「私、澪のことが好きなの」
「……え?」
「今日、一緒にテスト勉強しよ!」とトレードマークである天真爛漫さを前面に押し出して、彼女……
まぁ幼なじみである陽菜の誘いを無下にするのは憚られたし、私……
そして今、隣り合ってテスト前特有の膨大な課題を処理しつつ陽菜の「分からない~!」と嘆く問題を解説しながら解いたりして二時間。
ひとまず一区切りがついたとして、取り始めた休憩時間……陽菜は唐突に私への好意を口に出した。
『好き』……この言葉自体は彼女から幾度と無く伝えられてきた。
だからこそ声色だけで分かる、この『好き』は何時ものお決まり『好き』とは明らかに異なるものだと。
視線を声の方向へと向けると、のぼせあがったように頬を上気させつつも印象から程遠い不安に体を震わせサラサラとした黒髪の間から此方を窺っている陽菜の姿が映った。
「……私も、陽菜の事好きだよ」
違うって分かってる……。
それでも、私は何時ものお決まりの返事を返した。
陽菜は案外臆病だし、ファミレスでの注文で「未知の味より、分かりきった美味しさだよね!」と決まった物しか頼まない安定志向。
私が『いつも』を見せてあげれば、陽菜も考えを改めて……関係の変化を怖がって『いつも』のように「相思相愛だ~!」ってわざとらしく喜びを体で表現して抱きついてくるだろう。
それで良い。
それに、そもそも陽菜が何か違うっていうのは私の憶測であって事実と確定してない。
「澪、分かってるよね? この好きが、どういう意味で言ってるか」
でも、陽菜は私の理想を早々に塗り替えた。
私の手を取って、私の目を見て、さっきよりも強い不安を滲ませながら、
「私ね、澪の事が……澪の事が大好きなの……!」
より強く私への好意を口に出した。
また、言葉だけなら友好的にとも勘違いして受け取れるような『大好き』という幅の広い表現。
でも、流石にそれすらも避けるというのは不安で体を震わしながらも告白してくれた陽菜への失礼に当たるし、不誠実過ぎる。
だからこそ、返事はどういう物であったとしてもしっかりと考えて返してあげたい……けど、私は陽菜をどう思っているのだろうか?
私は、陽菜が好き。
それは紛れもない事実だから否定なんてしない。
けど、陽菜を恋愛的に見る……そんな事は今まで一切無かった。
私は女で陽菜も女、つまり同性。
同性愛に偏見なんて無いけど、それを私達の間に入れ込むという発想すら私には無かった。
だから考える、どうするべきなんだろう? と。
陽菜との関係を崩したくない……でも、恋愛感情を抱いていないのに告白を受け入れて良いのだろうか? というせめぎ合いが胸を締め付けてくる。
もし告白を断ってしまっても、陽菜は優しいから「これからも友達でいてくれる?」と聞いてしまえば明日からも接してはくれると思う。
でも、そこに『いつも』は無くなってしまう。
……決めた。
しっかりと私の中では折り合いをつけた。
改めてしっかりと陽菜に向き直ると、最初の頬の紅潮を無くして、判決を待っているような心細げさを醸し出している。
「私も、陽菜の事が大好きだよ」
「え……? み、澪?」
そんな彼女が安心できるよう、私の大好きを勘違いされるように彼女を優しく抱き寄せた。
陽菜は暫くの間私の顔を見ながら目を白黒させて、「良かった……良かったぁ……!」と顔を隠すように私の胸に押し付け始めた。
胸にじんわりとした暖かみ、服の張り付く感触……陽菜は喜びで泣いてるんだろう。
私が、彼女を騙したなんて微塵も思わずに。
……これで良い。
これは私の一つの決心。
結局、不誠実だし最低だ……陽菜とは違う、嘘ではない嘘の『大好き』を使って彼女を騙してる。
激しい自己嫌悪と彼女への罪悪感が混ざり合って、黒い固まりとして質量をもって心に重くのし掛かる。
私が辛くなってしまうなら止めておけば良かった、なんて思考すらも生まれ始める。
……それでも、
「相、思……相愛だね。私達」
陽菜の笑顔を失いたく無かった。
今は涙でぐしゃぐしゃになってるけど、それでも一片の曇りもない綺麗な陽菜の笑顔を。
最初は利己的に、その行動をとったときにどんな影響が出るかって自分の事ばかり考えてた。
でもどれだけ考えても答えは出なくって、結局陽菜を悲しんだ顔を見たくないなんて理由で告白を受け入れることにした。
結局、これも陽菜のため……そう思いたい自分のため。
本当……不誠実で最悪だ、私。
「陽菜、少し上向いて」
「え、何……んぅ!?」
そんな自分にベクトルを向けたくなくて、少しでも気が紛れればと陽菜に唇を重ねた。
思考を捨てた、押し付けるだけの無感情なキス。
それでも陽菜の柔らかい唇が、さっきまで彼女が飲んでいたココアの甘ったるさが、
「ん、みお……もっと、しよ?」
「……うん、そうだね」
その何よりも優しく響いてくれる声が、今は私の黒い固まりを忘れさせてくれる。
陽菜とキスを重ねながら、彼女の奥にある窓から外の様子を窺う。
夏だから日が落ちるのは遅い筈なのに、薄明すらも望めない。
「ん……ん、むぅ。澪……好きぃ」
「……うん」
陽菜も夢中になってるし……テスト勉強はもう出来なさそうだなぁ……。
私の中で時間を決めて、その時間の許す限り息を荒げて互いに強く体を引き寄せ唇を重ね続けた。
……
……
『直接話したいことがあるから公園に来て下さい』
陽菜と付き合い初めて半年が経った冬、彼女から妙に改まったメッセージが届いた。
今日、学校に居たときには何時ものはち切れるような輝きを放ってたのにどうしたんだろう?
こんなの、私が陽菜の気持ちを確かめようと試しにメッセージで『別れよう』って送ったとき以来だ。
……恋人から別れ話を告げられる、それ同等の何かが陽菜を襲ったのだろうか?
『分かった』と端的に返事を返して家を飛び出す。
僅かな不安にざわつく胸を無視して、視界を明暗させる程度の雪が降る最中、陽菜の指しているであろう中央公園に走り始めた。
「はぁ……はぁ」
公園に到着し、胸に手を当て呼吸を整えながら辺りを見渡す。
すると、巻き貝を模したオブジェの近くにあるベンチに俯いている一つの人影があった。
「陽菜……何時からここに居たの?」
「あ……良かった、来てくれた」
彼女に近づくと、明らかな異様性に気付く。
雪は明日の朝僅かに残るかな? と思う程度の降り方。
それなのに陽菜の体には既に一センチメートル近く雪が積もっていた。
身体も震えちゃってるし、何よりも顔が凄く青ざめている。
私にメッセージを飛ばすよりずっと前からここに居たのは明確だった。
そんな状況なのに微動だにせず俯いている陽菜の代わりに雪を払ってあげながら、彼女の話したい事への質問ではなく何時からここに居たのかを尋ねる。
でも、陽菜は私の質問に対する答えを言うんじゃなくて、私が来たことに対する安堵を口にした。
彼女の弱々しい微笑み、これは恐らく寒さや冷たさといった外的要因だけじゃない。
「ココアでも買ってくるからちょっと待ってて。陽菜が話したいのって、そんなになっちゃうほど重要なことなんでしょ?」
「……うん、ありがとう」
……やっぱりおかしい。
陽菜は自分のせいで他人に迷惑が掛かるくらいなら自分で抱え込んでしまうのに、今は素直に受け入れた。
少し今の陽菜から離れるのは不安だけど彼女のため、そしてどんな事を言われても大丈夫な心の準備のために一旦その場を離れた。
「はい、手袋もしてないんだからこれで暖めて」
「うん……ありがとう」
公園内に設置されている自動販売機で買ってきた少し安っぽいパッケージのココアを手渡す。
陽菜は悴んだ手で受けとると両手でそれを包み込むように持って、また思い出したように俯いてしまった。
「……」
「……」
二人の間に何も無い、ただ無言の時間が流れる。
「それでどうしたの?」って陽菜を急かしても良い、でも彼女の中で踏ん切りがついていない状態でそれをしても徒に彼女の心を掻き乱してしまうだけ。
ベンチには座らず、陽菜の隣に立って私の分のココアのプルタブを開ける。
飲み口から立ち上る湯気を眺め、その時が来るのを待つことにした。
「私……引っ越すことになっちゃった」
「……え?」
ココアが半分近く減って温くなり始めた頃、雪の音にも負けそうな小さい声でポツリと呟いた。
聞こえた内容は理解を追い付かせずに深く入ってくる。
「引っ越しって……何処に?」
「鹿児島だって……お父さんの仕事の異動で」
「鹿児島……かぁ」
十秒位の停止を経て漸く理解が追い付いた。
「なんで? どうして?」って聞きたいけど、陽菜には避けられない事態だっただろうし……何よりこの引っ越しに一番色々な感情を抱いているのも彼女に違いない。
それでも色々な感情を押し留めて私に話してくれているのだから、私も強くは感情を出さないで事実確認に努める。
陽菜の引っ越し先は鹿児島、今私達の住んでいる埼玉から遠く離れた場所だった。
「遠いよね……」なんて無理矢理口角を上げる陽菜に、私はどう声を掛ければ良いんだろう?
「そうだね」なんて曖昧な答えだけを返して、また沈黙が生まれる。
「それで、本当に話したかったことって何?」
二回目の沈黙は私から破った。
空気感に堪えられなくなったとかそういう訳では無い。
さっきまでは陽菜の中でもまだ考えている事が有るようだったから待った、でも今の彼女は言うことが決まっていて……その一言に踏み切れない、そんな様子。
だからこそ、今回は声を掛けた。
「やっぱり凄いなぁ、澪って。私の事なんでも分かってくれる」
そう頬を掻きながら言ってくれるけど、陽菜の事を理解できるようになったのは彼女と居たいっていう私のエゴによるもの。
陽菜が思ってくれてるような優しさとかではない、だから「別に、普通だよ」と返そうとしたとき、
「だから……私と付き合い始めてくれたんだよね?」
「え……!?」
彼女はそう続けた。
ガツンと頭を強く殴られたような衝撃、瞬間的な目眩に襲われる。
何で? 手を繋いだ、デートをした、キスもした。
悟られた理由なんて別れようなんてメッセージ位しか思い浮かばないけど、あれだって直接会って解決した。
「よがっだぁ!!」と抱きついて来たことはよく覚えてるし、あれが演技だったとは思えない。
体ごと陽菜に向き直ると、陽菜はしっかりと顔を上げていた。
彼女は微笑んでいた、さっきよりも苦しい筈なのに凄く自然に。
「分かってたよ、本当は最初から。澪は私に付き合ってくれてるんだって……」
「……何で?」
陽菜は星空を眺めるように上を見上げる。
……何で?
何で分かったの? 何ですぐに言って来なかったの? って、色々な何でを一回の言葉に託す。
「分かるよ……だって澪が私を分かってくれてるんだから、私が澪を理解できるのも当然でしょ?」
陽菜は前者を汲み取ってくれたみたいで、口調をほんの少し弾ませて何処か楽しそうに言う。
いよいよ私は彼女の事が分からなくなってきた。
私の真っ黒な部分を見続けてきた筈なのに、何でそうやって笑っていられるの?
「なら、何で関係を続けたの? 止め時なんて一杯有ったのに……」
汚い私なんて、綺麗な陽菜には不必要。
自分から告白したから自分から別れてなんて言えない、そんな理由ならまだ良い。
でも私から別れようってメッセージを飛ばした日、それを受け入れていれば簡単に別れられた筈なのに。
「私、卑怯者なんだ」
「……陽菜?」
陽菜は、自分を卑怯者と言った。
確かに陽菜は何処か抜けてたり悪意無く少し人を傷つけちゃったりすることはある。
でも、何処までもまっすぐで悪かったことはしっかり悪いと認めれる子だ。
そんな陽菜が、卑怯者な訳がない。
「私が澪に告白する前はさ、今の関係が壊れてでも気持ちを伝えたい! そう思ってたんだ。なのに、いざ伝えてから澪と居れなくなるのが怖くなって……だから、澪が私を大好きって言ってくれた時、凄く嬉しかった。それが澪の本心じゃないって分かってても、これからも絶対澪と居れるんだ……って」
「まぁ、いきなりキスしてきたのにはビックリしたなぁ」そう昔を懐かしむように目を細める。
「確かに止め時は一杯有ったと思うよ、秋に澪がメッセージで別れようって伝えてきた時とかさ。澪は優しいから、別れちゃっても本当に何時もみたいに接してくれる……そう思ってももし澪が私から離れちゃったらって思うと心臓がバクバクして、別れるなんて選択肢は私から消えちゃったんだ。どうなるか分からない選択肢より、確実に一緒に居られる今が良いってさ」
……私は、何も陽菜の事を分かっていなかったんだ。
勝手に分かってる気になって、彼女を悲しませないようにとった行動で彼女にここまでの心労を負わせて……私は何をしたかったんだろう。
「陽菜……ごめんなさい。私のせいで……」
涙が流れた。
私は泣いて良い立場じゃないのに、泣きたいのは陽菜の筈なのに。
自分勝手な自責の念に駆られて、対象さえもろくに定まっていない懺悔の言葉を陽菜に宛てる。
「よっ……と!」
陽菜は背もたれで一度反動をつけると、勢い良く立ち上がった。
陽菜に積もっていた雪が舞い上がる、でも視界を軽く覆うほど舞い上がったそれに気を取られること無く、彼女は私を抱き締めた。
さっきよりも近くで見える陽菜の顔、浮かんでいるのはやっぱり何時もの輝き。
「自分で言うのもあれだけどさ、きっと誰も悪くないんだよ……きっと」
「違う! 私が……私が!」
陽菜は、私を落ち着かせるように頭を優しく撫でながら諭すように言ってくれる。
それは、私の罪悪感とかを溶かしてくれるような甘い言葉。
私はそれを受け入れてはいけない。
陽菜の胸の中で、駄々っ子みたいにすがり付いて叫ぶ。
「ううん、違わないよ。好きな人に告白するのに先走るのも、一緒に居たいから本音を隠すのも普通の事なんだよ。ただ、前しか見れてなかっただけでさ」
「前しか……見れてなかった?」
「そう、私は澪を、澪は私をって。でも、それに私達は気づいちゃった。だからさ、もう終わりにしよう」
「それって……あの、陽……」
陽菜の言いたいことが分かった。
これは陽菜に言わしちゃ駄目……私が言わなくちゃ、そう思ったときにより強く抱き寄せられた。
雪が染み込んだ服に顔を押し付けられて、発言権が奪われる。
「澪、私達別れよう。それで何時もだった友達に戻ろうよ、自分のためがお互いのためになったあの頃にさ」
陽菜に言わせてしまった……一番言いたくなかった筈の言葉を。
語調は明るい……でも言う前には弱かった体の震えが全身に、強くて弱い陽菜の拍動が本当の感情を教えてくれる。
……そうだよね、私が陽菜に言わせたくないみたいに陽菜も私に言わせたくないよね。
「う、ん……そうだね。戻ろう、あの頃に」
悲しい顔なんて、必要ない。
お互いに、お互いを思い合って出した結論なんだから。
だから、きっとこの胸のざわつきは気のせい……そうに違いない。
「あの……さ、未練がましいかもしれないけど一つお願いして良い?」
暫く、抱き合ったままで居ると抱き締める力を緩まり上から声を掛けられる。
久しぶりに見えた陽菜の顔は血色が戻って、頬に朱が点っていた。
「うん、陽菜のお願いなら何でもするから遠慮無く言って!」
陽菜は何時引っ越しするとかは聞けてないけど、もうすぐ居なくなってしまう。
陽菜にやり残しを作って欲しくはない。
「じゃあさ……キス、してくれないかな。そしたら、もう思い残すこと無く戻れると思うからさ」
陽菜が望んだのはキスだった。
「うん、良いよ。少し屈んで」
「う、うん」
私の背丈じゃ背伸びをしても届かないから、陽菜に屈んでもらう。
思えば、こんなに改まってするのは初めてかもしれない。
私のか陽菜のか、密着して分からないドキドキ音、雪に晒されてる筈なのに顔が沸騰したみたいに熱くなってくる。
顔を近づけてるこの時間が、こんなにも長く感じるのも初めてだった。
「ん……」
「んぅ……」
月明かりのない、屋外灯の下で唇を重ね合わせる。
口に残ってたココアの甘さ、柔らかい唇……色々な要素が最初のキスを思い起こされる。
なのに、どうしてだろう。
「……ありがとう、澪」
「……此方こそ、ありがとうね陽菜」
あの時みたいに、胸のざわつきが紛れ無いのは。
……
……
陽菜が引っ越しして一週間近く過ぎた。
陽菜は引っ越し先でも上手くやれてるみたいで、昨日も電話で嬉々として近況を報告してくれた。
友達として、本当に……本当に喜ばしい事。
なのに、心の底から喜んであげられない自分が居る。
この一週間、私の心は大切なものが抜け落ちた様に空っぽだった。
友達が引っ越してしまったんだから何かが失われるのは当然だけど、それだけでは説明がつかない程の虚脱感。
こんな天気の良い休日、むしろ気分転換で散歩に出掛ける位なのに今日は布団の上で何もすること無くただ寝転がっている。
起こす行動を無理矢理挙げるとするなら、陽菜から新しいメッセージが届いていないか時々スマホを確認する事くらい。
非生産的だって、自分でも思う。
これからもこんな状態が続いたら生活に強く影響が出かねない。
検索エンジンに『友達 引っ越し 寂しい』と打ち込んで検索にかける。
すると、色々な境遇の方の体験談が一杯挙がってきた。
もしかしたら、私の今の状態に当てはまる話も見つかるかもしれない。
今の状態に名前を付けるため、最初の記事を開いた。
あれから二時間、何十にも渡る記事に目を通した。
確かに共感できる内容も有ったし、私の今の状態に落とし込んでも違和感のないライターさんの心情も数多く有った。
それでも、何かが決定的に違うと心はそれらを強く否定する。
もう、終わりにしよう。
十五年友達だった女の子が引っ越してしまったというエピソードを読み終えてスマホを閉じようとしたその時、友達というワードに関連する記事として、『心のモヤモヤ……それって本当に友達?』が紹介されていた。
思えば、心のざわつきは陽菜が遠くにいってしまったからだと引っ越しに焦点を当てていたけど、もしかしたら違うところに原因があるかもしれない。
それなら、今までの記事が受け入れられなかった説明もつく。
この記事を見て何も得られなかったら、本当におしまいにしよう。
特に期待はしないで、そのページに続くリンクをタップした。
この記事の前書きを読んでみたけど、どうやらこの記事では自分の想いを確かめたい人物を思い描きながら提示される質問に丸かバツかで答えて、その丸の個数でその人への想いを判断するという物らしい。
下にスワイプをすると、一つ目の質問が提示される。
『Q1、あなたはその人の事をよく思い浮かべてしまいますか?』
これは、丸。
陽菜と出会ってから、行動の根源には絶対に彼女が居た。
陽菜に勉強を教えられるように勉強を人一倍頑張って、陽菜が面白いって言ってたから慣れない銃のゲームを始めた。
今日だって、何もしないで彼女の事ばかり考えていた。
これは、よく思い浮かべてしまうに当て嵌めても良いだろう。
……全十五問って書いてあったから、サクサク進まないと。
『Q2、あなたはその人が誰かと親しそうにしていると不安になってしまいますか?』
これも、丸。
陽菜が自分以外の誰かと話してるのを見かける度に、彼女から自分の居場所が無くなっちゃうんじゃないかって焦燥感に駆られることがよく有った。
引っ越し先で友達が出来たっていう報告にちゃんと喜んであげられなかったのも、そんな自己承認欲求が邪魔をしちゃっているからかもな……。
『Q3、あなたは高頻度でメールやメッセージを確認してしまいますか?』
これも、丸。
『Q4、……』
これも……
……
……
これも、丸。
「んん~……」
九問目の質問に対して丸をつけて、大きく伸びをする。
自分の思っていた以上に集中していたのか、姿勢が悪くなってたため伸びた瞬間ポキポキと小さな音が鳴った。
それにしても、この記事の質問には何を確かめる物なのだろうか?
前書きにはあなたの想いを判定するとしか書いてなかったけど、今までの九問全てが私の想いに該当する内容だった。
もしかしたら、友達の上の親友でありたいと考えてるかを判定するものだろうか?
……だとすると烏滸がましいな、私。
白けた笑いを唇の端に浮かべて、自分の思い上がりを首を振って追い払う。
最近手入れをしてなかったボサボサの髪の毛を耳に掛け直し、最後の問題を見るために画面を上へとスワイプした。
『Q10、あなたはその人と触れ合いたいと思いますか?』
これは……。
質問の答えを出そうとしたとき、陽菜とのキスがフラッシュバックした。
あの日から頻繁に起きる現象、そのたびにまた顔がのぼせて足をばたつかせたくなる恥ずかしさが襲ってくる。
何なんだろう、これ?
……いや、今はそんな事を考えるんじゃなくて丸かバツかを考えないと。
陽菜と触れ合いたいか、これももちろん丸。
キスとかじゃなくて、手を繋いだりハグし合ったりして存在を全身で認識したい……それだけ。
えっと、これで全部の質問に答えられたのかな?
下にスワイプすると『お疲れさまでした! それでは丸の数を集計してその数字に対応するリンクをタップまたはクリックして下さい!』という文言と0~10と数字が振られた十一個のリンクが現れる。
私の丸の数の集計は簡単、全部丸だったから設問数と同じ十個。
10に対応するリンクをタップすると、新しいページが表示される。
そのページに大きく表示された診断の結果、それを見た瞬間にスマホを掛け布団に放り投げた。
「流石に、自分勝手すぎるよ……」
それは陽菜と会った最後の日の終わりに本当は気づいてしまっていた、見ないようにしていた心。
そんな私の心を表すように表を向いているスマホの画面には『あなたはその人に恋愛感情を抱いています!』、そう表示されていた。
滑稽な話だって私も思う。
友情を恋心に偽って付き合って、芽生えた恋心を自覚した時には別れのキスが終わっていた。
そんな、不誠実で最低で……自分勝手な高校生のお話。
「は……はは、何で泣いてるん、だろ?」
自嘲の笑みを浮かべようとした時、溢れだしてきたのは自分の不甲斐なさからくる馬鹿らしい涙だった。
拭っても拭っても眼の端から涙は溢れ続けて、涙を吸いすぎた服の袖は拭う機能すらも無くなり始める。
ポロロン、ポロロン
携帯から着信音が響いたのはその時だった。
画面には『ひなりん☆』の表記、陽菜からだ。
今は……今は駄目。
あれだけ待ち望んでいたものだけど何でこんな時に来てしまうんだろう?
声はしゃがれちゃってるだろうし、呼吸も喘ぎで乱れたまま。
……。
「……もしもし、どうしたの?」
「あっ、澪! 今時間大丈夫?」
私は電話を取ってしまった。
六コールも費やして呼吸は大分整ったし、しゃがれはノイズとして処理すれば良い。
「うん、大丈夫だよ!」
私は自分に似合わない位の明るい声で陽菜に返答する。
「……澪、何か無理してるよね。何かあった?」
それを陽菜はすぐに看破してきた。
「……そんなことないよ」
「嘘だ、澪は悲しい時ほど凄く明るくなるもん……話してくれないと、澪の事嫌いになっちゃうよ?」
動揺を隠すために冷静な声で返しても、陽菜に退路を埋められる。
『澪の事嫌いになっちゃうよ』これは私が隠し事をしている時にそれを解放してくれる、陽菜の優しさが詰まった言葉。
その一言だけで、言ってしまいたいと気持ちが揺らいでしまう。
でもそれを口に出してしまえば陽菜を惑わしてしまう。
心中で相反する意見が強く主張されて思考を定めさせてくれない。
「あのさ……笑い話として聞いてほしいんだけどさ」
「うん」
「私、陽菜の事が好きになっちゃってた!」
「えっ?」
「面白いよね! 陽菜の好意を散々弄んだ挙げ句さ、離ればなれになってから陽菜の事が好きって……自分勝手すぎるでしょ?」
私は勝手に道化を気取って、全てを吐露することにした。
通話項からは困惑を強く滲ました「えっ?」がリピートされる。
もういっそのこと「最低」って陽菜の口で罵ってほしい。
「えっと、澪はそんな事で悩んでたの?」
そんな私の考えは、疑問に嬉しさを含ませた陽菜の声に取っ払われた。
「そんなことって」
「澪は深く考えすぎじゃないかな? 私も澪も互いが好き……なら、また付き合おうよ!」
「でも……それって前しか見れて」
「澪はさあのやり取りの後に、私が好きって結論に至ったんでしょ? なら問題ないよ、澪は間違いは絶対に繰り返さないんだから」
「そんな」
「そんなことあるよ。理想の押し付けなんかじゃなくて、澪が同じ失敗をしてるのなんか十五年も一緒に居て見たことが無いもん」
「っ……私最低なんだよ!? 自分勝手なんだよ!?」
「なら、私も卑怯者だしお似合いだね」
私が何かを否定する度に、陽菜が更にそれを否定してくる。
「なんで……なんで、私にそんなに優しくできるの?」
「好きだから……って、ベタすぎるかな?」
陽菜は「ちょっと、恥ずかしいね……!」と照れを含ませる。
「陽菜……陽菜」
「澪、ゆっくりで大丈夫だよ」
「ううん、もう大丈夫。だから、言わせて」
一回大きく深呼吸をする。
あのときの陽菜ってこんな気分だったんだ、期待と恐怖と恥ずかしさと……って色んな感情が混ざり合う。
「私ね、陽菜の事が大好き」
吸い込んだ息を全部吐き切る位に感情を込めて、陽菜に告白をした。
『大好き』これは陽菜へのちょっとしたお返し。
どう取るかは陽菜次第の、広く意味が取れる言葉。
「私も、澪の事大好きだよ!相思相愛だね!」
陽菜は通話口の先の表情すら簡単に想像できる快活な声で返答してくれた。
「え~と、陽菜? これってお付き合いOKの返事って受け取って大丈夫だよね?」
「……こういうのって、聞き返さないでもお互いに通じ合うっていう奴だと思ってたんだけど?」
「いや……ごめん」
「澪らしいけどさ」やれやれとすら聞こえてきそうな呆れた口調で駄目出しされる。
「ちょっと心配になっちゃってさ……」
「……なら、心配性な澪でも百パーセント安心の絶対的な約束をしてあげる! 今窓から太陽って見えたりする?」
「太陽?」
陽菜に言われて閉めきっていたカーテンを開けて外を確認する。
空は少し赤くなり始めてるけど、雲とかは殆ど無くてしっかりと太陽は認識できた。
「見えるよ、それで絶対的な約束って?」
「ふっふーん、それはね……」
陽菜に見えることを報告して約束についてを尋ねると、彼女は自信満々に一回溜めを作ってから、
「指切りげんまん! これを二人で太陽に向かってやるの!」
「そ、それが絶対的な約束?」
「うん、だってさお天道様っているじゃん。お天道様って何でも見通してくれるって言うでしょ?」
「う、うん」
「だから、お天道様を私達の約束の証人にするって訳! 神様が承認なんだから約束を破ろうって思わなくなるでしょ? あ、後私の陽菜の陽と澪の日向の日に掛かってるし!」
「ふふっ、後半は今考えたでしょ?」
「まぁ……うん。それで、どうする?」
陽菜は遊びに誘うくらいの軽さで約束を提案してくれた。
きっと、私が何を言うか分かってるからだろう。
「うん、しよっか。指切りげんまん!」
質問に肯定して、窓を開け放つ。
淀んだ風を入れ換えるように新鮮で気持ちの良い冷たい風が入ってくる。
その風に逆らって、指を太陽に高く掲げた。
「澪、準備は良い?」
「うん、大丈夫」
「じゃあいくよ!」
「「ゆ~びき~りげ~んまん! 嘘つ~いたら針千本飲~ます! 指切った!」」
「明日になったら指腐る!!」
「え!? 澪何それ!?」
「え~? 指切りを言ってきたの陽菜なのに知らなかったの~?」
「し、知ってたから!」
「ふふっ」
「あ、信じてないでしょ!?」
こんなしょうもない会話をこんなに楽しく出来たのは何時振りだろう?
「ねぇ、陽菜」
「何?」
「二人で幸せになろうね?」
「うん、そうだね」
二人で、遠く離れた場所でお天道様に契った指切りげんまん。
陽菜と話しながら見る太陽は、強く明るく周りを照らしてくれていた。
どうも、友人に小説を書き始めた旨とURLを送ったところ堅苦しいなと言われてしまいました小説レベル1ですヽ(・∀・)ノ。
前回は数多くの感想をありがとうございました!
全てがとても参考になり、生かしきれてはいませんでしょうがこの作品にも大きく影響があったと思います。
今回二作目にして非常に難産でした……オチを先に思い付いてその後に最初や中身を考え結果一万文字を越えてしまいました。
やっぱりプロットが必要でしょうかね?
ご意見など頂けると大変嬉しいです。
これからも作品を書いていく所存ですので、気軽にご批評やご感想よろしくお願いします!