魔法使いの約束~月と甘い涙~   作:てんてけはなこ

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謎の賢者を探して

そんなことがあって一週間ばかり。

鍛錬や討伐やらの合間に、図書室通いをまだカインはやめていなかった。

一冊ずつ賢者の書を眺めているだけでなく、違うアプローチが必要だと、カインは気づきはじめていた。

(この世界と地球を往復していた賢者がいたなら、同じ賢者が書いた、複数の賢者の書が存在するはず。おそらく、背表紙の筆跡で分かるかもしれない)

それに気づいた今朝、図書室に向かう足取りは早かった。

「おはようございます、カイン。あ、奥様は?」

 カインには姿は見えないが、ラスティカの声だ。

「多分まだ寝てるよおはようラスティカ。早いとこ花嫁見つけないと、行き遅れになるぜ」

あの件はもうやけくそである。まだ結婚の約束もしていないのに。

ラスティカの軽口を適当に受け流したカインは、さっさと図書室に入った。

(同じ筆跡…人間の寿命は長くて百年、ということはどんなに多く見積もっても百冊の中にあるはずだ)

しかし、その百冊の場所を絞るのが大変だった。何千冊だかわからない賢者の書は、魔法で劣化しないようにされているとはいえ、あまりにも膨大だ。

とりあえず、璃子が言う「紀元後」の約二千年分はチェックしてみた。地球の文明が発生してから五千年とみて、文字として書き残されているだろうものはおそらく四千五百冊だと璃子は言っていたから、まだまだある。

(待てよ…文字のまだない文明…どうやって人間は賢者の書を書いたのだろう)

不思議に思ったカインは、まだ見ていない四千五百年前あたりの賢者の書を当たることにした。

該当する場所は暗く、何千年も誰も足を踏み入れたことのない雰囲気だった。大分埃っぽい。カインはマントの端で口元を覆った。

魔法でランプを灯し、書架を見る。

背表紙に文字がない。このあたりだろうか。

一冊、試しに引き抜いてみた。埃が舞って、軽く咳き込んだ。

(なるほど…絵、か)

開いた賢者の書には、絵で日々の生活や魔法使いのことが描かれていた。稚拙な絵だが、雰囲気は伝わってくる。

(だが、絵の筆跡で同一人物と判断するのは難しい)

違うところを当たろうとカインが背を向けかけた時、ふと目に入ったものがあった。

(…背表紙に、赤線?)

埃が舞うのも手袋が汚れるのも構わず、カインは手で書架の背表紙を払った。

赤線が背表紙に横に引かれた賢者の書が、十冊ばかり飛び飛びに並んでいる。

1冊目は1本の赤線。

2冊目は2本の赤線。

3冊目は…

(…これだ。おそらく…!!)

カインは魔法で該当の賢者の書を引き抜き、布で包んでまとめた。それを手で受け止めて、魔法舎の自室に急いだ。

 

 部屋に着いて、バサバサと荒っぽく服や髪の埃を落としてから、床の上で包みを開いた。

絵で描かれた賢者の書。赤い線で区別されていたそれを数えると、全部で11冊あった。おおよそ4800年から4700年前あたりに該当しているものだ。

開いてみると、絵は確かにどれも似ていた。驚いたことに、折りたたまれた既知の遺跡の設計図まで見つかった。年代的に、既知の遺跡の建設推定時期と重なっている。

(もしかすると…この世界に文明を持ち込んだのは、地球人の可能性もある…いや、この世界と地球は、仮に元はひとつの文明だったとしたら…?)

璃子の言う数々の神話の世界。

(彼女はすべてフィクションだと言ったが、同じルーツから発している世界であれば、説明がつく…確か璃子は、パラレルワールドについても説明してくれたことがある。おそらく地球とこの世界はパラレルワールドだと。五千年前から召喚された賢者の書が存在しているとすれば、分岐点は五千年前か…?)

賢者がわざわざ地球から召喚されるようになったのも、そのあたりが起因しているのかもしれない。学会にこの資料を持ち込んだら、大騒ぎになるだろう。

(だが今は、それより地球とこの世界をつなぐ何かだ…)

カインは次々と賢者の書を開いた。井戸の掘り方を描いた絵、人々が作物を収穫している絵、大型の機械のようなものの組み立て方を描いた絵、巨大な岩を数人の魔法使いが浮かび上がらせている絵…バッタらしき絵の隣にやせ細った人間が描かれているのは、大規模な蝗害があったことを意味しているのだろう。

そしてカインは、最後のページにはどれも同じ奇妙な絵が描かれていることに気付いた。

平らな棒に、20個くらいの丸が糸のようなものでぶら下げられている。丸をつなぐ糸は、長い糸から短い糸まで順々に、均等な線で描かれており、おおよそ細長い直角三角形のような模様になっている。

更にそのすぐ下に、波打つ蛇と、まっすぐな棒状に描かれた蛇の絵が描いてあった。

何のことかわからない。わからないが、最後のページにどれも同じものが描かれているということは、少なくともこれが大きな意味を持つことを示しているのだろう。

カインは引き出しから何も書かれていないまっさらな紙を出すと、その奇妙な絵に被せ、呪文とともに手で撫でた。紙はするりとカインの手を抜け出すと、ひらひらと舞い落ちる。

それを受け止めた。紙には本の写しがはっきりと浮かび上がっている。

それを手に、カインは部屋を出た。璃子に見せたら、果たしてわかるだろうか。

 

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