突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが? 作:内藤悠月
人工肉。科学的に合成されたり、培養されて作られた肉のことである。
家畜の命を奪うことなく肉を作り出し、摂取することが出来るため、殺生を好まない菜食主義者などに需要がある、とされる。
また科学的に作成されているために不純物を含まない。
そのため、味の調整も科学的に可能であるのだ。
今回はその人工肉培養機が出てきた話だ。
竜の肉をいたくお気に召された兄は、ガチャレクシアの食材に近い肉があるのではないかと考え、様々な種類のモンスターの肉を買い込み始めた。
ただでさえ金策を持ち合わせていないというのにそういうことをされるとすぐ素寒貧になりかねない。
まだ茶碗を売った金が残っているとはいえ、どうするつもりなのか。
それで買い込んできた肉は基本的にモンスターのものである。
ダンジョンに出現するモンスターを解体して得られた肉だ。
ほとんどジビエのような気がするが、まあ取れる場所から取るというのは合理的であると言えよう。
ミノタウロスの肉、オークの肉、コカトリスの肉となんというかそれっぽいファンタジー食材に、地竜と呼ばれる恐竜に似た形のドラゴンの肉を確保してきた。
とりあえず試すといって一人焼肉をしているが、どうにも微妙そうである。
まあ現代で食べられる美味しい肉というのは品種改良の結果であり、モンスターは野生種だ。
野生種の肉は基本硬い。
筋繊維が発達しているからである。
それをどうにかしないと美味しく食べることが出来ないわけだが……。
そういう手間も惜しんで焼肉をにしたため、結局微妙だったわけだ。
なおお目当てのドラゴン肉は違う種類のものだった模様。
トカゲのような味……と言っていたが兄よ、トカゲを食べたことが……?
まあいいか。
ガチャを回そう。
R・人工肉培養機
出現したのは大型の機械だった。
フードプロセッサーにパスタマシンとミートミンサーをくっつけたような見た目の機械であり、下部につまみやボタンが取り付けられている。
そしてそれらを強引に縛り上げるようにパイプのようなものがまとわりついている。
また操作盤には簡単な説明が書かれており、フードプロセッサー部分に肉を投入すると人工肉を生産する……と書かれている。
肉を投入すると、人工肉を生産する。
それは人工肉ではないのでは……?
あまりにもその前提の踏みにじりっぷりに頭を抱える。
普通人工肉は、培養液から肉を増殖させるとか、溶液を作って肉を印刷するとかそういう方式で生産されるものだ。
そんなミンチ肉からハンバーグを作るみたいな方式で作れるものではないはずだが。
まあ書いてあるからにはその方式で実際利用するのだろう。
なので、兄の一人焼肉で余ったミノタウロス肉をフードプロセッサーの受け口に投入する。
つまみにはメモリが書かれてあり、赤身と脂身や筋の割合が決められるようなのでとりあえず柔らかくなりそうな組み合わせにセットしておく。
セットが終わったところでスイッチオン。
それと同時にガガガガ、とものすごい音を立てながら投入したミノタウロス肉がミンチを超え液体にへと変貌していく。
それが下から吸い上げられているのかその量を減少させていく。
するとミートミンサーとパスタマシン部分のパーツが回転を始め、やがてプリンターの印刷音のようなシャカシャカいう音とともに、隙間から肉が出力された。
まるでプリンターみたいに吐き出してきたせいで、受けるためのバットを慌てて持ち出す羽目になった。
出てきた肉は……見事なまでの霜降り肉だった。
細かく脂肪が入っていて、口の中に入れるととろけそうである。
ところでこれ、やっぱり人工肉ではなくない?
よくて再構築肉じゃない?
というか、培養してなくない?
なお肉の味は兄に食わせたところ、野性的でガツンとくる旨味と霜降り肉の柔らかさが合わさった特上肉、とのこと。
マジ?
後日。兄が人工肉培養機に肉まんを詰め込んだ。
やるとは思っていたが、実際に出てきた肉を見るとまじかこいつ……という印象だ。
出来上がったものは肉ではあった。
ただ、肉自体がパンのような構造……ようは無数の気泡を持つふわふわとした食感になっていて、食べると絶対違和感を覚えるであろう代物になっているのだ。
作っているのは間違いなく肉だろう。
だが、これは一体何を培養しているっていうんだ?
原型を留めないほどにミキサーに掛けられる材料を考えると、何をしているのか疑わしい。
ただ味自体は改善されるんだよなぁ。
スーパーでグラムあたり100円の肉が霜降りになるんだから優れた機械ではある。
これは一体何を食わされているんだ……。