突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが? 作:内藤悠月
全感覚フルダイブ式ヴァーチャルリアリティ。
多くのSFに登場する超技術であり、現実世界に肉体が制限された人類を電脳世界に接続することで、その精神を解放する技術でもある。
その原理は作品によって様々だが、究極的に言えば脳を騙して幻覚を見せるというものであり、機械的に作られた夢の様なものだと言える。
最近はそういった設備で行われるゲームを題材としたアニメも放送されている。
今回はそのVRマシンが出現した話だ。
実に夢の有りそうな話だ。
兄がついにセーブポイントの使用に成功した。
あれは根本的に異常に複雑な操作系を持つ物品であり、あのガチャとしては割とよくある仕様だった。
他に例を上げるとしたら第三の手だろうか。
あれは使用する人間に無限のリソースがあると思い込んでいる設計だったが。
さて、兄はどうやってセーブポイントを使ったか。
鬼の角による怪力を使ってクリスタル周囲に浮かんでいる輪を無理やり引きちぎったのである。
確かに、輪を引っ張って壊せば使用できるとは言った。
だからといって力技で破壊しないでほしい。
私の3時間が否定されたような気がした。
なお「R」の刻まれたリングの方の効果は未だに不明。
セーブデータを
まあセーブポイントはどうでもいい。
今回ガチャから出現したのはこいつだ。
R・AR/VRヘッドギア
それはスマホやタブレットなんかを買った時に入れられている化粧箱に似た箱に入った状態で出現した。
どこぞのリンゴ商品のパクリっぽいデザインなのはご愛嬌だろう。
箱の中身は、後頭部を覆うヘッドギアと分厚い説明書と、USB充電器だ。
中々高級品っぽい質感だ。
中身の説明書は使用方法が書かれているかと思いきや、スマホの説明書ポエムを10倍ひどくしたような文章が続く。
4割弱がその内容で埋め尽くされており、いまいち信用が置けない。
一応残りはちゃんと使用方法が書かれていた。
まあ、スマホの説明書と殆ど変わらない感じだが。
これはヴァーチャルリアリティを利用したウェアラブルコンピュータで、フルダイブ型のVRゲームが楽しめる、と書いてある。
ほう、VR。最近いろんなアニメで出てくるアレか。
またARモードでウェアラブルコンピュータとして便利な機能をいくつも提供可能、とも書かれている。
ヘッドギアをUSBで充電して、後頭部に装着して電源を入れれば使用できるらしい。
充電はすでに終わらせてあるので電源を起動。
頭の側面にでかい電源ボタンがあってしかも発光するのはかっこいいのかかっこわるいのか判断がつかない。
起動と同時に、私の視界をオーバーライドするように様々な情報が現れた。
一番目立つのは右上にある時計だ。時計の周囲にいくつかのアイコンが有り、これを指で突くイメージで動かせばその機能が使えるらしい。
と、思っていたら初期設定のウインドウが出てきた。
視界の中央にだ。
私視点では、宙にウインドウが浮いているように見える。
これを指でつついていたら不審者扱いされるのでは?
まあいいか。今はどうせ自室だ。
指でつついて初期設定を済ませる。
無線LANの設定を済ませる。
あとはアカウントの設定だが、アカウントを作成するためのサイトが存在しないようで、スキップするしかなかった。
それと時計のスキンを選ぶ。アンティークなやつがかっこよかったので選択。
ようやくと使えるようになった。
なにがあるかな~。
くるくると時計の周りのアイコンを指でつついて回す。
手応えがなんか硬いのが気になるがまあいいだろう。
メール、ファイル、カメラ、ミュージック、電卓、マップ、メモ、etc、etc……。
スマホのデフォルトアプリか!
ろくなのねーじゃねーか!
なにかい、インストール出来ないか……?
とそう考えアプリを探す。
ストアアプリはあった。
あったのだが。
これまた接続先が存在しない。
ろくなアプリが……ねえ!
インストールもできねえ!
じゃあ何ができるんだよ!
スマホだってアプリ入れ替えられなきゃガラケーより使いづらいわ!
また、プリセットのブラウザも性能がひどい。
おそらく内製で作ろうとしたはいいが、工数が足りなかったのだろう。
ホームページの表示までにかかる時間が微妙に長い。
それに現在のWEBで中心に使われている技術の一部がフォローされていないせいで表示が欠けるのだ。
おそらくこれが作られた時代ではその技術は使われていないのだろう。
今のFlash Playerみたいなものだ。Flashはセキュリティに問題があり、2020年いっぱいで主要ブラウザでの実行が完全に打ち切られる。
問題のある技術は切り捨てられる。
世の常ではあるが……。
まあいい。
これはVRヘッドギアなのだ。
しかもフルダイブの!
ベッドに寝転がり、フルダイブを実行する。
視界が暗くなり、全身から感覚が失われた。
起動演出と思しき虹色の光が目に刺さっていたい。
無重力感の中で暖かさだけが感じられ、視界の中央にポップアップが出現した。
「対応アプリがインストールされていません」
……。
これに夢などなかったようだ。
フルダイブモードが解除され、ベッドの上に全感覚が戻ってくる。
ええ……。
これではっきりした。
これはガラクタだ。
この世界に、このヘッドギアにインストールできるアプリは、存在しない。
となると、使えるのはデフォルトのアプリだけだ。
えーと、時計と、カレンダーと、地図と、メールと、あとブラウザか。一応カメラもあるな。
スマホでいいわこんなもん!
その後、色々いじくり回しながらどうにかして使えないかと触っていたのだが。
唯一、動画だけは臨場感溢れる手段で視聴することが出来た。
結果これは映画を見る道具となった。
夢がねえ。