突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが?   作:内藤悠月

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R 菌床

 菌床。きのこが生育するのに必要な培地のことである。

 具体的には木材にしいたけの菌を植え付けたものや、おがくずにしめじの菌を混ぜたもののことだ。

 きのこを育てるには必要なものであり、これらを買って育てている。

 また、より美味しいきのこを作るためにはこの菌床に手を加える場合も多い。

 貝の粉末などを菌床に加えて育てている、といった手法だ。

 

 今回はその菌床が出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兄が街道と思しき道を発見した。

 カタパルトで打ち上げたサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は高高度からその仕事を果たし、地上の地形を把握するのに必要な情報を集めてくれた。

 

 その結果、これまで調査していたよりも西に知的生物の手が入ったと思しき地形が存在する事がわかったのだ。

 馬車に似た乗り物が複数回通った結果踏み固められて出来た道のようで、草原の中に線を引くように土がむき出しになっている。

 それは西に向かう途中で林に入っていく。

 東に向かうと山脈を迂回するように北にそれた道が続いており、西だけではなく北にも街があるであろうことを示している。

 

 兄は早速そこにサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を向かわせる。

 最もサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の速度で移動してもどれほど時間がかかるかわかったものではない。

 数時間程度、といったところだろうか。

 

 異世界の調査ということで横にいれば楽しめるかと思ったが、思ったよりも暇だな。

 ダンジョンの管制室に椅子を置いて命令を出している兄を横目に眺めているが、微妙である。

 見たこともない植物が生えているようにも見えるが、まあその程度だ。

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が強すぎるのか野生動物は近づきすらしない。

 

 暇を持て余した私は、予め回しておいたガチャのカプセルを取り出す。

 回したタイミングで管制室に引きずり込まれたのだ。

 もうここで開けてしまおう。

 でかいものはまあ……最悪ダンジョンの再配置で移動させてもらう。

 

 R・菌床

 

 出現したのは、おがくずの塊だった。

 一般向けに販売されているしいたけの栽培キットのようなものである。

 あとこれにカバーとしてかぶせるビニール袋もセットで出てきている。

 

 それに……それだけではない。

 この菌床、いきなりきのこが生えているのだ。

 なんの菌床か自己主張するためにはじめから生えているのだとは思うが、ガチャの気の利かせ方はなにかおかしい。

 

 そして、生えているきのこはというと。

 松茸である。

 あの香り松茸味シメジの松茸だ。

 

 それが上部からそそり立っているのだ。

 松茸は生きたアカマツにしか生えないきのこのはずだが、なぜかこの菌床から生えてきている。

 

 ええー……?

 なにこのきのこ、というか菌床。

 いきなり松茸が生えているのはまあいい。

 よくみるとその松茸の根本に小さな松茸が生え始めているのだ。

 

 なんで……?

 なんで松茸が菌床から生えてきてるの?

 しかもこれからの経験からすると、やっぱこの松茸増えるよね?

 

 この菌床、こわ。

 何が起こっているのか推察すら出来ない。

 

 なにより、松茸を見る兄の目がやばい。

 得体のしれない松茸を食おうという食い意地がやばい。

 まあ兄は松茸好きだもんな……。

 

 私はそっと兄に菌床を手渡す。

 兄ならこう……いい感じにしてくれるだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。ダンジョンの一フロアに松茸の栽培場が出現した。

 菌床をほぐしてダンジョンのフロアに合成してしまうことで、もう地面からびっくりするほど松茸が生えている状態を作り出したのだ。

 ちょっと覗くだけでも松茸があちこちに生えていて、しかもはいるとうっかり松茸を踏んづけてしまうほどに。

 

 いやあ松茸食べ放題ですね!

 いくらなんでも無理くりな出現をしたせいで、私の中で松茸が得体が知れないきのこになってしまった。

 

 食べづれえ……。

 複雑な気持ちになって食べづれえ……。

 

 しかも兄が毎食なんらかしか食卓に上げるせいで、余計に辛い。

 少しは気にしてよ!


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