突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが? 作:内藤悠月
物語にはテンプレートがある。
概ね「起こり得そうなこと」と「起こったら盛り上がりそうなこと」のパターンと組み合わせで出来ているものだ。
だから物語では助けた美女は主人公に惚れるし、主人公は困っている人に手を差し伸ばすのだ。
起こり得そうなことは物語の説得力を増すし、起こったら盛り上がりそうなことは字の通り盛り上がりどころを作ることが出来るだろう。
だがどこにでもあるようなことをしても盛り上がらないし退屈になってしまう。
だから物語を書くときは説得力を欠かないように少しずつ要素を入れ替えて書かれていく。
今回はテンプレ的な展開が発生した話だ。
襲われていた馬車を
こういう時に躊躇しない兄だが、こっちはフライングシャークガチャの死体を回収してきてそれの検分にテンションを上げている真っ最中で、役に立ちそうにはない。
「天使様……」「天使様だ……」と拝む声から察するに、案の定というか、やっぱりというべきか天使という種は信仰の対象のようである。
それが自分たちのピンチに舞い降りて窮地を救ってくれたのだから、そりゃそうもなるか。
最初こそ敵対的なものかと警戒していたが、ヒールポーションで治療してからは敵対的ではないと思われたらしく、そのもとより持ち合わせているであろう信仰心から祈りを捧げられている真っ最中である。
それらしい会話も聞き取れている。
まあ、この天使、機械仕掛けな上、サメ頭なんだけどな。
さてホントどうやって声をかけよう。
うかつに声をかけると神とか言われて信仰されてしまう。
いや今私がいる場所は機神の中だしこのダンジョンは神みたいなもんだけどさぁ!?
そう混乱していると、馬車から一人のお嬢さんが降りてきた。
年齢は私と同年代に見えるが、その立ち振舞は優雅でありわずかにだがカリスマのようなものも感じる。
ややラフに見えるドレスを完璧に着こなしているあたり、貴族のように見える。
やっぱ中世ヨーロッパ風かぁ。
まあガチャ産だしなぁ。
そのように思考が明後日の方向に飛びそうになったところ、そのお嬢さんがこちらに向かって声をかけてくる。
儀礼的な挨拶とともに、彼女はエリスと名乗った。
助けられた感謝の言葉とともに、こちらが何者かを訪ねて来る。
助かるぅ。
こう、話しやすい空気を作るのが上手い人っているよね。
なので私は予め兄と話し合って決めていた名前を語ることにする。
私達は
大陸を調べるために旅をしている者です、と。
ごめんねー、そっちの神話の天使じゃなくて。
それに続けて、道に迷っていて近くの街に行きたいことも伝える。
自分で言っていてなんだが、このサメ頭を街に入れたがる人間がいるとは思えない。
だがエリスさんは目を輝かせて歓迎しますわ、と言い放った。
豪胆というかなんというか。
それに続けて、私の街ガチャレクシアへ案内しましょう、と。
ガチャレクシア。
ガチャ、レクシア。
マジっすかぁ……。
なんかもういきなりイヤなワードがついた街で幸先がわるい気がする。
いや新ガチャ大陸何だからそういう事もあるのか。
これだからガチャ産はイヤなんだ……。
その後。細々とした会話をしながら、ガチャレクシアにへと向かう一行。
とりあえず顔は兄に命じて作らせたフードつきのマントを転送することで隠す方針で行くことにした。
翼は……まあ畳めばよかろう。
マントに収まればなんとかなる。
あと現地の騎士と比べてもだいぶ身長が高いが、そっちもなんとかなるはずだ。
数時間馬車を走らせた結果、見えてきたのは城塞に守られた都市だった。
様々な色の金属が積み上げられて随分ときらびやかな城塞である。
そして、視線を少し上げれば見えてくる最高にイヤなもの。
そう、巨大なガチャ筐体である。
衛星写真に映るほどの大きさではないが、それでも塔かなにかとみまごうほどの巨大さである。
しかもエリスさんが言うには、内部がダンジョンになっていて、入るたびに姿を変えるそうだ。
だからここは迷宮都市ガチャレクシア。
迷宮探索を基幹産業とした、冒険者の街だ。
うーん、最初に出会う街がこれで良いんだろうか……。
良いんだろうな……だって新ガチャ大陸だしな……。
多分他の街も似たりよったりな気がしてならない……。