ひぐらしのなく頃に 糖辛し編   作:りろーでぃん

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仲間って?

園崎家の冬の過ごし方は、コタツを囲んでみんなで麻雀と昔から決まっている。だから今日の魅音の部活とやらも、どうせ麻雀なんだろうと思っていた。

 

「くっくっく! おじさんは先に上がらせて貰うよ。いや、悪いね〜!」

「よっしゃ、俺も上がりだぜ!」

「レナもこれであぁがり! はぅ〜!」

「ボクも揃いましたですよ。上がりなのです」

 

予定調和のように負けの数が積み上がっていく。もちろん、私が負けているのだ。

さっきから連戦連敗で、私の格好は回を重ねる毎に酷い方向へとベクトルが捻じ曲がっていく。

鈴付き首輪に猫耳までは許そう、…………それにスク水メイド衣装ってアリ!? ってゆーか、いま真冬なんですけど!? これ以上負け続けたら今度は何をさせられるか分かったモンじゃない。

 

「はぅ〜! 鈴付き猫耳スク水メイド服の詩ぃちゃん…! 鈴付き猫耳スク水メイド服の詩ぃちゃん……! 鈴付き猫耳スク水メイド服の詩ぃちゃんッ! …………詩ぃちゃんがどんどんかぁいくなっていく……はぅ。レナ…そろそろ限界かな、かな……!」

「ダメだよレナ。お持ち帰りしちゃ……」

「あははは! レナが犯罪に手を染めるのが先か、詩音が一矢報いるのが先か、だな!」

 

細胞のあらゆる感覚が、生命の危機を感じているのが伝わる…………是が非でも勝たねばならなかった。

大体にして、イカサマのために牌を隠したまま無くしたお姉が悪いんだ。それでこんな……全員(私以外)カードの裏側が見えているガン牌ジジ抜きなんてものをやる羽目になったんだ。魅音の奴め、日頃の仕返しとばかりにわざと無くしたなんて嘘をついているんじゃないだろうか……?

駄目だ、冷静さを失っているぞ私。そんなんじゃこの鬼達には勝てない! 落ち着け……クールになれ園崎詩音ッ! 先ずは目の前の相手に集中! ………残すは、沙都子か。くっくっく…どうやら、まだ勝機はあるみたいだね。

 

「……沙都子? まさか、これ以上私に恥をかかせたりしないですよね?」

「いくら詩音さんの頼みでも、この戦いだけは譲れませんわ! その右のカードがハートの3なのは見え見えでしてよー!」

 

これだけ回数を重ねれば、カードの傷を覚えるなんて簡単だ。

私が密かにカードの傷を偽装している事にすら気づかず、してやったり顔でカードを選んで……沙都子はびっくり仰天。ほら、そんなはず無いと慌てて、急な逆転劇でもうパンク寸前なのも見え見え。頭上でモクモクと煙が上がっていくのが見えるようで……かぁいい沙都子、くすくす。

 

「はい、私の上がりです。残念でしたねー沙都子。こんなに負けが続いたら、流石の私でもカードの傷くらい覚えますよ」

「くぅううー! 詩音さんほどの人なら、その程度の手口なんてすぐ思いつく事くらい分かっていましたのにー! あんまりにも簡単に連敗するので、安易にカードを選びすぎましたわ!」

「沙都子がトラップを使う前に負けるなんて、珍しい事もあるもんだねー」

「詩音さんがあんまりにも愚直に負け続けるので、ついつい気が緩んでしまいましたわ……」

 

あれ、いまさりげなく沙都子にバカにされたような……? いや、そんなことは無い……沙都子はかぁいい沙都子はかぁいい…………そんな事を言うわけはない……!

 

「やるなー詩音。俺がその手に気づいたのはもっと後だったってのによー!」

「圭一の場合、負けが確定してボロボロになってからようやく思いつくのですよ、にぱー☆」

「そんじゃあ、罰ゲームは沙都子だね。ほらほら、観念しなよ。くっくっく!」

「くっ! 負けたからには仕方ありませんわね。どんな罰ゲームでもかかってこいですのよー!」

 

散々私に罰ゲームを受けさせて気分がいいのか、ノリノリな魅音を見ていたらなんだか悪知恵が働いてきた。

さも楽しそうに、押入れの中から取り出した鎖付きの首輪を、魅音の手から取り上げる。

 

「いえ、罰ゲームはお姉が受けて貰います」

「へっ? ……なっ、なななんでさー!?」

「こーんな、イカサマ前提の勝負って事は、つまりお姉軍団と私との勝負みたいなものです。という事で、私以外の敗北イコールお姉の負けって事でいいですよねー?」

「ちょっと、横暴だよー! そんなルールありー!?」

「その言葉、そっくりそのまま、お返ししますー!」

「はーい! レナは賛成だよ! もともとが詩ぃちゃんに不利なんだし、そのくらいのハンデがあってもいいんじゃないかな、かな! はぅ〜!」

「レナ、鼻血が出てますですよ……」

「……はぅ!」

「ん、って事はあれか? わざと負けたら魅音に確定で罰ゲームが出来るってわけだ。あははは! いいなそれー!」

「レナに圭ちゃんも何言ってんのさ! 無理無理無理! 絶対にやらないからねー!」

 

いつのまにか形成逆転、大ピンチの魅音を遠目に、その様子を傍観する。それにしても、こいつらはいつも本当に楽しそうに生きてるよな。

…………その時、それまでの喧騒を突き破るように、電話が鳴った。

 

「……ん。こんな時間に誰だろ。おじさん、ちょっと出てくるよ」

「ちょっと、お姉ー? そう言って逃げるのはナシですからね」

 

魅音は分かってるよと言わんばかりに手を振って廊下へと出ていった。

……電話がきたって事は、葛西が上手くやってくれたって事だ。ここまでは順調……さてと、そろそろおふざけも終わりにして、お姉と監督を問い詰めないとね。

でも、それには沙都子が邪魔だった。この子の前で悟史くんの話をするわけにはいかない。本当はもっと早くに行動を取りたかったのだけど、沙都子という障害が大きすぎて身動きが取れなかったのだ。

さーて、どうするかな。

そんな事を考えていたら、ふと視線を感じた。その先にいたのは……圭一だった。

 

「…………詩音。実は、話があるんだ」

 

唐突に切り出した圭一に、何故か梨花ちゃまもが振り返る。

 

「……圭一。いいのですか?」

「いいんだよ、梨花ちゃん。魅音には悪いけどさ、やっぱ全部話そう」

 

その表情はさっきまでの馬鹿騒ぎを片鱗も見せない、真剣そのものだった。見れば他のみんなも……いや、この場の空気そのものが、張り詰めていた。

だから私は冷静に、茶化す。こういう空気には、飲まれた瞬間負けが決まるのだ。冷静に……クールになれ。

 

「話って、なんです? あっ、もしかして告白ですかー!? もぅ、圭ちゃんって大胆なんですから。うーん……でも、そうですねー。結構魅力的なお誘いなんですけど、お姉に刺されたくは無いですから、それは却下って事で」

「詩音、茶化すのは無しだ。マジな話だから、ちゃんと答えて欲しい」

 

……ふーん。どうやら、私が仕掛けるまでもないみたいだね。……そりゃ、願ってもない展開だよ。正直言って、こっちは悟史くんの事で頭がいっぱいなんだ。その上で道化を演じるのは……辛い。悟史くん……待ってて悟史くん。今助けてあげるからね。

 

「……分かりました。で、なんです?」

「なあ、俺たちって……その…仲間だよな…?」

「…………はい?」

 

想定していた数々の言葉をオール無視した完全予想外の質問に、頭の中が真っ白になった。悟史くん悟史くん悟史くん悟史くん——はい? え、なに。……仲間? 何が? は??

 

「えーっと、あの……圭ちゃん? 質問の意味が全然わからないんですけど」

「意味も何も、そのままだよ。俺たちは仲間だよな……?」

「圭ちゃん、それ…マジで言ってるならちょっと寒すぎますって。いまどき、そんな熱血系は流行らないですよ」

 

混乱してついつい誤魔化す私に、それまで黙って見ていたレナも食ってかかる。

 

「詩ぃちゃん、圭一くんは真面目に話してるんだよ。だから詩ぃちゃんも、真面目に答えてあげて欲しいかな」

 

さっきまでかぁいいモード全開だったレナまでもが、真剣な面持ちだ。

仲間……? 仲間って、なんだろう。そもそも、その定義が自分の中で曖昧だった。この短くも長い人生で、今まで仲間って言える関係のグループなんて、無かったしね。

 

…………あれ? いま自分で言ったじゃないか。私は彼らを、仲間だとは思ってない……? そうだね…認めるよ。お姉の仲間、お姉の友達、お姉との話題によく上がる面白い奴ら、悟史くんに頼まれた…かぁいい沙都子……悟史くんのクラスメイト。真っ先に思い浮かぶのは、ちょっと離れた場所から見ている、傍観側の視点。

 

「詩ぃは、何か悩んでいることがありませんですか?」

 

気づけば梨花ちゃまも目の前に立っていた。

 

「……さっきから、みんなどうしたんです? 何か面白いドラマにでも影響されちゃったんですか?」

「詩ぃ、誰もふざけてなんてないのです。これは大事なことなのですよ。この雛見沢を……たった一つの、ようやく掴めたこの世界を、ボクは失いたく無いのです」

 

梨花ちゃまの言葉に、沙都子までもが続く。

 

「詩音さん、みんな……とても真剣なんですのよ。聞いていることはとてもバカバカしい事かもしれないですけれど……わたくしも、とても大事な事だと思いますの」

 

あの沙都子までもが、その目をしている。どこか私を見透かすような、何かを悟っているかのように研ぎ澄まされたその視線。

………………わからない。私は、彼らがわからない。でもきっと、それこそが私の答えそのものなんだろうとは理解していた。

……誰も動かない。

それぞれが…いや、仲間とそうでない者の両者が、互いにその視線を探り合う。

そんな、不毛な視線の鍔迫り合いを終わらせるかのように、襖が開いた。そして、そこから顔を覗かす魅音の顔は蒼白だった。

…………そうだよね。だって私、葛西に頼んで酷いことを企んでいたから……でもそれはお姉が悪いんだよ…?

しかし、魅音の口から発せられた言葉は、予想よりも遥か彼方からやって来た、最悪のシナリオだった。

 

「詩音……。 いま、監督から電話があってね。その…葛西さんが……倒れたらしいの」

「えっ……葛西が!?」

 

わからない……わからない事だらけだよ。

お姉は監督と何かを企んでて…みんなは仲間がどうのと、意味もわからない事を言ってて、それで今度は葛西が……倒れた…? どうしよう……どうすればいいの? 私の意思と関係なく、理解の及ばないところでどんどん状況が悪化していく。

どうしよう…………、助けて悟史くん……助けてよ。

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