突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが?   作:内藤悠月

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SSR 時を止める懐中時計

 人の持つ時間という概念は、太陽の巡りを分割することで生まれた。

 太陽が一巡りし、次の朝を迎える時間を1日。

 太陽が真上に来る時間を基準として午前午後。

 基準こそ詳しくはわからないが、それぞれが12等分されて1時間という概念が生まれ、そしてそれを分割した結果が今の時間概念だ。

 

 極端な話、我々の時間感覚は今ある形の時計によって作られたものだ。

 12と60で分割され、その進みを正確に記録する。

 私達はそれを意識するようになり、正確な時間に関する生き方を選択するようになった。

 

 時間は戻らない。時間は進み続ける。

 時計のようにそれを正確に測るものが存在するなら、否応にもそれを意識せざるを得ない。

 

 今回はその概念を破壊するモノが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 今日は一日災難な日だった。トラックに泥を跳ねられるわ、鳥のフンが落ちてきて上着が汚れるわ……。

 それに帰ってくるなり兄にうざ絡みされるわ。その後ガチャを回すことを要求されるわ。

 ぶっちゃけ回したくはないが、兄がワクワクしているので回さなかったらご機嫌取りに無駄な時間を使う羽目になることが容易に予想できる。

 なんだかんだ金を出されている以上、私はやるしか無いのだ。

 

 ハンドルを回す。排出されたのは「SSR」の文字が刻まれた金色のカプセルだ。

 一瞬、部屋を占拠するデカブツが出現する予感が脳裏をよぎる。

 

 SSR・時を止める懐中時計

 

 足元に落ちてきたのは古めかしい懐中時計だった。真鍮の外装で、文字盤には蓋がないタイプだ。

 一般的な懐中時計よりもやや一回りほど大きい。

 装飾はまったくなく、金属のツルリとした感触。実用性一辺倒といった感じだ。

 

 しかし、時を止める……?

 そんなあからさまなマジックアイテムがこの、正気とは思えない代物から排出されるだろうか。

 

 それにこの時計、動いていないのだ。

 ネジが巻かれていないのかと、竜頭を回してみたが一切手応えがない。

 それどころか、時刻合わせも出来ない。

 何のための竜頭だ。時間が調整できないなら懐中時計として使えないじゃないか。

 

 時針も分針もピタリと12を指し示し、動くことがない。

 耳を当ててみても動いている音を立てていない。

 

 いじってみていて気がついた。竜頭を軽く押すとわずかに沈み込むのだ。

 蓋のある懐中時計なら蓋を開くための動作だが、この懐中時計には蓋はない。

 

 これ、か……?

 親指に力を込めて竜頭を押し込む。異様に硬い。握力が悲鳴を上げている。

 

 カチッ。

 

 懐中時計が小気味よい音を立てるとともに、突如として周囲の音が消えた。

 普段なら聞こえているはずのリビングのテレビの音も、風の音も、外の車の走る音も、全てが止んだのだ。

 

 何が起こっているのか。本当に時間が止まった……?

 外を確認しようとしてカーテンに触れる。びくとも動かない。

 指が沈み込みすらしない。

 

 同様に、ドアノブは回らず、机の上の100円玉は一ミリもずれず、あとガチャのハンドルも回らない。

 全てが固定されている。

 

 これが時間を止める懐中時計の機能か。

 懐中時計の時針は逆行をし始めている。通常の時計と異なり逆に進んでいるのだ。

 おそらく……これは使用期限か。

 動かなかったのではなく、はじめからきちんと指し示すべきものを指し示していたのだ。

 これが切れるとどうなるかわからない。

 多分これが使えなくなるんだろう。

 

 そう思いをはせながら、竜頭をもう一度押し込む。

 恐ろしく硬い竜頭。両手で地面に押し付けながら体重をかけることで初めて押し込まれた。

 竜頭の異様な硬さに反して小気味よい音を立てる。

 すると周囲の音が帰ってくる。リビングのテレビの音や外の車の音……。

 

 まともな世界だ。

 

 他の物体に干渉できない以上、やはり実社会で役に立つ道具ではないだろう。

 私にはまともな使い方が思いつかない。

 

 

 

 

 

 後日。兄に貸したら時計を使って空中2段ジャンプができるようになっていた。なんで?


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