突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが? 作:内藤悠月
手品にはコインを使ったものが多数存在する。
それは誰でも手軽に手に入れられる、手の中に収まるサイズの物品であり、誰もが知っている物だからだ。
そしてそれが不可思議でありえない現象を起こすから人々は驚くのだ。
そのために手品師は様々な手段を考え、それを実現するために修練を積む。
今回はそのマジック用のコインが出た話だ。
ヒヒイロカネを利用して、ガチャ用のコインを製造することに成功した。
正確な金型が必要だと考えていたのだが、ガチャに使う分にはそんなものは必要なかったようだ。
500円玉の大きさのヒヒイロカネの板と、100円玉の大きさの物を作れればそれで良かったようである。
インゴットに電流を流しながら空になった掃除用のコロコロでコインの厚みまで押し伸ばしてコンパスで切り取って製造した。
重量は硬貨と比べても3倍から5倍ぐらい重いのだが、この筐体はそんなことは関係なく呑んだ。
軽いとダメなのにその差は何なんだと言いたくもなるが、使えるぶんには問題なかろう。
そうやって排出されたカプセルはヒヒイロカネ製だった。
筐体は理解した上で排出しているようである。
本当に訳がわからない。
こういうわけがわからないものについて考えるだけ無駄である。
カプセルの中身は、というと。
R・マジック用コイン
開封と同時に、コインが転がって私のつま先に当たった。
一見普通のペニー硬貨だ。何の変哲もない。
マジック用というからには、なにか仕掛けがあるのだろう。
指で摘んで、硬貨を眺めてみるが特に仕掛けのようなものは見当たらない。
例えばコイン貫通マジックのコインには貫通用の穴が開けられているのだがこれにはそういったものが見当たらないのだ。
どういうことだ……?
頭を悩ませながら、コインを手の中で弄ぶ。
兄が棒金で大量に渡してきたのを、私はガチャ差額分横領しているのだが、それを触っているうちに弄ぶのが手癖になっていたのだ。
そして親指と人差指の間から人差し指と中指の間に転がした際にだ。
通貨はダイム通貨にへと姿を変えた。
は?
手の中にある通貨はたしかにダイム通貨だ。
変形した、とか温めると色が変わる、といったそういった普通のマジックのタネとは様子が違う。
いやいやいや。それはいくらなんでも。
タネがなさすぎる。
マジックと称して本当に魔法を使うやつがあるか!
しかも、しかも、しかも、しかも。
そのトリガーがコインロールとか、マジシャンをバカにしてるのかコイツは。
コインロールとはコインマジックを行うための初歩中の初歩で、簡単に言えばコインを手の中で自由自在に動かす、というものだ。
一流の手品師が行うコインロールはまるで生きているかのようにコインが手の中で動き回るので一見の価値がある。
だが、コインマジックに於いて、それは出来て当然の技なのだ。
一部のコイン消失マジックはこのコインロールで観客から見えない位置に移動させているだけに過ぎない。
他のタネを使っている場合もあるが、その場合でもコインロールが出来なければ話にならないのは変わらない。
なんで私ができるかって?
なんでだろうな……気がついたらできるようになっていた技ではある。
話を戻して。
コイツは。よりによってそのコインロールで姿を変えるのだ。
人差し指の上から中指の上にコインを動かせばダイムに、中指から薬指でクオーターに、小指に動かせばニッケルに、更に薬指に動かせば1円玉に、中指へ移動させて100円玉に、人差し指に戻せば500円玉に。
見ているぶんには面白いかも知れないが、そこにタネがない以上マジックでもなんでも無い。
試しに転がしきったあと、フィンガーパームと呼ばれる手の内側に固定する技を試すとビットコインに化けた。
なんだこれ……。
後日、兄が2ユーロにコインを変化させていた。
一体どんな動かし方をしたんだ。
あ、2ユーロというのは2ユーロ硬貨のことではない。
1ユーロ硬貨2枚のことだ。いや、なんで2枚になってるんだ。