突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが? 作:内藤悠月
ステゴロ最強。文明がいかに進もうとも、拳1つで最強だと証明したがる男どもは多い。
極めて原始的な暴力であるが、より効率化された暴力である銃の登場によってその価値は先鋭化したと言えよう。
我こそが最強なり、と堂々と胸を張れるのは、結局のところ自分が生まれ持ったものとそれを磨き上げたもので勝ち取った強さだけだからだ。
今回は……なんだろうなこれ。
なんて説明すれば良いのか……。
多分、武術書。
武術書が出てきた話だ。
黒ずくめの教団のダンジョンに残っていた資料を、ガチャレクシアの領主にへと押し付けた。
機神を使って調査してもいいが、それだと余計な仕事を抱え込んでしまい、その上余計な立場まで手に入れてしまいかねない。
それに現地に司法があるのに私刑めいたことをするのはどうかと思う。
それに、黒ずくめの教団のダンジョンには謎がある。
5層しかない小さなダンジョンで、層の広さも常識的なものだったが、ダンジョンのコアが見つからないのだ。
隠し通路や下の階層がありそうなところを拳でぶち抜いて調べぬいた結果である。
兄は、この作りのダンジョンにダンジョンのコアが無いということはありえない、と言い切っている。
自然に生成されるダンジョン……いや、建造物がああいった構造になるはずがない、と。
そして兄は推論を重ねる。
だとすれば……、ダンジョンを作り出せる魔法があるのか、あるいは。
飛び地を作り出せるダンジョンを、あの教団が所有しているのか。
そうだとしたら、だいぶろくでもないな。
兄がダンジョンを持っているだけでもろくでもないのに、明らかに犯罪に使おうとしている集団がダンジョンを持っているなんて。
まあダンジョンを見つけさえすれば兄の
過剰なほどの質を伴った数とかいう、戦場における最大のチートであるわけだから。
ふう。
ガチャレクシアの心配はよそに置いといて、ガチャでも回そう。
R・拳の心得
出現したのは和綴じの本だった。
その表紙には拳の心得とだけ書かれてあり、著者名などは記されていない。
また、表紙の素材は和紙に似ているが、どことなくポリエステルっぽい手触りのものが使われている。
拳の……心得?
なにかの武術書だろうか。
拳法家が自らの技を残すために本を記すということは理解できるが。
そう思ってページをめくってみると、そこにあったのは白紙だった。
めくろうがめくろうが、何も記されていないページだけが続いている。
なんだ、これは。
何も書かれていない本に意味があるとでも思うのか。
それともなにか、これを持った状態で技を使うと記録されていく、とかそういうやつか?
その考えが浮かんだ時点でその本を強引にポケットにねじ込み、空手の構えを取ってみた。
全身の筋肉が自分の意志に従って、それが形になっていく感覚。
そこから正拳突きをしてみる。
所詮素人のマネごと、だと思って放った拳は空気の壁を破って音を立てた。
んんんん~~~?
もしかしてアレか?
この本は、持ってる人間に、
そう思って、回し蹴りを放ってみる。
普段はそこまで上がりもしない足が、見事な回し蹴りの弧を描く。
そこに竹でもあれば、へし折れたであろうほどに。
やはり、格闘技のキレが増しているように思える。
つまり……。
妖刀と同じじゃねーか!
後日。兄は懐に拳の心得を入れたまま、ロボットを操縦してみせた。
兄はそれで見事なまでの格闘技を扱ってみせた。
無論、拳の心得による補助によって可能にしている……ことではある。
なんでロボットに適応されているのかはわからないが。
そうやってひとしきり動作を確かめたあと兄は。
これ、人間離れした動きはできないっぽい、と言ってのけた。
何を期待しているんだ兄は。
妖刀でできたからって……。
人間の体に過剰に期待し過ぎだよ!