突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが? 作:内藤悠月
世界各地の神話には、魔剣と呼ばれる、持ち主に災いをもたらしたり、過剰なほどの力を持つ危険な剣が存在する。
一度抜き放てば、生き血を浴びるまで鞘に納まらず、必ず周囲に死を与える魔剣、ダインスレイフ。
三度使えば、持ち主を死の運命に誘うというティルフィング。
創作で言えば、斬った相手の生命と魂を吸い上げ、所有者に与え、その快楽に酔わせる魔剣、ストームブリンガーが有名だろうか。
最も、魔法の力を持つ優れた剣のことを魔剣ということも多い。
魔法の力があるから魔剣。わかりやすい話である。
今回は、その魔法の剣が出た話である。
兄が選定の剣の切断に成功した。
都度、金属切断用のグラインダーを4枚消費し、うち3枚は破断するという恐ろしい硬度を持っていたが、現代技術の前ではそこが限界だったようだ。
切断された結果、剣は輝きを失う……といったこともなく、美しい刀身のままだ。
中程で切断されているためにだいぶ短くなっているが、切れ味は据え置きであり、これから兄がこれを使うと思うと色々悩むところだ。
まあ、でかいナイフとして余生を過ごしてくれ。
なおでかい岩はそのまま破壊不能だ。
まあ剣先が刺さったままだからそれが理由なんだろうが。
竜化した兄なら押せるようなので今度実験室の端まで移動させよう。
と、聖剣が片付いたと思っていたのだが、次の剣がガチャから出現してしまったのだ。
R・魔剣
そいつは出現と同時にテラスに突き刺さった。
意図的にその色に仕上げたと思われる漆黒の刀身に、歌う女性の姿が彫り込まれている。
選定の剣は神聖な雰囲気を感じさせる美しさだったが、この魔剣は、威圧感のある美しさだ。
そこにあるだけで圧を感じる。
いやいやいや……、まさか、これも“選ばれし者じゃないと抜けない”とかじゃないだろうな。
このテラスはガチャで荒んだ心を癒やす私の貴重なスペースなのだ。
そこから見える光景がまあまあ地獄(兄のおもちゃ箱)だとしても、個人所有の庭という、ある種の理想の場所なのだ。
そこに剣が鎮座されるのはメンタルに悪い。
おもむろに引き抜いてみる。
魔剣は金属で出来ているために結構な重量がある……ん?
あっさり引き抜けている。
ただただ重いだけだ。
そのまま、私はその魔剣を構えてみた。
おおよそ魔剣というのだから、切れ味が鋭いとかそういうところだろう。
そういう推測をしながら。
当たっていれば選定の剣が刺さっている岩を解体するついでにへし折ろう、とか考えてないぞ。
剣を正眼の構えで握る。剣道などでよく見られる、相手に剣を向けた構えだ。
痩身の私には持ち上げるだけでも一苦労だが、この剣の効果を知らずに放置するのは危険だと考える。
構えがしっかりと定まった瞬間、魔剣は炎をまとった。
持っているだけでかなり熱い。
これは炎の魔剣ということか。
いや、あっついなこれ! 熱気がどんどん伝わってくるぞ!
熱いから止まれ!
そう思いながらゆっくりと振り下ろす。
それが地面につくと同時に、私の視界は氷塊で埋め尽くされた。
は? 振り下ろしたら氷が出た?
これは、イメージを力に変える魔剣、ということか?
おそらくは割と極端に変化させるのだろう。
ならば、と。もう一度振り下ろす。
イメージするのは風だ。
それも鋭く、切り裂くような風だ。
ヒュン、という音とともに、目の前にあった岩に切り傷がつく。
やはり、イメージを力に変える魔剣のようだ。
これはいい。
……いや本当にそうか?
現代社会で使い道があるか?
ガチャのいつものアレだ。
おもちゃにするぶんにはいいが、結局のところ社会の邪魔でしか無い物。
本質的に少し前に出た拳銃と同じだ。
危険物である以上、むやみに使うわけにはいかない。
さて、これをどうやってしまおうか。
未だに炎をまとっているんだが……。
後日。兄は魔剣を使って家を作っていた。
いや、何を言っているかわからないが、私もよくわからない。
魔剣のイメージ具現の力を、畑にあったよくわからない蔦植物と苗木に組み合わせて造成しているようだ。
その外見は映画などで見るエルフの住処という風情で中々ロマンがあるのだが、なぜそれを魔剣で作れると判断したのか本当にわからない。
それについでと言わんばかりに鞘も作っていたから余計わからない。
何をどうしたらそんな……そんな事ができるんだ……。