突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが? 作:内藤悠月
人が進化の過程で手に入れた、人を人たらしめる要素が3つある。
言わずもがな、他の生物とは一線を画する思考力を生み出す脳。
思考力から生み出された道具を扱う繊細な手。
そして、仲間との複雑な連携を可能とする声だ。
それらは進化の過程で相互に強化され高度化していったものであるため、どれが最初だったかと言われると説明ができないが、それらを獲得したために人類は今日に至るまで文明を築き上げることができたと言えよう。
今回はその声を手に入れた話だ。
どういうことかって? 私にもわからん。
褒めると面倒なことになるのであまり言いたくないが、竜化した兄の姿は、とても美しい。
流水のように光の流れる結晶状の表皮を持つ体躯から六肢の太い手足が生え、円形の翼を持っている。翼は飛ぶためというより、空から降り注ぐ何かを防ぐために盾として得た形質のように見える。
ケイ素生命体由来の水晶のような体はただそれだけで美しいのに、昆虫にも似た生命機構がその命の力強さを形作っているのだ。
だが、それは人外の美だ。
おそらくはあのマスクのケイ素生命体はカマキリに似た形態の種族なのだろう。
それにおける鬼の概念の姿が、これなのだ。
あらゆる暴力を物ともしない無敵の体と、破壊をもたらす怪力を持つ姿。
そう考えれば竜に似ているのも必然かも知れない。
まあその姿でもってやることが土方作業なのだから宝の持ち腐れもいいとこである。
というかそれでいいなら元の鬼の姿で事足りる。
さて、今回のガチャだ。
R・声
その意味不明な名称から出現したのは咽喉マイクに似た装置だ。
やや古めかしい……というより、スチームパンク趣味の入った印象すらあるデザインをしている。
しかしマイクのように見えるだけで、その実音声を出力するパーツが一つもない。
イヤホンジャックもないのだ。
なんだこれ。
いまいちどういう物か想像しかねる。
まあいいか。つけてみれば分かるだろう。
そう思い首に巻く。そして咽喉マイクを押さえながら声を出してみた。
すると私の口から、私の声とは全く違う美声が出た。
私の声と同時に。
なんだこれ……。変声するわけではないのか。
私の声と同時に出ている以上、変声器ではない模様。
適当な言葉を発してみると、どんどんわけが解らなっていく。
なぜなら、その美声で語られている言語が全くわからないのだ。
リンゴがアップル……に近いような気がする発音の単語になる。
私の声はそのまま普通にリンゴと言っている関係上、めちゃくちゃ聞き取りづらいのもあって何を言っているのかわからないのだ。
どうするかな。
まあ、兄に聞かせればいいか。
後日。兄がついに口から炎を吐いた。
いや、順番に説明しても理解されないと思うが、説明させてくれ。
あの後、兄に咽喉マイクを見せ、聞かせたのだが、何かに気がついた兄が、マイクをつけて鬼の角と、変装マスクと使って竜化したのだ。
そして一言、「炎よ」と。
それと同時に兄の口から猛烈な炎が吐き出されたのだ。
兄いわく、あの咽喉マイクの正体は、「遺失した古言語の発声」を可能にする装置、だと。
私が使っていたのはどうもラテン語の原型か、ラテン語そのものらしい。
そしてもしかするともしかするんじゃないか、とついうっかりやってしまったらしい。
どういうことなの?
ケイ素生命体文明は魔法文明なの?
なんで兄はそれに気がつけたの?
なんで思いついたらすぐ実行しちゃうのこの人?