突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが?   作:内藤悠月

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SR お手伝い妖精

 物語には様々な妖精が存在する。

 道を違わせ、森に迷わせる者。

 従者として仕える者。

 危険な原生生物。

 魔法によって生み出される生き物。

 知恵と享楽を好む者。

 勇者を導く者。

 人類種の次の支配種になった生物。

 

 古典ファンタジーでは大体邪悪な生き物だったはずだが、随分と多様化した気がする。

 だがそのイメージは基本、小さい羽を生やした小人だ。

 それが妖精の根本的なイメージであり、それ以外の要素は物語の要求によって変化していく。

 

 

 今回は、そのよくわからないタイプの妖精が出た話だ。

 

 

 兄が新しい工具箱を注文した。明らかにログハウス改修用の工具だ。

 私の知らないうちに設備が充実して、今では兄の部屋より快適な空間と成っているのが解せない。

 そのせいですぐに私の部屋が通路代わりにされるのだ。

 

 いっそ私用の部屋を作らせるか。いや、下手にあの場所に入り浸るとすぐ体内時間が狂う。

 太陽が南中から動かない関係で、昼も夜も関係なく強い太陽光で照らされるため、体がいつまでも昼だと錯覚してしまうのだ。

 

 いつもの日課を済ませてしまおう。日課になっていることが悲しい……。

 ハンドルは珍しく軋んでいる。ゴリゴリという音とともに回す。

 排出された白色のカプセルにSRと刻まれている。生モノの予感がする。得体のしれない生モノが出られると困るが……。

 

 SR・お手伝い妖精

 

 クソが、何だよそれ!

 それが出た瞬間思い浮かんだのは、生き物は飼えない……ということだ。

 生き物に対して責任が持てない。

 飼っていたハムスターを二日で全滅させた経験もある。兄が。

 

 そこにいたのは、宙に浮くデフォルメされたサメ。

 青い肌はつるりとしているがぬいぐるみのような質感をしている。

 脳裏によぎる「お前を消す方法」。

 違う、それはイルカだ。サメではない。アサイラムか。それも違う。

 

 私の混乱をよそに、そのサメはこちらを窺うようにゆっくりと近づいてくる。

 

「はじめまして! お手伝い妖精です!」

 

 それは気さくに挨拶をしてきた。え、どう見てもサメじゃん。

 妖……精……?

 

 

 ヒアリングの結果、彼の名前はシャチだとわかった。シャチじゃなくてどう見てもサメじゃん。

 撫でさせてもらったが、手触りはつるつるしていて気持ちいい。こうしている間も撫でさせてもらっている。

 種族はお手伝い妖精、主人の下でお手伝いするために生まれてきた生き物らしい。

 

 ただ、この生き物という定義が非常に厄介である。

 なぜならこのサメ、好物がインチネジだ。

 

 そう、インチネジだ。

 モノを固定するのに使うあのネジだ。

 一般的に鋼材で作られているアレだ。

 

 インチネジは滅ぼさねばならないが、ミリネジとインチネジの違いは結局のところ、大きさの違いでしか無い。

 使っているスケールが違うために同じ数字で大きさが異なる。ただそれだけなのだ。

 

 だが、このサメはインチネジだけを食べる。

 ミリネジは食べない。

 

 そこに何の差があるのか。というかそもそもどうして金属で出来ているネジを食べるんだこいつは!

 しかも排泄とかしないらしい。ますます不可解だ。

 

 本当に生き物かこれ?

 

 

 よくわからない存在だ。

 考えるのをやめよう。

 実験室内の管理を彼に任せて送り出す。

 

 定期的にインチネジを与えておけばそのうちなにか、どう扱えばいいか考えつくだろう。

 シャチくんもそこそこ賢いので提案してくることもあろう。

 それを待てばいい。ただ待てば……。

 

 

 

 後日。実験室内にログハウスではなく立派な家が立っていた。

 平屋建てだがかなりしっかりした日本家屋だ。

 床は板張りで、障子の代わりに木板が使われていることを除けばそのまま生活できそうな程の完成度。

 

 兄がシャチくんに手伝わせて作ったモノだそうだ。マジかよ。


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