突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが? 作:内藤悠月
マジックハンド。トリガーを引くことで先端についた手が開閉することで遠くのものを掴む事ができる道具である。
玩具としては、掴む動きと同時に棒の部分に当たるパンタグラフ状の機構が伸縮することで長さが変化して相手を驚かせるなどの動作が可能となっている。
手の届かない場所にあるものに手を届かせる為に利用される道具であるが、手の延長線上に動作が延長される関係上、操作には慣れが必要である。
今回はそのマジックハンドが出てきた話である。
兄がたどり着いた25層はコロシアムだった。
正確にはそれを中心とした複数の建物で構築された空間であり、ボスの座としてコロシアムが存在している。
古代ローマにも似た造形の建物群が軒を連ねる光景はただそれだけで歴史ロマンを刺激される。
しかしそこには人がいない。
なにも生き物の痕跡がないのだ。
ローマ調の建物には、人が生活しているような痕跡がない。
花壇には花がない。
井戸には桶が置かれていない。
全ての窓ははめ込まれたまま、一度も開けられていないように見える。
道に木の葉すら落ちていない。
それに、建物と建物の間は人が通れないほど狭く作られているあたり、周囲の建物はダンジョンの壁でしか無いのだろう。
そしてそれは順路に従って行けばコロシアムにたどり着くようになっている。
兄はそこにいたボスを瞬殺した。
ミノタウロスに似たモンスターはワンパンで頭部を吹き飛ばされていたのだ。
レベルの上がった
わざわざ録画して見せつけてくるあたり、自慢したがりである。
というかいつの間にレベルをあげていたのだろうか。
まあいいか。
ガチャを回そう。
R・マジックハンド
出現したのはマジックハンドだった。
いわゆるパンタグラフ式の玩具のタイプのものだ。
その先端には手袋を嵌めた手のような形の部品がついている。
右手の造形をしている。
握りはD字に似た形状であり、握り込むことで動作する作りになっているように見えるが、なにか不自然さも感じる。
なにか仕掛けがあるような気がするが……。
まあ動かしてみればいいか。
そう思ってマジックハンドを右手で握り込む、が。
持ち上げた時点で、先端の拳が軽く握られている。
これでは伸ばしたときになにかを掴むことが出来ないのでは?
まあいいか。
元々無理矢理におかしな性質をつけられている事が多い景品だ。
壊れていることもあるだろう。
そう思って右手を握り込んで伸縮させてみると、動作に従って先端の拳が握り込まれた。
……。
なにかがおかしい。
そう思って、私はマジックハンドを左手に持ち替え、握り込んだ。
するとどうだろうか。
先端の拳がゆるく開いたままパンタグラフが伸ばされたのだ。
左手を握り込んだまま、私は直感に従って右手を開閉してみた。
やはりというかなんというか。
マジックハンドは、私の右手の動作をトレースするかのごとく同じように動いたのだ。
ああそういう……。
右手に同期するマジックハンド?
何に使うんだそれ。
右手で持ったら全く意味がないじゃないか!
後日。兄がマジックハンドを使ってコインを拾い上げていた。
マジックハンドを伸ばした先も、パンタグラフ式なためにプラプラと安定しない。
そして、遠くのものを取ろうとするにしても、パンタグラフ式の限界というべきか、そもそもそんなに長くないのだ。
強いて言えば足元に落ちているものを拾い上げるぐらいだが、まあ……。
兄はいちいち屈み込まなくてもドロップアイテムを拾えるようになったと喜んでいたが、元々自分でかがみ込んで拾ってない。
全部サメもどきにやらせていたので、結局のところ使いみちがない。
とか思ってたら、
うまくいくのかそれ。
動作が同期するだけで、強度はマジックハンド程度しかないぞそれ。
どうせ飽きて使わなくなるぞそれ。