突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが? 作:内藤悠月
猫。特に家猫は古来より人のパートナーとして寄り添ってきた。
その痕跡は各地の伝説や神話に見て取れる。
エジプト神話のバステト神の存在や、猫に関わることわざが複数存在することや、欧州では麦穂の精霊として扱われていたことなど、手繰って調べようと思えばいくらでも出てくることだろう。
それほど昔から猫は人々に愛されてきたのだ。
今回は猫の像が出てきた話だ。
機神となった迷宮の膨大としか言いようがない演算能力によって、錬金術士のアトリエにある本の言語の解析が終わった。
対訳が可能な単語リストが生成され、現在はそれを利用しての翻訳作業が進められている。
所々に現実には存在し得ない素材や概念が記述されているためにその点において翻訳に難が出ているが、許容するしかない範囲である。
それによって何が出来上がるかというと、大量の錬金術のレシピである。
その殆どは魔法薬であり、特定の病に効くだとか、骨折が治るだとか、熱を冷ますだとかの効能を持っているものばかりである。
だが、それに分類されないものが問題なのだ。
周囲一帯を一瞬にして氷漬けにする爆弾。
落雷を呼び寄せる石。
勝手に暴れまわるボーリングの球のようなもの。
多分錬金術士が自衛のために利用していたと思われる危険物のレシピがゴロゴロあるのだ。
その上、しれっと無限に飲水が得られる壺のレシピもあるあたり、兄は世界を変革する物を引き寄せる才能がある。
その才能が一番困るんだよなぁ。
危険物で遊んでいる時の兄も大概困るが、ガチャの景品には一夜にして世界を変えてしまう代物が多すぎる。
そして兄はそれを理解する才能に溢れてしまっている。
そしてそれがうかつに公開されたりすると私は間違いなく騒動に巻き込まれるのだ。
やめてくれ。
現状でも困ってるのに騒動が世界規模になったらもう死ぬ未来しか見えない。
あるいは死ぬよりひどい目に遭うか。
少なくともテラスでお茶を飲めるような生活は不可能になるだろう。
それまでも片鱗こそあったが、やはりガチャが出現してから目覚めた才能である。
ちょこちょこいいものやら便利なものも出てきているが、私のガチャへの心象が一向に改善されない理由の一つでもある。
毎回次が怖いというかなんというか……。
ぶっちゃけ詰んでいるが、それでも先延ばしできるなら先延ばししたい。
そういうわけで今日も今日とてガチャを回すハメになるわけだ。
前門の兄、後門のガチャ騒音。
やってらんねえ。
R・猫の像
出現したのは伸びをしたポーズをしている猫の置物だった。
素材の風味を生かしたのか、黒い地に瞳と耳だけが塗り分けられている。
また、台座のようなものがなく、直接足が床に接地する作りだ。
置……物?
この間出たキメラティックな置物は時間経過で変化する代物だったが、この猫の像もそうなんだろうか。
例えば猫の視線の先にビームを浴びせるとか。
それともこのお尻のところにある蓋のようなものが関係あるのだろうか。
内側から接着剤かなにかで固められているのか開きそうにもないが。
そう思って像を弄り回していたら、なにか猫の股のあたりに押し込めるボタンのようなものを見つけた。
目視で見つからなかったのは像の分割線に沿って配置されていたせいだ。
それにボタンとしてはかなり硬い。
これまでのガチガチだった景品のスイッチと比べると、なんというか、セーフティーとして硬くなっている感じだ。
力づくで角に叩きつけて押し込んでも入らないだろう。
というわけで押して見る。
指に力を込めて押し込めばやや遅いといった速度でボタンが沈み込み、そしてカチ、と音を立てた。
その音とともに、突如猫の像の口から鳴き声のようなものが出、しかも目からレーザーが照射されたのだ。
そのレーザーは柱に穴を開け、その向こう側へと突き抜けていった。
え、ええー……。
もしかしてビームが出るかも、とは思ったけども。
マジで出すやつがある……?
しかも一回出したらもう出なくなったし。
なんなんだよもう。
後日。兄が猫の像からもう一発発射した。
でなくなったと思っていたのは、リロードが必要だったためだった。
猫の喉に当たる部分に同じように押し込みのボタンが存在し、そちらのボタンを押し込むことでリロードされる、という仕組みだったのだ。
なおお尻の蓋はダミー。
兄が強引にこじ開けたがなにもなかった。
どうしてそんなめんどくさい仕組みになっているのか、なぜそんな代物を猫の像に組み込んでいるのか。
毎回毎回、どうしてこんなおかしなこり方をするのか。
ガチャの景品にいちいち突っ込んでいては身が持たないが……。
なんでそうなるんだよ!