タマミツネが好きでたまらない20代男性がタマミツネになった模様 作:syuya
ベルナ村
家畜を連れた村人達。そして数人のハンターが行き交う大きな広場で、村長に呼び止められる。
「おぉ、セラ殿」
「村長、どうしましたか?」
杖をついていて、白髪と白髭が目立つご老人が村長だ。村長に話しかけられるということは、受付嬢にナンパを断られたか、モンスターに関する話がある時。
「実は、以前見つかった新種『ディノバルド』に続いて、新たなモンスターが確認されてのぅ。調査していたアイルー達が目撃したんじゃが、いかんせん取り乱しておって、詳しい話は聞けずじまいでな」
今回は後者みたいだ。よかった。
以前見つかったディノバルドは今まで討伐したモンスターとは差がありすぎた。
忘れもしないディノバルド討伐クエスト。本来は4人でパーティを組んでクエストに挑むのが最適だ。しかし未知のモンスターということもあり、僕達ともう1つのパーティで討伐へ向かった。
片方のパーティーリーダーは、ディノバルドの強さに敵前逃亡。その後に攻撃を受けて即死。混乱に陥ったパーティは全滅。残された僕達でなんとか討伐したけど、思い出すだけでも凄惨なクエストだった。
それから1ヶ月も経っていないのに、また新種モンスターが見つかるとはタイミングが悪い。一気に1パーティー分の戦力を失ったのに、まだ補強が間に合ってない。
でもこのまま何もしない訳にも行かないだろう。村の人達を安心させるためにも新種の調査が必要だ。場合によっては討伐も視野に入れて……。
「セラ殿! 」
「あ、は、はい!」
「わしらの為にいろいろ考えてくれるのはありがたいが、アンタも若い。くれぐれも難しく考えすぎないで、うちの村のハンターも頼っとくれ。と言っても、説得力は無いかもしれんが」
肩をポンと叩かれる。村長はうむと頷くとゆっくりと牧場の方へ行ってしまう。その後ろ姿に僕は軽く頭を下げた。
「わかってますよ。村長」
決して聞こえるわけがなかった。
とにかく詳細を確認しなければ。情報収集も兼ねて、この村に新設されたギルドへ向かう。
お世辞にも豪華とは行かないが、石造りの多いこの村では珍しいレンガ造りのギルド。入口に扉はなく、暖簾があるだけ。それをくぐると、右手側にはクエストに向かうための待機所、左手側にはアイルーが経営する食堂がある。その間、つまり中央に受付窓口とクエスト張り出しボードがある。
まずは受付嬢さんに話を聞こう。
「こんにちは、受付嬢さん」
「あ、セラさん! 今日もクエストですか? 」
元気よく笑顔で出迎えてくれた受付嬢さんは、手元にある分厚い本を適当なページで開いた。そこにはビッシリとクエストが表記されている。
「いえ、さっき村長から新種のモンスターが見つかったと聞いたので、新種を目撃したアイルー達に話を聞きたいなと思いまして」
「あぁすみません、そのアイルーちゃん達、調査隊をやめてしまったんです」
「えぇ?!」
思わず驚く。そんな事があるのか。調査隊に所属するようなアイルーのほとんどは野生で育ち、モンスターとの遭遇、戦闘には慣れているはずなのに。
受付嬢さんは苦笑しながらアイルー達の代弁をする。『今まで見た中で1番おっかなかった。僕達のことを弄んで楽しんでた』と言っていたようだ。
辞めてしまうほど怖がるなんて……。訓練されたアイルー達を弄ぶってことは、よほど新種は強かったのか。なんにせよ、放置するのはまずい気がする。けどまだ情報が足りなすぎる。なんでもいいから情報が欲しい。
「新種モンスターの見た目や被害報告とかありませんか」
「えっと〜、あ! 今日、商人さんが交易ルートで新種を目撃したみたいです。一瞬だったので紫っぽい色という事しかわかりませんが……。ほら、その商人さんから新種が怖くて仕方ないって旨のクエスト要請書が」
ぴらっと1枚の紙を見せてくれる。要請書には困っている旨、ハンターへの要求、詳しい内容、そして報酬を記入する欄がある。要求は基本的に『採取』『捕獲』『討伐』『調査』のいずれか。商人が出した要求は『討伐』か。
「商人さんには申し訳ないんですが、新種のモンスターに対して討伐を要求するのは……、以前のこともありますし」
「変更を?」
「はい」
バツが悪そうに頷く。以前のことというのはディノバルド討伐のことだろう。なんとか討伐に成功したものの、4人のハンターが犠牲になっている。
原因は間違いなく圧倒的情報不足。もともと要求を『討伐』から『調査』に変更するようギルドが求めたが、依頼者が報酬金を引き上げたためにそれは叶わなかった。相手の姿、攻撃手段も知らずに出発したために、想像を超えた強さの前にあのパーティーは……。
「今のところ、これ以上の情報はありませんね」
「そうですか、ありがとうございます」
頭を下げると、受付嬢さんも頭を下げて手を振った。せっかくギルドに来たしクエストでも見ていこう。
今は、待つしかない。もどかしいな。もしまた要求が変更されず『討伐』で通されてしまったら、またあの悲劇が繰り返されることになるだろう。
もう、仲間が死ぬとこは見たくない。
そんな考えを頭を振って切り替える。ネガティブに考えるのは僕の悪い癖だ。右手に持ったクエスト受注書に目を通す。
「要求『討伐』内容は、ロアルドロス1頭の狩猟」
簡単ではないクエスト。だけどディノバルドを討伐したパーティの皆は、楽勝って言うんだろうな。慢心はしないよう伝えないと。
☆☆☆
ふぁ〜
よく寝た。いやほんとに、なんでこんな眠いんだ。この調子じゃ寝てる間に闇討ちされかねん。ドーナツに。なにそれめちゃくちゃ悔しい。
あの1匹を倒してから4日経つけど、その間ドーナツと毎日戦ってる。おかげで食料に困らないが、いちいちドーナツカットするのめんどくちゃい。
毎日戦ってるから、この眠気に繋がってたりするんかな。おのれ許さんぞドーナツ。でもおいしいドーナツ。ありがとうドーナツ。憎めない野郎だ。くそう。
かといって毎日ドーナツに襲撃されるのも流石にキツイ。だから昨日の昼の間に少し移動したわけだが。なんか、いかにも人工っぽい道を見つけてしまったんだよなぁ。
なんとなく怖いからすぐに離れた。だってハンターとか通る道だったら終わる。バッドエンドまっしぐら。
でもここにきてからドーナツに会ってないし、多分ここなら他のモンスターの襲撃とかも。無いんじゃね。
「ギシャアア!」
前言撤回。後方から聞こえるこの声。耳にタコができるほどきいた奴の声。くそう、どこまでも追ってきやがって……。
いい加減にしろぉ!
「グワァァァアア!」
ドーナツに咆哮を浴びせながら振り返った。そこには忌まわしきドーナツ……と、後ろになんかいる。距離は遠いけど、タマミツネの聴覚と視覚があれば問題なく聞こえるし見える。
「逃がすな! ザール、足を狙って動きを止めてくれ! バンジとリリアは追撃準備! トドメは僕が」
「「「了解!」」」
テキパキと指示を出す1人の青年と、それに従う3人、計4人の人間。彼らは武装している。そんな武装集団に追われるドーナツ。会話内容、彼らの身なりから察するに、これはまさか。
こぉんのドーナツてめぇ! ハンター引き連れてきやがって!ふざけんな!
尻尾を巻いて逃げる。これに限る。俺は平和主義なんだ。別にビビってねぇし。めちゃくちゃビビってんだよなめんな。
急いで泡を分泌させて一目散にトンズラ。ちょっと振り返ってみる。えっもうドーナツ死んでる。あばよドナっつぁ〜ん!
うわ、ハンター達なんかこっちみてね? や、めっちゃ走ってきてるやん。絶対殺すマンだあれ。殺る気満々殺気ムンムンてかやかましいわ。いや帰れまじで!
全速前進ヨーソロー! ニゲロォー!
ロアルドロス「わし出番少なないか?」