……暴走アイとの戦闘は、結構呆気なく終わった。いろはとまどかの相性が予想以上に良く、さらに戦闘中に連携力が目に見えてメキメキ上がっていったお陰だ。
まあ、私が2人が撃ち漏らしたりしたウワサ使い魔を間髪入れず撃ち落としたから攻撃に専念出来たのもあるし、大楯持ちのさながアイの強力な攻撃から防いでくれたお陰もあるけど。
〉み、みな、さん……さ、な。アリが、トウ……
ともかく。いろはとまどかの波状攻撃に私の火炎弾を浴び続けてウワサとしての力をほぼ使い果たしたのか、瀕死状態になったせいか。最期にアイは、暴走を自ら食い止めていた。
「アイちゃん、身体が……!」
そして、少しづつ崩壊し始めている……放って置いても、数分もかからず崩壊し切るでしょうけど。
〉おネガい、デス……サイゴはセせめて、さなの手で……
「……うん、わかってる」
「あっあの! こんな時にごめんなさい! どうしてもアイさんに聞きたい事があるんです! 環 ういって言う名前、聞き覚えないですか?」
〉タタ、まき、ウイ……
いろはが、ダメ元でアイにういを知っているか尋ねる。まあ、姉のいろはでさえ忘れていたのだし、ウワサとはいえ知っている訳は――
〉タマキうい、なら……アノウワサ、なら……シシシッて、マスヨ……
「「《え!?》」」
――予想外の色良い返答に、思わず私とカトレアもいろはと同時に驚きの声を上げる。
「あのウワサって、何て言うウワサですか!?」
〉……ソソ、ソロゲンカイ、デス、ササナ、ワワタシノノジガガガ、キエ、マエニ
……数分持つかと思ったけど、予想より崩壊が早い。後十数秒、かしら。
「いろは、気持ちは分かるけど……」
「いろはちゃん、さなちゃんに……」
「……はい」
いろはも必死な想いで問いかけたんでしょうけど――介錯の時間だ。
「アイちゃん……ありがとう! さよなら……!」
〉サ、サヨナラ……大好き、デデシたた、ヨ、サナ……
静かに、魔力を纏わせた拳で殴るさな。使い魔も倒せない威力だけれど、アイを介錯するには十分だった。
〉……サクラ……
「!」
最期の最後に、アイはこちらに視線を向け、意味深な一言を残してから完全に崩壊し、跡形もなく溶け消えた。
「サクラ……桜に関するウワサ、とかかしら」
《そうかもね。何にしても、最期まで律儀な――人間臭いウワサだったわね》
「ですね。それにしても、桜……なんだろう、物凄い引っかかる……」
私には意味不明なだけだけど、いろはにとっては思い出せないまでも、心に引っかかりを感じる単語だったみたいね。
「その引っかかりはきっと重要なモノよ。直感や既視感は、案外侮れないものだもの」
「はい、わかってます」
「あ、景色が歪んで……アイちゃんがいなくなったから、ウワサ結界も消えるって事だよね……」
「確かアイさんが言うには――」
と、まどかが出口の場所を言おうとした所でウワサ結界が消失し、私達は出口へと――神浜セントラルタワーのヘリポートに放出された。
☆
「えっと……Hマークがあるし、確かにヘリポートみたいだね。あっほむらちゃん!」
ヘリポートに出てすぐ、数メール先にほむらがいた。ほむらの手には金属バット、周囲には数人の黒づくめ――黒羽根が倒れている。時を止めて殴ったのかしらね……時空操作系は初見殺しよねぇ、ご愁傷様。
ツーマンセルを組んでいたはずのまなかは……少し離れた所で黒羽根の1人と対峙中か。まあ、まなかはあれでも弱い方の魔法少女じゃないし、黒羽根1人程度なら問題ないかしらね。私達傭兵に依頼してるのも、魔女を倒せないからじゃなくて、単に料理修行の時間を削られたくないってだけだし。
「おかえりなさい、まどか。カトレアにいろはも……その娘が?」
「あっはい。この娘があの声、電波少女の正体のさなちゃんです」
「はっはじめまして……双葉 さなです。よ、よろしくです……」
「暁美ほむらよ。確かまなかによると、あなたも私とまどかと同じ中学二年生、だったわよね。なら、敬語は不要よ」
「あ、そうなんで……え、まなかさんと知り合いなんですか?」
「今日知り合ったばかりだけれどね。というかその辺に――」
ゴンッ
鉄を叩いたような大きな音の方をさなが見ると、ちょうどまなかがフライパンを振りかぶった姿勢でこちらに振り返った所だった。側に対峙していた黒羽根が倒れている。
……料理人が調理道具を武器にするのはどうなのよ、とかちょっと思うけど。アレ、彼女の魔法少女としての固有装備なのよね。フライパンから魔力が放たれているし、本人にも聞いたから間違いはない。
「おや、みなさんご帰還された様ですね! ほむらさん、こちらは片付きました!」
「あなたが倒したので多分最後よ。お疲れ様」
「いえいえ、たまには自分で戦闘しないと鈍りますからね、ちょうど良い相手でした! それから――さなさん、おかえりなさい、です」
「……! はい!」
魔法少女になって、同じ学校、同じ魔法少女のまなかぐらいしかまともに会話してくれる人がいなくなって、視野狭窄になっていたんでしょうね。
でも、まなかの優しげな「おかえりなさい」の声を聞いて、さなも気付いたんでしょう。
自分を見てくれて、心配してくれる
「さあいこう、さなちゃん。さなちゃんに会いたいって集まってくれた私達の友達が、いっぱいいるんだよ」
「はい、いろはさん!」
その、自分の殻に閉じ籠っていた内気な少女が、いろはに手を引かれ外の世界へ勇気を持って踏み出した姿を見て、カトレアが呟く。
《……さなちゃんはもう大丈夫そうね、女王様》
《そうね。さなはもう――自分は世界にひとりぼっちだって勘違いする事も、ないでしょうね》
倒れていた黒羽根達を拘束してひとまとめにしてから、私達はしばらくその場で休憩していたのだけれど。
「お待たせしました、女王様」
デンドロビウム達が、軽く拘束されてやちよに連れられているみふゆ達と共にヘリポートにやって来た。かすり傷こそあるけど、大怪我を負った仲間はいないみたいね。
達、と言った通り、同じく軽く拘束され抱えられて持って来た天音姉妹がグッタリしている事から、2人は割と重症っぽいかしら。
……1人簀巻きにされてタオルで猿轡を噛まされ、シロタエギクの浮遊剣に縛られて運搬されている
ま、何にしても。それぞれ無事決着、かしら?
「……私の知っている事は全て話します! なので、早くお二人に治癒魔法を……!」
ただ、天音姉妹はやはり重症なのか、治癒魔法使いのいろはがいるこちらに来たらしい。その心配のしようから、彼女が天音姉妹を――いえ、羽根達みんなを、かしら。かなり気にかけているのが伝わってくる。
……我が身可愛さに何も知らない他者を傷付ける覚悟を決めたのに、随分と虫の良い事だけど。
「……デンドロビウム?」
それ程甘く無い燈湖やデンドロビウムがそれを良しとしている事、そもそもにしてそれ程の怪我を負わせた事が意外だった。
「ほんの少し、加減を誤ってしまいました。その際打ち所が少々悪かったようで……簡易の治癒魔法では間に合わないと判断し、こちらに赴きました」
《なるほど、責任感じてるのね。けど、割と容赦ないトウコならともかく、デンドロビウムがミスするなんて珍しいわね》
《おい》
《燈湖がついはしゃいじゃって大怪我負わせちゃう事があるのは事実でしょ》
不満を含んだトウコの念話は無視して。私はいろは――ついでにまどかに視線を送る。今の休憩中に聞いたのだけど、まどかの固有魔法も治癒系らしい。
……まどかの射撃の威力やホーミング性能から、てっきり戦闘系の固有魔法だと思っていたのだけど。ピンク髪の娘はお人好しが多い説、やっぱり有力なのかも知れないわね。
それはそれとして。大怪我人とはいえ、相手は自分達を殺してでも止めようとした2人の治癒依頼な訳だけど……お人好しないろはなら、
「わかりました、やらせて下さい!」
やっぱりね。
「まったく……いろは、甘すぎ」
《まぁ、口ではこう言ってる女王様も、そんないろはちゃんだから好きになったんだけどね》
「カトレアうるさい」
「あはは……じゃあ始めます」
――ポゥ……
照れ笑いの混ざった苦笑いを浮かべつつ、いろはが天音姉妹に近付き治癒魔法をかけ始める。天音姉妹は淡い光に包まれ、見る見るうちに顔色が良くなっていき、脂汗をかいて苦しげに気絶していた表情が安らかなものになっていく。
相変わらず流石ね……でもやっぱり、うーん……
「……これは……まどかの治癒より治りが早い?」
「そだねぇ。まどかの治癒魔法も凄いと思うけど、上には上がいるものだよねぇ」
「いろはちゃん、凄いよー!」
「あ、ありがとう」
見滝原組の感想に照れで頬を染めつつ、魔法の行使はブレない。最近は戦闘力もかなり上がって来たけれど、やっぱりいろはは基本、後衛でサポート系よね。
「……」
「……ほむら? 何か気になるかしら」
いろはの魔法を見た時から、無表情ながら何やら難しい気配を放つほむら。
「……いえ。治癒と言うには少し違和感がある、というか。何となくだけど、彼女の魔法……「治す」というより「直す」……「
「あー、それは私も前から感じていたわ」
《どっちでも結果が同じなんだし、治癒魔法って事で良いんじゃない?》
「……そうかしら、ね」
曖昧にそう言うほむら……あえて口には出さないけど、多分私も彼女と近い事を考えている。結果は同じでも、「治す」と「直す」には大きな違いがある。
……ふむ。今度機会があったら、試して貰おうかしらね。例えば、コップとかが割れてしまった時とか……
(……でも。なーんか、「直す」とも微妙に違う気がするのよねー)
「……ふぅ。終わりました。2人共、もう大丈夫だと思います」
そうこう思考している内に、いろはの治療(?)が終わっていた。やっぱり早いわ。
「あぁ……! ありがとうございます、いろはさん……!」
天音姉妹の安らかな寝顔に、みふゆが安堵の涙を流していろはに感謝する……ふむ。みふゆにとって、天音姉妹は羽根の中でも特に親しい関係なのかしら。
「みふゆ、そっちの要望は叶えたわ。今度はこっちの番よ」
「そう、でしたね……まあ、近い内にお話ししに伺おうとは思っていたので、それが少し早まったと思いましょう」
そう言って、みふゆが話し始めようとしたタイミングで、
「っ! みんな警戒! 魔法少女の魔力反応よ!」
虚空に唐突に魔力反応……あ、この魔力反応、隠蔽はされているけどあの娘のだわ。
となると――みふゆと羽根達の回収係、かしら。
「この感じ……空間干渉系かしら。長距離転移で奇襲するつもりかもしれ――」
この空間転移は、そこまで器用な事は出来ないはずだけど――なんにしても、ほむらの予測通り、空間干渉系で長距離転移だ。
さて。どうしたものかしらと、デンドロビウムにチラリと視線を向けると。
《今回は回収させるぜ。みんな精神的にも肉体的にも疲労困憊だからな、今詳しい話をされても頭に入るか怪しいヤツが多い。アタシを含めてな》
《ん、了解》
燈湖は逃す判断か。まあ、この即席チーム1番の頭脳の燈湖はただでさえここ数日情報収集に全集中してたし、多分明日にはまたしばらく省エネモードに入ると思われる。今情報を渡されても捌ききれない可能性大だから見逃す、てところね。
「……と思いましたが、やはり日を改めましょうか」
「逃すと思う?」
「逃げますよ。流石にアリナの奪取は不可能ですけど、他のマギウマに報告しないといけない事が色々ありますから……今です!」
――ピーヒョロー!!
『くああっ!?』
いつの間にか起きていて、魔法少女の身体強化で拘束を無理矢理破り、音撃を放つ天音姉妹。とはいえ咄嗟に放った魔法だからか開けた場所だからか、ダメージは軽微だ。
けれど、3人が逃げ出す程度の隙は与えてしまった。
「また会いましょう、やっちゃん。安心して下さい、約束は必ず守りますから」
「くううっ……今回も負けた事にしといてあげる!」
「ねー……!」
最後に捨て台詞を残して、2人はみふゆを担いで空間転移門へ飛び込み姿を消し、すぐさま門は閉じてしまう。
「……油断しました。天音姉妹への攻撃も、上手く手加減が出来なかったですし……知らずの内に、疲労が溜まっていたのかもしれません……いえ、これは言い訳ですね」
「でも、今回のウワサ情報、かなり大急ぎで集めてくれたじゃない。疲労が溜まっていて当然だわ」
「でもでもっ! 最高幹部のマギウスの1人を高速で拘束出来たし! 結果オーライなんだよ!」
「じゃの。今回はそれで満足するしかなかろう」
「でも、戦果としては十分じゃないでしょうか。アリナさん、アイちゃんの結界内で、かなり酷い事してましたし……」
「そう言えばさなちゃん、アリナさんが何かしていたのを目撃してたんだよね。それで心を痛めていたってアイさんが……」
「……はぁ。確かにみんな、疲労がかなり溜まっているみたいね。夜も更けて来たし……今回はこれで解散としましょう」
『さんせーい』
最後に年長者のやちよが締めて、これで今日は各自解散となった。
《はぁ……今回は今までのウワサ事件で、何気に1番疲れたかも知れないわね》
《主に精神的に、だけどねー》
《今回は私が出ずっぱりで、カトレアはあんまり疲れてないんじゃない?》
《み、見てるだけっていうのも、結構疲れるものよ?》
《ま、いいけどね……あー、早く帰ってシャワー浴びたいわ》
次回投稿予定は、10月7日(土)……でしたが、次話を書いている途中で文章全消しするという大ポカやらかしてしまったので、精神ダメージで7日中に描き上げて投稿するのは無理っぽくなりした。一から描き直しするので、次回投稿は10月27日(金)になります……ちょっとタイプミス?しただけで文字が全部消えて真っ白に……どういうことなの……
バックアップの重要性! バックアップの重要性!