに、私を必要として欲しい……そして、私はさなちゃんを必要としたい」
「――!!」
いろはの説得に、驚きと喜びが混じったような表情になるさな。
《女王様……絆されちゃってる私が言うのもなんだけど。いろはちゃんって、天然の人たらしよね》
《……ノーコメで》
あえて何も返さない。だって多分、いろはが天然の人たらしになり始めたの、絶対私達が友達になってからだろうし……はぁ、世界に愛され過ぎてる自分が怖いわ。
「で、でも、私がいなくなったら、アイちゃんは……」
〉……ここに誰もいなくなれば、存在理由のなくなった私はいずれ暴走するでしょう
〉それに、すでにマギウスの翼の最高幹部――マギウスが動いています
〉遅かれ早かれ、私は暴走の後、自壊するでしょう
「そ、そんな……」
〉だから――それならばせめて。大好きなさなに、最後を看取って欲しい
〉それが――私からさなへの、最初で最後のワガママです
〉どうか、叶えて……さなが、さなに、私を消して欲しい
「アイちゃん……それがアイちゃんのお願いなら、私は……!」
アイに近寄りつつ、魔法少女に変身するさな。覚悟を決めたようね……暴走した時の保険として私が同行したけれど、この様子なら不要だったかし――
「……勝手に自殺されるのは、困る。せめて最後に一花咲かせてくれないと、創った甲斐がないじゃないか」
「「!?」」
ウワサ結界内全体に唐突に響いた少女の声に、アイを含めた全員が驚愕で身構える。
「そんな……この私が気付かないなんて……!」
《ど、どう言う事? 私も感知出来てないけど、まさか女王様も?》
「……ええ。この声の主の魔力反応、感知出来ない!」
アイを創ったと言う事は、つまりはウワサを創った張本人と言う事。それ程強力な魔法少女の魔力を感知出来ないなんて……間違いなく最高幹部、マギウスの1人!
「……ああ、キミが件の花騎士魔法少女、カトレアだね。魔力感知に自信ありなのは聞いていたけど……その感知能力の高さこそ、僕の魔力を感知出来ない原因だよ」
「どう言う事よ!」
「……さてね。ヒントは出したんだから、僕としては存分に推理して、見事正解を引き当てて欲しい所だね」
「言ってくれるじゃない……!」
「……この声に喋り方、それに一人称……まさかあなたは!」
煽られてイラついていた私は気付かなかったけど。いろはは、相手の正体に勘付いたみたいだった。
「それよりも。創造主に反逆するという事は、死ぬと言う事だ。アダムとイブから続く、避けようのない罪の歴史。残念だよ……さようなら。名無しの人工知能のウワサ」
「ねえ待って! あなた、ねむちゃんでしょ!?」
いろはの呼びかけを無視したのか聞こえていなかったのか。そう言い残し、声の主の気配が完全に消えた。
《あーんもぅっ! 私を出し抜くなんて、流石は最高幹部ってところかしら!?》
《落ち着いて女王様! 気持ちは痛い程伝わって来るからわかるけど!》
《……そうね。このイライラ、余さずまとめてぶつけるわ!》
カトレアにそう宣言して、私はアイに視線を向ける、と
〉|ガ、ンガグ、グ|
「アイちゃん!?」
アイの姿が歪みに歪み、バグったように身体が崩壊と再生を繰り返していた。どうやら声の主は置き土産として、アイを暴走させて行ったらしい。
〉|ママダ、耐エラレママス|
〉|早ク私ヲケ、ケケ消シテ|
「アイちゃん……!」
「酷い……こんな別れ方ってないよ!」
「まどか、アイも言ってたけど、遅かれ早かれこうなっていたのよ。なら望み通り、早く消してあげるのが優しさよ……今回は、ね」
「そう、ですね……」
「でも! フタバさな!」
「は、はいぃ!?」
「あなたが大好きなアイは、あなたを大好きなさなに最後を看取って欲しいと言ったわ。攻撃は全員でするけれど――介錯は、あなたの役目よ。いいわね?」
「……はい……アイちゃん。今まで一緒にいてくれて、私を必要としてくれて、とっても嬉しかった! ありがとう、アイちゃんっ!」
こうして、ウワサ戦の中でも最悪な気分で、最高に後味の悪い戦いが始まった。
《なぁにがアダムとイブよ、鼻につくったらないわ。自分で生み出しといて、思う通りに動かなくなった途端殺処分だなんて! ムカつくったらないわ!》
《同感ね。ま、元よりアイから私は火力を見込まれてた訳だし。思いっきりブッ放すわよ、カトレア!》
次回投稿予定は、9月27日(水)になります。