記憶ミュージアムの一件から約1週間。その間に、とある噂が流れ始めていた。
『今度、神浜に新しく遊園地が出来るんだって!』
一言で簡単に言えば、そんな内容だ。アリナが「アァ、キレーションランドのウワサだヨネ」と言っていたので、単なる噂話ではなくウワサなのは確定。
それに対する私達の対応は。
「らああああっ!」
「っふ、はぁ! ……巴さんもだけど、魔境神浜出身でもないのに鋭い突きねっ!」
「喋る余裕がある相手に言われてもねっ!」
雷電家のシェルター道場にての自己鍛錬、時々魔女や放置しておくと厄介そうなウワサを潰す、程度のものだった。今は、杏子とやちよさんが模擬戦をしていて、
「キョーコがんばれー! ブンブンッ!」
「……」
「……」
ゆまちゃんは応援、もとい見学をしつつ素振り。私は室内だと火力高すぎ、いろはちゃんは
「そうですか、では絶対に無理をしようとはせず深追いもせず、安全第一で引き続きお願いします」
燈湖は、傭兵活動や、前から持つ自身のコネを使用しつつの情報収集兼、私達が無茶な鍛錬をしていないかの監督。そうして各自地力を高めていた。
元々は、燈湖・デンドロビウムにやちよさん、それに杏子も「ウワサを虱潰して回ってマギウスの翼全員炙り出そうぜ計画」を立てていたらしいのだけど。
燈湖・デンドロビウムは私達の逆鱗に触れて、私達を計算に入れた計画を練り直し、いろはちゃんはチームみかづき荘のリーダー命令でやちよさんに無茶をしないと約束させ、杏子はゆまちゃんに心配そうな顔で反対されたため、現在のカタチになった。
一応、名前からしていかにも危険そうなウワサは数件チームフラワーナイトのメンバーで潰したけど、学校に行くのと傭兵依頼以外では、こうしてシェルター道場で自己鍛錬&傭兵活動で仲良くなった魔法少女からの情報集めに注力はしている。当初の計画からすれば、だいぶ大人しいと言える。
そんな中飛び込んで来た、このウワサ。最低限の義理を通しているのか、アリナは名前しか言わないけれど。
「名前からして、かなり厄介なウワサなの確定よね、コレ」
「どうせキョーコと行くなら、普通に楽しい遊園地がいいなー」
「そうね、遊園地は楽しい思い出を作る場所だものね……何にしても、遊園地は人が沢山集まる施設よ。この噂話の場所に、予想通りウワサの化け物がいるなら……放置すれば、間違いなく大量虐殺が起きるわ」
「そんな……そんな酷い事、妹2人にさせられない! ううん、誰にだってさせちゃいけないです!」
「だが、実際会話した里見灯花の印象からして、「魔法少女が救われるために必要な犠牲」って考えだろうな。これだから頭の良いガキは面倒だ」
《倫理観を敢えて無視した救済の先に、明るい未来はあり得ません》
「
《まっ要するに、絶対に潰さないとヤバいウワサって事ね》
「……ええ、そうね……」
……んー。なんかやちよさん、どことなく物憂げね……
「やちよ。鶴乃と遊園地で、何か思い当たる思い出とかあるんじゃねえか?」
「…………」
燈湖の推測に、やちよさんがハッキリと憂鬱ですと言いたげな顔になった。なんかあるのね……
「……記憶ミュージアムの件から二日後の事よ。小さな可能性だけれど、もしかしたら帰ってるかもと思って、万々歳に寄ってみたんだけど。鶴乃、一度だけフェリシアを連れて帰って来たらしいのよ」
「ああ、その話なら、アタシも鶴乃の親父さんから聞いた。フェリシアはいつも通りだったが、鶴乃は様子がおかしかったってな」
それは、ここにいる全員燈湖から聞いている。フェリシアちゃんは、やっぱり洗脳が浅かったのだろう……たぶんさなちゃんも。
それは予想通りだからともかく。親父さん、鶴乃ちゃんと古くからの知り合いであるやちよさんにだけ、燈湖には話していない何気ない一言があったとしても不思議じゃない。
「親父さん、言ってたのよ。一年くらい前にも、鶴乃の似たような表情を見た事があるって。私も、心当たりは会ったけど……遊園地のウワサで、その鶴乃の顔をハッキリ思い出したのよ」
「顔、ねぇ……異様に明るいとかか?」
「……逆よ。妙に気が抜けているというか、心ここに在らずというか……それでいて、異様に安らいでいるようにも見えると言うか……とにかく、鶴乃らしくない顔だったわ」
「一年くらい前……それって」
いろはちゃんが何かに気付いたようで、悲痛そうな顔でやちよさんを見つめる。
「いろはも見せられた……追体験させられたんだったわね。そうよ……メルが魔女化して、チームを解散した頃の事よ……」
……。く、空気が重いわ……私その時女王様が表に出ててソウルジェムに引きこもってたから、話でしか聞いてないのよね……
「解散する前にね。みんなで南凪区にある遊園地に行ったのよ」
「ミナギーランド! ミナギーシー!」
「はいはい、マギウスの件が片付いたら行こうな」
ゆまちゃんのキラキラした目と声で場が緩急した。空気読んでないとはいえ、ちょっと重苦しく感じてたから、私的にはありがたい。
「その帰りにね。鶴乃がさっき言ったらしくない顔をしてたのよ。遊園地で遊んでいる間は、いつも通りに見えたのだけれど……」
「…………」
その情報を聞いて、燈湖が熟考している時の顔になる。何か閃いたか、予測が立ったみたいね。
「遊園地のウワサ……らしくない鶴乃……深い洗脳…………チッ」
唐突に舌打ちする燈湖……嫌な、それも最悪な類の推測が立ったらしい。
《相対したトモエマミさんから、ウワサと合体しているような気配を感じたのは話しましたね》
代弁するように、デンドロビウムが燈湖の予測を語り出す。
《あくまで予測ではありますが。今回の遊園地のウワサと、洗脳されたツルノさんが、無理矢理融合合体させられる恐れが出て来ました》
「「な……!?」」
「今のやちよの話で、確率は上がったと見ていい。遊園地は人が沢山集まる施設。それはつまり、一気に大勢の人間を虐殺し、大量の絶望――負の感情を回収可能って事だ」
「そ、それって! 鶴乃ちゃんを大量殺戮者に!?」
「アリナや里見灯花なら躊躇なく出来るだろうさ。古くから続く魔法少女と魔女の因縁、魔法少女の解放のための犠牲にな。ま、アリナは今は妙さんにご執心だからないだろうが」
「そ、そんな……誰よりも正義感に溢れた鶴乃ちゃんを、そんな事のために……!」
「みふゆ……そこまで堕ちたのっ……」
絶望感と屈辱感で崩れそうになるいろはちゃんを支えた(やちよさんは距離が合ったから無理)所で、燈湖のスマホに着信。間を置かず通話ボタンをタップして、会話を始める。
「あの厄介そうなウワサは潰せましたか……え? ふむ……ふむ、そうでしたか。ではすぐにみかづき荘へ。女王様に検診して貰います」
《ん、私?》
名前に反応して念話をデンドロビウムに飛ばす女王様。それに対してデンドロビウム……表情からして燈湖かしら。彼女が心底楽しそうにニイィ……と口元を歪めるように笑った。どうやら、かなりの朗報らしい。
「新西区の、里見メディカルセンター付近のウワサを調査していたポーチュラカさん・カラスウリさん・ハツユキさんが、フェリシアさんとさなさんを確保したそうです。予想通り、洗脳も自力で解いたらしいです」
「え……! 本当ですか!? や、やった……!」
突然の朗報に、いろはちゃんが心底嬉しそうに破顔した。可愛い。
「更に朗報ですよ、やちよさん」
「……え、私?」
「2人を逃したのは、みふゆさんだそうです。何でも、マギウスが人としての踏み越えてはならない一線を越える決断をした、と。その計画に、鶴乃さんを使うつもりだと」
「みふゆが……」
その知らせを聞いて、やちよさんは、まだ親友が堕ちきってはいないと気付いたらしい。
「こほんっ。さて、これで方針が固まった」
口調をデンドロビウム調から普段のものに変えてから、固まったという作戦を語り出す燈湖。
「とりあえずざっくり目標を言うぞ。第一に、鶴乃の洗脳を解いて遊園地のウワサによる大量殺戮を阻止する。第二に――邪魔をしてくるだろう巴マミの洗脳解除だ」
「え、同時にやるつもり?」
「ああ。だから2チームに別れての作戦になる」
どうやらやれる確信があるようで、燈湖はそう言い切った。
「細かい作戦内容や振り分けは……噂話によれば、新遊園地開園まで1週間ちょっとあるから後にするが」
「ちょっと待って燈湖。ウワサの遊園地の場所、見当が付いてるの?」
「そんなもん、一ヶ所しかないだろ?」
テーブルに広げていた神浜市の地図の一点を指差す。そこは……何かあったかしら? 大東区の一点を指差してるけれど……んー、東はあんまり詳しくないからなー。
「ここは……観覧車草原の場所ね。なるほど、西の顔役の私としては、東の方のウワサはあまり調査出来ていなかった。盲点だったわ」
次回投稿は、7月27日(土)の予定です。