タマミツネが好きでたまらない20代男性がタマミツネになった模様 作:syuya
この世界はクロスのみってことで許してください……。
ただ、そう言った情報は大変勉強になりますので、どんどん教えてください(他力本願)
見間違いでは無い。タマミツネがいる。自分と同種だが、俺より身体が大きい。背中にあるヒレも一層ツンツンしてる。こう、強者! って感じがどんスコ溢れでてる。なんとなくだけど。
そのタマミツネはゆっくりとこちらに近づいてくる。逃げるか? いや、同種だから襲われることは無いんじゃなかろうか。
ってことは仲間だ! この世界に来てから初めての仲間。
あれ、でも共食いとかしたっけ、モンハンって。わからん。覚えてない。もし襲ってきたら死ぬ。戦ってもこいつには負ける気しかしない。
でも味方だったら、非常に頼りになる存在なのは間違いない。いや待てよ。意思疎通出来んのかこれ。ものは試しだ!
(あのぅ、貴方は味方ですか)
試しに話しかけてみる。当然そう言ったつもりでも、実際にはただの鳴き声にしか聞こえないが。
「……美しい」
えっ。今美しいって。喋った? おかしいな。確かに俺には鳴き声として聞こえたが、頭では美しいという言葉で処理されてる。
(えっと、美しいって、だれが)
「そなたに決まっておろう。瑞々しくて艶めかしい鱗。その小さなヒレも愛らしい。我はそなたに一目惚れしたようだ」
日本語ペラッペラやないか。めちゃくちゃ喋る。しかもなんだ一目惚れって。ホモかよ。残念だが俺はノーマルなんだ。悪いな。
とにかく、意思疎通は出来るみたいだし俺の護衛として従わせよう。口を開きかけた瞬間。
「そなたを我のものにしたい」
えっ。ちょっと。俺の鱗舐めんといてくれる? やだ気持ち悪い。急いで飛び退く。うわ、テカテカしてる。きっと人の身体なら鳥肌がぞわ〜ってなっただろう。
「逃げるか、そうだな。簡単に手に入ってはつまらんからな。じっくり我のものにしてやる」
ぎゃあああ! まじで何言ってんのこの変態タマミツネ! 雌? 俺は男だっての。なんで俺を雌と認識してるか分からんが逃げよう。こいつは従わせてもろくな事になりかねん! むしろ従わされて、うぅ、考えたくない! まずは泡を分泌させて距離をとろう。
「ほう、上質な泡。ますます惚れたぞ! 」
ペロッと俺が出した泡を舐める。
あ、こいつはダメだ。もう、頭、ダメだ。逃げよう。こわい。
しかしそれは許されなかった。俺を超えるスピードで回り込まれ、背中に飛びかかってくる。
「うわ、離れろ! くるなぁ! 」
「良いでは無いか、今宵は月が綺麗だ」
「いやまじでやめて! 」
引っ掻いても、こいつの鱗硬い。ならば、ブレスならどうだ!
ビシャーー
ゴクッ
「ふむ。いきなり唾液を飲ませてくるとは。大胆な」
全身の鱗が逆だっていくのがわかる。こいつは気持ち悪すぎる。地面を抉る程の威力をなんで普通に水分補給できんだ。こわいよ。もうやだ、誰か助けて。
ジリジリと距離を縮められる。逃げても追いつかれ、攻撃しても軽く流される。もうだめだ。俺はここでこの変態に掘られるのだろうか。確かにタマミツネは好きだけど、それとこれは別だよ。うぅ、ぐすん。ふぇえ。さよなら俺の貞操。
諦めたその時、鼻先まで迫っていた変態が咆哮をあげる。見れば4人のハンターが攻撃を仕掛けたようだった。このハンター達は昼間の、ドーナツを瞬殺したやばい奴ら。
「人間風情が邪魔しおって。待っていろ。すぐに片づける」
変態はそう言うと、自分を切りつけたであろう片手剣を持った人間目掛けて腕を一振り。しかし華麗に躱され、その間にも遠くから弓を持った男が変態の顔に矢を命中させる。
このハンター達。昼間もそうだったけど、強すぎる。逃げなきゃ俺もやられる……。今日俺逃げてばっかだな。
今までにない、死が目の前にある恐怖。俺は変態を囮に逃走を図った。だが。
えぇ! 俺にもターゲットロックオンしてたんかい!
振り向き様に人影が見えて反射で避けたが、ブォンと風を切るような音。それが顔のすぐ右側の空間を切った。ひぃ、こわいこいつ。
ここはいったん距離を空けよう。バックジャンプして、距離を取った瞬間。さっきまでいた場所に赤い何本もの光が現れる。女ハンターが双剣を振るった跡だった。なんなん。目から殺意剥き出して、化け物やん。
人間にあんな動きできるわけが。あぁそっか。ここはモンスターハンターの世界。ハンターは人間辞めてるんだった。
戦っても、俺の攻撃が当たる予感がしない。チラッと変態を見てみるが、さっきまで綺麗だった身体がボロボロ。矢が無数に刺さり、ところどころに鮮血が溢れてる。圧倒的な強者感があったのに、今ではなんとも弱く見える。
ええい、とにかく逃げる! 逃げてばかりだろうが関係あるか!
急いで泡を纏い、奴らに背を向けてひたすらに走る。はは、追いつけないだろう?
いてっ
右手、正確には右前足に矢が刺さっていた。あの弓男、変態から俺にシフトしてやがる。やべぇ。やべぇよぉ。
いやいや、こんなのは大したダメージじゃない。ささくれた木が刺さったくらいだ! ふざけんな! 充分痛いわ!
ブンブンと矢を払って再び逃走を。
いたい!
あの弓野郎、今度は後ろ足に、いてっ。後ろを振り返れば、女ハンターが尻尾の付け根あたりをズバズバしてる。痛いってばやめろや。もう許さん。
さらに泡を分泌。左前足を地面に突き刺し、それを軸に勢いよく回転する。女ハンターは吹っ飛び、追撃してきた弓矢も弾き飛ばす。突っ走ってきた大剣ハンターも吹っ飛んでる。構うもんか。逃げるんだ。死にたくない!
逃げる間際、変態を確認してみたが、既に地に伏せていた。自分より強い変態がやられるなら、俺は確実に。ひぇっ。片手剣野郎がこっち来てる。矢も飛んできてるけどスピードに乗った今は当たらない。
ひたすらに逃げた。右前足と後ろ足、尻尾の付け根あたりに痛みを感じながらも、必死に逃げた。こんなにも危機感を感じたのは初めての事。ここまでハンターが人外だとは思わなかった。人間恐怖症になりそう。
どこまで走ったかわからない。暗すぎてよく見えないが、洞窟みたいなとこに来ていた。ここに身を潜めよう。しばらく奥に進むと、その先は行き止まりだった。大抵こういう場所に隠れるのって悪手だよな。はは、と自嘲気味に笑った。
でも、もう動きたくない。瞼を開けてられる力も無く、バタンと地面に倒れる。うぅ、岩肌冷たい。
血が止まらない。痛覚もしっかりある。アドレナリンがあったから、多少マシだったものの、今ではヒリヒリ、ジンジンしてる。あぁくそいてぇ。ゲームならこれくらい気にすることなく攻撃出来るんだろうけど、ここはリアルな世界。モーションも体力ゲージもない。あの変態みたいに、一瞬でやられる事も有り得るんだから。
俺は生きる事に必死だったはずなのに、少しずつ諦めようとしている。せめてハンター側としてこの世界にこれたらよかったのに。なぜモンスターなんだ。タマミツネは好きだけど、これは違う。
向こうの世界で、俺はタマミツネを狩るのが楽しいと思っていた。ゲームだから。あくまでプログラムだから。何度狩ろうと罪の意識も何も無かった。だってそういう『ゲーム』だから。
けどこの世界じゃ全てやり直しが効かない。1度死んだらもう戻ってはこれない。だから俺も、他のモンスターも生きるために必死なんだ。狩るのが楽しいなんて狂気だ。
柄にもなくそんな真面目なことを考えていた。死が迫ったからだろうか。今現実世界に戻れるなら、もっとマシな人間になれる気がする。
真っ暗な洞窟で、足音が響いた。時々金属が擦れる音がする。くそう。なんでここにいるって分かるんだよ。やっぱり行き止まりに逃げ込むのは死亡フラグか。
今日は何も食べてない。そのせいもあるのか。俺は死が迫っているこの状況でうとうとしていた。永眠の、準備かな。
でも、寝てる間に死ねるなら、それはそれで、楽かもな。
全てを諦めた。ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ楽しかった。タマミツネの身体を操るのは。生活はちょっとキツかったけど、なにより俺は現実世界よりも
この世界で、命の重さについて知ることが出来て、ほんとによかった。弱肉強食が当たり前な世界。可哀想だが、狩るか狩られるかの2択。ハンターは人類を守るため。モンスターは子を守り、生きるため。お互い命を奪い合うのは、人間もモンスターも共通して
まさかこんなとこで道徳を学ぶなんて。このために俺はこの世界に来たのか?
当然誰も答えない。
足音は近くなり、閉じていた瞼が淡い光に照らされる。けどもう自力で目を開けられない。力もでないし、全身が重い。覚悟はできた。短かったけど、タマミツネ生活楽しかったよ。じゃあな。
俺は誰に伝えるわけでもなく、己の肉体に別れを告げた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
567で暇すぎて書いたものが、これだけの方に見ていただけて大変嬉しいです!
お気に入り登録、評価、感想もこんなにいただけるとは思いませんでした。
まだまだ至らぬ点は多々ありますが、微力ながら精進して参ります。
本当にありがとうございます!