突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが?   作:内藤悠月

26 / 369
R カヤック

 水上を移動する手段を人類はかなり早い段階で獲得した。

 丸太をくり抜いたカヌーはどの文明の痕跡でも見つかり、原始的な社会で交易を行うために利用されていた。

 インドネシア周辺では特に広域に渡ってカヌーによる交易が行われていた痕跡が見つかっており、水上移動が人類に及ぼした影響の大きさが伺いしれるだろう。

 

 カヤックはその中でも、上部を閉じた形状をしているカヌーであり、主に寒冷地で発展した。

 これは波風によって登場者の体が冷やされることを避けるためであり、また転覆した際に早急に復旧するための構造と言われている。

 

 今回はそのカヤックが出た話だ。

 

 

 

 

 

 

 兄が「N・スニーカーに踏まれた三葉虫の化石」を勝手に持ち出した。

 絶対に持ち出すな、ときつくいい含めていた物の一つである。

 

 この化石の問題点は2つある。

 一つは三葉虫がデカすぎるのである。

 三葉虫は通常3~5cmなのだが、この化石は30cmある。10倍だ。

 

 もう一つは、ガッツリスニーカーで踏んだ跡がついていることである。

 というのも、三葉虫を割り砕いた上に、つま先の足跡がセットで化石に成っているのである。

 

 その痕跡の鮮明さと言ったら、靴の種類まで特定出来そうなレベルである。

 こんなもの外に出せば面倒事に巻き込まれること間違いなしだ。

 

 こうなってくると他にも持ち出している可能性がある。

 確認して置かなければ。

 

 さて、今日のガチャである。

 コインを入れてからガチャに回し蹴りを入れたところ、青色のカプセルが排出された。

 中身は、というと。

 

 R・カヤック

 

 それが出現した瞬間、こちらに向かって倒れ込んできた。

 なんとカヤックが縦向きに出現したのだ。

 

 軽いとはいえその大きさである。

 私に向かって倒れてきたカヤックは私の頭に激突し、たんこぶを作った。

 

 仕返しか。ガチャマシンのくせに小癪な。

 

 それはそれとして出現したカヤックである。

 横転に対して対策がしてあるらしく、気がつけばデッキを上にして床に転がっていた。

 いや、水に浮かべているわけでもないのに奇妙なほどきれいにバランスを取っている。

 いやいやいや、なにか様子がおかしい。

 

 カヤックが僅かに床に沈み込んでいる。

 

 うん!?

 その不自然さに思わずカヤックに手を触れ、体重をかけてしまった。

 するとカヤックはまるで水に浮かんでいるかのように沈み込み、軽い手応えのままに滑り出したのだ。

 

 床を水のごとく浮くカヤックってか!?

 

 床には目に見えない“流れ”があるらしく、開きっぱなしの実験室の扉に向かってカヤックが流れていく。

 慌ててカヤックを引き上げる。

 総プラスチック製らしく軽い。

 鍛え方の足りない私でも簡単に持ち上がる。

 

 なんだこれ……。

 

 

 

 後日、カヤックをテラスに伏せて置いておいたのだが。

 兄がいつのまにやら、ヒヒイロカネによる複製を成功していた。

 兄自身にもなぜ複製できたのかわかっていないようで、本当になんで複製できているんだ。

 時々異常行動をする人ではあるが、今回は極めつけである。

 自分自身でもわかっていない行動はやめていただきたい。

 

 複製に成功したカヤックはサメ妖精のシャチくんがレースに使っていたのでまあ良しとしよう。

 もし持ち出ししていたら許さん。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。