突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが? 作:内藤悠月
獣の姿に変じる戦士の話は世界の各地に存在し、その土地に根付いた力強い生き物の姿を借り受けている事が多い。
こと、人狼は狼の出没する地域には必ずその伝説が存在している。
これは狼が世界的に見ても崇拝の対象だった事に起因する。
そしてそれは森林の伐採などによって狼が家畜を襲う害獣にへと変化することによって反転し、邪悪なイメージが付与されてしまったのだ。
それ故、人狼は人を襲うものだと認識されている。
今回は狼の指輪が出てきた話だ。
さすがはガチャレクシア一の戦闘技巧者というべきか、ダンジョンに集まる冒険者の中でも最強の存在だというべきなのか。
モンスターとしての能力や魔法を使用しない縛りプレイだったとはいえ、
それを相手取り、あろうことか鮮やかに勝利してみせたチャンピオンは本当に強い。
最初の打ち合いは剣と斧を両手に構えたチャンピオンが、
武器を構え直すために距離を置けば弓を構えて動きを潰してくるし。
インファイトに持ち込めば、極まっているはずの
強い……強すぎる。
この人に比べると大会に出ていた他の参加者がゴミのようである。
チャンピオンが隔絶したレベルで強いのか、参加者が弱いのかは微妙なところだ。
参加していない冒険者も多そうだし。
なおその戦いを見ていた兄はというと、めちゃくちゃ悔しがっていた。
隠しておかないといけない能力がなければ勝てていたのに、とか言い出している。
そもそも
高性能な
それは前身の
ぶっちゃけなにを相手する気でこんな物を……とは思うが。
強さはロマンなんだから仕方ない。
……と兄は言っていた。
やめて欲しい。
いい試合を見たあとにガチャを回すのは正直気が重いが、回しておかないと後でうるさいので回しておく。
本当に……あの騒音さえなければ……。
SR・戦狼の指輪
出現したのは狼の頭部を模した飾りが施された銀の指輪だった。
瞳のかわりに黒い宝石が嵌められ、光の反射からか生きているようにも見えなくもない。
しかし戦狼とは。
もう文字面を見るだけでも戦うために生まれてきた、と主張しているようではないか。
それだけでもうだいぶろくでもないというか。
いや、ガチャレクシアに到達している今ならこういうのも役に立つのか?
役に立ってほしくないなぁ。
その状況って私襲われてるじゃん。
とりあえず。
この指輪を試そう。
えーと、人差し指に嵌めて……。
嵌めた途端、半透明の狼が見えるようになった。
出現した、という感じではない。
はじめから指輪に寄り添っていたような感じだ。
お、おお、おおお……。
その狼は身じろぎ1つしない。
生きているのかどうかも疑わしい。
呼吸しているようにも見えない。
最初私はその狼に恐怖を覚えているのかと思ったが、違った。
未知の感覚に混乱していただけだった。
理解してからはすぐだった。
私はその半透明の狼を、まるで手足のように動かせた。
本当に手足のように、だ。
どう動かすか、を自覚することなく動かすことが出来たのだ。
手を動かして作業するのに、指の関節の角度を気にしないように、狼を動かせる。
まあそのせいで狼の動きというにはややぎこちない動きになってしまっているが。
それに意識すれば狼の見ているものを感じることが出来る。
鼻も利くため、匂いで周囲を探る事もできる。
うーむ。
すごい子だ。
思わず抱きしめてしまったが、これは自分の腕を抱いているようなものでは? という思考もよぎる。
だがもふもふの毛皮の前にそんな思考はすぐ抜けた。
しかし、これを兄に渡すと自爆特攻させそうだな……。
後日。兄に指輪を貸すと、なぜか兄は狼男となってしまった。
指輪を嵌めると、なにやら青いオーラの立ち上る狼の獣人にへと姿を変えてしまったのだ。
どういうことなの、と思ったが、魔王の玉座も私と兄で発揮する効果が違った。
ということは、だ。
これは身につけた人に、戦狼の力を与える指輪なのだろう。
私には霊体めいた狼を操る力を。
兄にはその身に狼を降ろす力を。
形こそ違えど、戦狼の力だ。
強力なマジックアイテムと言えるだろう。
と、まあ考えている横で、その……筋肉を誇示するようなポーズをするのはやめてもらえないか兄よ。
狼男と化して筋肉量が大幅に増しているのはわかったから!