旅立ちの前に、オズがペンデュラムウェーブのアミュレットを作ってくれた。
「ありがとう、オズ。これで往復できるわ」
「後は、カインを連れ帰るのを忘れるな」
「待てよオズ、璃子が一人で帰れるわけないだろ!!」
「あはは…オズ様が冗談を言うなんて、前代未聞だぞ、カイン」
アーサー王子に笑われて、カインは微妙な気持ちになる。オズが冗談…?
(ありえない…しかし、いややっぱりありえない。才走った璃子を相手にしすぎて調子狂ってんのか?)
しかし幼くして王妃に棄てられたアーサーを育てたのもまた、オズだったりする。
(とりあえず…生きてればあり得ないことが起きるということだけは、心しておこう)
「しかしオズ様、我々にはどうして見えなかったんでしょう?」
「ああ、璃子が教えてくれたんだが、俺は動体視力っていって、高速で動いている物を見切る力に優れているらしいんです。アーサー殿下もあるでしょう、相手の剣が一瞬止まって見えるときが」
「いや…残念ながらまだ私は、カインの域には達していないようだ。精進しなければな」
少し悔しそうだ。
「ところでさっき璃子と相談したんだが、もう一人賢者の魔法使いを連れて行くのはどうかと思ってな。片手は璃子に預けるけど、もう片方空いてるぜ?」
カインは、璃子とつないでいる方と反対の左手をひらひらさせてみせた。
「………」
しんと静まり返った。
(そりゃそうだ、こちら側からすれば未知の異世界に行くんだから…さすがの俺も少々不安なくらいだ)
カインは苦笑いする。
「じゃあ、俺と璃子で行ってくるとするか」
「あ、待て!! …私ではいけないだろうか」
アーサー王子だ。
「ああ、アーサーは適任だろう。見聞を広めてこい」
オズがあっさり許可した。
「殿下が良ければかまいませんが、その…」
カインは少し焦った。
「その服と剣じゃ、ちょっとまずいらしいんです…」
「コスプレと間違われるし、銃刀法違反で捕まるのよね…」
璃子も困った笑いを浮かべている。
「こす、ぷれ…??? じゅうとうほう…???」
頭の上にたくさんのクエスチョンマークを並べながら、アーサーは戸惑っている。
「とりあえず…剣を置いて、服を着替えれば良いと…?」
「まあ、そういうことです、殿下」
「そういえばカインも軽装で剣は持っていない…危険が迫ったらどうするのだ?」
「私の世界、少なくとも日本はそこそこ平和だし、普通の人は剣も銃も持ってないから、安心して」
「それでも何かあったら、俺が素手で何とかしますよ」
カインは握り拳を作って笑った。
「わかった」
そしてアーサーは魔法舎の自室へ急いだ。少しして、戻ってくる。
「賢者様、これでよろしいですか…?」
「大丈夫よ、アーサー。そこらへんの高校生に見えるわ。ちょっとイケメン過ぎるけど」
「こうこうせい…? いけめん…???」
(俺は毎晩のように璃子と話しているから、大抵の単語はわかるが…アーサー殿下は少し大変そうだな)
「とりあえずアーサー、私と同じ一般人として向こうに行くんだから、王子様っぽくしないでね。賢者様呼びも禁止。カインはアーサーのことを殿下呼びも禁止。敬語とか、ついでにまさかとは思うけど師匠と弟子も禁止」
「敬語すらも?!」
一体どういう世界なのか、さっぱりわからないという顔だ。
「じゃあ、賢者様は何とお呼びすれば…」
「璃子でいいの、ただの、璃子」
「り、璃子………様」
「様いらないってば」
「が、頑張ります…」
「ほら敬語が出た」
「恐れながら…が、頑張る、よ」
かなりぎくしゃくしながら、アーサーは頷いた。
(大変だな、これは…)
思わず吹き出しそうになるのを押さえるのが精いっぱいだ。
「さて、行くか! アーサー殿下…じゃなかった、アーサー、手を」
「あ、ああ…」
「動かしますよ」
ヒースクリフがペンデュラムウェーブの支えの板をずらした。
タイミングを計り、カインは呪文を唱えた。
「グラディアス・プロセーラ!!」
扉が現れる。
「乗るぞ!!」
三人一度に、エレベーターに飛び乗った。
振り返って、見送るヒースクリフを見る間もなく、扉は閉まった。
エレベーターが動き出す。
「これ…私が地球からあっちへ行くときに乗ったのと同じ…」
璃子が呟いた。
「ということは地球行きで合ってるんだな」
カインは二人の手を握りなおした。
「時間軸、どうなってるだるう…半年後になるのかな。そうしたら私の捜索願とか出されて、大変なことになってるわ。何とか三日後ぐらいにできないかな」
「おや、自力で帰り道を見つけたようですね…」
この声は。
「ムル?!」
三人が同時に言って振り返ると、大きな帽子にマントを身につけたムルが立っていた。
ムルは微笑んだ。
「はい、ムルです。…正確には、賢者様を送り迎えするときのために存在する、大いなる知恵者としてのムルです」
「他人、か…?」
カインの問いに、ムルは首を横に振った。
「いえ、やはりムルです。あの世界にいたムルも、また本物…」
「…混乱してきたわ。確かにそんな感じのことを、行きのエレベーターでも言っていたような気がするけど」
「その程度の理解があれば結構」
また微笑み、
「賢者様、あなたのお望みは、帰る場所の時間軸をずらすことでしたね」
「そうだけど…」
「お安い御用」
ムルは何もない空間に、ボタンを操作するような仕草をした。
「これで、三日後に設定できました。…それでは賢者様、お二人も、良い旅を」
ふっとムルの姿が消えた。
間もなくエレベーターはゴトリと止まり、金属音と共に、ドアが開いた。
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