燈湖が自罰的な独白をするという珍事があったのはともかく。今回の話し合いで出た答えは、シンプルなものだ。
「ソウルジェムの魔力を使うと穢れが溜まるなら、極力使わなきゃいい。これまで通り、いや、これまで以上にな」
「よね」
戦闘時に使うのは、私はカトレアの魔力、燈湖はデンドロビウムの気力、それにプラスして、世界花の加護。要するに、花騎士として戦えば良いのだ。
私達花騎士系魔法少女にしか出来ない方法だから、このみさん達にはちょっと申し訳ないけど……自分自身の安全を確保出来ていない状態であれもこれもと追い求めては、二兎を追う者は一兎をも得ず、になってしまいかねない。
燈湖は天才肌でなんでも人並み以上にこなせるけど、さすがにそこまで器用じゃない……はずだし、私は言わずもがな。大人しく目の前の問題から解決しましょ。
「ちょいと気になってたんだが」
と、ここで為次郎さんの意見が入る。
「さっきから「いかに穢れをためないか」を話していたがな。世界花には、花騎士に加護を与える以外にも能力があっただろ?」
「加護以外? ……そうか、浄化の力か!」
《なるほど、それは盲点でした。溜めない事ばかりに視点が行ってしまっていましたね》
「どういうこと?」
《世界花の害虫毒を浄化する力で、ソウルジェムの穢れを浄化出来るかもってことよ》
「……ああ! なるほど、そっか!」
というわけで。ちょうど燈湖のソウルジェムが少し濁っているので、さっそく試してみる。
ソウルジェムにグリーフシードを押し当てる感じで、燈湖がスマホに押し当てる。
「おー、減ってく減ってく……電池が」
《グリーフシードに比べればかなり遅いですが、浄化は進んでいるようですね。ただ……》
「ああ、電池の消費スピードがエゲツねぇな……」
見る見る内に電池が減っていく。大体2、3秒に1%くらいのハイペースだ。
まだ少し濁っているけど、途中でスマホから離す。時間はかかるし電池の消費は早いしで、世界花の加護で戦闘する以上に燃費が悪い。
「ついでに親父のでも試してみるか」
「ほれ、使え」
為次郎さんが自分のスマホを燈湖に投げ渡す。同じく花騎士アプリが入っているけれど、果たして……
「……電池に変動なし、穢れも変わりなし。白ダヌキと契約した時にアタシらが持ってたスマホでないとダメなのかもな」
その後さらに私のスマホでも浄化チャレンジすると、燈湖のスマホと同じく浄化が始まった。燈湖が言った説で合っていそうだ。
なんにしても。
「うーん……実用的とは言えないわよね」
「だな」
とはいえ、グリーフシード以外の浄化手段の発見はかなり大きい。けれど、大量に充電器を持ち歩くのも邪魔になるし、経費も馬鹿にならない。それに、この消費量だとスマホのバッテリーの劣化が超スピードだろうから、火を吹かないか心配だ。
他の検証として、為次郎さんが燈湖に新しいスマホを用意して、それに燈湖が花騎士アプリを入れたらどうなるか、という話になった。まあ今日はもう遅いし、後日になるけど。
「そうだ、このみさんにも試してもらわない?」
「浄化をか? あー、どうだろうな。アタシの予想では、花騎士魔法少女のソウルジェムじゃねぇと無理な気がしてるんだが」
「このみさん花が大好きだから、世界花が特別にやってくれるかもしれないじゃない」
《どうでしょうか。ナズナさんのように、花騎士になりたくても加護を受ける適正がなかった人もいますし……》
《まあ、物は試しっていうし、やる前から否定することもないじゃない》
☆
ということで、後日の魔女退治後。
「んー、ちょっと濁ってきた。それで……カトレアちゃんのスマホに押し当ててみればいいの?」
《そうそう、いつもグリーフシードでやってる感覚でね》
……たっぷり30秒程当てたけど、特に何も起きなかった。
「……ダメっぽいかな」
「じゃ、ついでにこっちも」
まだ大して穢れが溜まってはいない
《あ〜、スッキリ爽やか〜……》
「浄化出来てるみたいね。となるとやっぱり、花騎士でないとダメってことね」
「うーん、残念だけど仕方ないね」
まあ、何事もそう都合よくはいかないものよね。
ちなみに。
「新しいスマホでも、ミニ世界花に出来るみたいだぜ」
トウコは今日は、普段使いを家に置いて、新しく買ってもらったスマホを持ち歩いている。それによる検証結果は今言った通り、成功らしい。
《トウコさん自らが花騎士のアプリを入れると、世界花に繋がるようになるようですね》
「あと、花騎士を快適にプレイ出来るスペックも必要みたいだぜ。古い型の中古スマホだとダメだった」
他にも色々試していたみたいね……カトレアからも聞いてたけど、トウコはほんと慎重ねぇ……カトレアが絡むと、余計に。
☆
そんなこんなで色々と検証を重ねること一週間後。今日はお母さんの診察のために、お母さんに付き添って里見メディカルセンターに来ていた。
奇跡で治りはしたけど、普通の人からは奇跡ではなく「奇跡的に」だから、経過が順調かどうか定期的に検査しなければならない。そして私は、検査中に何かあった場合に備えて院内にいなければならない。
色々と検査を受けるので、その間私は手持ち無沙汰になる。スマホをいじって暇潰ししててもいいけれど……
《この世界の病院、他の施設に比べても特に綺麗ねー》
……女王様が興味津々なので、院内を軽く見学することにした。
《色々な設備があるのね……魔法を使える人間が少ない分、医療技術は特に進んでいるみたいね》
《そうかもね。でも、スプリングガーデンも異世界にしては発達してる方な気がするけど》
《まあ、年中害虫と戦っている世界だもの。発達してなかったら、とっくの昔に滅びていたかもしれないわ》
《そっか、なるほど》
念話で雑談しながら院内を見て歩く。
しかし、こうやってウロウロしてみると、今まで目に留まらなかったことや気づかなかったことを発見出来て、意外と楽しい。病院内を見て楽しい気分になるのも若干不謹慎な気はするけど。
「へえ、院内学級なんてものがあるんだ」
そうして歩いている内に、そんなものを発見した。
扉が開いていたので、ちょっと中を覗かせてもらうと、
「くふっ、お姉さまのアップルパイは、ベータ・スクルプトーリスなんだにゃー」
「また一般的に伝わらない例えを使う。それで意味は自分で調べろは、聴き手にとって不親切だと僕は思うよ」
「まあまあ、灯花ちゃんは多分褒め言葉を言ってるんだろうし」
「ふふっ、ありがとう灯花ちゃん」
小生意気な雰囲気の子、眼鏡の文学少女っぽい子、苦笑いで仲裁する純粋そうな子。それと、神浜では見かけない制服を着た、年上らしき子の4人が目に留まる。制服の子はお見舞いかしら。
《あの子達、明るく振る舞ってはいるけど。特に桜色の髪の子……》
《……そうね》
みなまで言わなくてもわかる。お母さんが入院していた時、あんな顔色の入院患者さんを何人か見かけたことがあるから。
はっきり言ってしまうと……あの子は多分、先が長くない。
「じゃあ、また来るから。3人とも、仲良く安静に、だよ」
少し考え込んでいたら、制服の子がこちらに来た。退出の邪魔にならないよう壁に寄る。
「……?」
出てきたところで、ばっちり目が合う。別に何も悪いことはしていないけど、なんとなく気まずい。
「あ、すいません、騒がしかったですか?」
「いえ、ちょっと通りかかっただけだから」
……なんとなく、彼女の指に目が行く。指輪形態のソウルジェムがないかをつい無意識に確認した結果だけど……ない、か。
《……女王様、まだ魔法少女になっていない子の素質とか、わかったりする?》
《魔力持ちなら気づくだろうけど、魔法少女の素質持ちかは多分わからないわね。なに、この子が気になるの?》
《まあなんとなく、ね。素質があったら、多分あの子たちの病気を癒す願いをするんだろうな、て思ったのよ》
「あの……私の手に、なにか?」
「え? あーいえ、なんでもないわ。あの桜色の髪の子は妹さんかな、と思っただけよ」
「あ、はい、そうなんです」
笑顔だけど……どこか痛々しく感じるのは、私が経験したことのある痛みをこの娘も感じているから、だろうか。
……入院中の、失意に沈んだお母さんを思い出す。
お母さんは、奇跡によって治った。なら彼女たちの病も、キュゥべえに願えば癒せるのだろう。
魔法少女なんてお勧め出来ない。ちょっと見かけただけの娘だけど、出来れば酷い目になんて合って欲しくはない。
それでも。このみさんが祈り、キュゥべえが叶えたおかげでお母さんの病気が治ったのは事実だ。祈りの結果、残酷な運命の波に飲み込まれるのだとしても、奇跡は奇跡なのだ。
素質があるかもわからないし、お勧めもしない。けれど、余計なお節介かもしれないけど、ちょっとだけ……
「……奇跡って、意外と身近にあるものよ」
「え?」
「私のお母さんね、難病でこの病院に入院してたのよ。でも、なぜか奇跡的に治ったから……だから、奇跡を願うのは、間違いじゃないと思うわよ」
「っ!」
泣きそうな顔になる、名も知らぬ少女。やっぱり余計なお節介よね。無責任に希望を抱かせただけかもしれない。
「うん……うん。そう、ですよね……!」
でも、彼女は笑顔でそう返した。希望は捨てないで、という私の気持ちは、伝わったらしい。
「あ、私、環いろはっていいます。その……元気付けてくれて、ありがとうございます」
「ん、どうも。私は加戸希愛よ。まあ……機会があったら、また会いましょ」
「はいっ」
……女王様と出会えた事に比べればなんてことのない、ありふれた邂逅。
キュゥべえが叶えるか、医学的に治るか。それはわからないけれど。
(あなたの元にも、奇跡が届きますように)
ちょっとすれ違っただけの少女だけど。彼女の幸せを願うことは、決して間違いじゃないはずだ。
★
「君の願い事をなんでもひとつだけ叶えてあげる。どんな奇跡だって起こしてあげられるよ」
「……奇跡?」
……先日、たまたま病院内で通りかかっただけの少女の台詞を思い出す。
『奇跡って、意外と身近にあるものよ』
カトレアと名乗った彼女は、この事を言っていたのかもしれない。彼女は母親のために、この奇跡を使ったのかも。
直接的に魔法少女の話をしなかったのは……魔女との戦いは辛く苦しいものだと知っているから、なのかも。
(優しい人なんだ……いつかまた会えたら、お礼を言いたいな)
魔女と戦わなければならないのは、正直怖いけど。
でも、それでも。本当に奇跡が起こるなら、私は……!
「私の大切な妹の、病気を治して……!」