突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが?   作:内藤悠月

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R ボールペン

 ボールペン。ペンの先に付けられた鉄球が回転するとともに、抑えているインクをにじみ出すことで筆記することを可能にする文房具である。

 性質上、極めて小さな球体を作る技術、鉄球を軸先に固定する技術、インクの通る細い穴を作る技術、と精密な加工が必要な道具である。

 そんな精密機械が百均で数十本まとめて売られている現代社会は凄まじいものがあると言えよう。

 豊かさとはそういう物だ。

 

 今回はそのボールペンが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が木工細工で氷結の斧を固定するラックを作り出した。

 ガチャが出現して以来、兄の手先は明らかに器用になっている。

 必要にかられて色々なものを作るようになったせいだろう。

 

 今回作ったラックも、壁に立て掛けておけるように薄い箱のような形状をしていて、中に氷結の斧を固定するための留め具が用意されている。

 この留め具、氷結の斧を持ち出すことを考慮していないのかネジ留めしてしまえるようになっているのだ。

 また、箱の蓋も用意されていて、これがまた妙に気が利いているのか、複数の穴が空いている。

 つまり斧を出さなくても部屋が冷やせるようになっているのだ。

 

 自由に場所を移動させられるクーラーとして生まれ変わったと言える。

 クーラーにしてしまうのは私も考えたが、まさかここまでしっかりした箱にしてしまうとは。

 技術力を得てしまった兄が向かう先は一体どこだろうか。

 

 まあいいか。

 ガチャを回そう

 

 R・ボールペン

 

 出現したのは、黒のボールペンだった。

 クリアなプラスチックの本体に、黒のリフィルが装填された大量生産品のボールペンだ。

 ノック式で上のボタンを押すことでカチカチと軸先が出たり引っ込んだりするタイプのものだ。

 

 ボールペンか。

 シンプルなものだけに、その効果も複数、多岐にわたる用途が想像できる。

 書いたものがなにかになるとか、インクが尽きないとか、そもそも書けないとかそういうやつだ。

 

 そう思って私は紙を用意した。

 ボールペンである以上、なにか書くものが必要になる。

 そういう判断だ。

 

 そのため、私は特に意識することなく、ボールペンの頭をノックした。

 その瞬間、私の目の前の草原にまるでインクの塊のような黒のスライムが出現した。

 

 もう一度ノックする。

 スライムは消えた。

 

 もう一度ノックする。

 スライムが出現した。

 

 えー……。

 まさかノックするだけで効果を発揮するとは。

 それはボールペンである必要がないではないか。

 ボールペンは書くためにあるのであって、カチカチとノックするためにあるわけではない。

 

 とりあえずノックして書いてみたが特になにかが起こるわけではなかった。

 訳わかんねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄がノックした瞬間に出現するスライムの制御方法を見つけ出した。

 このスライム、特定の文字を主食としているらしく、ボールペンで書いた字で操作出来ることがわかったのだ。

 

 Aと書くとうろつき、Sと書くと近くのものに噛み付く。

 それだけ。

 それ以外にも何らかしかコマンドが存在するはずだが、何を書いても反応しない。

 むしろよくAとSが反応すると気がついた、というべきだ。

 

 ついでにいうと、他のボールペンで書いた字でも反応した。

 じゃあなんでこれボールペンなんだよ!


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