倒れてうなされているやちよの側にしゃがみ、起きるのを待とうと近くで様子を見ていたら、
「女王様! と、えっあれ? やちよさん?」
「……いろは。無事で良かったわ……」
いろは1人が、こちらに向かってきた。
「なんでやちよがいるか、私も分からないけど。ま、大方いろは達が心配で来ちゃったんでしょ。不器用よねぇ」
「ふふっでも嬉しいです。みふゆさんが来たあの夜から、私達やちよさんに避けられてましたから……」
嬉しそうに笑ってからそう言ういろは。
んー……やちよが起きる前に、いろはに言わないと、よね。
「……ごめんなさい、いろは。今回は私達の大きな判断ミスよ。事前に魔法少女の真実、話しておくべきだったわ」
「女王様……」
「話さないでいた理由はあるけれど……言い訳にしか聞こえないだろうから、詳しくは言わないわ。ただ、判断が遅かったのは事実だから……本当にごめんなさい」
私の謝罪に、いろはが唇を引き締めて俯く。多分、信頼していたのに裏切られた、と思ってるんだわ……
(ああ……やる事が多すぎて後回しにした、なんて思ってたけど。そんなの、自分を誤魔化す建前だったんだわ。私は、私とカトレアは、臆病風に吹かれていただけだわ)
私が向こうで瀕死の重症を負ったあたりの記憶は曖昧だけど、なんとなく死ぬ程痛い思いをした感覚は思い出した。カトレアも、
だから、みんなが「魔法少女の真実」を知ってしまった時、自暴自棄になって自死を選ぶかもしれない事を何よりも恐れていたんだわ。マギウス対策やワルプルギスの夜対策、そして最近追加された計画のせいで忙しいから、説明は後にしようって自分に言い訳して。
「はぁ……間違いなく、ここを抜け出したらデンドロビウムのお説教が待ってるわ……」
そう自嘲の呟きをすると、
「……っぷ。ふふふふっ」
「え、いろは……?」
唐突に、いろはが笑い出した。顔を上げてみると、いろはは申し訳なさそうな困り眉ながら笑っていた。ど、どういうこと……?
「デンドロビウムさん曰く、「敵を欺くにはまず味方から」、らしいですよ?」
「……は? え、まさか……」
「あの夜。カトレアさん達が帰ってやちよさんが部屋に引きこもってから、デンドロビウムさんが来たんです。その時に、さっきのソウルジェムと魔女化の話、全部教えてくれました」
「えぇ……」
聞いてないわよ、トウコにデンドロビウム……!
「え、本当に? にしてはさっきのあなた達、初めて聞いたみたいなリアクションだったじゃない。特にフェリシアなんて、演技が出来るとは思えないわ」
「フェリシアちゃんには、「この話をマギウスからされた時は、私との修行中の事を思い出しながら言って下さい」って言ってました」
……。デンドロビウム、フェリシアにどんだけキツい鍛錬積ませたのよ……最近メキメキ強くなってるとは思ってたけど……まあ、確かにアレを思い出しながら発言すれば、震え声にもなるわ。
「だから、デンドロビウムさんのお説教も、軽いものだと思いますよ」
「……説教自体の回避は出来ないのね」
「当然ですっ! 私としても、カトレアさんと女王様の口から聞きたかったですから!」
珍しく、いろはが怒った口調でそう責めてくる。
「う……ごめんなさい」
「……でも、言い訳みたいな事をされなかったので、許しちゃいます。私も、大切な人を失うかもしれない恐怖は、理解出来ますから」
「そう、だったわね……じゃあ、許してくれてありがとう、の方が良いかしら?」
「はい! 女王様は、強気な方が素敵ですから!」
まったく、この親友は……優し過ぎるんだから。しょうがないわね……ふふっ。
「……あれ……ここは……」
「あ、やちよさん! 良かった、無事目が覚めて!」
と、ちょうどキリの良いところまで対話が終わったところで、やちよが精神干渉から抜け出して目を覚ました。
「ウワサの干渉を受けてるから無理に起こせなかったので、心配しました」
「そう……」
短くそう言って、起きるのを手伝おうと手を伸ばしたいろはの手を振り払って、1人で起き上がるやちよ。まだ様子がおかしいわね。
「やちよさん……?」
「あなた達は、マギウスの翼?」
「え? ああ、違いますよ! 精神干渉は受けましたけど、跳ね除けました! 私も女王様も、洗脳なんかされてません!」
「世界に愛された私が、あの程度の洗脳魔法でどうにか出来る訳ないわ」
いろはに同意して、胸を張って言い切る。やちよはイラッとした顔をした。なんでよ。
「……確かにいつも通りみたいね」
「それよりやちよさん、ありがとうございます。今回のウワサの危険性に気付いたから、助けに来てくれたんですよね?」
「勘違いしないで、助けに来たんじゃないわ」
「へ……?」
「環さん……チームは解散よ」
「……!」
……この期に及んで、やちよは何を言ってるのかしら。不器用過ぎてツンデレみたいになってるって、気付いて……ないんでしょうね。
「突然どうしたんですか、やちよさん! これまで手を取り合って、一緒に戦ってきたじゃないですか!」
「だから勘違いしないで。最初から、仲間じゃなくて協力関係だって言っていたでしょう? そういう意味で仮のチームだっただけよ。それも解散ってこと」
「言い方変えただけで、仲間って言ってるようなものじゃない」
「
……イラッとして反論しようと思ったけど、いろはの顔を見て止まる。
さっき私に怒りの感情を向けたけど、さっき以上に怒った顔をしていたから。ブチ切れ手前って感じかしら……
「納得いきません……何も理由を言ってくれないなら、解散なんて受け入れられません!」
「……お願いだから、私から離れて……関わらないで……じゃないと、いつかまた、私があなたを殺してしまうかもしれない……」
「え? それってどういう……」
「かなえとメル……あの2人は、私のせいで死んだのよ! 私が魔法少女になる時の、願いのせいで……」
「そういえば、やちよさんの願い、まだ知らないですけど……」
「私はね……「生き残りたい」って願ったのよ。だから、みんな死んでしまった……!」
今は完全に2人の世界だから、口は挟まないけど……
「モデル同士で組んだユニットのリーダーとして生き残る必要があったから、そう願ったんだけど……けれどかなえとメルは、私を……チームのリーダーである私を生かすために、死んでいった……」
ああ。ふーん……そう言うことね。それでも。
「私の魔法少女としての固有能力は……「仲間を犠牲にして生き残る」、としか思えない……だから! 環さんとは、みんなとは、仲間であってはいけないのよ……!」
「弱いわね」
流石に見ていられなくて、ちょっとだけ口を挟む。
「っ! 悪かったわね。ええ、私は力ばかりで、精神的には……」
「それもあるけど。叶った願いの大きさの対価としては、弱いわ」
「そうです! やちよさんのそれって、ただ悪い方に考えただけの予想じゃないですか! それだけじゃ、固有魔法が絶対にそうだとは言い切れない!」
「予想がついてしまった時点で、可能性として十分ありえるのよ……!」
「いい加減にして下さい!!」
「!?」
私も見たことのない彼女の剣幕に、やちよがたじろぐ。私もちょっと驚いた。
「やちよさんは、自分の想像だけで仲間を振り回しているだけです! 私はやちよさんと、今まで通り仲良くしたいのに……!」
「環さん……それでも、私は……」
「あまり怒らせないで下さい!!」
まだウジウジしているやちよに、いろは、キレた!
「それなら! やちよさんの固有魔法が想像通りなら! 私がリーダーになります! そうすれば、やちよさんがリーダーじゃないなら、固有魔法の条件は満たさないですよね!」
「け、けれどもしm――」
「いいですね!!」
「……はい……」
ブチ切れいろは、つよい。普段滅多な事で怒らない人を怒らせたら、のいい例ね。デンドロビウムを見てきた私は詳しいのよ。
「話はまとまったわよね。そろそろこのウワサ内から出ましょ」
「あ、はいっ!」
「……えぇ」
親にしかられた子供のようにしょんぼりしながらも同意するやちよ。なんか新鮮で可愛いわね。
それに。なんか、少しだけスッキリした顔というか、険が少なくなった気がする。意外と押しに弱いのかしらね。
(っと、まだウワサ結界内だけど精神干渉はなくなったし。カトレアを表に出しときましょ)
一応、メイン魂はウワサを倒すまでは私のままだけど。もう引きこもらせておく事もないわよね。あまり長時間引きこもらせると、拗ねて面倒だし。
奥へ進んでいく間、ウワサの使い魔と何度か交戦しながら、カトレアに事の経緯を念話で話しておいた。
《トウコ達のイジワル……》
結局拗ねた。カトレアの拗ね声可愛い。
十数分そんな感じで進んでいると、唐突に景色が変わり、私達がみふゆがウワサの洗脳魔法を始動した時に似た場所に出た。
「くふっ、ようやく来たね、環いろはにベテランさん、それに女王様?」
「やはり3人は、洗脳されてはくれませんでしたか」
「灯花ちゃん、みふゆさん……」
多分場所も同じなんでしょうけど。それはともかく。
「言いたい事は色々あるけど。私達以外のみんなは?」
「ししょーさんと赤いお姉さん、黒髪の子も、洗脳耐えられちゃったんだよねー。流石に6人相手だとこっちが不利だからね。外に出して別働隊に相手させる事にしたんだよね」
姿が見えないからちょっとだけ不安だったけど、やっぱり3人は洗脳されなかったのね。
となると、残り――チームみかづき壮の3人は……側に魔力反応はあるけど……
「じ、じゃあもう3人は……?」
いろはがそう尋ねると、本棚的な何かの陰に隠れていた3人が前に出てきた。
「今日からわたくし達の仲間になった方達です」
「鶴乃ちゃん、フェリシアちゃん、さなちゃん……」
「くふふっ。みんなは魔法少女の解放を理解していて、自分から来てくれたんだよね?」
「うん……マギウスの翼なら、みんなを守れる……偉業を成せる……」
トウカの問いかけに、ツルノがうつろな瞳でそう答える。
「オレも、マギウスの翼なら」
「はい。魔法少女の宿命で苦しんでいる人を助けるためなら」
続いて、フェリシアとさなもトウカに賛同するようにそう言う。けど……ふむ。
《姿を見せるまでは、3人とも魔力がおかしいかったけど。ツルノ以外は、私達を見てからいつも通りに戻ったわ》
《それって、鶴乃ちゃんは洗脳かかったままで、2人はなんか知らないけど私達を見た瞬間に洗脳解けたって事? にしては、発言が……》
《……。チームにメルがいた頃、鶴乃は一緒のチームだったわ……メルの死の真相を追体験で実感したなら、鶴乃じゃ洗脳に抗えなかったとしてもおかしくないわ……》
《そんな、鶴乃ちゃん……》
悔しそうに念話でぼやくやちよ。ツルノ以外の2人は多分、軽く洗脳かかってたけど、私達の姿を見て正気に戻った、てとこかしら。
なのに、マギウスの翼を擁護するような事を言っている、と言う事は……
《いろは、これもトウコとデンドロビウムの作戦なの? 洗脳されたフリで内部に入り込んで、情報収集させようとか》
《わ、わかりません。けど……これも、「敵を欺くならまず味方から」の1つ、な気はします》
《あぁ……燈湖のやりそうな策だわ》
……どうやら、この展開はいろはには教えらてないらしい。相変わらず超慎重ねぇ。
「灯花、そろそろ行きましょう。鶴乃さん達に内律などの説明をしなければなりませんし」
「そうだねー。というわけで、3人はわたくしに着いて来てねー」
「うん……」
「分かった」
「行きましょう」
2人の指示に易々諾々従う3人。ツルノだけは本当に洗脳されてるから心配だけど……とりあえずは、フェリシアとさなに任せましょ。
「あ、そうそう。本を読んで洗脳されなかったあなた達は、ここのウワサ――記憶サーキュレーターのウワサを見つけ出して倒さない限り出られないから。早く出ないと、先に外に追い出した人達、死んじゃうかもよー?」
そう言い残して、5人は空間の歪みへと足を踏み入れて姿を消す。
「死んじゃうって……デンドロビウムさんが死ぬ姿、想像つかないですけど……」
「それもそう、と言いたいけれど……」
不思議そうに言ういろはに対して、やちよは難しげな顔を浮かべる。
「デンドロビウムの強さは、目の当たりにしたみふゆを通して知ってるはずよ。つまり」
「あの人を倒しうる、それこそマギウスにとっての切り札に当たる何かを切ったと考えるべきね」
「ええ。デンドロビウムなら大丈夫、て楽観視すべきじゃないわ。出来るだけ早くここから抜け出して、救援に向かうべきだわ」
デンドロビウムだって不死身な訳じゃない。というか、スプリングガーデンで生死の境を彷徨ったからこそこっちに来てしまったのだから、もしもは起こり得る。
「……このウワサの本体の魔力を探知して、速攻で潰すわ。手伝って、いろは、やちよ」
「はい!」
「えぇ、了解よ」
やちよがどう返答するか不安だったけど。いろはの逆鱗に触れて迷いが吹っ切れたのか、頼もしい声色でそう返してくれた。
《さぁて。世界に愛されている私達を散々舐めてくれた事、後悔させてあげるわ。カトレア!》
《ええ、そうね。この程度のウワサ、一撃で蒸発させてあげる!》
お互いの意思を確認し合ってから、私は魔力探知の範囲を拡大した。
次回投稿は、4月7日の予定です。
※追記
リアルが忙しいくて肉体的精神的に疲労とストレスが溜まってきたのと、冬季アニメ面白いのが多かったのと、別の小説書き始めたのと、こちらの話を書くモチベーションがあまり上がらないのと……まあ、色々理由がありまして。次話あまり書けていません。ので、次回投稿は4月27日予定に変更になります。