雛見沢の夜道は都会のそれとは違い、遥かに暗い。まぁ私は都会の道路事情なんて知らないのだけど。
月でも出ていれば、光の反射で多少なりの視界も確保出来るだろうけど……今日は生憎の空模様らしく、仄かな明かりどころか有無を言わせぬ漆黒が、辺りを埋めていた。
だからそんな雛見沢の夜道で、しかも人通りの少ない水車小屋の前で圭一に出会ったのは、偶然では無いなと確信した。
「はろろ〜ん☆ 圭ちゃん、こんな所で何やってんです? てか、めちゃ寒くありません?」
「おっ、詩音じゃねーか。やっと見つけたぜ。みんなで探してたんだよ!」
…………へぇ。探してた…ねぇ。
こっちが追う側だとばかり思っていたけど、どうやら相手も未だに、自分らを追う側だと思っているらしい。こりゃ好都合。しばらくはコイツらの話に乗ってやるか。
「……探してたって、私をですか?」
「ああそうだ。細かい話は魅音から聞いてくれ。っていうか、早く魅音の家に行こうぜ! 寒すぎて死んじまうよ!」
「そういえば、圭ちゃんは都会っ子ですからねー。どうです? 初体験の豪雪地帯ってやつは。雛見沢の冬には、もう慣れました?」
「最初は素直に感動したよ。雪ってこんなに積もるんだなーとか、目の前が見えなくなっちまうくらいに降るんだなとか。でもよ、流石に限度ってモンがあるだろ!? みんなの助言通りに食料を買い置きしてなかったら、今頃にはきっと、のたれ死んでたぜ」
「くすくすくす……同感です。ここいらの雪はちょっと調子に乗りすぎだっ! って感じがしますよねー」
圭一に不審な点は無かった。いつも通りの面白い奴。それ以上でも以下でもない。
他愛もないお喋りに混ぜて探りを入れるも、腹の底が見えてこないのだ。もしかして、コイツは本当に何も知らされていない……? ただ魅音に頼まれて私を探していただけ、とか。
そうこうしているうちに、あっという間に大きな影が見えてきて、園崎本家に着いてしまった。
「魅音、いるかー? 詩音のやつ、見つけたぞー!」
「おっ! 見つけてきたのはやっぱり圭ちゃんか。沙都子と梨花ちゃんはもうとっくに切り上げてるよ。レナも一旦帰るって言ってたけど、そろそろ来るんじゃないかな」
「……ってオイ! 結局夜まで探してたの俺だけかよ! 寒すぎて危うく遭難するところだったんだぞー!」
「へー。圭ちゃん、そんなになるまで私を探してくれたんですかぁー!? なんだか嬉しいなー☆」
そう言って抱きついて、軽くボディタッチ。ほれほれ、ふにふに。
——すると…それ見ろ。すぐお姉が反応するから面白い……くすくすくす。
「わー! やめろ詩音抱きつくな!」
「こらそこー! 馬鹿詩音! あんた圭ちゃんに何すんの!」
玄関先の騒ぎを聞きつけて、沙都子と梨花ちゃまも奥の部屋から顔を覗かせた。
「をっーほほほほ! 圭一さんは相変わらずお馬鹿丸出しですわねー!? わたくし達は、そうなる前に切り上げる脳がありましてよ? 圭一さんの残念なアタマだと、そこまで思考が回らないらしいですけどー!」
「なんだとー沙都子!」
「沙都子は、寒すぎてこんな事やってられないと、途中から大騒ぎでにゃーにゃーのみーみーで、ボクは仕方なく切り上げたのですよ、みー」
「ちょっと、 梨花ッー!わたくしはそんな事言ってませんのよー!? 詩音さんの為なら、たとえ真冬の鬼ヶ淵沼にでも飛び込んでみせましてよ!?」
「そのわりには、さっきまでコタツでぬくぬくしながらテレビ観て笑ってたけどねぇ? くっくっく!」
「……沙都子ぉ? 後で詩音特製のカボチャフルコースをご馳走してあげますから、覚悟してて下さいねー☆」
「ひぅ! ……いやですのー! カボチャはもういやー! アレもいやー! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………!」
……アレってなんだアレって。それだとなんだか、私が裏で酷い事してる奴みたいじゃないか。
「はぅ〜! いじめられてる沙都子ちゃんかぁいいよ〜!」
突然ガラリと扉が開いて、外の冷えた空気と共に、既にかぁいいモード全開のレナも飛び込んできた。
「おや、レナも帰ってきたね。そんじゃ、全員集合って事でちゃっちゃと始めますか!」
「おー!」
「いや、ちょっと待って!? 私一人だけ置いてかれてるの、分かりません? ってゆーか、何で私を探してたんですか?」
「何って、そりゃーねぇ。部活メンバーが揃ったらやる事ぁ一つしか無いでしょ」
「みんなでコタツに集まりながら部活をするんだよ! だよ!」
「もちろん、罰ゲーム有りの本格仕様だぜ!」
「をっーほっほ! 例え詩音さん相手でも、手加減はナシですのよー!?」
「というわけで、詩ぃも強制参加なのですよ、にぱー☆」
な……? なにそれ聞いてないぞ!? っていうか私、お姉の部活となんの関係もなくない?
だが、みんなの目はキラキラと輝いていて、とても今更断ることなんて出来無かった。
……お姉の奴が何を企んでるのか、あと悟史くんの件も知りたかっただけなのだが。まぁいいか。こっちにゃ仕掛けも準備してあるしね。
「……お姉ー? 私を参加させるって事は、負けた後の覚悟は出来てるってことでいいんですよねー?」
「くっくっく! いいねえいいねえ! その威勢の良さが、このメンバー相手にどこまで通用するか見ものだよ!」
お姉とその仲間たちは楽しそうに準備を始める。…………そう笑ってられるのも、今のうちだけだよ……くすくすくす。