突然部屋にガチャポンマシンが出現して、しかもめちゃくちゃ邪魔なんだが?   作:内藤悠月

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SSR 妖刀「鏡写し」

 妖刀。元を辿れば徳川家に仇なした志士が持っていた刀がことごとく村正の作だったところから来る呼び名だ。

 村正はその飾り気のない作りと、研ぎ澄まされた切れ味によって元より人斬り刀としての性質が強く、歴史にもとにかくその切れ味の鋭さによる逸話が多数残っている。

 この点、鋭さだけでなく刀身の美しさにも重点を置いた正宗と対比される事が多く、そのため2人の刀匠はその腕故に出会ったがやがて思想の違いにより決裂するという話が残っている。最も、この2人は同じ時代に生きた刀匠ではないので創作された逸話であるが。

 あとは妖刀といえば村雨だろうか。これは刀身が常に水に濡れ、その水は邪気を払い霧を呼ぶという、まさに魔剣なのだが、村正と混同されたがために妖刀として扱われる。

 近年の創作には様々な妖刀が登場し、村雨のように様々な能力を持っている事が多い。

 

 今回は……最強の妖刀が出現した話だ。

 刀が道具であることを逸脱しない以上、おそらくは。

 これが最強である。

 

 

 

 

 

 

 

 兄が、負傷した。

 二層の攻略中、仕掛けられていた罠によって押し込み用のサメもどきの動きが悪化し、全滅したのが原因だ。

 撤退の最中、スケルトンの集団に背後からざっくりとやられたようだ。 

 幸い、ボディーアーマー(いつの間に手に入れたのか、どこで手に入れたのか不明)を着込んでいたために打撲で済んでいたが一月はダンジョンの攻略に戻れないだろう、という傷である。

 

 心配はしていないのかって?

 もちろんしていない。

 というのも、もうすでに治っているからである。

 

 負傷した兄が戻ってきたときは心配して焦ったが、そのすぐ直後、兄は何かに気がついたように選定の剣を抜き、セーブポイントの輪っかを破壊したのだ。

 その直後、兄の負傷は嘘のように回復した。

 

 いや、は? となった。

 当然である。何が起こったのかわからない。

 兄が言うには、セーブポイントのRの正体がわかったからこその行動だった。

 R。「Refresh(リフレッシュ)」のRだ。

 Rの輪を破壊することで、兄は自身の負傷をリフレッシュしたのだ。

 

 こういう人だ。やはり心配するだけ損である。

 そのあとガチャを回すことをねだられた。まじかぁ。

 当人は自作のダンジョンに戻って戦力の再調達してるんだから適当な人である。

 

 で、ガチャから今回出てきたものなのだが。

 

 SSR・妖刀「鏡写し」

 

 そう、めちゃくちゃ高そうな日本刀が出現したのだ。

 鞘からしてこれまでの雑道具どもとはデザインが異なる。美しい朱色の鞘に、異様に凝った鍔。

 鍔のデザインは見たことがない造形をしている。

 何故かというと、そこに刻まれてるのは西洋竜、すなわちドラゴンだからだ。

 ただ見ているだけで食われてしまいそうなほどの威圧感を放つ造形は素晴らしい。

 また刀身には刃紋がなく、切れ味だけを追求したような物々しさがある。

 なにか独特の美学を感じる。

 

 銘まである景品は初めてだ。

 そっと鞘を左手で持ち、抜刀の構えをしてみる。

 恐ろしいほど静かに、集中力が研ぎ澄まされていく感覚がする。

 力の入り方もあまりに自然で、達人が刀を構えているならばこんな感覚なのだろうかと錯覚するほどだ。

 

 気がつけば、私は刀を振り抜いていた。

 テーブルの上に乗ったジュースの缶が真っ二つになっていることに気がついてから、その後に刀を抜いていることに意識するほど、あまりに自然にその一刀を放っていた。

 なんだこれは。

 そう思った直後、右腕にひどい重量感。腕の筋肉が抜き放った刀の重さについていけていない。

 

 そっと床におろして刀を鞘にしまう。なんというか、抜くよりも納める方が手間だ。

 何だったんだ、あの斬撃は。

 あまりに自然に缶を切り裂けただけに、自分がやったことだと理解できない。

 抜いて振ってみてもあんな見事な斬撃は使えまい。使えなかった。

 

 そう、何度試してみても。鞘を抜いた瞬間の抜刀だけがそうなるのだ。

 抜いている状態ではティッシュすら切れないのに、抜刀だけが達人をも超えるであろう一撃を放つ。

 

 わからない。

 一体何がどうなっているのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。兄との検証によって、正体が判明した。

 この妖刀は、抜かれる一瞬だけ使用者が思い浮かべる最強の剣士に、使用者を仕立て上げる。すなわち、最も理想的な一太刀を放つことに特化した刀なのだ。

 

 それを理解してからの兄はすごかった。

 思い浮かべる理想的な一撃、に納刀まで含めることでこの妖刀による動作を最適化したのだ。

 もはや目に留まらぬ速度で角材に3回斬りつけて鞘に戻す。刀の長さを倍は超える距離にあるリンゴを切断する。

 そして巨木に育った木を切り捨てる。

 思い浮かべる最強の剣士、が何かはわからないが、たしかにこの剣は最強なのだろう。

 

 刀が道具である以上、道具が発揮できるその性能は使用者によって制限される。

 ならば、その使用者を最強の剣士にする刀があるのならば、それが最強の妖刀である。

 と言わんばかりの性能だ。確かに納得できる理屈ではある。

 

 最も、兄は鞘と柄を紐で縛り付け左手で握り、親指でカチカチと押し抜きながら、右手で選定の剣を振るうことを選んだ。

 選定の剣がめちゃくちゃな光を放ちながらスケルトンを薙ぎ払っていたのはなにがどう最強の剣士なんだろう。

 というか、ゲームのステータス差し替え特技みたいに妖刀を使うな。


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