賢者・璃子はオリジナル、基本的にカイン視点で物語が進みます。
ちなみに筆者はまだ17章までしかオリジナルストーリーが読めていないので、キャラの性格等原作とは異なる場合があります。ご了承ください。
(2/24メインシナリオクリアしました!! ヒャッハーイ←)
お話は既に完結しています。
彼の名はカイン・ナイトレイ。
十九歳で騎士団長に成りあがった天才剣士だったが、必死で伏せていたことがあった。
魔法使いであること。
この世界では、魔法使いとはふたつの視点で見られる存在だ。
その異能力を恐れ、唾棄する存在とすべきというもの。
その能力に憧れ、共有し共存していこうとするもの。
彼が生まれた中央の国では、人間たちの魔法使いに対する理解は半々か、やや共存派が多いという程度だったが、騎士団長という地位からすれば大問題となる。
普通の人間として生き、普通の人間として鍛錬を重ねた身とすれば、不本意ではあるが魔法使いに生まれついたことを伏せて生きていく覚悟は決めていた。
二十一歳の時、北の魔法使いオーエンに出会うまでは。
彼はカインとは真逆だった。
魔法使いという立場を最大限利用し、人間を恐怖に陥れることを楽しみとする存在だった。また、魔力の強い者は魔法使いということを伏せている人物を見抜くことが出来る。
オーエンにしてみれば、魔法使いなら魔法使いらしく生きるのが当然という考えがある。
魔法を秘して生きるカインの気持ちが理解できなかった。だから、正体を暴いた。
邪悪であることを美徳と考えるオーエンはまた、騎士道に身を投じたカインの正義感は笑えて仕方がない。まるっきり正反対の二人は戦うこととなったが、他の騎士たちを安全なところに逃がし、二人きりになるまでカインは剣のみで戦い、魔法を使わなかった。
そこもオーエンにとっては理解し難いところで、魔法使いとしての修業をほとんどしていないカインを殺すことは容易かったが、今まで会ったことのないこの奇妙な青年の左目を取り上げ、自身の左目と置き換えることで決着をつけた。
鏡を見るたびに、オーエンの存在をいやでも思い出さずにはいられないように。
間もなくカインは騎士団長の地位を剥奪され、入れ替わるように「賢者の魔法使い」に選抜されることとなるが、蛇蝎のごとく憎らしいオーエンもまた、「賢者の魔法使い」に選ばれた。
カインは、運命とははかりがたいものと嫌でも知る。
しかもその年の「大いなる厄災」…この国を含む大陸を載せた惑星に月としてめぐる星…がなぜか、毎年一回軌道を変えて惑星に大接近する、それを魔法使いの魔力で押し返すことを指すが、その接近が通常よりも大きかった。
月が接近しすぎれば、それだけ磁気の狂いが大きくなり、封印していた魔物は目覚め、異常気象が発生する。二十人で構成される賢者の魔法使いでは対応しきれず、半数が犠牲になった他、一般の人間たちにも大きな被害を出した。
その、異常だった大いなる厄災を生き残った魔法使いとして、カインとオーエンの名が挙がるのも奇縁としか言いようがない。
前回の大いなる厄災の直前に、「賢者」…地球から招いた、魔法使いを導くもの…は、地球に戻ってしまっていた。重症の魔法使いファウストを救うために、新たに呼び寄せられた「賢者」が沢渡璃子だった。
ファウストは救われたが、はっきり言って召喚とはこっちの世界の話で、実質的に「賢者」自身からすると、異世界への突然の拉致に近い。
やりかけていたこともあっただろうし、もしかすると大切なことを放置したまま召喚されたりしているかもしれない。賢者の気持ちに沿うことの多い性格のカインは、気の毒で仕方ないのだが、同時に「賢者の魔法使い」としてどうしても賢者が必要となる場面があり得ることも知っている。だから、カインが出来ることは少しでも早く賢者がこちらの世界に慣れてくれるよう、サポートすることくらいだった。
璃子と名乗った女性は大学生二年生で、どうやら数字を計算したりして何か難しいことをする学問、物理学というものを勉強しているらしい。強いて言えば、建築学に少し触れているところがあるらしいと璃子にカインは説明されたが、この世界では全く見当もつかない学問だ。
理知的な目をした、近寄りがたささえ感じる容姿だったが、あまりそういうことに頓着しないカインはすぐに馴染んだ。カインに馴染んだのが先か、異世界に馴染んだのが先か、または同時かはわからない。
笑うと可愛いことをいち早く知ったのもカインだし、女性としては珍しく、同情や感情抜きでシステマティックな考え方をする新たな賢者であることを見抜いたのも、カインが誰よりも先だった。
今まで騎士団長として部下を率いてきたカインだが、この女性にはそれに匹敵する何かがあると思い、彼女だけでは難しい部分を押し切ったり、支えたりしてきた。
そのためには信頼が必要だということも、カインは痛いほど知っている。
世界最強とまで称される魔法使いオズと璃子との間を取り持つこともしてのけた。元来人嫌いなオズだが、何かを感じ取ったのか積極的に璃子の言葉には耳を傾ける。
次第に璃子は、「賢者」として魔法舎の中での存在感を増してきた。
すぐ隣にはカインがいるのだが、できるだけ存在感を消すように努めている。
とはいえ、璃子は謙虚に二言目には「カインがいるから」と付け加えることを忘れないのだが。
魔法舎での一日は様々だ。
魔法使いに頼みたい依頼を持ち込まれることもあれば、演習で魔力を強化したり戦闘能力を高めたりすることもある。最近は依頼が少し多めかもしれない。
魔法使いたちは、国ごとに性格が異なる。魔法使いに対して前向きな考え方を持つ南の国、魔法科学化で退廃が進んでいる西の国の魔法使いはマイペースだし、東の国の魔法使いは孤高だ。北の国に至っては、仲間内ですらもすぐ殺し合いになりかねない。中央の国は比較的リベラルかもしれないが。
これでは普通の人間ではやっていけない。いくら璃子がリーダーシップと正義感を持ち合わせた、ある意味カインと似たような性格の持ち主でも、まとめようがない。だから常に璃子は毅然とした態度を崩さない。それが近づきがたいと感じる若い魔法使いは、兄貴分風な性格のカインが面倒を見ることでバランスはうまく取れた。
しかし、カインはともかく璃子はいずれぽきんと折れてしまうだろう。
それがカインには気がかりだった。
そんな時、寝しなにちょっと飲もうかというタイミングで、カインの部屋に控えめなノックがされた。
やばい、とカインは思った。
シノはノックもせずに「カイン起きてるか」だが、きちんとノックするような面子と言えば、ヒースクリフは几帳面だし、リケはさらにそれを上回るし、…要するに散らかっていたわけだ、部屋が。
魔法でクローゼットの扉を開けて、片付いてなかった品物を押し込み、閉める。実家にいた時からこの手の魔法は得意だった。
「はいはい、誰だ?」
「私なんだけど、寝ちゃってた?」
璃子だった。部屋は隣だが訪問してくるのは初めてだ。びっくりしてクローゼットの扉が開いてしまい、中身がドサドサ滑り落ちた。
「なんか音するけど、忙しい?」
「いや忙しいというほどのものでは」
今度はベッドの脇に詰め込んだ。ようやく一件落着で、
「別に、部屋隣だし気兼ねしなくてもいいのに」
「そっか…じゃあおじゃましまーす」
エプロン姿に、何やらトレイ。
「え、ひょっとして差し入れ作ってくれたのか?」
「一応ついでで。ネロが三食作ってくれてるけど、男の人ばかりだしお腹すくかもって思って、差し入れ作戦を展開中なんだ実は」
「差し入れ作戦って、何だよ」
「まだ始めてそんな経ってないけど、ブラッドリーは効いた。ミスラも無表情だけどめっちゃ食べてた。双子は面白いことにチュロス好きなのは同じなのに味付けの好みが違うんだよね。オーエンは甘党だからハンパなく甘いトレスレチェス焼いたらすんごい喜ばれた」
「あ?! 奴が甘党?!」
カインはオーエンの名前が出ると逆上するようになってしまっている。
「似合わねぇ~…ってか、好みなんかどうやって」
「そりゃ、東のネロ先生という強い味方がいますんで」
「ネロも把握しきってないだろ」
「そのへんは空想で補う必要はあるけど、肉好きとか魚好きとか大雑把だけどヒントは貰ってるし。…っていうか食べないのこのロリト・デ・ポロ。せっかくルチルから教えてもらったんだけど」
「あ、はい食べる食べるって。…あーなんか、安心するわこの味…」
「もっと下手だと思ってたという意味ですかねそれ」
「滅相もない、ちょうど寝酒飲もうかと思ってたんで、ありがたい」
「そういえばカイン、お酒好きだったね」
「あ、寝酒だから。量飲むと目覚め悪いから、ほんの少しな」
「その辺はやっぱアスリートだから調整できるんだ」
「…アスリート?」
「ざっくり言えば体が資本の運動系の人」
「…剣士って運動系なのか?」
「多分」
あんまり自信はないらしい。カインはちょっと笑った。
「しかし、疲れた…」
ソファのクッションの手すりに、璃子はへばった。
「やっとその一言が出たな」
カインは優しく言う。
「あんただって、結局はヒースやなんかと同じくらいの年なんだし、今のままだと折れるぜ。…疲れたとかもうやだとかやってらんねーでもいいから、俺に言えよ。遠慮はいらない」
「はい…団長もう疲れましたー。オーエン一発でいいから殴りたいー」
「はは、元団長な。口にすると大分違ってくるもんなんだ、不思議だよな、言葉って」
「だね…」
それ以来、カインが夜に留守にするとき以外、璃子はカインの部屋に顔を出すようになった。
愚痴だけじゃなく、地球の話も聞いたし、こちらの世界のことも話してやったりした。
いつかそれが、かけがえのない時間になっていったのは、どちらが先に気付いたのだろうか。
「魔法使いの約束~月と甘い涙~」について、どこから来ましたか?
-
アプリ
-
Twitter
-
ハーメルン検索
-
検索エンジン