突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが?   作:内藤悠月

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R ヒールポーション

 ポーション。ファンタジーに出てくる魔法薬を指す言葉である。

 最も多く登場する効果は飲むことで傷を癒やす、だろうか。

 魔女や錬金術士などが作って売り歩いている姿が一般的なイメージだろう。

 あるいは普通に店売りしているか。

 魔法薬というだけあって、多くの場合効果は劇的で、傷を一瞬のうちに、あるいは数分で直してしまう。

 

 今回はヒールポーションが出てきた話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、こんな日が来るとは思っていたが。

 いや、これまでもちょこちょこあったのだが。

 ベースとなる物が違うものだったり、似たようなものでも違う効果を持っていたりしたのだが。

 

 まさか完全下位互換が出てくるとは。

 

 R・ヒールポーション

 

 今日のガチャで出てきたのは、瓶詰めのヒールポーションだ。

 瓶の中に緑色に薄く光る液体が入っている。

 見ての通り、魔法的な輝き方だ。

 仮にこれが魔法でないとしたらやばい液体だとしか言いようがないだろう。

 

 だが、これの効果を確かめる必要はない。

 なぜなら……、このヒールポーション、自動販売機のラインナップに入っているからだ。

 すでに兄がサメもどきを使って実験済みである。

 

 まあそういうこともあるだろうとは思ってはいるが、実際に出てくると面食らうところがある。

 ガチャの景品というのは、そもそもダブるものなのだ。

 むしろこれまであまりかぶってこなかったのが奇跡だと言えよう。

 

 さて、中身のわかっているこれをどうしようか……。

 そう思っていると、兄が騒ぎ出す。

 モニターの1つを指差して私を呼びつけるのだ。

 

 いや何かあったら私を呼ぶように言っておいたけれども。

 最近動いてないから元気の有り余っているようでテンションが高い。

 

 指さされたモニターには、トリケラトプスのような生き物が引く馬車のような乗り物。

 そしてそれを守るように騎士が立っている。

 

 一瞬、兄がバカみたいにサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を突っ込ませて警戒状態にさせたのかと思ったがそうでもないらしい。

 より引いたカメラの映像を見ると、そこには空を回遊するサメの姿と、小人型のサメに似たなにかが写っていた。

 

 どうもそのサメが馬車を襲っているようで、作戦もへったくれもない動きでサメのようななにかが騎士に攻撃を仕掛けている。

 鑑定のメガネには、その生き物の種族名が映し出されていた。

 コモンサメリン、と。

 

 コモンサメリン。

 どこから突っ込めば良いんだろうか。

 頭にレアリティがついていることだろうか。

 それとも、ゴブリンめいた特徴を持っているサメに、サメリンとかいう適当な名前がついていることだろうか。

 あるいは、サメに手足が生えていることだろうか。

 

 それに空を回遊しているサメもサメだ。

 こっちはこっちで嫌になる名前がついている。

 なんとフライングシャークガチャだ。

 

 その名の通り、脇腹にコインの投入口とハンドルがついている。

 その身についたハンドルがたまに回転して、周囲に新しいコモンサメリンを出現させているのだ。

 それ以外はただのサメで、サメが空中を回遊しているという点についてはもはやツッコミを入れるのは野暮だと言えるだろう。

 

 それにそのフライングシャークガチャにはなにか胡散臭いおっさんが乗っていて、口汚くサメ共に命令を出している。

 その言動から、どうも都市を追放された野盗の類らしいが。

 運良くフライングシャークガチャを従えられただの、これで一稼ぎしてやるだの、聞くに耐えない言動をしているのだ。

 

 ただ、それを言えるだけの事はあって、一度に10体ものサメリンを出現させている。

 十連ガチャもかくやの速度でモンスターを生産してけしかけてくるのには騎士も溜まったものではない。

 

 いつしか騎士たちは押し込まれ、サメリンの数に押されて一人の騎士が昏倒したのだ。

 

 それを見ていた私は、慌てて兄にフライングシャークガチャを攻撃するように指示を出す。

 しまった。ぼんやり見ていたが助ける手段があるのを忘れていた。

 

 こういう場合の兄はどう動くかわかったものではない。

 フライングシャークガチャを入手するために騎士たちを見殺しにするまである。

 

 指示を出した瞬間、サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)は一瞬でフライングシャークガチャの首を刎ねた。

 本当に一瞬である。

 その脚力で近くにあった木を足場に、縮地めいた動きをしたのだろうか。

 

 それに続くように、次から次へと空からサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)が降り立ち、サメリンを殲滅していく。

 うねる邪神の槍を薙ぐだけでサメリンは溶けるように死んでいく。

 

 その場に残ったのは、盗賊くずれと騎士たち数人、そしてサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)だ。

 一時はサメリンに集られていた馬車も無事のようである。

 血しぶきで汚れているが。

 

 騎士たちがサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)を見る目は、見る目は……、いや何だこの目は。

 何人かはまるで祈るように手を合わせ、隊長格と思しき騎士は、どうすればいいのかわからないと言った表情である。

 

 うーむ。

 はやまってやらかしてしまったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直後。兄は私の左手を指差す。

 左手に持っていたヒールポーションをこっちにプリーズ、となんかむかつく口調で言われたので、とりあえず渡すと同時に膝蹴りをお見舞いしてやった。

 

 兄は受け取ったヒールポーションを台に載せ、そのすぐあとにそのポーションは姿を消した。

 どこに消えたのかと思った矢先、モニターのサメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)の手の中に移動していた。

 

 兄はドヤ顔で機神に進化したときに得た能力の1つだと紹介している。

 

 サメ機巧天使(シャークマシンエンジェル)はそのヒールポーションを負傷した騎士に振りかけた。

 その行動が騎士たちにとって突然だったためか警戒されたが、騎士の傷が塞がると今度は拝まれた。

 

 これは……案の定まずいことになったのでは……?


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